- インタビュー
2022年12月13日
コロナ禍の学生スポーツを応援したいーー運動通信社とKDDIが共創「ANYTEAM」誕生の背景
コロナ禍で苦しむ学生スポーツをどうにか支援できないかーー。コロナ禍で大きなダメージを受けることとなった学生スポーツ。競技会の中止や目的を失ってしまった学生が退部したり、運営面においても感染症拡大防止対策でクラブ運営に負担が大きくのしかかりました。
学生スポーツには新しい世代を担う人材を育成するという社会的な側面もあります。ここに課題解決を掲げてサービスを企画したのが運動通信社でした。KDDIとはこれまでにも共同運営するSPORTS BULLを通じて学生スポーツの試合を年間1万件以上ライブ配信するなど、その活性化に取り組んでいます。その両社が10月、学生スポーツ支援の枠組みを新たに立ち上げました。
運動通信社は10月25日、KDDIと共同で学生スポーツの応援コミュニティ「ANYTEAM(エニーチーム)」の提供を開始すると発表しています。ANYTEAMは全国の中学から大学に所属している部活チームとファンを繋ぐコミュニティサービスで、メッセージの投稿やクラウドファンディングなどが機能として提供されます。また、この発表と同時に219大学36競技団体の学生スポーツ団体が加盟する大学スポーツ協会(UNIVAS)との連携も公表されています。今後、同協会を通じてサービスの紹介やUNIVAS公式サイトとの連携が検討されるそうです。
KDDI社内でも学生スポーツへの貢献を掲げる動きがある中、支援先と部門の共創を取りまとめ、「ANYTEAM」へと着地させた経緯はどのようなものだったのでしょうか。編集部ではその背景について、KDDIでこの事業を担当する事業創造本部の正木拓さんとパーソナル事業本部マーケティング統括本部の長井栄子さん、運動通信社でANYTEAMを担当する執行役員の椛沢保男さんにお話を伺いました(太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部)
コロナ禍で学生スポーツは大打撃を受けました
正木:学生スポーツはこの2、3年、コロナ禍で現地の応援ができなくなってしまい、今年の春高バレーも全国大会で多くの試合が無観客となっています。(SPORTS BULLを通じた)オンライン配信への期待も含め「応援」文脈の課題が非常に多いですね。
そこで運動通信社でこの課題解決のプロジェクトを立ち上げたのですね
椛沢:最初は部活チームとファンが直接繋がってコミュニケーションを取れるようなツールを検討していました。しかし、部活チーム自体が任意団体で法人格を持っていないため、サービスを利用する際の責任の所在が不明確で、団体としての利用がしにくいという課題がありました。そこで、部活チーム単体ではなく学校法人として利用することができるインフラのようなサービスへ方向を変えながら、同時にガバナンス強化と管理の効率化を図れるようなサービスとしてANYTEAMが誕生しました。
一方のKDDI側も別部署で同様に学生スポーツの支援を模索していたそうですね
正木:昨年、夏の高校野球が終わった頃にマーケティング企画部から相談があったのですが、同時期に運動通信社さんでも同じ企画を立ていることを耳にしたので、引き合わせたら何か一緒にできるのではないかと。
長井:KDDIの全社経営戦略である「サステナビリティ経営」の方針に沿って、auでも、単純に事業成長を目指すだけではなく、同時にサステナブルアクションを通じた社会の持続的成長を目指す活動に取り組んでいるんです。その中の1つとして、学生スポーツを取り巻く大きな社会課題解決に積極的に取り組んでいる運動通信社さんを正木さんから紹介いただいて、是非、私達も取り組みを応援したいと思い、三者合同のプロジェクトに発展していきました。
サービスについて、どうして学生スポーツの支援でクラウドファンディングに注目されたのですか?
椛沢:これまでも似たようなクラウドファンディングのサービスはもちろんありました。ただ、一部、大学を中心とした強豪校の部活チームでの利用事例などはありますが、特に高校や中学校の部活動での利用実績が少ないのが実情です。
高校や中学校の部活動での利用実績が少ない理由はなんでしょうか?
椛沢:実際に、全国大会に出場するような強豪校でなくても、多くの中学校、高校の部活動の現場でも、特に経済的な負担の増大といった課題は存在しています。ただ、部活動単位で支援金を集めたり管理するのに労力がかかるので、なかなか踏み出せなかったり、支援を募集しても強豪校に比べて発信力が弱く支援が集まりにくいと言う課題がありました。困った時にだけ声を上げるのではなく、日頃から部活動と人々が繋がり、コミュニティを形成することの重要性を感じました。
ーーこのような経緯で共創することが決まったKDDIのマーケティング統括本部と事業創造本部、そして運動通信社は取り組みを開始させます。しかしここまでの運動通信社学生のアイデアは「寄付」を通じて学生スポーツをどう支援していくか、という社会課題解決の視点が中心でした。一方のKDDIは、いかにして応援メッセージを届けるか、というお客さま視点が強くなります。
学生スポーツをファンの力で支援し、幅広い消費者に届けるーー。徐々に三者の視点は「応援するコミュニティ」というアイデアに向かっていくことになります。
ANYTEAMの機能について
みなさんの想いは同じでサービスの核もありますが、協業にあたってどういう課題がありましたか?
椛沢:運動通信社としては学生スポーツ支援を寄付文脈で、一方のKDDIさんは応援文脈で考えていました。運動通信社としても応援やコミュニティの概念はありましたが、寄付による経済的な課題解決が本質的な学生スポーツ支援に繋がると考えていました。加えて私たちは解決したいものが部活に向いていて、部活動におけるエコサイクル創出に重きを置いていました。当初はそれぞれの想いがあったので、擦り合わせていくのに時間がかかりました。お互い「学生スポーツにおける課題解決」と言う素晴らしいことをやろうとしているのは確かで、どこからアプローチするかという入り口が違っていたと言うことです。
長井:ちょうど私達も、学生さんの部活動を応援するサービスをトライアルで作ろうとしていた時に運動通信社さんと引き合わせていただいたんです。両者の想いは同じで、ただ、それをお客様にお届けするサービスの構築方法にはそれぞれの差があり、気づきが多かったです。私達は、普段から部活動に携わる方と接しているわけではないので、どちらかというと親御さんや保護者の方、OBやOGの方が喜んでいただけるものに目線が集中していました。
しかし、学生スポーツというカテゴリーを本気で盛り上げようと思ったら、まずは部活に取り組む方達が一番喜んでくださるものじゃないと、盛り上がっていかないですよね。それをご支援する形として、メッセージを届けるだけではなく、支援の1つとして寄付の形をプラットフォームに取り入れることも学びとしてありました。寄付とコミュニティが一緒になった新しいサービスを通じて、応援者の想いをもっとリアルに選手たちへお伝えしたい、そういう想いでサービスをブラッシュアップしようと、毎週のように議論を続けています。
ーーこうして始まった運動通信社とKDDIの取り組みは現在、学校や地域の教育委員会などとのディスカッションを経て改善を重ねているそうです。その上で、三者にそれぞれ今後の将来像を語っていただきました。
ANYTEAMサービス発表会 ご登壇者
これから目指す姿はどのようなものでしょうか?
椛沢:最終的には地域が部活動を支えていくためのプラットフォームになればいいなと考えています。ANYTEAMを通じて、それぞれの学校の部活ごとにチームとファンが直接繋がり、地域がチームを支えていくことが文化として根付いてくれればと思っています。
プロアスリートや世界大会のメダリストの多くが部活動を経験しており、日本のスポーツ界を長らく下支えしていたのは、独自の部活動文化としても過言ではないと思っています。少子化や先生たちの働き方改革など、さまざまな要因で、今、その部活動システム自体が大きな転換期を迎えています。運動部活動の地域移行が進む中でも、多くの学生たちがスポーツで夢を実現できる社会を維持し発展させていくために、このプラットフォームが下支えしている姿を目指したいと思っています。
正木:学生スポーツは企業の商用利用が認められないケースが多く、ブランディングや事業貢献等のリターンを求める企業が協賛し難いという構造的な課題があるんです。現時点では個人が応援、支援をするプラットフォームですが、今後はこの規模を拡大し企業も支援できるような仕組みへ発展させ、世の中全体で学生スポーツを支える仕組みが作れると良いなと思っています。
長井:最後に、学生スポーツが持っている熱量にポテンシャルを感じていて、これを全ての人に広めたいんです。スポーツ自体、する人、応援する人ともに、心身を健やかにしてくれるものですよね。それを支えていくことが、世の中を健康的でサステナブルに発展させることにつながるはずなんです。ANYTEAMが学生スポーツの地域移行を下支えするプラットフォームとなって、事業創造本部が言うように、アマチュアスポーツが利益を出していけないという風潮にも風穴を開けられたらいいと思いますし、さらにすべてのスポーツの根底にある「学生スポーツ」というジャンルにすごく世の中の発展の可能性を感じているので、そこをマーケティング企画部としても支えることができればすごくよいなと思っています。
ありがとうございました
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