- インタビュー
2022年04月20日
【Web3起業家シリーズインタビュー】Proved/和組DAO で注目の連続起業家・小林清剛氏が見るWeb3
- Image credit: THE BRIDGE (2014年の B Dash Camp in 福岡で撮影)
- Knot 共同創業者兼 CEO /「和組 DAO」共同創設者
小林清剛 氏 - 1981年生まれ。大学在学中にコーヒーの通販会社を設立。2009年にスマホ広告事業の株式会社ノボットを設立し、2011年にKDDIグループへ売却。以降、アメリカ・サンフランシスコを拠点に活動している。 2013年にサンフランシスコで外食体験を親しい友人間でシェアするサービス Chomp を設立、2015年にTokyoFoundersFundを共同設立し、米国を中心に30件前後の企業に投資をしている。 昨年11月、Web3 関連プロダクト開発企業のKnot を設立、今年に入ってコミュニティアプリ「Discord」上のロール情報を NFT 化できるサービス「Proved」をローンチした。Proved を使うことで、ユーザは実名を公表せずに活動していても、その活動内容を証明することができる。
MUGENLABO Magazine では、ブロックチェーン技術をもとにした NFT や 仮想通貨をはじめとする、いわゆる Web3 ビジネスの起業家にシリーズで話を伺います。Web3 についてはまだバズワードな要素も含んでいるため、人によってはその定義や理解も微妙に異なりますが、敢えていろいろな方々の話を伺うことで、その輪郭を明らかにしていこうと考えました。
3回目は、サンフランシスコを拠点に Web3 事業や DAO を運営・展開している小林清剛さんです。小林氏が設立した「和組 DAO」には日本人ユーザも多く、Web3 エコノミーに興味を持った人たちが、この DAO への参加を通じて、仮想通貨ウォレットを使った、DAO のガバナンスに投票した、など、初めての経験をする人が増えているといいます。
アメリカから見た Web3 の最新動向と、今後、小林さんが目指す方向性などについてお聞きしました。
Web3 の現在地
ガス代が非常に低いことで人気を集める「Solana」。Solana Summer と呼ばれるきっかけとなった2021年夏には、1年前の約100倍の価値を持つこととなった。Image credit: Coinbase
小林さんから見て、Web3 の現在地はどのように見えますか?
小林:どういうものが世の中の動きになってるんだろうと思って見た時に、去年の夏ぐらいからWeb3がアメリカですごく注目され始めていて、ちょうど「Solana Summer」と言われ、Solana がすごく伸びはじめました。その少し前から急激にWeb3のことを調べ始め、まだ1年ぐらいなんですけども、非常に変化も早いし、もう不可逆な流れが来ていると思っています。
なるほど。今サンフランシスコで生活なさってて、Web3のコミュニティというのはいわゆるリアルよりはオンラインの方がにぎやかですか?
小林:そうですね。すごく面白いなと思うのはやっぱりWeb3のコミュニティのメンバー同士が出会う場所はオンラインにあるんですよね。僕は例えば、Orange DAOというYCの卒業生がやっているクリプトのファンドや、Web3の ビルダーズ・コミュニティのJericho、Webのグロース・コミュニティのSafari、Social DAO の Friends with Benefits など複数のコミュニティに参加してるんですけども、その多くは別に日本からでも参加できるんですよね。それに関しては敷居がすごく低くなってきている。
一方で、彼らがどこで実際にメンバー同士強く結びつくのかと言うと、それはやっぱりETHDenverとか対面で会う場所なんですよ。そういうコミュニティに行くとETHDenver行く人誰?みたいになって、じゃ現地で会おうね、コーヒーしようねみたいなのがあって、クリプトのイベントって世界中であって、みんな世界中移動してるんですよね。IRL(in real life:現実の世界での意)で会って仲を深めるみたいなのがある。サンフランシスコのいいところは、結構そういう人たちがETHDenverに行った帰りに寄るみたいな話があって、その時にキャッチアップしようよという話もあったりとか。
あと、そういうイベントがなくてもそういうメンバーが結構たくさんいて、例えば、僕が最近参加したSafaryはまだすごく小規模で、まだ始まったばかりの100人か200人ぐらいのコミュニティなんですけども、そのうち4分の1ぐらいはサンフランシスコにいる感じ。Web3でコミュニティがオンラインに移動したと言いつつも、実際対面で会うとという点で見るとベイエリアはすごく強い。あとはマイアミとかニューヨークとかもありますけど、マイアミとかニューヨークの人たちもやはりベイエリアに定期的に来るんですよね。だからここはすごく強いなと思っています。
ETHDenver Official 2022 Album から ©2022 ETHDenver
なるほど。Web3のコミュニティに集まっている人々は、やはりIT系の方が多いですか?そうじゃない人も多い?
小林:テーマごとにいろいろありまして、例えば女性やノンバイナリーの方たちの活動を支援しようといったコミュニティですと、そういうテーマを持った活動を後押ししたい方がいる。初めてツイッターのアカウント作ったみたいな人もいますし、いろんな方がいます。アーティストを支援しようというものだったらアーティストとか。例えば写真のNFTだったらフォトグラファーがいたりとか。いろんなテーマごとにあり、そこはすごく面白いところかなと思っています。
今までも、多様なテーマに対してコミュニティがオンラインに存在していましたが、これだけそれぞれのコミュニティがアクティブに動き、またそれが実際これだけ目に見える形であるっていうところが面白いなと思っています。DAOはコミュニティがバランスシートを持っているみたいなイメージなんですよね。それぞれのコミュニティがバランスシートを持っていて、ちゃんと収益を上げてビジネスをするみたいなこともみんな考え始めるところがすごく面白いと思います。
Web3 スタートアップ、DAO の冷めやらぬ人気
アジアでは、クリプト(仮想通貨)系のファンドが DAO に出資するケースがよく見られるようになりました。アメリカでもどうでしょうか?
小林:アメリカでもすごく増えてます。2月には、Sequoia Capital が700億円ぐらいのファンドのローンチを発表したりとかして。もうWeb3はめちゃくちゃ盛り上がってますね。Orange DAOにも1,000人以上のYC卒業生が参加していて、こんなに参加してるのかとびっくりしました。
各国に規制があって日本は特に厳しいですけど、アメリカもやっぱりトークンがどこまで証券として扱われるかというと、実はかなり難しい。とは言え、アメリカが今後そういう事業となるものを見捨てる可能性はすごく低いと思っていて、すでにエクイティ・クラウドファンディングの法律とか、「Regulation A」というIPO前に株式を一般の人たちに販売するものとか、いろんな法律ができてるんで、そういうところに近いところで制御されるんじゃないかなと思っているので、アメリカに関しては僕は結構ポジティブに考えています。
投資の契約書の形は、例えばある国では「SAFT」で、アメリカだったら「SAFE」というYC(Y Combinator)がつくった契約書のテンプレートに加えて、トークンのワラントが使われています。
【用語解説】
Regulation A・・・米国の証券取引法では、有価証券の募集や販売は、米証券取引委員会(SEC)に登録するか、免除を受ける必要があります。Regulation A は1933年に証券法によって制定された登録義務の免除制度で、2015年に更新されました。
SAFT(Simple Agreement for Future Tokens)・・・アメリカのスタートアップアクセラレータ Y Combinator が開発・公開している、シードスタートアップのための投資契約書雛形「SAFE(Simple Agreement for Future Equity)」のトークン版。
Image credit: Orange DAO
Proved 開発の背景、Web3 時代の働き方とは?
Provedの話にも少し触れたいと思います。Discordの中での個人の貢献度合いを評価して、貢献すればするほどNFTがもらえるわけですよね。実際、中では何をしてるんですか?
小林:もちろんコミュニティとかDAOの形にもよるんですけど、例えばプロダクトを運営しているDAOだとほとんど会社と一緒で、今の流行りの形としては Bounty Board というのを各DAOが作って、例えば、ソーシャルメディアの運用をしてくれる人、この機能を作ってくれる人、デザインをしてくれる人みたいなのを募集していて、それに対してみんなが手を挙げてやるみたいなのが主流になってきている方法です。Discordのロールがその時にメンバーに割り振られるんですけども、Provedではそのロール情報をNFTとして発行して、そのメンバーが所有できるようにしています。
「Proved」Image credit: Knot
共同プロジェクトみたいなものが立ち上がるということでしょうか?
小林:そうですね。例えば、コミュニティの中で、プロダクトに関心のあるメンバーが集まってきて、その中からデザインやる、エンジニアリングするとか募ってやるというもので、あるコミュニティのメンバーが、プロダクトのユーザーであると同時にコントリビューターでもあるという形が増えてきていますね。
あと同じようなコミュニティの概念というのが投資にも言えて、最近は投資DAOといったものが増えてきています。今まではLPがいて、GPがいてという感じでしたけど、投資DAOではメンバーが皆で案件も集めてきて、皆で投資の意思決定をしてリターンを分け合うといった形で、コミュニティで投資をするという雰囲気に変わってきています。コミュニティというテーマがすごく重要になってきているというのがWeb3の特徴の一つかなと思っています。
というのも、Web3の中心となる概念は、NFTも含むトークンによってユーザーがオーナーシップを持つようになったことがすごく大きいです。Provedでも、例えばDiscordのロールは、本当はオフチェーンと言われるブロックチェーン上にないものですけど、NFTにすることによってそれをオンチェーンに移行するので、彼らがそのデータを他のところで使えるようになる。これはやはり、そのデータに対するオーナーシップを持ってるんですよね。
組織に関しても、トークンは株式みたいなものなので、トークンを持つことによってその組織に対してオーナーシップを持つ。そういう意味で、オーナーシップが移行したというのがWeb3の一番大きなところかなと思います。
「和組」Image credit: Knot
既存の、例えば会社などにとらわれない新しい働き方みたいなところがこれだけ世界中を夢中にさせてるということでしょうか?
小林:そうですね。人によってはもうDAOで働いて、5個とか10個とか参加する人とかもいますし、フルタイムで一つのところにコミットする人もいます。ちょうど今が過渡期で、本当にWeb3はみんなで実験を繰り返してる感じなんですよね。
企業がどう取り組むかというところは結構面白いテーマだなと思っています。ちょっと僕には日本の法律は分からないですけど、もし法律がクリアできるんであれば、海外法人を作ってトークンを活用したプロダクトを作ってみるのも発展形としてはすごくありうるかなと思います。
または、日本の企業が自分たちが関心のある領域に取り組んでいるプロダクト対して出資をしてみて、それはどういう風に動くのかを見るのもいいかもしれません。大企業で資金があればいろんなことを同時に試せるので面白いかなと思います。
Web3 と大企業
スマートフォンの波が来た時に、波に乗る動きをせず乗り遅れた方もいます。当然個人よりも企業の方がどうしても動きが遅くなる。後になって、波に乗っかっていればチャンスが取れたのにという人達がいっぱいいると思います。今で言うと、企業がこの Web3 の波に乗っかるとしたらどんなパターンがあると思いますか?
小林:昔、KDDIがMUGENLABOを作ったのもちょうどスマートフォンの時とかですよね。そういう風に自身のところにインキュベーションの仕組みを作って、Web3に関する事業、NFTの事業を作ってみるのもすごくいいと思いますし、そういった企業に対して出資をするのももちろんいいと思います。
例えばETHDenverに行くのはそんなに難しいことじゃないと思うんですよ。そういうところに行ってみて実際の雰囲気を見てみるとか。あとはDAOに参加してみるとか、Discordのコミュニティに参加してみるとか。
結構やれることは無限にあるんじゃないかなと思っていて、会社で何千人とか何百人とか考えると大変ですが、まずは何十人から会社のメンバーでウォレットをセットアップすることを始めてみるとか。その後に、みんなでここまでやってみるみたいな、会社全体でWeb3のオンボーディングをしてみて、例えば「こんなニュースあったよ」って、試せることは沢山あると思うんですよ。それが例えば、NFTでもいいしDeFiでもいいし。あとDecentralandみたいなメタバースもいいですし。それぞれの人がそれぞれ面白いテーマを持ち寄って話せるのはWeb3の面白いところだと思う。大企業も一つのコミュニティというか、人の集団なので、そこの中で○○部を作るのと同じような感じで、Web3で遊んでみてもいいんじゃないかなと思います。
企業では、社内にWeb3事業部みたいなものが勝ち上がっていって、そこが中心になって Web3 関連のビジネスを牽引していくのが現実的なんですかね?
小林:僕はそうだと思います。組織は大きくなればなるほど権限も分かれてくる。ただ、これだけ変化が早いところで毎回毎回稟議通してるとそれだけで遅れちゃうんで、Web3とかそういう新しいものが好きな人に対してある一定の予算と適切な権限を渡して、その人が実験できる環境をどれだけ多くの会社が作れるかというのが勝負の鍵になるかなと思います。
Web3にすごい関心がある人がいて、その人が予算を持って意思決定ができれば、例えばその人がETHDenverに行ってセッションに出てレポーティングするだけでも多くの刺激になるかもしれないですし、それで社内の事業ができればそれで新しくWeb3の人が入ってくると循環ができる。企業が最初にやることは、Web3に関心がある人に対して予算とか権限を与えて自由に育てるところからスタートすることがいいかなと思います。
アメリカで有名な会社がそういう動きをしている事例はありますか?
小林:例えばバドワイザーが 「Beer.eth」というドメインをENS(Ethereum Name Service)でけっこう高く買っていたと思います。他の会社とかも、すごく高額でブルーチップ (優良)NFT の CryptoPunks や Bored Apes を買っていたりします。彼らがそれを買うことによって株価が上昇してて、宣伝効果もものすごくあったんですよね。
ファッションブランドでは、グッチとかはメタバース上のチャレンジはやっていますけど、宣伝効果がすごくあると思います。アディダスがApeと提携したり、ナイキもRTFHTを買ったじゃないですか。ああいうのとかもすごく面白いなと思います。
会社を買うのもカルチャーを変えるという意味ではすごくいいかなと思いますし、僕が以前取り組んでいたノボットという会社を KDDI に買収していただいたことによって、その後KDDIグループがスケールアウトという会社を買い、それが今のSupershipの原型に繋がったという経験もあります。
今、Supershipはものすごい売り上げを出しているんですが、辿っていくと、たぶんノボットという会社を買っていただいたことからスタートしていると思うので、最初はいろんな失敗がありつつも、Web3の会社を買ってみてそういうカルチャーを植え付けて、短期的に見るといろんなことがあるかもしれないですけど、5年、10年で見るとものすごいリターンが出てくるという感じになるんじゃないかなと思います。
(終わり)
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