- インタビュー
2020年10月28日
SORACOMはどうやって共創環境を立ち上げたのか - ソラコム 玉川憲氏 Vol.2
- 株式会社ソラコム
玉川 憲 - 代表取締役社長 兼 共同創業者
グループ入りを果たしたIoTプラットフォームのソラコムは、KDDIとの共創によって買収時に8万回線だった契約数を200万回線にまで押し上げることに成功します。前回のインタビューではグループ入りという選択肢を選んだスタートアップの成長に必要な「余白」の考え方と、そこからさらに視座を上げる「スウィングバイ・IPO」の考え方がどのようにして生まれたかについてお伺いしました。
2回目となる今回は、ソラコムの立ち上がりについてです。SORACOMは独自のエコシステムをパートナー企業や開発者たちと構築しています。ゼロからプラットフォームを作るというのはどういうことか、引き続き玉川さんにお話を伺います。(太字の質問は編集部、回答はソラコム代表取締役の玉川憲氏)
ソラコムはどうやって共創環境を作ったのか
玉川さんたちがAWSの立役者であったことはその後のソラコムの信用に大きく寄与したのでは
玉川:この件についてのアンフェア・アドバンテージはあったと思います。そういう実績のあるチームだったので、なんかやってくれるだろう、という期待感や信頼関係というか、変なことはしない人たちだよね、というのは凄くあったと思いますね。
ただ、会社始めた時って100%の確信のようなものはありませんでした。10人ぐらいの頃ですか、初期のメンバーで話していたのは「正直できると思ってるんだけどできなかったらごめんなさい、でも僕ら食っていけるよね」と。AWSとかもやっていたし、むしろ自分たちで食べていける人だけだったので、リスクを取りに行きました。
2015年9月にイベントで一気にお披露目をしたわけなんですが、そのタイミングで既にパートナーが10社、お客さんもその時点で30社ぐらい利用いただいてたんですね。この辺りはアンフェア・アドバンテージの力だったと思います。
少し巻き戻して、そもそもソラコムというプラットフォーム自体を作る工程はどこから始まったのですか
玉川:一番最初はやっぱりプレスリリースですね。(前職のAmazonでは)伝統的に仮想のプレスリリースを書くんですが、僕は夜中に酔っ払って書いたんです(笑。で、これがなんだかもっともらしく凄そうに見える。やった方がいいんじゃないか、みたいな始まりですね。そこがやっぱり駆動力になってて、じゃあとりあえずとプロトタイプにして一番最初に投資家の方に見せたら絶賛されたんです。
ただ、その投資家に言われたのが「玉川さん、デザインは見直した方がいいよ」、と(笑。
ここから話が広がった
玉川:ソラコムを起ち上げ、お客さんや事業パートナーさん、通信キャリアのパートナーさんにプライベートベータとして持っていったんです。そしたら同じようになんか凄そうだぞと感じていただけたようで、ソラコムさん、まあちょっと一緒にやりましょうか、そんな雰囲気になっていきました。
順風満帆に見えて、でも実際は苦戦していたんですよね
玉川:やはり、ちょっと検討しますみたいなのは多かったですね。プライベートベータの時期は、やっても返事もくれないこともありましたし。ただ、やはりアーリーアダプター層、特に前職でコミュニケーションしていたAWSのコミュニティの方々は心強かったです。彼らは新しくても良いものであればサポートする精神に溢れてるんですよね。
例えばAWSを最初に使う人ってやっぱりセールスフォースも最初に使った人なんですよ。こういう方々の目利き能力はすごいものがあって、いいものはいい、むしろリスクを取って使うことの価値を知ってるんですよね。一般的に普及した後にフォロワーとして使っても別に競争力にはならないじゃないですか。リスクのある状態で使い始めるからこそ競争力になるっていうことを直感的に分かってるんですよね。
となると初期のコミュニティをどう作るか、これすごく重要なポイントになりますね
玉川:実際、ソラコムも最初からコミュニティーを立ち上げさせて貰ってました。大半のユーザーさんもパートナーさんもこういったコミュニティーから出てきてるんですよ。
また、本当に最初から単独ではやってないと言うか、僕らって通信のコアの部分をクラウドで作る会社じゃないですか。その時点でまずAWSに凄い依存しているんです。さらに事業をやろうと思った時に通信の基地局などをお借りしなきゃいけないので、通信キャリアさんにも最初からすごく依存してる。
お客さんでありパートナーである、でも一部では競合するかもしれない。難しい舵取りですね。しかも様々な局面でメンバーがその交通整理をしなければいけないわけですよね
玉川:ソラコムを立ち上げた時に、チームが尊ぶべき行動様式をまとめたリーダーシップステートメントっていうのを作ったんです。その中にライカビリティ(好きになってもらえる能力)というのがあって、我々はプラットフォームビジネスを指向しており、あらゆる企業や個人がお客様でありパートナー様でありえる、だから誰からも好かれるようなやり方を模索しようと。
Likability
一緒に働いて楽しい人に - どんなときもユーモアを忘れず、周囲を力づける。フェアでオープンなプラットフォーム事業を支える一員として、常にふさわしい行動をとる。
引用元:ソラコムのリーダーシップ・ステートメントより
仮想のプレスリリースを現実のものとし、コミュニティを中心に垂直立ち上げに成功しました。問題はそこからですよね。どうやってこのエコシステムを回していくのか。そもそも玉川さんのプラットフォームに対する見方から少しお話いただけますか
玉川:プラットフォームの特徴ってネットワーク効果ですよね。多くのお客様やパートナーさんが集まってくると、このエコシステムがどんどん強くなる。僕らが最初にやろうとしていたことっていうのは、誰もが必要なIoTにおける通信のインフラストラクチャ部分を凄く使いやすい形にして提供することだったんです。これをみなさん自身がやろうと思ったらすごく大変なわけで、英語で言うところの「ヘビーリフティング・ワーク(泥臭い仕事)」を代行すればみんなハッピーなので、その泥臭いところをできるだけ巻き取ろうと。
大変というか、圧倒的な技術力やチームに対するアンフェア・アドバンテージのような要素もなければ、なかなか任せてもらえない部分です
玉川:さらに僕らはそこを民主化してみんなに使ってもらおう、と先に進んだんです。「SORACOM」というのはそういったインフラ自体のプラットフォーム事業なんです。
最近は「つなぐを簡単にする」っていう言い方をしているんですが、やっぱり時代が凄く移り変わってきていて、例えば2000年ぐらいからインターネットが面白くなってきたじゃないですか。それをさらに押し上げた契機ってやっぱりAWSのようなコンピューティングのインフラ自体のプラットフォームが出てきたあたりだと思うんですよね。
面白いことをできる人がより身軽に、能動的に行動できるようになった
玉川:パッションを持っていて、こんなサービスを作ってみたいな、という人がすぐそのサービスを試しに作れるようになったんです。それで世の中がどんどん良くなっていった。ただ、2012年とか13年頃でしょうか。ひと通りのサービス化されてきたみたいな感じで新しいウェブサービスの出現にも若干こう陰りが出てきて。
アプリ経済圏が出てきたり、スマートフォンシフトが発生して多様性が出てきた頃ですよね
玉川:そうすると、各業界のアーリーアダプターと言われる方々がWebサービスだけでは物足りず動き出した感があって、さらに当時は「IoT」っていう言葉が使われ始めた頃でした。例えば色んなものから取れるデータを集めて機械学習できれば、モノとモノが繋がるんじゃないか、でもそれってどうやるんだろうといった課題が出てきていたんです。IoTにおける皆にとって大変なヘビーリフティング・ワークのポイントが見えてきて、じゃあそれを僕らが肩代わりするようなサービスが作れるんじゃないかと。(次回につづく)
株式会社ソラコム
https://soracom.jp/IoTプラットフォーム SORACOMは、IoTを実現するために必要となるIoTデバイスや通信、アプリケーションなどを、ワンストップで提供しています。2020年3月時点で、世界140の国・地域における15,000のお客様に、あらゆる分野でご利用いただいています。
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