- インタビュー
2022年12月07日
【Web3起業家シリーズ】スマコン開発の効率化で、誰もがDAppを作れる時代に——「Bunzz」をローンチした圷健太氏
- Bunzz Pte Ltd.
圷 健太 - 代表取締役
インターネットが一般的でなかった時代と今を比べてみると、この世には圧倒的にwebアプリが溢れるようになりました。インターネットが必ずしも必要ではない局面、例えば、航空・鉄道・交通、宇宙ステーションなどでもwebアプリは採用されています。インターネットの前身となった「ARPANET」はもともと軍事利用に設計されていたので、その安全性や柔軟性から人の命を守るところにも多用されるのはうなづけますが、ここまで普及したのは、開発や運用が以前よりもラクになったという点は大きいと思います。
いわゆるクラサバ型(クライアント〜サーバ型)のアプリの多くがWebアプリに移行したように(ここで言うWebアプリは、Web3と比べて表現するなら、Web2アプリということになります)、Web2アプリも時代と共にWeb3に変化していくのは時間の問題かもしれません。先に挙げた例と同じく、必ずしもWeb3の技術を必要としない局面でも、その方が安全で柔軟で簡単であれば、自ずと浸透していきます。つまり、Web3アプリとはDApp(decenetralized app=分散型アプリ)ということになります。
Web2のアプリを開発してきた技術者は、Web3アプリを開発できるように新たな知識を獲得する必要がありますが、これには半年以上の時間がかかり、しかも開発や運用において必要な作業が煩雑です。ここのハードルを下げることできればDAppは我々にとってもっと身近なものになり、Web3の社会実装に向けたモメンタムもさらに高まるでしょう。自らのWeb3起業家としての経験から、DApp開発をより簡単で身近なものにするプラットフォーム/エコシステムを立ち上げた圷健太さんに話を伺いました。
まず、圷さんが現在の事業を始められた経緯を教えてください。
圷:当社はBunzz Pte Ltd.というシンガポールのスタートアップなんですが、前身は2019年8月に創業した LasTrust株式会社という国内のWeb3スタートアップです。そのため、今回ご紹介するプロダクトは我々にとって2つ目のプロダクトなんです。1つ目のプロダクトは、ブロックチェーンの証明書を発行できるサービスをエンタープライズ向けに提供していましたが、こちらはすでにサイバーリンクスという上場会社に事業譲渡しイグジットしています。
2019年からWeb3スタートアップをやってきた中で我々自身が感じてきたペインがあります。DAppの開発においてはスマートコントラクトが必須だということ、そしてその難易度が非常に高いということです。2019年当時、スマートコントラクトの開発インフラは全然整っておらず、2020年の今でも同じような状況です。しかしながら、非常に大きな課題として強く認識していたので、新しいプロダクトてはこのスマートコントラクトとの開発をよりセキュアに簡単にできるプラットフォームを提供していきたいという思いから、Bunzzの開発に至りました。
Web3のマーケットを技術的に分解すると、ブロックチェーン、トークンアセットとそしてスマートコントラクトがその実体です。ブロックチェーンは最もプリミティブなレイヤーのインフラであり、高速道路に例えることができます。DAppはそこを自動運転する車です。車が走っていない高速道路にバリューはないので、チェーンはたくさんのDAppに利用してもらえるよう、トランザクションの速度が他より速いとか、道幅が広いのでより多くの車が通れるなど、優位性をアピールしています。
DApp、ここで例えた車は、特定の運転手がハンドルを操作して動かしているわけではなく、スマートコントラクトに自動制御されているのでコントラクトにプログラムされたロジックは確実に実行されます。もちろんトリガーになるのは人的な操作ですが、一度プログラムが走れば意図したアクションが実現するという非中央集権的な信頼性があります。スマートコントラクトが無ければDAppは成立せず、DAppが無ければブロックチェーンの存在価値も無いので、Web3の技術的価値の源泉はスマートコントラクトにあると言っても過言ではないと考えています。
我々が提供しているBunzzは、このスマートコントラクトを簡単に・素早く・セキュアに開発できるインフラです。開発者は利用頻度の高いコントラクトを安全に利用できます。例えばNFTマーケットプレイスの開発で使われているスマートコントラクトは、主に二種類に集約されます。一つはNFTをMintするためのコントラクト、もう一つはそれを流通させるためのコントラクトです。そういった「必ず必要になる」コントラクトのベストプラクティスを利用できます。
つまりユーザーが工数を削減できる工程は、スマートコントラクトの記述とセキュリティ監査です。従来はスクラッチで書いてましたし、そのコードの監査必要でした。ハックされたらウォレットに入っているアセットは100%抜かれてしまう可能性があるので、DAppはローンチ前にセキュリティホールが無いことを担保する必要があリます。
通常スクラッチでコードを書いた場合、それを監査専門のサービスに出すことになるんですが、ここで数百〜数千万円のコストがかかるのでそもそもコスト面での参入障壁があります。一方Bunzz では内部のエコシステムで監査済のコントラクトを提供しているので、スクラッチでコードを書く必要が無く、監査も不要です。
Web3開発者のハードルは、かなり下がることになりますね?
圷:DApp構築に必要なスマートコントラクトの開発では、スクラッチでコードを書く、監査するという点が最も大きなペインになっています。それが Bunzz で必要なくなります。もちろんスマートコントラクトの概要は理解している必要がありますが、「CryptoZombies」などの教育コンテンツや、「UNCHAIN」などDApp開発のノウハウを学べるコミュニティがあるため、ベーシックなナレッジを学ぶことはそこまで難しくないです。
一方で実際のDApp開発に使用される実用的なコントラクトはハードルが高いですし、可能な開発者でも過去に開発したものを再度環境を立ち上げてデプロイするのは面倒なのです。つまりweb3の開発コミュニティは「スマートコントラクト開発のためのBaaS(Back end as a Service)」を求めています。
この点に着目し、Bunzzでは利用頻度の高いコントラクトをモジュール化し、監査したものを提供しています。これによりGUIの操作だけでブロックチェーン上に必要なコントラクトを簡単に用意できます。
ユーザーはスマートコントラクトの学習に数ヶ月使っていただいたとして、それ以降の開発プロセスはBunzzで5分で終わります。通常スマートコントラクトをゼロから書いてデプロイするためには、開発環境を立ち上げ、デプロイ先のチェーンをコードで指定したりノードを用意する必要がありますが、Bunzz ではそうした面倒な作業をショートカットできます。例えばトークンのデプロイをしてみます。
デプロイ先のチェーンを選択し、デプロイしたいスマートコントラクトを選び、必要項目を入力し、「Deploy」を押します。自動的に「MetaMask」が立ち上がりガス代を支払うと、Bunzz が裏側で Solidity のコードをコンパイルしてブロックチェーンに書き込んでくれます。この一連のプロセスはが30〜40秒くらいで終わります。
どれくらいの開発者に使われているんですか?
圷:ローンチからまだ9ヶ月ですが、すでに7,000名以上の開発者に使っていただいており、Bunzz からデプロイされた Dapp プロジェクトの数は2,500を超えました。日本はもちろんのこと、アジア圏では最大級の Dapp 開発プラットフォームに成長してきています。我々が元々持っていた「スマートコントラクトの開発にペインがありBaaSが必要である」という仮説が裏付けられていると感じています。
さらに、ここからの展開があるんですか?
圷:はい。我々が現在 Bunzz で提供しているモジュールは6種類のみですが、開発支援ツールという側面に加え、トークンインセンティブを導入することで、web3エンジニアが開発した便利なコントラクトを他のDAppの開発者が再利用可能になります。
我々は 「web3 版の GitHub」と呼ばれるようなコントラクト開発に不可欠なサービス を目指しているんですが、それは絵に描いた餅ではなく、既にコントラクトを公開するユーザーが出始めており、リリースを控えているコントラクトが50種類以上あります。
web3 は非常にトレンドの変遷が激しいのことが特徴です。例えば一口にNFTと言っても、初期に使われていた「ERC721」「ERC1155」が普及したあと「ERC4907(貸与可能なNFT)」がマスアダプションしました。新しい規格を追い、内製でモジュールを開発して提供するということを繰り返していると、それは労働集約型のビジネスになってしまいスピードも遅い。そこで我々は全く異なるアプローチを取ることにしました。
それが前述したweb3開発者が彼らのコントラクトを公開できる「レポジトリ」機能です。Web3 領域ではスマートコントラクトのスペシャリストがいて、彼らが過去に開発した実装実績のあるコードが GitHub やブロックチェーン上に公開されていて誰でも閲覧できてコピーもできるんですが、第三者に使われることは想定されていないので、再利用することが難しいんです。
GitHub 上で公開されているコードを何ヶ月もかけて査読して、そのコードが自分達が作ろうとしているプロジェクトに使えるコードかどうかを判断し、セキュリティリスクを負って使い始めるという流れになりますが、我々はこのバッドプラクティスを根本から変えたいと思っています。
GitHub やブロックチェーンに公開されたスマートコントラクトの再利用性を高めたりするにはどうするんですか?
圷:各コントラクトのドキュメントやチュートリアルを充実させることが重要だと考えています。Bunzz ではそれらのコンテンツがユーザー自ら自然に作成される仕組みを開発しています。具体的にはモジュールクリエイタというロールを用意し、自分の開発したモジュールがDApp開発者に使われれば、クリエイタはトークンがもらえる仕組みを実装しています。モジュールクリエイタは自身のコントラクトを多くの人に使ってほしいので、手厚くドキュメントやチュートリアルを書くなど、再利用性を高める行動に結びつきます。
クリエイタにとってはモジュールを Bunzz にコピーする作業は難しくなく、そこにドキュメントを書いておきさえすればトークンインセンティブがもらえることになります。こうすることでBunzzエコシステム内部のコントラクトの数は飛躍的に伸びます。結果的にスマートコントラクトを開発する際は、「Bunzzのレポジトリを使えば目的のものがすぐ見つかるしGUIですぐデプロイできる」という価値を提供できると考えています。
スマートコントラクト開発を劇的に変えるプラットフォームだと思いますが、現在はどこまで進んでいるんですか?
圷:Bunzz のレポジトリの機能は正式にはアナウンスしておらずまだβ版です。ただトークノミクスのインセンティブがまだ無い状態なのに、一部のクリエイタがモジュールをアップロードし始めているんです。
これは嬉しい誤算で、何が起きているかというと、Bunzz のエコシステムから提供されているモジュールではなく、過去に自分で開発したモジュールをBunzz にインポートしてデプロイ作業を簡素化したいという開発者が一定数いるんです。
例えば会社のチームで、デプロイのプロセスもスクラッチでやっていたところでは特定の人しかデプロイできなかったのが、Bunzz なら誰でも簡単にデプロイできるようになり脱属人化できます。
最後に一言お願いします。
圷:Bunzz はスマートコントラクトのノーコードツールだと思っている人が多いのですが、本当に実現したいことは全てのスマートコントラクト開発者をエンパワーさせるエコシステムです。Githubが人類のソフトウェア開発の発展を大きく後押ししたのと同じように、その意義は大きいと思っているんです。
ありがとうございました。
Bunzzはグローバル・ブレイン社のアクセラレータプログラムに採択され、先日のGlobal Brain Alliance Forum 2022にも登壇しました。
関連記事
インタビューの記事
-
アジア市場を足がかりに、グローバル展開を加速するトリファの成長戦略を聞く
2024年11月07日
-
スタートアップに会いたい!Vol.88- 三菱商事
2024年11月05日