- インタビュー
2022年06月23日
【Web3起業家シリーズ】Opn長谷川氏、Web3&決済&顧客体験で世界のインフラを目指す(前編)
- Opn 共同創業者兼 CEO
長谷川 潤 - 1999年高校卒業後、単身アメリカへ渡りエンジニア、デザイナーとして開発を経験。帰国後、広告代理店で大手通信会社のシステム開発案件や広告デザインなどを担当した。 2009年にライフログサービス「LIFEmee」を立ち上げ、サンフランシスコで開催された TechCrunch50 に出場。その後スタートアップ、サービスを複数ローンチしている。 2013年共同創業者の Ezra Don Harinsut氏と共に Omise をタイで創業。オンライン事業者が簡単に導入できる決済システム「Omise Payment」で、日本やアジアで多数の顧客を獲得した。のちに Ethereum Foundation の立ち上げに参加、ブロックチェーン技術を活用した分散型決済プラットフォーム「OMG Network」をローンチ(2020年に売却)。 Omise の各種サービスの運営元であるSYNQAは、サービスの多角化などと相まって、今年ブランド名を新たに Opn に変更した。顧客にはタイの免税店大手 King Power などがいて、主に日本や東南アジアでは、マクドナルドやトヨタ自動車など7,000以上の加盟店にサービスを提供している。
MUGENLABO Magazine では、ブロックチェーン技術をもとにした NFT や 仮想通貨をはじめとする、いわゆる Web3 ビジネスの起業家にシリーズで話を伺います。Web3 についてはまだバズワードな要素も含んでいるため、人によってはその定義や理解も微妙に異なりますが、敢えていろいろな方々の話を伺うことで、その輪郭を明らかにしていこうと考えました。
5回目は、今年5月に、日本で5番目のユニコーンとなったことが報じられたフィンテックスタートアップ Opn(オープン)を率いる長谷川潤氏です。長谷川氏は日本や東南アジアだけでなく、世界にサービスを提供する決済カンパニーとして、日夜サービスの開発に取り組んでおられます。
仮想通貨や NFT など、ブロックチェーンが実現する新進気鋭のアプリケーションに我々の目は向きがちですが、長谷川氏の Web3 に対する姿勢は実にシンプルなものでした。インターネットが我々の生活をこの数十年間で便利にしたように、世の中のサービス提供形態が変化する中で、決済もより便利にしようとするアプローチです。長谷川氏に現状と展望を聞いてみました。
Opn としては、メインのビジネスは決済ですが、もう一つ Opn Mint というのをやっていらして、そちらは Web3 ビジネスの一つですよね?
長谷川:元々、ブロックチェーン業界は2014 年くらいから関わっていて、Ethereum Foundation のボードアドバイザリーをさせてもらったりしていました。今でこそ、別々の Web3 のプロジェクトになっていますが、元々はごく少数のコアなメンバーから始まり、そこから派生して、Cosmos というインターオペラビリティのプロジェクト、Tether とか、MakerDAO とか、Ethereum 自体も広がって大きくなりました。
元々は Web 3 の周りに必要なものを整えるために皆集まってプロジェクトを始めたんです。エコシステムに形が足りないんだろう、そういうのを作り始めた段階だったので。その中で、うち自体もともとはもうレイヤー 2 って言われている、Ethereum を高速化させて、安いフィーでみんなが使えるものにしようっていう、カスタマーファーストのアプローチだったんです。
でも今だいぶ、その技術がいろいろ出てきたので、まあ、それはオープンソースとしてみんな利用すればいい。ただ今足りないのは、キーマネジメント。これは、Web3 にアクセスするための全てのものに関わるんですよ。でも Metamask とか、代表的なツールを利用して Web3 にアクセスする上で皆に壁が無いのかって言うと、Metamask に最初にアクセスするためには、サインするためのフィーを入れなきゃいけないんですけど、そのフィーを入れるまでに9つ以上ステップがかかるんです。
それをやってると、いつまで経っても利用できない。Web 2.0 の時の方が Web3 よりもインパクトが全然大きいんですよね。Web3 の便利さって、decentralization (分散化)だって皆簡単に言うんですけど、普段利用するのに decentralized か centralized(中央集権化)かなんて、別に気にしていないんです。
では、何が本当の意味でユーザへ提供価値なのかがすごく重要です。NFT がすごく良かったのは、あの本当の意味でユーザーが初めて Web3 を体験するのに非常に便利だったということ。基本的にはエンターテインメントからいろんなものが伸びていくので、楽しいとか、時間の価値提供するものですよね。
日本にとってはNFT がすごく良かったなぁ、と思っていて、なぜならエンタメから企業が成長しやすい市場が日本だと。もともと、マンガとかアニメとかゲームとか、本当にエンタメ要素をが大きい国なんですよね。日本はその市場を作りやすい。NFT ってすごくいいな、というのはみんな認識している。
ただ、その価値自体がものすごい価値があるのかというと、結局は需要と供給でしかなくて、一番最初に価値が下がるのだって金融じゃなくてエンタメ領域なんですよ。なぜかというと、一番最初に人が生活からカットしやすいものだから。
だから市場の影響を受けやすいんですよね。で、こういう市場環境だとすごく金額が下がりやすい。そうすると人は興味が薄れていくんですよね。なので、うちはまずユーザが NFT を簡単に作ることができるものにしたい。
NFT の発行には9つどころのステップではなく、とんでもないステップがあって NFT の発行に至るので、僕らは今シンプルなインターフェイスを作っています。で、そのシンプルなインターフェイスが Opn Mint で、誰でも NFT を作ることができます。
イメージしやすく言えば、例えば今日、絵を描いた、写真を撮ったという時に、Opn Mint のインターフェイスでサインインしてもらった後「Create NFT」と押すとカテゴリが出てきます。写真、音楽、絵、ドキュメントとかもあるんですよ。また事業者向けに contract(契約書) とかもあるので。
ファイルをアップロードすると、「どのブロックチェーンを使いたいですか?」って尋ねてくる。使いたいチェーンを選んで mint って押すと、スマートコントラクトと共に NFT がデプロイされます。そんな簡単なインターフェースなので、ブロックチェーンの知識は全く必要なく、NFT を発行したいというニーズを3 ステップでかなえる仕組みのプラットフォームです。
ただ全て API にもなってるので、事業者が自分でうちの Opn Mint を使って、NFT のプラットフォームを作ることができる。それを利用してできたのが、うちがテスト的に構築した、現在いろんなアーティストが使っている「1b1NFTギャラリー」です。1b1NFT ギャラリーでは、また 2人ぐらい新しいアーティストや有名な方々のプロジェクトをローンチするんですが、あれは僕らにとってローンチパッドであって、事業の核ではありません。
「1b1NFT ギャラリー」
うちの事業はあくまで誰もが使えるプラットフォームを作ることで、そうすることで、会社のビジョンである「Access to the Digital Economy for Everyone(すべての人々にデジタルエコノミーへのアクセスを)」を達成したい。Opn Mint は NFT に特化したものなんですが、ただもう少し中期長期で見てるのは、根幹をなす、切っても切れない決済という領域に関して実現したいことがあります。
お金を受け取る、送ることができる、使うことができる。そして、お金自体を最終的に増やすこともできる。増やしたお金をさらに使うことができる、送ることができる、受け取ることができる。この一連の金融に必要な機能を Web3 の技術を通して実現したいなと思っています。
ただ、これを使う上で、人々がブロックチェーンについて知る必要は全くないと思っていて、新たな金融のツールとして利用してもらえる。例えば僕がタイにいて、日本にお金を送りたいときとかに、ゼロトランザクションフィー(送金手数料不要)とかだと最高ですね。
で、それを瞬時に送れて、受け取った側はそのお金を自分がすぐに必要なもの、コンビニだったり、病院だったり、保険だったり、いろんなものに使えます。なので、今の現実世界とWEB 3 の世界っていうのを繋げる必要があって、それをシームレスかつボーダーレスに動かすアプローチを実現するための技術だと思っています。
Opn Mint はホワイトラベルということなので、サードパーティ経由で使うユーザは、表向きは Opn がやっているサービスかどうかわからない人もいるわけですが、ホワイトラベルにされた理由は何なのでしょうか?
長谷川:僕らが注意をしてるのが、自分たちが表に出ることではなくて、インフラでありたいという強い思いです。表に出るのはすごい簡単ですけど、表に出ることが顧客への提供価値が上がることではなくて、とにかく多くの人々にインパクトを与えるものを作りたいと考えています。
なのでどちらかというと既に顧客基盤を持ってる人達に対して提供した方がいい。例えば KDDI さんのように何千万人の会員を獲得しようとすると、ものすごい顧客獲得コスト(CAC)がかかるんですよね。
でも KDDI さんとタッグを組んで、うちのプラットフォームを利用してもらうと、即時に数百万、数千万の人に行き当たるわけですよね。世の中に対するインパクト、顧客成功体験の広がりという意味で、よりインパクトのあるものを作り、ただ自分たちの名前を出したいっていうエゴが強くなると、そのインパクトは弱くなってしまう。
僕らはあくまで、人々の生活が良くなって、影響力が強くなって、インフラさえ作れるのであれば、他のことにはあまりこだわりはない。ただ、やっぱりディストリビューションチャンネルを持ってるのが一番強いですね。
Apple は D2C っていう自分たちのアプローチで、OS というディストリビューションチャンネルを持ったわけですよ。Amazon も流通というディストリビューションチャンネルを持っている。
いかにもいいものを作っても、僕らが例えば iPhone よりいい電話を作ったとしても、Apple には決して勝てない。多少劣化版であろうが、ディストリビューションチャンネルを持ってる人が一番強いんですよ。そう考えた時に、僕らはインフラをやった方が自分たちの一番の強みを生かせる。
技術力、そして自分達のドメインナレッジである決済、Web3、ユーザに提供する顧客成功体験に注力して、ディストリビューションはパートナーと展開する。このアプローチが一番、ユニットエコノミクスとして僕らに合っていると思っているんです。
KDDI は、出資先だったソラコムを創業から数年で M&A しました。最初から世界市場を目指しているということだったので、だったら、KDDI の世界中にある拠点を生かした方が早く世界にいけるんじゃないかということで、うまく使い倒してくれた。そんなモデルを他にも作っていきたいと思っているところです。
長谷川:結局どんな技術でも、それを使う人たちが増える環境にそれを入れ込まないと全く意味がなくて、僕らはトヨタさん(トヨタファイナンシャルサービス)と資本業務提携を結んでいるんですが、これまでのファンディングラウンドを見てもらえば分かるんですが、ほぼコーポレートなんですよ。
なぜかというと根底のフィロソフィーにあるのは、ディストリビューションチャンネルを持っている人達とビジネスをやりたいということで、お金を集めることが目的というよりも、目的を達成するためのパートナーシップであり、そのディストリビューションチャンネルに対する価値提供を続けるためのリソースとしてお金がある、という考え方なので。
トヨタさんであったり、そういった強力なディストリビューションチャンネルを持ってるパートナーと組むと、非常にうちは効率よく事業成長させることができる。それをずっと続けていきたいので、常にそういうパートナーさんと一緒に今やっていきたいと思っています。
(後編へ続く)
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