- インタビュー
2020年11月04日
「smash.」とは何者か:5Gエンタメが生み出すエコシステム - KDDI 繁田光平氏 Vol.3
- SHOWROOM株式会社
前田 裕二 - 代表取締役社長
- KDDI株式会社
繁田 光平 - パーソナル事業本部 サービス統括本部 5G・xRサービス戦略部長
ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」などのエンターテインメント事業を展開するSHOWROOMは22日、KDDIと協力してスマートフォン視聴に特化したプロクオリティのバーティカルシアターアプリ「smash.」の配信を開始しました。オリジナルコンテンツの「Hey! Say! JUMP」が提供する縦型フォーマットのミュージックビデオだけでなく、作品を直接つまんでシェアできる「PICK」機能を使ったインタラクティブな体験にも挑戦するなど、5G時代を代表するプラットフォームを目指しています。
この新たな「縦型コンテンツ」の新しい可能性追求すべくタッグを組んだのがKDDIとSHOWROOMです。両社は今年3月に資本業務提携を締結。KDDI Open Innovation Fund 3号から出資を含めた関係値を作ることで今回の共創事業は加速していきます。
大企業とスタートアップという共創関係はどのように築かれたのか、また、両社はサービスを通じてどのような世界観を作ろうとしているのか、キーマンとなるSHOWROOM創業者で代表取締役の前田裕二さん、そしてKDDI側でプロジェクトの推進を担った繁田光平さんのお二人にサービス公開までの裏側をお聞きします。インタビュー最終回も繁田さんにご回答いただきます(本文中の太字は質問はMUGENLABO Magazine編集部、回答は繁田氏・敬称略)
エンターテインメントの新たなエコシステム
前田さんへのインタビューで、smash.はスマホ時代の「額縁」という表現を使っておられました。コロナ禍で加速しましたが、クリエイターの方々にとっても新しいビジネスモデル、エコシステムの模索が始まっているように感じます
繁田:これに関しては少し別プロジェクトっぽく見えるんですが、渋谷未来デザインさんなどと一緒にやっている「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」の方で、ライブハウスのSUPER DOMMUNE(スーパードミューン)に5Gを設置してリモートカメラによる配信も何度かやっているんです。
これを常設化してしまえばそこのライブの状況をsmash.につなぎ込んでしまうことももう全然できるようになっています。こうなるとコンテンツを配信する側も安価にできるという期待感はありますよね。
フロントサービスではsmash.という縦もあればもちろん、横のSHOWROOMというものもあります。そういった意味で、箱側が毎回カメラのワイヤーを這わせて、片付けてみたいなことをやらなくても配信できる、というのは同時に進めています。また、ARなどのソフトウェア処理についても進んでいますから、安価でありながら、ライブ配信でしかできないような演出も可能ですよね。
ライブ・エンターテインメントの民主化がさらに加速する
繁田:大物アーティストの話題もいいのですが、それだけでなく、やはりこれから有名になっていくアーティストの方々がsmash.を契機に爆発したとか、そういった事例が出てくると本当に嬉しいなと思ってますし、そういう仕掛けを作りたいですね。
あと、やはりどうやれば「Withコロナ」に向けて興行ができるのかという課題がまだ残っています。こういうケースでもリモートカメラでとにかくスタッフを最小限に抑えることができれば課題がまたひとつ減るわけです。
このようなトライアルアンドエラーを繰り返しながら作っていくことで、結果的に興行の場が増え、ライブの場が増えればコンテンツも増え、そしてそれがsmash.などに出てくることになれば見ていただく方も増える。
エコシステムづくりはやっぱり急がなきゃいけないと感じています。まさにここに関係していただける音楽アーティストのみなさんにお金が戻っていく仕組みですね、いち早く作らなければならないと。
エコシステムづくりで、足下ではどういった施策が進んでいますか
繁田:まず当分は配信の「ハコ」を整備していくことですね。今はどうしても自宅からアコースティックギターライブしかできない状況かもしれませんが、配信ができるライブハウスが増えればバンドみんながステージに上がりつつ、ちゃんとしたフルセットで外に発信できる。
これを非常に安価にできる仕組みを用意しながら、視聴側のフロントのサービスとなった時にSHOWROOMやsmash.がある。こういう状況を作りたいと考えています。
5G時代のエンターテイメント像
話を変えて、繁田さんやKDDIサイドとして考えるエンターテインメントの近未来像を教えていただけますか
繁田:まず、前提として完全なる「Afterコロナ」っていうのはもう1、2年は来ないんじゃないかっていうのが大方の見方になってます。そういった中で(集客が)半分であれば収益も半分になるわけで、収益が半分しか出ないのなら経費を下げるしかないのかと。
でもそれってファンが半分に減ってることの事実は変わらないんですよね。今までオフライン会場に入れられたキャパシティのお客さまが「その瞬間に立ち会う」っていうことはやはり大事だという風に思うので。そうなると残り半分ってオンラインでってことになるじゃないですか。でもここでオンラインの人が置き去りになるとよくない。テレワークの会議で半分がオンラインで半分現地の場合、現地の人だけが盛り上がってオンライン側が置き去りになってしまう状況ですね。あれはよくない。
一緒に会議してるようでしてないですよね
繁田:となると5,000人のオフラインとの5,000人のオンラインが両方乗り遅れることなく完全に融合するようなエンターテイメントを作っていくことがアーティストの収入もそうですし、ファンの期待に応えることですよね。これができるようになることが大事だなってすごく思うんです。
オンライン化することで空間の概念が広がります。首都圏で実施していたライブイベントに地方から参加する、逆に地方のライブハウスに都内から参加する、こういったことが可能になります
繁田:あと海外もあります。コンテンツはグローバルに向いていて、例えばPerfumeがライブやって終わった後の映像で見ることは今でもありますが、オンラインでリアルタイムに一緒に入って海外の方も一緒に体験できるようになるだろうと思っています。
実は別プロジェクトで動いているバーチャルハロウィーンは今回マルチリンガルに対応しました。ただこれは最初から想定していたわけではないんですよ。コロナ禍で渋谷から人が消えて、3密を作らない場所と言えばもうバーチャルしかなくなったんですね。で、バーチャル渋谷を作ったわけです。さらにちょうど攻殻機動隊のコンテンツとご一緒していたのでソレを出してみようよ、と。そしたらアクセスの3割、4割が海外からだったんです。
ここではたと気がついたんです。今まで制限をかけていただけで、オープンに広げてちゃんと良いものを作れば海外の方にも喜んで頂けると。そこからですね。オープンにするとかしないとかって言葉はもう基本使うことはなくなって。
ちょっと待ってこれってハングルに対応するんだっけ?など、これまでのauサービスでは考えたことがないことを気にするようになったのは大きな学びです。
このオンラインとオフラインハイブリッドっていうのはもう必然の流れですね。あとこれを誰がどういう風にやっていくかは、色んなトライが重なり合って形が決まっていくような気がするので、誰かが一点突破するというよりみんなで試行錯誤していくことになるんじゃないでしょうか。
オンライン化によるボーダレスなユーザー参加は集客側ですよね。エコシステムにおけるクリエイター側の変化やポイントはどこにあるとお考えですか
繁田:映画というフォーマットにも僕らは出資も含めて取り組んできていますので、大事なものはやはりこのフォーマットなんです。本当にトップクリエイターたちと色々とお話をさせていただいているですが、ショートムービーみたいなものの中でも一つ縦型のフォーマットが出てくるのがいいのかもしれないと思います。
やっぱり映画館で上映されてナンボ、みたいなところもあってNetflixさんがカンヌの時に話していた「映画館でやってないけど賞をとれるのか?」という議論もあるんですよね。けれどこの変化に合わせて作りたい、と思われているのはやはりクリエイターの方々の発想でもあるので、そういった意味でやっぱりトライしたいっていうお話はあります。
smash.はまさに日常に溶け込むプラットフォームです。高校生が電車で帰りながらスマホをなんとなく見てたら気になるコンテンツがあって、なんとなく見てしまうんだけど、実は凄く有名な監督が作った縦型のドラマだったり。そういう流れの中で本物のコンテンツを見ていただく接点を作るんですね。5Gの縦型スマホに合わせた作品をトップクリエイターの方々が出していく。そうすることで「大衆化させる」ことが非常に大事だと考えてます。
最後に。エコシステムには共創、多くのテクノロジー・スタートアップやクリエイター、ライブハウスなどの事業者、こういったステークホルダーの参加が不可欠です。共創のエコシステムの中にあってKDDIの役割とは
繁田:私もauスマートパスをはじめ、通信キャリアが自分たちでサービスを作るというよりは、基本的なプラットフォーム型でコンテンツプロバイダーのみなさんに参画いただいたり、ということをずっとやってきました。この思考でコンテンツを考えるとどうしても仕組みで考えてしまいがちです。
5Gと低遅延のところだったり、OSがこうだからこうという風にロジカルに仕組みを考えてしまうんですが、やっぱりスタートアップの方々と話していくと「時代を変えたい」とか「絶対にこれがすごい」っていう、僕は「偏愛」っていう言葉をたまに使うんですけど、このちょっと偏った愛とも取れるぐらいの熱量にぶつかるんですよね。
そこに僕らが「負けないぞ!」という姿勢で向き合うのは無理だなと思ってですね。
これからの時代はそういった熱量を持った人たちが変えていくので、その人たちを応援していく方がいいと思うんです。ただ、その中で不足しているものがあったらどんどんアセットを出していって、僕らはその人たちの夢を実現し、もうひと回りもふた回りも大きくなる役割を果たしていければと。特に5Gはパートナーの方々と広げていくものだと思っています。
そして(こういうエコシステムを作ることで)結果的に5Gの世界が広がると思っています。
ありがとうございました
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