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2023年08月10日

フードデリバリのmenu、CEO2人に聞いたKDDIとのジョイントベンチャー化で目指すもの

menu株式会社
二ノ宮 悠大朗
代表取締役副社長 兼 CEO
レアゾン・ホールディングス 執行役員

東京大学工学部卒、同大学大学院中退。在学中に、C to Cのマッチングサービスを立ち上げ、学生起業。大学院中退後、外資系消費財メーカーのP&Gに入社しシンガポールに赴任。6年間、ブランディングや自社メディア運営などに携わる。2019年にレアゾン・ホールディングスに入社し現職。グループ全体のマーケティング部を統括している。
menu株式会社
大野 高宏
代表取締役社長 兼 CEO

上智大学経済学部卒。1995年、KDD(現KDDI)入社。1998年~1999年、KDDI米国子会社(NYオフィス)勤務。2011年よりベンチャー投資ファンド(KDDI Open Innovation Fund)の設立・運営に関わる。これまで、グノシー、ナビタイム、ウェザーニュースとの共同事業や、KCJ Group(キッザニア)のグループ会社化などを推進。直近は、KDDIサービス統括本部副統括本部長として、1500万人の会員基盤を持つauスマートパスサービスの運営や新規事業開発、2022年6月よりmenuの代表取締役副社長を担当。

スマホゲームや広告事業などを手がけるレアゾン・ホールディングスのグループ企業として、menuは2019年にフードテイクアウト、そして、2020年4月にフードデリバリーの事業を開始しました。モバイル各社がフードデリバリーを、モバイルユーザーに対するコアサービスの一つと位置付ける中、menuは2021年6月にKDDIからの出資を受け入れ、menuはKDDIの持分法適用会社になりました


今年4月には、KDDIはmenuへの出資比率を過半数にまで引き上げ、menuはKDDIとレアゾン・ホールディングスのジョイントベンチャーになりました。KDDI、レアゾン・ホールディングス、menuの3社は、auとUQ mobileなどの会員基盤を基軸としたデータマーケティングによる顧客基盤の拡大、KDDIのアセットを活用した配達員(クルー)へのサービス提供などを目指すとしています。


KDDIの既存サービスやユーザーと親和性が高いサービスを続けていく上では、持分法適用会社としても十分な資本関係だと思いますが、KDDIが出資比率の過半数を持つジョイントベンチャーにまで、menuとの関係を深めたのはなぜでしょうか。menuの創業母体であるレアゾン・ホールディングスやmenuの皆さんにお話を伺いました。



KDDI、レアゾン、menuが提携強化(ニュースリリースより拝借)

「menu」を運営するレアゾン・ホールディングスさんとKDDIは、これまでもさまざまな協業を行ってきましたが、今回、資本提携を一歩進め、ジョイントベンチャー化となったのは、どのような考えからでしょうか。

二ノ宮:2021年、私たちは初めてKDDIから資本をいただき、共同での取り組みを開始しました。当時、日本にはすでに(フードデリバリーの)大きなプレイヤーが存在する中で、新しいサービスの提供が重要だと認識しました。

我々の意図は、人々の生活に根ざした強固なビジネス基盤を持つパートナーと共に進むことで、大きな成長を遂げることにありました。通信キャリアはその中でも最有力の候補として、社内で頻繁に話題に上がりました。我々の掲げる大きなイノベーションドリブンのビジョンにKDDIが共感してくれたことは幸運でした。その結果、2021年からKDDIと共に取り組むことになりました。

その後、当時スマプレ(auスマートパスプレミアム)の事業部にいた大野さん、KDDIの関係者、そして我々のチームとで共同取り組みを始めました。KDDIと共に進めることで、サービス自体も大幅に向上しました。具体的には、スマプレユーザー限定の配達無料特典の提供や、menuの配達員がau PAYで即日手数料無料で引き出せるといった施策など、サービスの拡充とユーザー満足度向上のための施策を打つことができました。

このような取り組みをさらに加速させることは、将来のサービスやビジネスの拡大において重要な要素になるでしょう。私たちはこのことを認識し、さらなる取り組みの拡大と多くのユーザーの満足度向上のため、KDDIとのジョイントベンチャーや大きな提携に向けて話し合いを進めてきました。

「menu」を使ってみると、お店の選択時にさまざまなおすすめが表示されることや、メニュー情報の精度の高さに感銘を受けます。それらは、レアゾン・ホールディングスの強みが反映された結果でしょうか。

二ノ宮:データドリブンやテクノロジーファーストという文化は、我々にとって非常に重要な要素です。大規模なイノベーションを実現するためには、テクノロジーの活用が必須です。特にフードデリバリーのような市場では、既存の主要プレーヤーとの競争の中で、我々のようなスタートアップが独自の付加価値を提供するためには、テクノロジーへの依存が不可欠だと我々は強く認識しています。

そのため、レアゾンとしてもテクノロジーを重視し、組織全体でエンジニアだけでなく、各部門のメンバーがテクノロジーに精通していることも我々の特徴の一つだと考えています。KDDIとの連携においても、我々のテクノロジーカルチャーがうまく融合できる形を探求してきました。それが今回の経緯の一部であると認識しています。

デリバリーサービスは本当に難易度が高いサービスだと感じています。ユーザー、クルー、店舗のマッチングは非常に地域特性を含み、しかもリアルタイムで行われなければなりません。そのマッチングがわずか20分ずれても、ユーザー体験に大きな影響を与えます。この事業が成功を収めた理由について、先ほどのテクノロジーの話と組み合わせて考えると、新たな視点やスキルを用いて何か新しいものを創出するという思考がありました。

また、最初の段階では、手作り感や人の関与が事業の立ち上げに欠かせない部分も存在します。この手作り感や人の関与という要素と、テクノロジーの感覚が融合し、ハイブリッドな形で事業を立ち上げていくことが非常に重要であると感じています。私たちレアゾンの強みは、そのような要素にあるのだと考えています。

エンジニアとビジネスの関係者が一緒に朝から晩まで議論しながら何かを作り出すことは、一見簡単そうに見えるかもしれませんが、実際には非常に難しい作業だと感じています。私たちの組織全体でこのような取り組みを長期間続けてきたことも、私たちの強みの一つだと考えています。

大野:レアゾンの特筆すべき点は、独自でレコメンドエンジンを開発し、最新の技術を積極的に活用していることです。しかし、重要なのは、完全にエンジンに依存せず、人間のフィードバックを絶対に取り入れているということです。それゆえ、エンジンが提供する計算結果に対して、人間が確認し、必要に応じて手動で調整することも可能です。

そして、現在、ビジネス部門とエンジニアリング部門が同じフロアで作業をしています。これは、テクノロジーファーストである一方で、人間の存在を重視していることを示しています。そして、ほとんどのメンバーがPythonを使用してデータ分析を行っているという事実は非常に興味深いです。これこそが、レアゾンのユニークな部分だと考えています。


menu

KDDIがmenuさんのカルチャーを尊重しながら、皆さんが自由に事業を展開できるようサポートしていると感じられる瞬間はありますか?

二ノ宮:私自身は大企業出身であり、大企業のスケールや推進力を実感していますが、組織が大きくなるとスピード感が常に問題になると思っています。正直に言うと、2021年当時はその点について懸念を持っていました。

しかし、大野さんや、そして資本提供を決断していただいた方々のおかげで、驚くほどスピード感が失われることはありませんでした。大企業ならではのスケールや資本力と、ベンチャーならではのスピード感が両立しながら事業を進めることができたと思っています。

今回のジョイントベンチャー化のタイミングでも、一部の懸念はあったかもしれませんが、経営陣としては各組織のメンバーがどのように考えているのかを非常に重視していました。しかし、結果的にほとんど全員が何の抵抗もありませんでした。

メンバーたちは、KDDIさんの力をより多く借りられるというポジティブな意見を述べていました。KDDIの経営陣に配慮を尽くしてくださったと想像しますが、非常に良いバランスの体制が整っているのではないかと思っています。


二ノ宮 悠大朗氏

menuさんの存在がKDDIにも良い影響を与えている部分はありますか?

大野:そうですね、特筆すべきは(menuが)内製にこだわっていることです。最初に私たちが感銘を受けたのは、ソーシャルゲーム事業を展開しているチームがmenu事業に関心を持ち、迅速に参加してくれたことです。menuのレコメンドエンジンやクルーのマッチングシステムのような要素については、基本的に自社内で開発することを志向しているところがとても良いと感じます。

また、menuでは基本的にSlackやスプレッドシートを活用し業務を進めています。次回の定例会議まで待つといった発想はありません。常に会話を重視し、コミュニケーションを優先するスタイルは素晴らしいと感じています。

menuのジョイントベンチャー化により、どのようなことが可能になるのでしょうか。

大野:KDDIが過半数の持分を持つことにより、KDDIと連携する取り組みがよりスムーズに進められるようになります。以前から、ユーザー、店舗、クルー間で行われる活動として、ユーザーはスマプレ特典、クルーはau PAYを利用した報酬、店舗側はau PAYの営業チームとともにローソンなどを訪れるなどの取り組みがありました。

データの連携に関しては、非常に慎重に進める必要がありますが、マーケティング本部が指摘している通り、パートナー企業のデータは非常に興味深いものです。そのため、今後はそういった取り組みを進めていきたいと思っています。


大野 高宏氏

デリバリーサービスは世界中でさまざまな形で展開されており、日本国内でも多数のサービスが存在します。menu としてどのような差別化を図り、どのようにして未来に進んでいくのでしょうか。

二ノ宮:「フードデリバリー元年」と言われた2021年から市場は大きく成長しましたが、まだまだ若い市場です。そのため、我々のサービスも含め、ユーザー、クルー、店舗の皆さんが本当に求めているものに対してはまだ追いついていないと感じています。特に日本はユニークな事情が多いです。例えば、日本のフードデリバリーの状況はガラパゴス的で、さまざまなプレイヤーがそれぞれの取り組みを行っています。そのため、日本独自のローカルルールに根ざしたサービスとプロダクトを提供することが重要だと考えています。

第1フェーズでは、私たちは内製化を進め、困難なことでもスピーディーに実現していくことを強みとしています。また、KDDIの力を借りて、ユーザーに対して徹底的にローカルなプロダクトを提供すると同時に、他に類を見ないサービスの基盤を構築したいと考えています。第2フェーズでは、「クイックコマース」という、まだ完全に開拓されていない、商品がすぐに届くという体験の領域に目を向けています。そこで提供する価値を追求し、まだ存在しないものを創造したいと考えています。

実際、最初のECが登場した当時には、現在のようにあらゆるものをスマートフォンでワンタッチで注文することは誰も想像していませんでした。同様に、このクイックコマースの世界にもまだ未開の可能性があると思います。私たちは、現在の社会に存在しない新しい体験を提供することを中長期的な目標としています。

大野:私たちの事業は店舗向けのフードテック事業も含まれますが、直近では小売の各店舗様までパートナーが広がっており、デジタルトランスフォーメーション(DX)で貢献できるところはまだまだあると考えております。ですから、店舗向けのプロダクトを自社開発で作ることは、私たちならではの差別化になると考えています。これは非常に重要なポイントだと思います。

menu 事業で培った開発力や資産を、全く異なる事業に応用する可能性もあるということですね?

二ノ宮:データのマッチングに関しては、それが難易度がSクラスのビジネスであると認識しています。このような技術は、さまざまな領域で応用可能であると考えています。マッチングは本質であり、それは多様な分野に適用できるでしょう。

さらに、日本を代表する大企業であるKDDIさんと、まだ名前があまり知られていないベンチャーであるレアゾンが一緒に大きな挑戦をすることで、新しい形が生まれる可能性があると考えています。もし成功すれば、日本全体としてさらに多くの挑戦ができるようになりますし、現在は国内で実施していますが、将来的にはグローバルな取り組みも可能となり、その結果、さらなる可能性が開けるのではないかと考えています。

大野:menuはギグワーカーの皆さんは新しい働き方のプラットフォームであり、リアルタイムマッチングプラットフォームでもあります。Uberは最初は2つのマッチング(売り手と買い手)から始まり、後に Uber Eatsでは3つのマッチング(ユーザ、クルー、店舗)に広がりました。我々は最初から、3つのマッチングからスタートしています。

このようなモビリティの領域においても、Uberとは逆のアプローチで、この技術にはさまざまな可能性があると私たちは認識しています。3つのマッチング要素は、ユーザ、クルー、店舗にと限定されるものではありません。それらの組み合わせは多種多様です。

フードデリバリーは一番難易度の高い部分であり、食べ物が冷めてはいけないという制約もあります。このため、基本的には冷めても問題ない商品を取り扱っているECとは異なる領域から始めています。そのため、さまざまな応用や展開の可能性があると感じています。

ありがとうございました

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