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2026年05月12日

【前編】NEC野口氏が語る、大企業AI活用の壁と「3年間やってわかったこと」

NEC
野口 圭

「企業が納得するような ROI が弾けていない」。NEC シニアエバンジェリストの野口圭氏は、生成 AI を取り巻く企業の現状をそう表現した。


NEC は自社開発の生成 AI といった NEC 開発の AI コア技術「cotomi 」などを核に、お客さまを未来へ導く、価値創造モデル「BluStellar」を展開している 。顧客との対話を通じて価値共創をリード してきた野口氏は、2023年から生成 AI 領域専門のシニアエバンジェリストとして、AI の社会実装の最前線に立つ人物だ。


ChatGPT 登場から約3年。

巨額の投資が続く一方で、産業界からは「結局、何が変わったのか」という声が漏れ始めている。大企業は AI をどうビジネスに活かせばいいのか。3年間の試行錯誤の末に NEC がたどり着いた答えを、前後編で聞く。


3年間やってわかったこと


2023年から2025年にかけて、多くの企業が生成 AI の導入に動いた。PoC を回し、チャットボットを入れ、社内向けの AI アシスタントを構築した。だが、その投資が損益計算書に反映されたケースはごく限られている。

—— この3年間で何がわかったのか

野口:幻滅期を繰り返しながらも、今までのブームとは違うぞと言って走ってきた3年でした。ただ、産業革命的なインパクトが出ていないということ。各社がとんでもない金額を投じてきた中で、その成果はどこにあるのかという声が上がり始めています。

——NEC 自身もモデル開発に取り組んできた
野口:研究・技術力を活かし、LLM(Large langage Model) を自社開発しました。わたしたちの LLM の優位性は あると思っていますし、その領域ではしっかり展開していく。ただ、産業に実装しようとしたときの難しさを本当に理解できたのが、この3年だったと思います。

——その「難しさ」とは

野口:産業で結果を出すということは、高い精度のモデルを作る以上に 、どこに適用するのかを明確に決めて、そこに対して特化させていくことが大事です。特化させるということは、その業界の業務プロセスを深く理解して、データを AI が活用できる状態にしなければならない。これが非常に難しい。

LLM を開発したこと自体 よりも NEC がこの3年で得た最大の学びは、モデルの性能を上げることと、産業で PL を動かすことは別の問題だという認識だった。チャットボットを入れただけでは業務は変わらない。業務プロセスの本質的な課題を特定し、そこに AI を特化させて初めて、数字として結果が出る。

では、AI で実際に PL を動かしている企業は何をしているのか。野口氏が挙げた条件は目的の明確化、業務プロセスの再設計、そしてデータの整備。この三つが揃わなければ、どれほど優れたモデルを使っても成果は出ないと語った。

—— なぜチャットボットでは PL が動かなかったのか
野口:例えば通信キャリアの B2C マーケティングに使おうとなったときに、GPT-5 が優れているからといってチャットボットを入れただけでは、業務変革 は起こりません。顧客とのコミュニケーションにおける本質的な課題は何か。その目的が定まって初めて、生成 AI を前提に業務をどう変えるかという議論ができるようになります。

次に難しいのが、どのようなデータが AI レディなのかという定義自体です。これが多くの企業にとっては難しい。だからこそデータマネジメントの領域で、業界に特化したシステムを全体として設計していくことが重要になってきます。

——確かにデータが重要だと言われて久しいが、どこのデータに手をつけるべきか、そう考えると答え合わせは難しい。こうした領域の課題解決は何かのサービスやプラットフォームひとつ導入して解決とはならない

野口:私たちもプラットフォームは提供していますが、実はコンサルティングが非常に重要です。業務をどう変えるかを、プロセス全体で設計していくことが大事ですし、さらに言えば、専門性の高いデータを AI が活用できる状態に整え、特化させていく。

AI ツールを導入する以前に、その企業の業務プロセスが何で、どこにボトルネックがあり、どのデータを AI に食わせれば成果が出るのかを設計する。NEC にとってプラットフォームはあくまで器であり、その手前のコンサルティングこそが付加価値の源泉だという。

AI レディなデータの話が進むと、話題は自然と日本企業の特質に移った。データが整っていないから DX が遅れている。そう語られがちな日本だが、野口氏の見方はまったく異なる。

同じ連載で取材したフライウィール横山氏は、日本のことを「ワークフローが美しい国」と評した。その言葉を伝えると、野口氏は即座に反応した。

——いろいろ取材していると、今回のパラダイムは働き方、ワークフローの確変のように思えてくる。日本企業のワークフローをどう評価しているか
野口:ワークフローの美しさというのは、海外の方からも指摘されたことがあります。DX が遅れていると言われますが、行政におけるプロセスの成熟度が北米に負けているかといえば、そうではない。 むしろプロセスの成熟度が高すぎるから、デジタル化が進まないんです。

——確かに。クラウドサービスよりもベテランの手の方が早いというのは、よくある話だった
野口:私見も入りますが、アメリカで DX が進む理由の 一つは、人に任せると品質がばらつくからです。だからデータドリブンにして、プロセスをデジタルで厳密に管理する。一方で日本は、10人いれば8人はきちんと誠実にやる。このプロセスの美しさを捨てるべきかというと、うまく活かしていきたいと考えています。

DX が遅れているのではなく、プロセスが成熟しすぎているからデジタル化のインセンティブが薄い。逆に言えば、その成熟したプロセスには、AI にとっての「教師データ」が大量に眠っている。業務手順が明文化され、品質管理の仕組みが整い、属人化が少ない組織ほど、AI の学習データとしてのポテンシャルは高い。

日本企業の「ワークフローの美しさ」は、AI 時代の競争優位になり得る。後編では、この強みを産業にどうインストールするのか。NEC が構想する伴走モデルと、エコシステムの全体像に迫る。

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