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2025年01月24日

「科学の叡智を社会へ」― MEMORY LABが描く、技術で社会課題を解決する未来

株式会社MEMORY LAB
畑瀬 研斗
代表取締役CEO

2021年に設立されたMEMORY LABは、科学技術に特化したリサーチツール「Memory AI」を開発し、企業の研究開発を支援するスタートアップです。

代表の畑瀬研斗氏は、高校卒業後に渡米してニューヨーク州立大学オルバニー校で脳神経科学と心理学を専攻し、帰国後は理化学研究所や慶應義塾大学の研究員として医学と工学研究に従事。アルツハイマー病や脳性麻痺などの基礎研究に長年携わってきた研究者として、2024年にはForbes JAPAN 30 UNDER 30(「世界を変える30歳未満」30人)にも選出されています。

2024年1月には約9,000万円の第三者割当増資を実施し、ニッセイ・キャピタル、三菱UFJキャピタル、デライトベンチャーズなどから出資を受けました。また、ユーグレナとの共同研究やJETROのグローバルプログラムへの参加など、様々な外部連携も積極的に行っています。

同社のサービスは、工学系メーカー、ヘルスケア系メーカー、大手製薬企業など様々な業界で導入されており、通常1〜2年を要する新規事業探索を3〜4ヶ月程度に短縮するなどの成果を上げています。

今回は、2027年の米国展開を見据え、グローバルな挑戦を続ける同社の戦略と展望を聞きました。


研究者から起業家へ:社会課題解決への新たな挑戦

Memory AIの強み

ニューヨーク州立大学で脳神経科学の研究に携わっていた畑瀬研斗氏。アルツハイマー病の患者と向き合う中で、研究の社会実装の遅さに課題を感じていました。「研究者として患者さんと接する中で、記憶を失っていく方々や病気に苦しむ方々を目の前にして、何とか研究を加速させたいと考えていました」と畑瀬氏は当時を振り返ります。

その後、理化学研究所での研究や、慶應義塾大学での脳と機械を繋ぐブレイン・マシン・インタフェースの研究を経て、畑瀬氏は一つの結論に達します。
それは、単一分野の研究だけでは社会課題の解決には不十分だということでした。

例えば、アルツハイマー病という一つの課題を解決するためには、医学的なアプローチだけでなく、工学的な知識も必要です。

さらに、脳の計算処理には物理学や量子技術の発展も不可欠です。一つの社会課題を解決するために、様々な領域の要素が絡み合っているのです。  

畑瀬氏

このような気づきが、MEMORY LAB設立の原点となりました。研究者が自身の専門領域を超えて、他分野の技術や研究にアクセスできる環境を作ることで、研究開発全体を加速させる。そんな思いで、科学技術に特化したリサーチツール「Memory AI」の開発に着手したのです。

私たちのミッションは『科学の叡智を社会へ』です。研究というのは世界中で同時進行しており、国境はありません。論文や特許は共通言語として機能しています。しかし、大学や企業の中には活用されないまま眠っている技術が数多く存在します。これらの技術を効果的に活用し、社会課題の解決につなげていきたいのです。

畑瀬氏

研究者としての経験と、起業家としての視点を組み合わせることで、研究開発の新しい可能性を切り開こうとしています。

MEMORY LABが実現する研究開発の革新

サービスイメージ

MEMORY LABの主力サービス「Memory AI」は、企業の研究開発部門や新規事業部門が直面する課題解決を支援しています。3億件以上の論文、特許情報、スタートアップ情報などを独自のデータベースとして保有し、自然言語処理技術を活用して研究や技術領域の関連性を可視化することができます。

例えば、ある研究所で新しい素材を開発したとします。研究者としては面白い技術ができたと思っても、その技術を事業部に提案する際に、具体的な活用方法が見つからないというケースが多々あります。 

畑瀬氏

従来、このような技術の活用可能性を探るには、研究者が膨大な時間をかけて論文や特許を調査し、さらに馴染みのない市場領域まで探索する必要がありました。Memory AIは、この探索プロセスを大幅に効率化します。自社の技術が、思いもよらない領域で活用できる可能性を瞬時に発見できるのです。

サービスの特徴は大きく3つあります。1つ目は、コンサルタントによるプロフェッショナルサポート。2つ目は、技術とマーケットに特化したLLM(大規模言語モデル)の活用。そして3つ目は、技術間の繋がりやマーケットとの親和性の可視化です。

特に最近は、カーボンニュートラルやサステナビリティといった抽象的な社会課題に対して、自社の技術アセットをどう活用できるかという相談も増えています。 

畑瀬氏

Memory AIは、そうした社会課題を具体的な技術要素に分解し、自社の技術資産とのシナジーを分析することも可能です。

実際の導入企業からは、通常1〜2年を要する新規事業探索が3〜4ヶ月程度に短縮できたという声も上がっています。工学系メーカー、ヘルスケア系メーカー、大手製薬企業など、様々な業界で活用が進んでいます。また、研究者と企業をマッチングするプラットフォーム「Memory AI ACADEMIA」の開発も進めており、産学連携の新しい形も模索しています。

2027年米国進出を見据えた戦略

TechCrunch Disrupt2024ジャパンブースに出展した際の様子

成長著しいMEMORY LABが見据える次の戦略、それがマーケットの拡大です。
2027年の米国進出を明確な目標として掲げる畑瀬氏は「私自身が2028年に米国に行くと決めています。そのために国内の組織も事業もしっかりと作り上げていくことが現在の課題」と語ります。
しかし、なぜ米国なのか。
畑瀬氏の考えは明確です。

米国はマーケットの規模が桁違いに大きく、研究開発も盛んに行われています。私たちのサービスにとって、最も可能性のある市場だと考えています。 

畑瀬氏

ただし、米国市場への参入には高いハードルが存在します。

米国のVCからの資金調達を考えた場合、求められる水準も日本とは全く異なります。また、世界中からスタートアップが集まる中で、なぜ日本人の我々が米国で勝てるのか、その価値提案を説得力を持って説明する必要があります。 

畑瀬氏

米国のスタートアップエコシステムでは、日本以上に厳しい目が向けられます。これまでの連載にもあったように、日本と比較してより厳しい評価や要求を突きつけられるケースがほとんどだからです。

そのため、2027年の本格展開までの期間を、しっかりとした準備期間として位置付けています。「日本は日本でしっかりと事業を確立しながら、米国では1からチームを作っていく。そのためのネットワーク作りや、体制づくりを今から進めている」とのことでした。また、米国での生活自体への覚悟も必要だと畑瀬氏は指摘します。

物価も高く、生活水準も異なります。そこで本気で成功を目指すには、並々ならぬ決意が必要です。ただ『海外進出します』と言うだけでなく、本当にその環境で戦い抜く覚悟が問われるのです。 

畑瀬氏

テクノロジーで社会課題を解決する未来へ

私たちは、シンプルに技術の力で社会課題を解決することだけを求めています。これが達成できなければ、我々が存在する意味はありません。 

畑瀬氏

研究開発(R&D)市場は、革新が求められる巨大な市場です。資金規模も大きく、グローバルに見ても挑戦する価値は十分にあると畑瀬氏は考えています。

競合も含めて大変な道のりになることは承知していますが、これは変えなければいけないマーケットです。グローバルで仲間を集めながら、私たちの理念と夢の実現に向けて真摯に、ひたむきにチャレンジを続けていきたいです。 

畑瀬氏

そもそも研究開発には国境がありません。世界中の研究者が同時に、様々な課題に取り組んでいます。その知見を効果的に結びつけ、社会実装を加速させることができれば、人類が直面する様々な課題の解決につながるはずです。

MEMORY LABが目指すのは、まさにそんな未来です。研究者の専門性を超えた技術の発見を支援し、企業による社会実装を促進する。そして、その取り組みをグローバルに展開していく。小さな一歩かもしれませんが、確実に科学技術の力で世界を変えていこうとしています。

創業時から変わらない信念を持ち続けながら、グローバルでの挑戦を進めていきます。 

畑瀬氏

科学技術の発展は、人類の未来を切り開く鍵となります。その可能性を最大限に引き出し、社会課題の解決につなげていく。MEMORY LABの挑戦は、まだ始まったばかりです。

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