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2021年11月18日

国産衛星スタートアップの父が語る、宇宙産業の最前線と未来像【業界解説・東京大学 中須賀教授】(後半)

東京大学
中須賀 真一
東京大学 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授

全産業デジタル化の流れが不可避と認識される中、大きな構造の変化がいろいろな場所で発生しています。MUGENLABO Magazine編集部では業界のダイナミックな変化をゲームチェンジャーたちの解説と共に紐解くシリーズを開始しています。


前半では、世界や日本の宇宙産業の全貌について伺いました。後半では、宇宙スタートアップの活躍について、お話を伺います。


   

編集長編集長
宇宙産業の中で、スタートアップはどんな活躍をしていますか?
中須賀中須賀
宇宙産業の規模についてですが、狭義の宇宙産業、つまり宇宙のいろんなアセットを作ったり、そのサービスを実際利用することによって発生する産業が、2016年はおよそ33兆円、2050年には83兆円です。ただそれだけではなく、宇宙と関連することによって発生するような周辺の産業が非常に大きく、合計すると200兆円ぐらいのビジネスになると言われています。

日本の中でもこうした分野での事業を目指して、さまざまな宇宙ベンチャーが現れてきました。宇宙データ利活用とかインフラ、宇宙旅行、ロケットである輸送、それから軌道上のさまざまなサービスとか、あるいは月や小惑星の資源を探査しようというさらに先のビジネスなんかも出てきています。

今、日本ではスタートアップが合計54社、投資家が120社ですね。累計投資額は677億円といったところです(いずれも2020年現在)。アメリカに比べると一桁以上小さいですけれども、それなりの投資が起こっているという点からもわかる通り、宇宙への投資熱は非常に強いです。


    中須賀教授作成資料より

編集長編集長
日本の代表的な宇宙スタートアップを教えてください。
中須賀中須賀
いくつかのを挙げると、ALE(エール)は衛星から小さな玉を出してそれが流れ星になることを利用したエンターテインメントをビジネスにしていこうということで立ち上げられた会社です。ispace(アイスペース)は月の水や小惑星の資源をビジネスとしてやっていこうとする会社。ispace はもうほぼ200億円近い資金を調達していて、上場しようと準備しています。

それから宇宙にたくさん打ちあがる衛星が、死んでしまったらゴミになるので、これを除去するサービスが必要になります。デブリ除去サービスを提供するAstroscale(アストロスケール)は、200億円以上の資金調達をしています。

また、日本でもロケットのベンチャー会社が出てきました。来年打ち上げる予定のスペースワンは、自分たちで射場を和歌山県に作り、ここから150kgぐらいのペイロードを打ち上げられるロケットを打ち上げます。

それから宇宙旅行ですね。宇宙まで行くというのではなくて、たとえば100kmぐらいの高度まで行って数分の無重力を体験して帰ってくるようなビジネスも相当な勢いで動いています。日本でも大分空港がスペースポートに名乗りを上げており、来年、747ぐらいのロケットの翼の下にロケットを付けて、そこから衛星を打ち上げる空中発射のビジネスがスタートします。


中須賀教授作成資料より

編集長編集長
いろいろご紹介いただいた技術進歩の中で、要となっているのは衛星の小型化技術のようですね。
中須賀中須賀
2000年ぐらいから超小型衛星がたくさん出てきて、さまざまな用途に使われています。100kg以下の衛星です。東京大学では、すでに13機の衛星を打ち上げて、世界初の1kg衛星を2003年に打ち上げました。宇宙科学、深宇宙探査、地球観測、通信を目的として、海外に衛星を作りながら教える、教えながら作るという活動と合わせ、さまざまな衛星を作ってきました。

2014年に打ち上げた60kgの衛星は、大体3億円以下ぐらいでできました。これまでの200〜300億円に比べると百分の一ぐらいの値段になりました。6m分解能だと田畑が1枚ずつ見える。1機だけだと勝負できないが、たくさん打ち上げることによって頻繁に見れるようになり、そこから新しいビジネスを展開しようという動きが、今ベンチャーの中では起こっています。


中須賀教授作成資料より

編集長編集長
中須賀先生の研究室からも、宇宙スタートアップ、特に衛星のスタートアップがいくつか創業していますね。
中須賀中須賀
Axelspace(アクセルスペース)というベンチャー会社が2018年に AxelGlobe という衛星をスタートしました。2.5m分解能の衛星を30〜50機ぐらい打ち上げて、1日1回は必ず世界中の陸地を観測しようという事業を展開します。この3月には追加で4機打ち上げて、今5機体制になっていますから、今は3日に1回ぐらいは特定地点を観測することができます。

さらに合成開口レーダーも小さな衛星で実現できる時代になってきました。我々が衛星のバスという基本部分を作りビジネスを展開するSynspective(シンスペクティブ)が生まれました。Synspective は去年の12月に初号機を打ち上げ、すでに雨でも夜でも撮影可能なので、撮影した画像をを使った災害の監視など、いろんなビジネスをスタートしているところです。


中須賀教授作成資料より

編集長編集長
ありがとうございました。
宇宙産業の動向や、そこで活躍する宇宙スタートアップの動向を知ることができました。この分野から新しいビジネスが生まれることを楽しみにしています。

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