
2026年07月10日
ドキュメントは“処理対象”から“意思決定インフラ”へー台湾発スタートアップKDANが描く、AI時代のワークフロー進化
- KDAN
Kenny Su - 創業者 兼 CEO
契約書、申請書、請求書。企業活動に不可欠な「ドキュメント」は、いま役割そのものを変えつつある。AIの進化によって、それは単なる記録ではなく、分析・意思決定の基盤として扱われ始めている。モバイル時代からこの領域に取り組んできたKDANは、この変化をどのように捉えているのか。CEOケニーの言葉から、その戦略を紐解く。接続されるデバイスが増え、クラウドに蓄積されるデータは膨大になった。しかし、そのデータを分析し、業務判断につなげる人材やツールは依然として不足している。生成AIの登場が、この構造を大きく変えつつある。
目次
モバイル時代に生まれた「ドキュメント×デジタル」の原点
文書管理や電子署名領域で起業したきっかけは何だったのか?
ケニー:当社は2009年、モバイル時代の中で事業をスタートしました。当時はスマートフォンやタブレットが普及し始めていた一方で、ビジネスの現場は依然として紙やデスクトップPCに依存していました。その中で、「どこでも文書を扱えるようにしたい」という考えから、PDFやドキュメント管理のアプリを開発しました。創業当初から、モバイルファーストでの文書活用に注力してきた形です。
その後、ユーザーがPDFを使って署名していることが分かり、電子署名領域へとビジネスを広げていきました。現在ではグローバルで2億ダウンロード以上となっています。直近5年はBtoB領域に進出し、SDKやAPIの提供を開始しました。企業が自社の環境内で、ドキュメント処理や電子署名を組み込める形で支援しています。さらに現在はAIの時代に入り、単なる文書管理やワークフローではなく、文書データを解析し、インサイトを提供する領域に進んでいます。文書は単なるファイルではなく、データや知識、インテリジェンスとして扱われるようになってきています。

CEOケニー氏
2億ユーザーとコア技術で築く差別化のポイント
既存サービスと比較した際の強みはどこにあるか
ケニー:多くのソフトウェア企業はシリコンバレー発ですが、当社はアジア発である点が一つの特徴です。その上で、強みは主に3点あります。
まず、ユーザーベースです。これまでに2億件以上のダウンロードと約5万名の法人会員があり、そのフィードバックをもとにプロダクトを改善してきました。
次に、SDKとAPIの提供です。多くの企業はSaaSとして提供しますが、当社はコア技術を提供し、顧客が自社の環境内に組み込める形を取っています。これにより、自社のワークフローやシステムに合わせた柔軟な活用が可能になります。
そして3つ目が、ドキュメント処理におけるコア技術です。PDFエンジンを含め、画像認識、ファイル変換、文書処理、AIによる文書理解まで一貫して提供できます。このようなコア技術を持つ企業は世界でも限られています。
AIによって加速するDX、その変化の本質は何か
AI時代においてDX領域はどう進化していくと考えているか
ケニー:これまでDXは長年語られてきましたが、実際には進展が遅かった部分もありました。多くの場合、紙をデジタル化するところで止まっていたからです。しかしAIによって状況は大きく変わっています。文書の内容を分析し、意味を理解し、企業の業務に活かすことが可能になっています。
現在は「変わらなければ市場で負ける」という認識が広がっており、多くの企業がAIやDXへの投資を進めています。その結果、新しいツールやアプリケーションが急速に増えており、DXはこれまでよりも大きく加速しています。ソフトウェア市場自体もAIによって大きく拡大しており、DXも同様に成長していくと考えています。
不動産業界における戦略パートナーシップの狙い
日本の不動産大手APAMANグループからの出資に至った経緯は
ケニー:今回の関係は財務的な投資だけでなく、戦略的パートナーシップです。不動産業界は契約書や申込書など多くの文書を扱う業界であり、DXやAIによる改善余地が大きい分野です。APAMANグループもAIによる変革を強く意識しており、その中で当社のドキュメント技術が合致しました。現在は電子署名の導入に加え、文書データの抽出や分析、ワークフローの自動化などにも取り組んでいます。今後はフランチャイズや代理店への展開も含め、より広い活用が想定されています。
さらに不動産業界においては、単なる電子化にとどまらず、より高度な活用が広がっていくと考えています。例えば、
- 物件書類の分析
- 入居者情報の抽出
- コンプライアンス記録の管理
- 契約条項の比較
- ドキュメントデータを社内システムやAIエージェントに接続
といった形で、文書データを起点に業務全体が変わっていく可能性があります。このように、PropTech(不動産テック)はドキュメントAIが価値を発揮しやすい領域の一つであり、当社としてもAPAMANグループおよびそのエコシステムとともに、こうした変化を支えていきたいと考えています。

なぜ日本なのか──グローバル展開の中で日本市場が果たす役割
日本市場の位置づけ
ケニー:当社は創業当初からグローバル展開を前提としており、モバイルアプリを通じて世界中のユーザーを獲得してきました。ユーザーデータや各地域のニーズをベースに、市場ごとにリソース配分を行いながら展開を進めています。現在は北米とアジアが大きな市場となっており、その中でも日本は主要な戦略市場の一つです。
その理由はいくつかあります。まず、日本は信頼、品質、セキュリティ、そして長期的な関係を重視するビジネス文化が強くあります。文書はこうした信頼と密接に関わる領域であるため、当社のドキュメントおよび電子署名ソリューションと非常に相性が良い市場です。
また、日本は現在、DXおよびAIの大きな転換期にあります。多くの企業、金融機関、不動産会社、製造業、さらには自治体に至るまで、信頼性の高いデジタルおよびAIソリューションへのニーズが高まっています。こうした市場環境を踏まえ、当社としては単に製品を提供するだけではなく、パートナーとともにエコシステムを構築しながら、日本企業のデジタルトランスフォーメーションを支援していくことを目指しています。
ドキュメントAIを軸に進むパートナー戦略
今後、日本企業やスタートアップとの協業で注力したい領域は?
ケニー:当社としては、文書を多く扱う業界を中心に協業を進めていきたいと考えています。具体的には、不動産、金融、法務、製造業といった領域です。これらの業界では、契約書や申請書など多くのドキュメントが業務の中心にあり、AIを活用することでレビューやデータ抽出、ワークフローの自動化といった改善が見込めます。
また、企業の既存システムに対して、文書処理や電子署名、AI機能を組み込める点も重要です。当社はSDKやAPIを通じて、既存環境に統合できる形で提供しています。さらに、AIインフラやハードウェアとの連携、日本のAIスタートアップとの協業も進めていきます。スタートアップの技術力と大企業の顧客基盤をつなぎながら、ドキュメントAIを起点とした業務変革を支援していきます。
ドキュメントはこれまで、業務の記録や証跡として扱われてきた。しかしAIの進化によって、その役割は大きく変わりつつある。KDANが目指しているのは、文書をデータとして捉え直し、企業の意思決定や業務変革につなげていくことだ。ドキュメントを起点としたこの変化は、今後あらゆる業界に広がっていくことになりそうだ。