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2025年06月04日

クリエイターから企業まで成長「人と人が仲良くなる」コミュニティOSIRO——TOPPANとの共創が成長の鍵に

オシロ株式会社
杉山 博一
代表取締役社長

コミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」。「お金とエール」の継続的な提供を可能にする同社のプラットフォームは、代表取締役社長の杉山博一氏のアーティスト経験から生まれました。人と人のつながりが生み出す価値と、大企業とのアライアンスがもたらす未来について杉山氏に語っていただきました。(以下、社名は「オシロ」、プロダクト名は「OSIRO」と表記)


TOPPANとの共通理念で進む事業連携

「OSIRO」サービスイメージ

2022年8月、オシロとTOPPANは資本業務提携を締結しました。この印刷業界大手との連携は、コミュニティプラットフォーム「OSIRO」の事業成長において重要な転機となりました。

TOPPANが注目したのは、デジタル化が進む中でのコミュニティ事業の可能性でした。紙媒体の印刷にとどまらない事業領域の成長において、コミュニティづくりに大きな可能性を見出していたのです。

TOPPANも様々な事業を展開していますが、紙への印刷だけでなく、さまざまな取り組みの中で、コミュニティが一つの事業になるのではないかという可能性を感じてくださっていました。

杉山氏

実はTOPPANも、オシロに出資する前からコミュニティビジネスへの参入を試みていました。

彼らも出資する前にコミュニティのコンシェルジュ的なサービスを始めたものの、もう1段・2段のステップアップを必要としていたそうです。

杉山氏

一方でオシロは、着実にコミュニティプラットフォームの開発と提供を進め、事業が軌道に乗り始めていました。TOPPANにとって、自社で実現できなかったものを、オシロとの連携によって実現できる可能性が見えてきたのです。

杉山氏が強調するのは、単なるビジネス上の提携ではなく、価値観の共有があったという点です。オシロが提唱する「ファンコミュニティ」という概念にTOPPANが共感したことが、提携の大きな理由でした。

OSIRO が提唱しているのは単なるファンコミュニティではなく、社会的意義のあるコミュニティ『パーパス・コミュニティ』を作っていくことです。そういう価値観に共感していただき、既存クライアントへのファンコミュニティ提案だけでなく、CSRの先にある、パーパス・コミュニティが作れるという可能性を信じて出資に至ったのです。

杉山氏

TOPPANとの資本業務提携は、他の大企業との連携を促進する効果も生み出しました。スタートアップにとって、大手企業との提携実績は信頼性向上につながります。TOPPANとの連携が、他の企業からの関心を集めるきっかけになったのです。

TOPPANとの提携を皮切りに、現在も複数の大企業との連携が進行中です。

今は一部上場クラスの大企業や業務提携の話もいくつか進んでいます。そういう意味では、これからが本番という感じです。

杉山氏

直近の成果として、2万人以上の従業員を抱える大企業が OSIRO を社内導入した事例があります。

その際も、TOPPANが出資していることが一つの安心材料になりました。

杉山氏

大企業からの出資という形でのお墨付きが、新たなビジネスチャンスを創出した形です。

コミュニティ専用オウンドプラットフォームという新領域で、オシロはTOPPANとの資本業務提携を通じて、大企業との協業モデルを確立しつつあります。「人と人が仲良くなる」というシンプルかつ普遍的な価値が、大企業の課題解決にも通じることを証明した形と言えるでしょう。

「お金とエール」を支える設計思想

オシロのコミュニティプラットフォーム「OSIRO」は、代表取締役社長の杉山博一氏自身のアーティスト経験から生まれました。クリエイターが活動を続けるために必要な「お金とエール」の発見と、それを実現するプラットフォームの設計思想は、独自の開発経緯を物語っています。

杉山氏の OSIRO 開発の原点は、自身のアーティスト経験にあります。30歳まで活動したアーティスト時代に、創作活動の継続に必要なものを身をもって理解したといいます。

30歳で活動を辞めた時の経験から、お金があっても活動は続けられないことがわかりました。では何があれば活動を続けられたのかというと、お金だけでなく、エールが必要だったのです。お金とエールを応援し続ける人たちが継続して支えてくれないと、そもそも創作活動は続けられません。

杉山氏

この気づきから、応援者同士のつながりの重要性に着目しました。単なるファンコミュニティではなく、応援者同士が仲良くなり継続的な支援を可能にする仕組みの必要性を感じたのです。

応援者同士が仲良くなって応援団になれば、個々の応援者が離れても全体としては継続します。応援者同士が仲良くなるコミュニティが作れれば、応援団としてお金とエールが継続するから、創作活動が続けられるのではないかと考えたのです。

杉山氏

ニュージーランドと日本を行き来する生活の中で「日本を芸術文化大国にする」という使命を感じた杉山氏は、クリエイターに必要なプラットフォームとして「OSIRO」の開発に取り組むことになります。

クリエイターに必要だという思いでプラットフォームを作り始めたら、多くの資金と人材が必要なことに気づきました。非常に大変でしたが、クリエイターに必要だという理念を様々な成功者に話すと、賛同してもらえて多くの方が応援してくださいました。

杉山氏

感情共有を可能にする独自機能

「もじ絵」イメージ

OSIRO プラットフォームの最大の特徴は、「人と人が仲良くなる」ための機能設計にあります。杉山氏が特に力を入れたのは、コミュニティメンバー同士が感情を共有できる仕組みです。

人と人が仲良くなるには当たり前のことが大切です。挨拶をする、感謝を伝えるといったことですが、もう一つ重要なのが感情の共有です。

杉山氏

一般的な SNS やメディアが情報共有に特化しているのに対し、OSIRO は感情共有に焦点を当てた機能を実装しています。これが熱量の高いコミュニティを醸成する鍵だといいます。

メディアは基本的に情報を受け取るものなので、情報を得る側にとっては大事な媒体です。しかしアーティストを応援する場合、応援する人同士が仲良くなるには情報だけでなく感情の共有が重要になります。単なる情報共有ではなく、感情共有ができることが応援コミュニティでは不可欠なのです。

杉山氏

この感情共有を実現するため、OSIRO には「FUKIDASHI!(フキダシ)」という独自の機能が実装されています。杉山氏によれば、日本は漫画大国であり、多くの人が漫画に親しんでいるため、そのUIや視覚的要素は馴染みがあるといいます。

漫画ではテキストだけでなく、吹き出しの形状や大きさ、配置などによって感情表現が可能になります。この慣れ親しんだ表現方法を活用することで感情伝達を容易にするため、吹き出しチャットの機能を実装したと杉山氏は説明します。

また、感情表現をさらに豊かにするため、「もじ絵」という独自の機能も開発しました。これにより、一般的な絵文字やスタンプとは異なる感情表現が可能になっています。

LINEはスタンプがあることで感情を伝えやすいすばらしいコミュニケーションツールだと思っています。OSIROもより感情共有を強みにしたいとおもい、すでにテキストと吹き出しを一緒に送ることができることが特徴です。

杉山氏

このように、人と人のつながりという普遍的な課題に対して、テクノロジーを活用した解決策を提供しているのが OSIRO の強みです。創作活動を通じて見出された「お金とエール」の理念は、現在では企業コミュニケーションなど幅広い領域で応用されています。

企業コミュニケーションへの発展

オシロが追求してきたコミュニケーションの価値は、もともとはアーティストやクリエイターの活動支援を目的としていましたが、現在ではブランド企業や一般企業の社内コミュニケーションの活性化にも活用されるようになっています。この領域拡張は、オシロの未来ビジョンにおいて重要な位置を占めています。

もともとクリエイター向けに作ったので、エンドユーザー課金の仕組みがあります。お金もエールも受け取れるよう設計し、課金ありのコミュニティが今でも90%以上を占めています。この人と人がつながる仕組みはありそうでなかったため、ブランド企業も関心を持ち、コアファン同士が交流できるコミュニティとして導入が増えてきました。

杉山氏

しかし最近では、企業の社内コミュニケーションツールとしての導入ニーズが急速に増加しているといいます。

最近は企業向けの需要がさらに増えています。現代はコミュニケーションが多様化し、昔のようにメールだけ、対面だけで済む時代ではありません。世代間ギャップもあり、オンラインとオフラインを横断する多様なコミュニケーションが求められています。

杉山氏

多様化する働き方や価値観の変容など、企業における社内コミュニケーションの課題は年々複雑化しています。そうした課題解決に OSIRO の仕組みが貢献しているのです。

興味深いことに、企業の M&A(合併・買収)の場面でも OSIRO が活用されています。組織統合や企業カルチャーの浸透という課題に対して、人と人のつながりを促進する仕組みが効果を発揮しているのです。

M&A での活用ニーズも増えており、A社と B社が合併して AB社になる際に OSIRO を導入するケースもあります。両社が対立するというより、統合後の一体感をどう作るかが課題です。企業カルチャーの浸透やワンチーム化を実現するため、従業員同士のつながりを促進するツールとして活用されています。

杉山氏

組織力向上がもたらす社会的効果

人と人のつながりを促進するという一見シンプルな取り組みが、企業経営にもたらす効果は小さくないと杉山氏は強調します。

従業員が仲良くなった組織は株価も高くなるという海外データもあります。また従業員の幸福度が高いと創造性が3倍になり、売上が37%アップし、離職率が低下し、事故率も減少するなど、様々な効果が報告されています。

杉山氏

組織内のコミュニケーションについて、杉山氏は「A面」と「B面」という興味深い概念を提示します。業務(A面)だけでなく、趣味や興味関心(B面)でのつながりが、結果的に業務効率や創造性の向上につながるという考え方です。

従業員の幸福度を高めるには、趣味や興味関心といった B面でのつながりを通じて、業務である A面のコミュニケーションを円滑にすることが重要です。企業の皆さんに OSIRO を活用いただくことで、日本の企業が活性化し、国全体がさらに発展していくことを目指しています。

杉山氏

アーティストやクリエイターの支援を目的に開発された OSIRO が、企業の社内コミュニケーション領域にまで広がったことについて、杉山氏は予想外ではなかったと述べます。

クリエイター向けに作った仕組みが、企業が必要とするソリューションになったのは意外ではありませんでした。私たちは価値あるものを作ってきたという自信があります。今後も積極的に企業内コミュニティでの活用を推進していきたいと考えています。

杉山氏

杉山氏が創業時に抱いた「日本を芸術文化大国にする」という志は、現在では日本企業全体の活性化へと発展しています。クリエイターを支援する仕組みが、企業の働き方やコミュニケーションを変革していく。そんな未来をオシロは描いています。

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