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2020年10月26日

KDDIが作った共創装置「KOIFとKDDI ∞ Labo」

KDDI
清水一仁
ビジネスインキュベーション推進部マネージャー

KDDIが「KDDI ∞ Labo」を開始してから10年が経とうとしています。インキュベーション・プログラムとして始まったこの取り組みは、時を経て、企業と新たなアイデア・テクノロジーを繋ぐ「共創プラットフォーム」に発展しました。


今、5Gや街全体をインテリジェンス化するスマートシティ、金融システムを大きく変える新たなフィンテックの登場など、求められるイノベーションのサイズはかつてないほど大きくなりつつあります。その成功の鍵を握るのがアセットを豊富に持った大企業です。


私たちKDDIは自身はもちろん、志を同じくする50社近くをこれまで「パートナー連合」としてネットワークしてきました。そこでこの連載ではこれら企業の共創活動をリレー的にご紹介することで、より幅広いつながりを生み出すチャンスとしたいと考えております。


まず、最初にご紹介するのは私たち自身、KDDIの取り組みからです。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はKDDIビジネスインキュベーション推進部 清水一仁さん)


KOIFの目的は

CVCを立ち上げた目的から教えていただけますか

清水:KDDI Open Innovation Fund(通称:KOIF)は2012年にベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインと共に、国内外の有力なスタートアップへの出資と事業支援を通じて、共に次世代の新たな産業を興していくことを目的に組成しました。

ファンドの規模や特徴はどのようなものですか

清水:2014年に組成したKOIF2号ファンド、2018年に組成したKOIF3号ファンドを合わせて総額300億円の資金を運用しています。KDDIのみならず、グループ会社のソラコム・Arise Analytics・SupershipなどKDDIグループ全体で持つ知見を活用しながら、これまで合計79企業へ出資を実施しています。(2020年10月9日現在)

スタートアップとの取り組みで何か留意していることは

清水:そうですね、「スタートアップファースト」をモットーに、スタートアップの成長を第一に考えて投資・事業支援をさせて頂くことは、KDDIにとっても新しい事業領域にチャレンジするきっかけを与えて頂くことに繋がっています。今後も幅広い領域のスタートアップと共に、新しい産業を興していくことを目指して、手を緩めず活動していきます。

代表的な取り組み事例を教えていただけますか

清水:最近の例ですと2020年3月に出資した、ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」をはじめとするエンターテインメント事業を展開するSHOWROOMと共に、スマートフォンでの視聴に特化したプロクオリティのバーティカルシアターアプリ「smash.」の提供を10月から開始しました。月額550円 (税込) で、スマートフォンでの視聴に最適な縦型かつ5~10分程度の短尺の映像コンテンツを、音楽・ドラマ・アニメ・バラエティなどの幅広いジャンルで展開するサービスです。

5G時代のライブエンタメを提案するサービスだけでなく、幅広い協業も特徴ですよね

清水:音楽プロデューサーの秋元康氏やジャニーズ事務所をはじめ、大手芸能事務所、大手制作会社の協力のもと映像コンテンツを拡充し、KDDIとしてはauのお客さまに月額利用料を6カ月間無料で提供する形で、ユーザー獲得に貢献していきます。SHOWROOMさんのサービス開発力と、KDDIの持つ顧客基盤やデジタルコンテンツサービスを組み合わせ、5Gコンテンツの日常的な視聴体験を創造していくのが狙いです。

SHOWROOMについては協業に先立って出資もしています。これらはどのような意思決定で進められるものなのでしょうか

清水:まず出資ですが、KDDI社員がファンド運用をサポートするグローバル・ブレインとの協力で、日々様々なスタートアップと面会していく中で、資金ニーズや事業共創の可能性を感じた案件について短期間で検討していきます。

具体的な投資検討期間はどれくらいになりますか

清水:ケースバイケースではあるのですが、初回の面会から最終の投資委員会までで、約1.5ヶ月ほどの短期間で結論を出すことを心がけています。ファンドとしての投資採算性の見極めはもちろんですが、KDDIがどのようなアセットを提供することでどのようにスタートアップの成長に貢献できるか、という視点を最も重視して意思決定をしています。

なるほど、ちなみに本体からの出資とこのKOIFというCVCを通じたものと、どのような差別化があるのでしょうか

清水:KOIFについては、KDDIとして新しい領域に一歩踏み込むための第一ステップという役割がありますね。短期的な事業親和性が明確ではないまでも、新規性の高い事業領域やテクノロジーを持つスタートアップに対してはKOIFからマイナー出資という形でまずお互いの距離を縮め、中長期的な事業支援を通じてスタートアップの成長に貢献しながら、親和性が高まってきた段階で改めて本体投資やM&Aによる追加出資を検討していきます。

KDDI ∞ Laboはどうして生まれた

ーー出資を前提とした取り組みがCVCであれば、協業をスピーディーにかつ、幅広い可能性の元に推進できるのがインキュベーションやアクセラレーションの仕組みになります。2010年代に国内でも拡大した「Y Combinator」モデルを出資と切り離して実現したのがKDDI ∞ Laboでした。

KDDIといえば、早いタイミングから海外のアクセラレーションモデルを導入したことでもよく知られていますが、そもそもどういうきっかけからスタートしたのでしょうか

清水:2011年に、国内事業会社では初となるインキュベーションプログラムとして開始しました。当時はiPhoneの登場を機に人々がガラケーからスマホへ急速に移行する流れが起き始め、それまでKDDIが築きあげてきたモバイルインターネットエコシステムから速やかに、スマホをベースとしたエコシステム作りに舵を切る必要がありました。

確かにあの頃はいわゆる「ガラケー」から黒船と言われたスマートフォンシフトがあるのかないのか、そういう変革の決断時期でした

清水:そこで、既に新しい領域にチャレンジしている優秀な起業家を支援することを通じて、新しいスマホエコシステムを一緒に築いていこうと考えたのが、KDDI ∞ Laboの始まりです。

現在は起業家支援という文脈でのインキュベーションプログラムではなく事業共創プラットフォームとして、既にプロダクトのあるスタートアップの技術やビジネスと、パートナー連合と呼ばれる大企業群のアセットとを組み合わせて、一緒に新たな事業を作ることに焦点を当てて活動しています。

KDDI ∞ Laboパートナー連合

インキュベーションから共創に発展して、大きく変わった点は

清水:いえ、立ち上げ時と形は変わっていますが、スタートアップと大企業が一緒に新たな産業を興していくことの狙いは変わっていません。KDDI ∞ Laboのウェブサイトでは通年でスタートアップからの事業連携案を受け付けていますので、いつでもご連絡いただければ嬉しいです。

事例について聞かせてください。KOIFではSHOWROOMへのシナジー投資が挙げられていましたが、こちらのプログラムではどのようなケースがありますか

清水:例えば2018年度の採択企業であるSynamonは、ヘッドマウントディスプレイを装着した状態でバーチャル空間上の会議やコラボレーションを可能とするサービスを開発していましたが、採択期間中はβ版をKDDIやパートナー連合各社の実際のビジネスシーンで徹底的に使い倒すことで、様々なフィードバックを商用版の開発に反映して頂き、2019年3月にはVRコラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」として正式リリースするに至りました。

その後KOIFから出資もしていますね

清水:はい、その後事業の成長性も期待できたことから、KDDI Open Innovation Fundから出資も行い、KDDIの法人営業チャネルを使って「NEUTRANS BIZ」の法人顧客開拓を支援したり、防衛医科大学校と共に、5GとVRシステムを活用した災害医療対応支援の実証実験を国内で初めて実施するなどを通じて、5G×VRの先進事例創出による協業を進めています。

プログラムから出資、協業という分かりやすいステップですね。現在は極めてシードな企業というよりは、このようなしっかりと製品が見えているステージの方々との協業が多そうです

清水:はい。20年度は現在二つのプログラムを実施しているのですが、共に製品やサービスがある段階のスタートアップとの協業を考えています。

どのようなプログラムが走っているのでしょうか

清水:パートナー連合全社が提供する多種多様なアセットを通じてスタートアップの事業を支援する「MUGENLABO支援プログラム 2020」と、パートナー連合各社が公開するプロジェクトテーマごとにスタートアップとの共同事業化を目指す事業共創プログラム「∞の翼」です。

大企業の課題はスタートアップにとってはチャンスです。スタートアップのビジネスアイディアやテクノロジーと、多様な大企業の豊富なアセットを連携させて、社会にインパクトのある新たな事業を共に興していくことがKDDI ∞ Laboの役目ですが、大企業がスタートアップと共にチャレンジする取り組みが産業界全体に拡がり、当たり前のこととなるよう、今後もスタートアップ支援に全力を注いでまいります。

具体的に参加したい場合は?

清水:パートナー連合全社の提供アセットはKDDI ∞ Laboウェブサイトにて公開しており、「これを活用してこんなインパクトを世の中にもたらしたい」という連携案を通年でスタートアップから受付中ですので、是非多くのご連絡を頂ければ嬉しいです。

またパートナーとしてご参加いただく大企業も常に受け付けています。お金は頂きませんが、スタートアップとの事業共創をミッションとし、自社のアセットを積極的にご提供頂ける企業様を期待しています。

ーーということでトップバッターは私たちKDDIのCVCであるKOIFと、事業共創プラットフォームのKDDI ∞ Laboについてお届けしました。次回は凸版印刷さんの取り組みにバトンを渡してお送りします。

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