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2022年06月24日

【Web3起業家シリーズ】Opn長谷川氏、Web3&決済&顧客体験で世界のインフラを目指す(後編)

Opn 共同創業者兼 CEO
長谷川潤氏
1999年高校卒業後、単身アメリカへ渡りエンジニア、デザイナーとして開発を経験。帰国後、広告代理店で大手通信会社のシステム開発案件や広告デザインなどを担当した。 2009年にライフログサービス「LIFEmee」を立ち上げ、サンフランシスコで開催された TechCrunch50 に出場。その後スタートアップ、サービスを複数ローンチしている。 2013年共同創業者の Ezra Don Harinsut氏と共に Omise をタイで創業。オンライン事業者が簡単に導入できる決済システム「Omise Payment」で、日本やアジアで多数の顧客を獲得した。のちに Ethereum Foundation の立ち上げに参加、ブロックチェーン技術を活用した分散型決済プラットフォーム「OMG Network」をローンチ(2020年に売却)。 Omise の各種サービスの運営元であるSYNQAは、サービスの多角化などと相まって、今年ブランド名を新たに Opn に変更した。顧客にはタイの免税店大手 King Power などがいて、主に日本や東南アジアでは、マクドナルドやトヨタ自動車など7,000以上の加盟店にサービスを提供している。

MUGENLABO Magazine では、ブロックチェーン技術をもとにした NFT や 仮想通貨をはじめとする、いわゆる Web3 ビジネスの起業家にシリーズで話を伺います。Web3 についてはまだバズワードな要素も含んでいるため、人によってはその定義や理解も微妙に異なりますが、敢えていろいろな方々の話を伺うことで、その輪郭を明らかにしていこうと考えました。


5回目は、今年5月に、日本で5番目のユニコーンとなったことが報じられたフィンテックスタートアップ Opn(オープン)を率いる長谷川潤氏です。長谷川氏は日本や東南アジアだけでなく、世界にサービスを提供する決済カンパニーとして、日夜サービスの開発に取り組んでおられます。


仮想通貨や NFT など、ブロックチェーンが実現する新進気鋭のアプリケーションに我々の目は向きがちですが、長谷川氏の Web3 に対する姿勢は実にシンプルなものでした。インターネットが我々の生活をこの数十年間で便利にしたように、世の中のサービス提供形態が変化する中で、決済もより便利にしようとするアプローチです。長谷川氏に現状と展望を聞いてみました。


(前編からの続き)


Web3 文脈での質問なんですが、分散型(非中央集権型)で自分の情報拡散が自由にできるようになるのが Web3 だと理解しながらも、大企業は中央集権型の象徴みたいなところもあります。Opn は大企業とのパートナーシップは、どのように捉えられていますか?

長谷川:なんでもかんでも decentralize すればいいとは思っていなくて、democratization(民主化)は重要だとは思うんですが、顧客にその能力が無いのに、彼らに無理やり管理させるのは逆に無責任だと思うんですよ。それって、スーパーコンピューターを非日常で使うような。日常業務ではスパコンは全く必要ないじゃないですか。英語でよく「ライトツールを、ライトプレイスで、ライトタイミングで使う」って表現がありますが、そうじゃないと全くツールの意味がないんですよね。

なので、例えば事業会社とかが Web3 を使うのであれば、個人情報の管理とかを decentralize するとすごくいいと思っていて、Web3 は暗号技術なので、個人が自分の情報に対するアクセスを自分でするとか。もしくはそれに事業会社がアクセスしたい場合に承認を行うとかはありだと思うんですよね。

例えば、KDDI さんが KDDI さんの顧客の情報を利用したい時、それを承認するというのはブロックチェーンで管理できると思うんです。ただ、その情報自体を顧客の端末で全部管理させて、自分で責任持ってください、あなたが失くしたら、もうそれで終わりですっていうのは、サービス提供会社としてどうなんだろうか、と。

とりあえず認証技術として使うとか、部分部分でいいと思うんですよ。この使い方を間違えると、なんか decentralization の意味が全くなくなってしまう。あとはコストエコノミクスとして事業会社としてメイクセンスだったら、使えばいいと思うんですよ

例えばトランザクションフィー が安くなるとか、オペレーションが軽くなるとか、ユーザ同士でやってもらえるので、オペレーションが必要なくなるとか。ブロックチェーンを使っていると責任の所在がはっきりするので、会社として不要なリスクを負わなくてよくなるとか。そういう活用方法はあるんですよ。なんでもかんでもdecentralize すればいいというのは勘違い。

Web3 のプレーヤーは、現在のところスタートアップが主流です。このトレンドは大企業もキャッチアップしていくべきだと思いますが、大企業は Web3 をどのような事業に生かせるとお考えですか?

長谷川:Web3 の魅力は、ユーザー自体がそのエコシステムが一部になることです。今はまだユーザーは、ただの利用者じゃないですか。例えば、携帯電話網の一利用者なんですよね。でも、Web3 に入ると、例えば先ほどの個人情報の認証で言えば、「情報を渡します」という認証作業を行っているということは、今はまだネットワークとして利用してるだけだと思いますけど、顧客が認証作業を行ってくれた分をフィーとして払えばいいと思うんです。

ただ承認したってことは利用していいということなので、確約が取れているわけですよね。確約取った上で、それを利用して新たな価値を生むのはネットワークエフェクトなので、別に全く問題ない。広告とかも同じだと思うんですよ。

今までは事業者側が一方的に配信していて、消費者は見てない。でも承認して、自分の e-mail アドレスに「これ送っていいです。ただ、広告の収入の一部がフィーとして入ります。」だったら、見るモチベーションも産まれるじゃないですか?

だから、広告費も一方的にひたすら渡すというよりも、レベニューシェアとしてみんなに行き届く。そうすると、ビジネスモデルとして新たな価値を生むんですよ。ユーザーも口座を見て「よく分かんないけど、広告収入が入金されてるぞ」と驚くことになる。尚且つ広告も、必要なものが流れてくるようになる。入金された広告収入を利用して、商品を購入することもできる。新たな経済圏を作るとという意味合いで、いろいろな事業の成長性を見込める。

Web3 の技術はそういう部分では役立つと思うんですけど、ただ一部になることによってリスクが生まれるものもあるので、そこは適切に判断する必要があります。ユーザの顧客成功体験に影響を及ぼすもので、尚且つ事業会社としてもそうすることで間にいる人がいなくなって、世に大きな提供価値を生み出すことができる。

広告ってすごくいい例じゃないですかね。直接提供できて、尚且つユーザーにとってもベネフィットがある。間がいなくなると、その分だけフィーを払っても平気で、CAC はすごく下がるので、広告執行者である事業会社にとってメリットがある。そういうのは、益が生まれやすいと思います。

記事を読むのにも、読むことでインセンティブが生まれるのであれば、その収入はシェアできますよね。ブロックチェーンによって、それぞれのアクションについての責任の所在がはっきりするので、「バッドアクター」という悪い行いをする人をネットワークから遮断することができるようになります。

悪いことをすると自分が益を失うので、みんな悪いことをしなくなる。それが、閲覧履歴を遡るなどしてコントロールするんじゃなくて、プロトコルで管理されている。そういう意味では、すごく面白い技術だと思うんです。

携帯電話の番号もすごく使えるものだと思っていて、 Web3 の根幹をよくするものだと思うんです。 Eメールアドレスはいくらでも変えられるじゃないですか。でも、携帯電話番号を変えまくる人ってあまりいない。基本的には1人に対して1つなんですよ。そうするとアドレスとしてユニークなので、ブロックチェーンのアドレスを使えって言われると難しいんですが、携帯電話番号をエイリアスとして利用すると、いろいろなことに使えると思います。

例えば、携帯電話番号にデジタル通貨をつけてあげることができるとか、銀行口座みたいに使える。東南アジアでは、携帯電話番号にロイヤリティポイントが全部紐づいているんです。だからスーパーマーケットへ行くと、入口で携帯電話番号を聞かれます。そうすると何ポイント入っているかがわかる。それを決済にも利用できる。だから、KDDI さんは Web3 でものすごい可能性があるんではないかと思います。

東京にあるOpnの本社玄関

Opn は、企業のアセットのデジタル化とフィンテック化を支援します、とおっしゃっています。現在の Opn は、決済のゲートウェイと Opn Mint という NFT の発行を効率的に素早くできる仕組みを手がけておられますが、他にはどのようなことを手がけられるのでしょうか。

長谷川:先ほど Opn Mint をNFT の発行のための仕組みという話をしましたが、一部で NFT をアートだと勘違いしている人たちがいるんですが、NFTは Non Fungible Token なので、分割できないアセットであれば何でもいいんです。権利証書はアセットのいろんなものに紐づいているので、一定以上分割されると困るものには分割できる量を設定しておくこともできる。

例えば不動産とか、ダイヤモンドとか、車とか、特定の 1 個しか無いものに対して、Opn Mint はフレキシブルにアセット化することができます。そういう意味で、アセットのデジタル化と我々は言っています。

また、Opn Mint のもう 1 つの特徴が Blockchain agnostic (マルチチェーン対応)と呼ばれますが、Etherium にしか対応できないとかではなく、いろいろなブロックチェーンを繋いでいて、どのブロックチェーンにも対応できます。EVM(Ethereum Virtual Machine)に対応するものであれば、どこに対しても同じ規格で発行できるので、いろんな人に利用してもらえる。

一方、フィンテック化というのは、確かにフワッとした表現になっていますが、例えば、トヨタ自動車と協業していますが、「トヨタ自動車はモビリティカンパニーになる」と言っている。つまり、単にクルマを売る会社から、モビリティカンパニーというサービス会社に転換していくときに、お客様がサービスを利用するときには常に決済や金融が関係してきます。

今まではリースとかだけやってればよかったんですが、彼ら自体がフィンテック化していく必要がある。我々はEmbedded Finance(埋め込み金融)という意味で、全てをフィンテック化していく。つまり、決済に必要なプラットフォーム機能を我々は as a service として提供し、大企業がそうした機能をエコシステムとして取り込むことができるようになります。Third Horizon と呼ばれている新しい Web3 技術にも取り組んでいます。大企業がうちの技術を自分のものとして取り込むことができる、それをフィンテック化と呼んでいます。

大企業の中にはすでに自社でウォレットを開発して、「×× Pay」などの名前で決済の仕組みを作る会社も出てきています。それは法定通貨をベースにした、各社の組み込み金融による決済手段ですよね。それが今後、仮想通貨を採用したものになっていく必要はあるんでしょうか。

長谷川:それでいうと3つあるんですが、まず、ウォレットはいろんなところで問題が起きています。止まってしまったり、二重決済が起きたり。ブロックチェーン、つまり、Web3 の技術を活用すると、そういうことは起こりえません。アンストッパブルでトラストレスだから。特に後者は、プログラムされているものなので、プロトコルレベルで信用が担保されているんです。

もう一つは、いろんなエコシステムがある中で、インターオペラビリティの問題ですね。法定通貨は皆が 1万円を 1万円として認識して使えているのと対照的に、ある会社がエコシステムを作ったとしても、そのエコシステムは範囲の限られたものになる。でも decentralized のトークンはある意味、すべて共通の価値があるんですよ。なので、インターオペラビリティを高めることで、皆が同じ規格でどこでも使えるというようにすると、法定通貨と同じような使い勝手を持たせることができるようになります。

3つ目は、incentive alignment 。仮想通貨の方が、そのエコシステムに参加している全員への incentive alignment が取りやすいというメリットがあります。誰がいつ、どこで、どういうふうに支払っても、ネットワークから益を受け取ることができるというメカニズム。

例えば Ethereum を利用して支払った場合には、その人が自分でノードを動かしていくと、自分のトランザクションフィーからカットをもらえるわけです。今、Web3 では Proof of Work から Proof of Staking の考え方が主流になりつつあります。従来と違って、Proof of Staking ではソフトウェアをダウンロードして自分のコンピュータで回しておけば簡単にネットワークに参加できるようになっています。

こうした3つの理由を考えると、必然的に Web3 技術を採用したものになっていくのではないでしょうか。

ありがとうございました。

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