- コラム
2021年11月16日
国産衛星スタートアップの父が語る、宇宙産業の最前線と未来像【業界解説・東京大学 中須賀教授】(前半)
- 東京大学
中須賀 真一 - 東京大学 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授
宇宙開発と言えば必ず名前が上がっていた NASA(アメリカ航空宇宙局)ですが、最近は Elon Musk 氏の SpaceX や Jeff Bezos 氏の Blue Origin など、有名起業家が設立した宇宙スタートアップがその役目の一部を担いつつあります。宇宙開発をより柔軟かつ効率よく行うため「官から民へ」移行がなされた結果ですが、この波は日本の宇宙スタートアップの元にも訪れつつあります。
11月9日に打ち上げられたイプシロンロケット5号機には、民間企業・スタートアップ・大学・高専などが開発した実証コンポーネントが6個、超小型衛星が8基搭載され、いずれも無事に予定軌道に投入されました。日本でも、衛星開発や関連サービスを主導するのはスタートアップになっていくでしょう。
今回は、日本で最も多くの宇宙・衛星スタートアップを輩出している、東京大学工学系研究科・中須賀研究室の中須賀真一教授に、世界の宇宙産業の動向や、日本の宇宙スタートアップの可能性についてお話ししいただきました。
- 編集長
- まず、日本の宇宙産業について、教えてください。
- 中須賀
- 日本では、政府中心で行われてきた宇宙開発として、ロケット、輸送系、日本版GPSの準天頂衛星というものが作られています。それから地球を遠くから見る「リモートセンシング」のための観測衛星として、光をカメラで見るものと、合成開口レーダーというレーダーで見るもの。また、温室効果ガスを観測したり、大気中の粒子を観測したりする衛星があります。
通信放送はもう民間のビジネスに移りましたけれども、国としての技術開発をするために、今、技術試験衛星「ETS-9」というのを計画中で、再来年ぐらいに打ち上げる予定です。それから宇宙科学探査の世界では、ご存じの「はやぶさ」ですね。それ以外にもX線あるいは赤外線で宇宙を観測すると衛星がJAXA 宇宙科学研究所の中で検討されています。
有人宇宙開発という観点では、国際宇宙ステーションを中心とした先進国の中での連携があります。これが今度は月に移りまして、アルテミス計画となりました。日本政府の宇宙予算は今4,500億円なんですが、日本の宇宙産業の官需率は非常に高く、これを何とか民需を増やす、あるいは外需を増やしていくというのが近々の宇宙産業の課題になっています。
- 編集長
- 宇宙産業の中でも、特に新しい技術が生まれているのは、どのような分野なのでしょうか。
- 中須賀
- 政府の施策としては、、準天頂衛星。GPSの精度が3〜5mであるのに対して準天頂衛星のレシーバーを使うと精度が6cmぐらいになるということで、この非常に高精度の「センチメートル測位」を使っていろんな新しい産業を起こそうという動きがあります。自動走行、ドローンの自動操縦、船舶の自動離着桟、AGV(無人搬送車)、港湾クレーンなど。
地球観測のリモセン(リモートセンシング)衛星は、世界での大きな流れとしては、民間と政府が併せて使うようなデュアルユースというの高分解能の衛星があります。欧米では、分解能は悪いけれども、自由に使ってそこでビジネスを起こしてくださいという戦略があり、日本でも経産省のTellusというプログラムによって政府衛星データが大量に公開されています。
さまざまな分解能を持つ衛星がそれぞれの用途で使われています。日本政府は ALOS-2 という衛星を稼働していますが、合成開口レーダーを使っているので雲があっても夜でも観測ができます。1回目の撮影と2回目の撮影を比べ干渉計測をすると、大体5mmぐらいの精度で動きが分かります。たとえば火山が噴火しそうとか、地震で土地が動いたといったことが分かります。
- 編集長
- 先ほど国際宇宙ステーション(ISS)を中心とした友人宇宙開発の話のところで、アルテミス計画という耳慣れない言葉が出てきました。詳しく教えていただけますか? また、最近の宇宙開発では、ここ数年のトレンドとして、どのような傾向がありますか?
- 中須賀
- 有人宇宙開発は、ISS から月周辺の「Gateway」という宇宙ステーションの計画に移りつつあり、アメリカはアルテミス計画で2024年までに月にもう一回人を送り込みたい、と言っています。この計画には日本も参加していて、月でのGPS、閉鎖系での食料の生産、着陸や水探索、ローバーの技術、燃料補給、予圧ローバーなど民間参入可能なプロジェクトが多くあります。
新しい潮流としては、「官から民へ、大から小へ」というのが起こっています。静止通信衛星ではなく、低軌道にたくさんの小さな衛星を打ち上げる「メガコンステ」ですね。Starlink は1万2,000機を打ち上げ、宇宙空間にインターネットの世界を作ろうとしています。
また、これまで宇宙ステーションに人を送り込んでいたのは NASAでしたが、Crew Dragonは民間のビークルを使ってそれをやろうとしています。こういうのをサービス調達と言いますけれども、政府が民間にお金を渡して開発させるのではなく、民間のサービスを政府が調達する「サービス調達」がアメリカでは活発化しています。
- 編集長
- 衛星については、技術の進歩も目覚ましいものがありますね。技術が進歩したことで、今までは考えられなかったようなことを実現できるようになった事例はあるでしょうか?
- 中須賀
- 地球観測の世界では、ベンチャーや大学等が100kgで1mを切るような高分解能の衛星を作り始めました。まだ値段が高いですが、さらに安くなれば今の数十分の一の値段でこういった画像を撮れるようになります。また、3kgの衛星でも高精細な写真を撮れるようになり、アメリカでは政府がこういった画像を大量購入することで支えるアンカーテナンシーが起こっています。
また、1機ではなくて多数機打ち上げることによって頻繁に観測ができる。1機だけだと20日に1回ぐらいしか観測できないが、180機以上になると1時間に1回の観測頻度になるので、変化が分かる。これを生かしていこうというビジネスが起こっています。これを担うのは、非常に小さな棚に乗っかるぐらいの衛星。こういった世界が今の主流になりつつあります。
- 編集長
- ありがとうございました。宇宙産業の最近のトレンドについて、理解を深めることができました。後半は、日本の宇宙スタートアップの動きを中心にお伺いしたいと思います。
関連記事
コラムの記事
-
国産衛星スタートアップの父が語る、宇宙産業の最前線と未来像【業界解説・東京大学 中須賀教授】(後半)
2021年11月18日
-
コロナ禍が追い風、日本のオンライン診療はどう変わるか?【業界解説・MICIN 原聖吾氏】(後半)
2021年10月14日