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2020年10月26日

共創が生み出した「スウィングバイIPO」とはなにか - ソラコム 玉川憲氏 Vol.1

SORACOM玉川
ソラコム
玉川 憲
代表取締役社長 兼 共同創業者

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、この回はInternet of Things(IoT)プラットフォームを展開するソラコム創業者で、代表取締役の玉川憲氏をお迎えします。

2015年3月に創業したソラコムの、たった5年のスタートアップ・ストーリーには濃密なものがあります。テック巨人出身者たちによる創業、鮮烈なデビューと垂直立ち上げ、瞬く間の大型買収。発行済み株式の過半数を取得したKDDIは、創業わずか2年の企業に数百億円という評価を付けた一方、その当時のソラコムの契約実績はわずかに8万回線のみ(買収当時は非公開)でした。

そこから3年。

ソラコムはKDDIとの絶妙なコラボレーションを成功させ、契約回線数を一気に200万回線にまで押し上げることに成功しています。大型契約となった日本瓦斯(ニチガス)ではLPガスのスマートメーター化の共同開発に成功し、もうひとつのヒットとなったソースネクストの翻訳機「ポケトーク」は今年2月時点で70万台を記録しました。共にソラコムが提供するIoT SIMの回線管理技術が組み込まれたものです。

2010年代の国内スタートアップシーンを代表する共創事例の裏側には、どのような意思決定があったのでしょうか。玉川さんにまず、先日公表された「スウィングバイ・IPO」の背景からお伺いすることにしました。


買収を成功に導いた「余白」部分

2017年の買収時、評価額は大型ながら過半数の取得に留めることで「余白」を残しました。成長期待の手法としてはアーンアウトなど他の手法もありますが、この余白の設計が後々の成長に寄与した部分は大きかったのではないでしょうか

玉川:アーリーステージのテックスタートアップにおいては、買収されたチームがモチベーションを失うことなくビジョンに邁進することをどう担保できるかっていうのがやはり重要だと思うのです。結果論ですが、この余白の設計がやはり上手でした。

あと信頼関係も大きいですね。髙橋(誠氏・KDDI代表取締役社長)さんはもちろんですが、前田(大輔氏・KDDI技術企画本部副本部長)さんや新居(眞吾氏・ロイヤリティマーケティング代表取締役副社長)さん、松野(茂樹氏・KDDI経営戦略本部副本部長)さんなどの担当いただいたみなさんとの信頼関係があって、チームとしてはやっぱりこう責任を果たしたい、成功させたいっていう思いが凄く、そういったものが集結した感じですかね。

買収後にある程度の成長が見えた。このタイミングでの「スウィングバイ・IPO」宣言はなぜ必要でしたか

玉川:まず「スウィングバイ・IPO」宣言の背景をお話しますね。ソラコムとしてKDDIに買収された時に5年分ぐらいの成長ラインを描いていたんですが、それが見えてきた結果、その後どうなるかっていうとやっぱり利益に走るんですね。しっかり投資してきた結果の成長ですから、それが見えたのであればそこそこ投資は絞って、つまり人もそこまで無理やり突っ込まないで利益を上げていこうってなります。

そこで髙橋さんやみなさんに相談したんです。これはもっと突っ込んだらもっといけるんじゃないですか、と。ソラコムが本当に世界でも使われたらもう一桁違うレンジまでいけるじゃないですか、ソレをやってみませんかっていう話をしたんですね。

視座をここで上げる

玉川:確かに私自身、まだ面白そうだなってやっぱり分かって。(ここからIPOをマイルストーンに置くと)投資に対する考え方とか事業計画の作り方、何人採用するのか・・などなど、その一歩先の未来を考えるようになるじゃないですか。グローバルなプラットフォームで、日本企業を含むグローバルなお客さんにも使っていただきたいですし。

そう考えるとあくまで成長のひとつの手段としてですが、IPOという手段が浮かんでくるんです。

特に海外での展開を考えると、各インダストリーのトップ・プレイヤーと一緒に中長期の取り組みができれば、3〜4年後に全然違う世界観が見えてくる。だったら資本政策も含めて、事業会社とも密にやれる仕組みが作りたいよねという話になったんです。もっとニュートラルでオープンなプラットフォームとして色々な会社に頼ってもらえる。

わざわざストラクチャを変えることの意味がしっかり理解されないと誤解を生むケースもありますよね

玉川:そうですね、髙橋さんやKDDIのチームのみなさんに仰っていただいたのが、これをポジティブにマーケットに捉えて欲しいねと。実際、KDDIに入ったことでソラコムは8万回線から200万回線まで伸びて「じゃあIPOを検討します」だと、あれ?何か悪くなったのかな、と詮索を生む可能性もありますからね。だから、さらに成長していくために、スウィングバイ・IPOというメッセージを考えて、積極的に出そうとなったんです。

実はこの「スウィングバイ(注: 宇宙用語で、惑星探査機が遠くまで行く時に惑星の重力を使って加速する方法)」という言葉、元々は2017年にKDDIに買収された時にチームの中で決めた標語なんです。KDDIに入るけど、KDDIの力をお借りして、もっと飛んで行こうよと。

で今回、何か良い考えある?って髙橋さんに言われて。2017年の標語にIPOをつけると良いんじゃないかと思いました。ただ、スウィングした後、これ戻ってくるんだよねと釘を刺されましたけどね(笑。

少し話を変えて当時、相当に話題となった買収時の企業評価について。結果的に当時の契約数が8万回線で、当然ながら相当な「期待値分」が純資産に乗っかったわけです。ここにはどういう意思決定がありましたか

玉川:ソラコムを発表したのは5年前のイベント(日経BP主催 ITproEXPO 2015)ですが、大きく注目されたものの、実際には売れたSIMの枚数はたったの223枚だったんです。

確か賞レース関連総ナメしてましたよね

玉川:はい(笑。確かに外向きには垂直立ち上げに成功したようにお話していたんですが、実態はそんな感じでした。ただ、時間をかければ絶対うまくいくと、確信がありました。でも、IoTの機器の中にSIMを埋め込んでもらうって凄い時間軸ですからね。時間は掛かるというのもあって一緒にお付き合いいただけるパートナーを探さなければいけませんから、その当時からKDDIさんにもお話させていただいていました。

最終的になぜKDDIと共創すると決めたのですか

玉川:何人かキーマンがいらっしゃるんですが、やっぱり髙橋さんはインパクトがありました。髙橋さんと初めてお会いしたときに一言目が「面白いですね」だったんですね。で、髙橋さん天才ですから、もしかしたらぱっと話をした瞬間に全部理解されたのかもしれないんですが、まあ、普通に考えると難しいですよね。

でも、この一瞬だけでソラコムが本当にやってることを「面白い」と言っていただけた。

それとソラコムの買収はKDDIにとってもユニークなケースだったと思うんです。色々な買収をやられていた中で、アーリーステージかつテックスタートアップを買収するっていうのは多分、ほとんどやっていなかったんじゃないでしょうか。(こういう前例が少ないケースで)買収した会社をどうやって利するかではなく、どうやって成長させるかを考えようという明確な方針を打ち出していただいたんですね。

で、僕らは「その船だったら乗れる」と強く思いました。ただ髙橋さんにはもう一つ、KDDIが後ろから押すと凄い圧力だからそこは自分たちで制御してね、とも言われました(笑。

スタートアップによっては押されて前に倒れて潰れちゃうケースもありますからね

玉川:KDDIにはここに至るまでの(共創)活動で、ベストプラクティスなノウハウが溜まっていたんじゃないかなと思うんですよね。集大成的にやるべきじゃないことはやらないし。結局は自分で考えて自分で走ってねと。助けてと言えばヘルプするし、ヘルプって言わなかったらしないよ、っていう方針だったと思ってます。一方、スタートアップを買収するっていうのは例えば「減損リスク」みたいなのもあるわけで、一緒にこういうハードルを超えていかなきゃいけない。

我々としては信頼関係があって託された思いというか、責任をしっかり果たさなきゃと思ってました。「スウィングバイ・IPO」というのは、この3年でクリアできたという意味での次のステップなんでしょうね。(次回につづく)

ソラコム  https://soracom.jp/IoTプラットフォーム SORACOMは、IoTを実現するために必要となるIoTデバイスや通信、アプリケーションなどを、ワンストップで提供しています。2020年3月時点で、世界140の国・地域における15,000のお客様に、あらゆる分野でご利用いただいています。

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