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2026年08月28日

問い合わせ件数20万から10万に半減 ──KDDIとカサナレが挑む、業務支援AI「GYOUMA-AI」開発の裏側

KDDI株式会社
佐藤 圭
パーソナルコア事業本部
カサナレ株式会社
安田 喬一
代表取締役CEO 
カサナレ株式会社
白井 将成
Business Development Manager
カサナレ株式会社
小林 彩音
Business Development

店舗スタッフは、お客さまを前に立ち止まる。

スマートフォンの契約変更、固定回線とのセット割引、家族への名義変更。さらに現在では、電気・ガスや金融サービス、そして多彩なエンタメコンテンツまで、KDDIではau Styleやauショップなどの店頭窓口が取り扱う商材は今や通信の枠を大きく超えて広がっている。


もちろん、必要な情報は存在する。しかし問題は、その情報に辿り着くまでの時間だった。事業領域の拡大とともに業務マニュアルは膨らみ続け、店舗スタッフが接客中に必要な情報を探し出す難易度は年々上がっていた。KDDIが向き合ったのは、「知識不足」ではない。膨大なマニュアルの中から必要な情報を探し出し、自己解決するまでに時間がかかるという現場の課題だった。

その解決のために手を組んだのが、AIスタートアップのカサナレである。


両社は店舗スタッフ向け業務支援AI「GYOUMA-AI」を開発し、2026年7月から全国展開を開始した。KDDIは業務マニュアルや問い合わせログなど、店舗運営で培った膨大な現場知見を提供し、カサナレはそれらの情報をナレッジとして構造化し、生成AIが正確かつ継続的に活用できる技術基盤を構築。

両社の強みを掛け合わせることで、店舗スタッフの自己解決を支援する新たな仕組みを実現した。現在では月間30万件規模で利用される基盤へと成長している。

しかし、この取り組みは単なるAI導入ではない。現場の知識を組織の資産へ変え、その資産がさらに新たな知識を生み出す仕組みづくりへの挑戦だった。


「必要な情報はある。でも辿り着けない」
KDDIが向き合い続けた店舗業務の課題

今回のプロジェクトを推進したKDDI パーソナルコア事業本部の佐藤氏は、au Styleやauショップで働く店舗スタッフを支援する立場として、業務マニュアルの整備や問い合わせ対応の仕組み構築に携わってきた。

その中で佐藤氏が課題として感じていたのが、店舗スタッフが必要な情報へ辿り着くまでに要する時間だった。
背景にあったのは、店舗業務の複雑化である。かつて店舗で扱う商材の中心は携帯電話だった。しかし現在は固定通信、インターネット、コンテンツサービス、電気、ガス、金融商品など、多様なサービスを取り扱うようになっている。商材の多様化はお客さまへ提供できる価値を広げる一方で、量を膨大にしていった。

それに伴い業務マニュアルも年々拡大し、今では数千ページ規模にまで肥大化している。スタッフは接客中に不明点が発生すると、まず業務マニュアルを検索し、それでも解決できない場合は、店舗スタッフからの問い合わせ対応を担うサポートセンターへ有人チャットや電話で問い合わせる運用となっていた。つまり、課題の本質は知識の不足ではない。必要な情報は存在しているにもかかわらず、その情報を探し出し、自ら答えに辿り着くまでに時間がかかっていたのである。結果として、本来お客さまへの接客や提案活動に注ぐべき貴重な時間が、「情報を調べること」に奪われていたのである。

さらに深刻だったのは、その状況が属人化を生んでいたことだ。経験豊富なスタッフであれば必要な情報へ素早く辿り着ける。しかし新人スタッフは、接客スキルを身につける以前にマニュアルの探し方を覚えなければならない。結果、問い合わせは知識を持つ一部の担当者へ集中し、組織としてナレッジが循環しにくい構造が生まれていた。

KDDIでもこれまで、マニュアルの検索性向上やページ情報の整理など、あらゆる手立てを講じてきた。しかし佐藤氏は、マニュアルそのものの改善には限界があると感じ始めていた。
「必要な情報はある。でも辿り着けない。」
それが、佐藤氏が向き合い続けていた店舗業務の本質的な課題だった。

KDDI株式会社 パーソナルコア事業本部 佐藤 圭氏

実は佐藤氏は、ChatGPTが登場した初期の頃から生成AIの可能性に注目していた。自ら有料サービスを契約し、業務への適用可能性を検証していたという。生成AIと業務マニュアルは相性が良いはずだ。そう考え、多くの企業やサービスを調査してきた。

しかし、現実は簡単ではなかった。
通信業界のマニュアルは条件分岐が非常に多い。サービスごとの違いだけでなく、契約状況や組み合わせによっても回答が変わる。「それらしい回答」は返ってくる。しかし店舗で安心して使えるレベルには届かない。生成AI活用を模索しながらも、一時はAIが理解しやすいよう業務マニュアルそのものを整理しながら技術進化を待つしかないのではないかと考えたこともあったという。

そんな試行錯誤の真っ只中で出会ったのが、カサナレだった。

「期待していた答えが返ってきた」
カサナレが解こうとしたのは検索ではなく“理解”

カサナレにとっても、この案件は簡単なものではなかった。
カサナレのプロジェクトマネージャー白井氏は、通信キャリアの店舗業務は生成AIにとって最も難しい領域の一つだったと振り返る。
複雑な料金プラン、膨大なマニュアル、そして無数の条件分岐。少しでも間違えれば現場では使われなくなる。
実際にauショップを訪問したカサナレの小林氏は、現場では「調べる時間」そのものが接客品質へ直結していると感じたという。お客さまを待たせてしまう時間をどう減らすか。その課題に真正面から向き合う必要があった。

カサナレが考えたのは、単純なAIチャットではない。
AIによる一次回答、有人チャット、ナレッジマネジメントを一つの循環としてつなぐ「GYOUMA Suite」という考え方だった。質問履歴や有人対応の知見を蓄積し、それが次の回答精度向上につながる仕組みである。

カサナレの代表取締役CEO安田氏は、「精度とは、顧客が求めている背景を踏まえた正しい答えを返すこと」だと語る。
例えば、結婚記念日に良いレストランを探してほしいと言われたとき、単純に条件だけを見れば候補はたくさん出てくる。しかし本当に必要なのは、相手が期待している体験や背景を理解することだと語った。
店舗業務も同じで、ただマニュアルを検索するだけでは不十分だった。質問の背景や条件を踏まえた上で、利用者が本当に必要とする答えを返す必要があったのだ。

カサナレ株式会社 代表取締役CEO 安田 喬一氏

さらにカサナレがこだわったのは、本番運用まで見据えた設計だった。開発の効率を考えると、高性能な生成AIモデルを使うことは選択肢の1つである。
しかし全国の店舗から大量の問い合わせが発生する環境では、コストや処理速度も考慮しなければならない。PoCでは成功しても、本番運用で使えなければ意味がない。だからこそカサナレは、ナレッジの構造化や検索設計によって精度を高めるアプローチを選択した。

その結果、AIが回答を生成する際、その根拠となる正解ドキュメント・正解箇所をどれだけ正しく引き当てられるかの指標である検索再現率はわずか1カ月で100%、実際の業務を想定した質問に対する正答率も95%という高い水準へ到達した。
それまで数年間、生成AI活用を模索してきたKDDI佐藤氏にとって、この結果は衝撃だった。
「目から鱗だった」
そう振り返るほど、期待していた回答が返ってきたのである。

AI導入ではなく共創だった、両社で磨き上げた半年間

しかし、検索再現率100%で終わりではなかった。カサナレの白井氏によると、本当の壁はその先にあったという。検索できることと、現場で使えることは違う。店舗スタッフが求めているのは正解そのものではなく、お客さまへそのまま説明できる回答だった。正しいだけでは不十分で、分かりやすく、現場で活用できることが求められていることにカサナレは着目したのである。

カサナレ株式会社 Business Development Manager 白井 将成氏(写真左)

そのため両社は、回答内容や表の解釈、聞き返し方法などを一つずつ改善していった。
改善の裏側では、店舗スタッフからの問い合わせ対応を日々担うサポートセンターの担当者たちが評価や検証を支えていた。実際の業務を最も理解している人たちの知見が、最終的な品質を支えていたのである。
サポートセンターは、店舗で発生するさまざまな問い合わせや運用を最も理解している存在である。実際の業務を熟知した担当者が回答内容を確認し、評価や改善提案を繰り返したことで、GYOUMA-AIの品質はさらに磨き上げられていった。

カサナレの小林氏は、「両社で一緒に壁を乗り越えた感覚だった」と振り返る。

カサナレ株式会社 Business Development 小林 彩音氏(写真中央)

一方のKDDI佐藤氏も、「要件が固まる前から一緒に考えてくれ、漠然とした相談に対しても形にして返してくれた」と語る。
今回のプロジェクトは、当初から完成形が見えていたわけではなかった。KDDIとしても課題を完全に言語化できていたわけではなく、検証を進めながら目指すべき姿を整理していった側面がある。

そうした中でカサナレは、要件を待つのではなく現場に入り、課題を一緒に整理するところから伴走した。
週次の打ち合わせで出た要望に対し、翌週には具体的な改善案や試作を持ち込み、短いサイクルで開発と検証を繰り返していったという。

さらに佐藤氏が評価したのは、その柔軟さだった。
業務や運用をパッケージに合わせて変えるのではなく、既存の運用に合わせて設計する。加えて、大企業ならではのセキュリティ要件や権限管理といった複雑な条件にも最後まで向き合い続けた。
「正直に言うと、ここまでの仕組みを作るのはカサナレさんがいなければ実現できなかったと思います。」
そう佐藤氏は振り返る。
両社の関係は、一つのチームとなっていた。
半年にわたる検証と改善を経て、GYOUMA-AIはようやく現場で使われるレベルへと到達したのである。

“まずAIに聞く”から始まる未来、問い合わせ数半減の先に見えるもの

本格展開後、GYOUMA-AIは全国約2,000店舗のau Style・auショップをはじめau/UQ mobileを取扱う全ての店舗へ導入され、月間30万件以上利用される仕組みへと成長した。

しかし、KDDIが最も大きく変えたのは利用件数ではない。問い合わせフローそのものだった
従来は電話や有人チャットが窓口の入口だったのに対し、現在はまずAIチャットがその役割を担う。そこで解決できない場合は有人チャット、さらに困難な場合は電話へと引き継ぐ運用に変わっている。
この判断は簡単ではなかった。トライアル段階では、AIチャットに慣れたスタッフからは高い評価が得られた一方で、電話対応が習慣化しているスタッフほど利用率が伸びづらいという課題も見えていた。だからこそKDDIは、単なるAIの導入にとどまらず、問い合わせフローそのものを変える決断を下したのである。

その結果、多くの問い合わせがGYOUMA-AI上で自己解決されるようになり、サポートセンターへの問い合わせ件数は月間約20万件から約10万件へと半減した。特に複雑な手続きや条件分岐を伴う問い合わせでは、従来であればマニュアル検索や問い合わせ対応に時間を要していたケースでも、GYOUMA-AIを活用することで回答に辿り着くまでの時間を8〜9割短縮できるケースも生まれている。

単純な問い合わせをAIが吸収することで、人が対応すべき高度な相談へリソースを集中できるようになりつつある。店舗スタッフは「調べる」時間を減らし、お客さまとの対話や提案活動により多くの時間を使えるようになった。問い合わせ削減だけでなく、店舗運営そのものの効率化にもつながり始めている。

問い合わせフローイメージ

さらに現場からは「事前準備の壁打ち」や「新人教育」といった新たな活用方法も自発的に生まれている。店舗スタッフ向け資格試験の問題をGYOUMA-AIに解かせたところ、全問正解という結果も出た。佐藤氏自身も、教育との相性は非常に高いと感じているという。

そして両社が見据える未来はさらにその先だ。
KDDIは音声入力、セールス支援、お客さま情報と連携した提案支援、さらにはAIエージェント化まで視野に入れる。
一方のカサナレは、その先に店舗運営そのものの変革を見ている。待ち時間を減らし、店舗の生産性を高める。

今回の取り組みは、AIを導入した事例ではない。KDDIが抱えていたリアルな課題に対し、カサナレが確かな技術で応え、両社が並走して育て上げた共創の事例である。

そして今、その挑戦は「ナレッジが育つ組織」という新しい可能性へつながろうとしている。

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