- インタビュー
2025年03月13日
最強のクリエイターチームで世界へ——Jizai石川CEOが語る汎用AIロボット"Mi-Mo"の未来構想

- 株式会社Jizai
石川 佑樹 - 代表取締役CEO
生成AI・AIロボットの社会実装を進めるJizaiが「CES 2025」に出展した汎用AIロボット「Mi-Mo(ミーモ)」は、世界中から大きな注目を集めています。
メルカリ出身の石川佑樹CEOは、AI技術の可能性を最大限に活かすため起業を決意。最高のクリエイター集団で社会課題を解決し、国内に留まらず世界市場への展開を目指します。
石川CEOが描く未来像と戦略に迫ります。
AIのブレイクスルーが示す可能性
本当に何でも作れる、ある種の最高のクリエイター集団、技術者集団を作って世界中にプロダクトサービスを届けたい。
Jizaiの代表取締役CEO石川佑樹氏が掲げるビジョンは明確です。2024年6月に設立された同社は、生成AI・ロボット領域の社会実装を通じて、少子高齢化や労働力人口の減少などの社会課題に立ち向かうことを目的としています。
前職のメルカリでは主に新規事業を担当していました。今は自分でチームを作り、ロボットやハードウェアも視野に入れてこのテーマを選んでいます。
私の目標は、何でも作れるクリエイターチームを作り、日本だけでなく世界にプロダクトやサービスを届けることです。これが私の根本的な考えです。
石川氏
石川氏が起業のきっかけとして挙げるのは、近年のAI技術の目覚ましい進化です。AIが単なるeコマース領域を超えて、多様な分野に変革をもたらす可能性を肌で感じていました。
AIの進化は非常に大きな変化です。ソフトウェアからハードウェアまで幅広い領域に適用できると実感しました。
石川氏
このAI革命により、働き方とプロダクト創造の手法も根本から変わる、そう考えた石川氏はその変革の波に乗るため、既存の枠組みにとらわれない新しい組織が必要と考え、同社の創業に至ります。
Jizaiという社名には「自在」という言葉が示す通り、AIとロボット技術を自在に操り、新たな価値を創造するという意味が込められています。
2025年1月、世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2025」に出展した汎用AIロボット「Mi-Mo(ミーモ)」は、その第一歩です。石川氏の「何でも作れるクリエイター集団」が世界に向けて放つ最初のシグナルとなりました。
なぜAIとロボティクスの融合なのか
生成AIの急速な進化によって、テキストや画像の生成、会話能力など、ソフトウェアベースのAIはすでに驚異的な能力を見せています。しかし石川氏の視線はその先を見据えています。Jizaiが目指すのは、こうした高度な知能を実体のあるハードウェアと融合させる未来です。
「AIはまずソフトウェア上で急速に進化し、その延長として実体を持つロボットや端末へと自然に展開していく」と石川氏は語ります。
すでに私たちの身の回りには、スマートスピーカーや家電製品など、AIが搭載された機器が増えつつあります。しかし、それらは限定的な機能を持つにとどまっています。Jizaiが構想するのは、より広範な能力を持つ汎用AIロボットです。
最終的に目指している汎用ロボットは、人型のヒューマノイドです。見た目だけでなく、実際に人間ができることを実現できるものを目指しています。
石川氏
そして彼が強調するのは、そうしたロボットが実現した場合の社会へのインパクトの大きさです。
この可能性に向き合うためには、技術の進化を待つのではなく、積極的に関与していく必要があると石川氏は考えています。
影響力が非常に大きくなり得るため、私たちは先に市場に出て、大きな波が来る前の段階から開発を進めていきたいと考えています。
石川氏
「ノンバーバルで伝わる」ハードの強み
CES 2025で大きな話題となったMi-Mo
Jizaiの事業を「AIハードウェア事業」として広く捉えている点も注目に値します。石川氏はCESでの経験から、ハードウェアならではの優位性を実感したと言います。
ハードウェアの大きな強みは、言葉を介さずに価値が伝わる点です。CESでは海外の方々に実機を見せるだけで瞬時に理解され、高い関心を集めました。アプリのUIとは異なり、ハードウェアは接するだけで直感的に理解されるのです。
石川氏
ただし、現状ではソフトウェアAIの能力とそれをハードウェアで実現することの間には、技術的ギャップが存在します。石川氏は「ソフトウェアのAIが非常に賢くなっているので、簡単に実装できると思われがちですが、実際にはかなりのギャップがまだ存在します」と冷静に分析します。
しかし同時に、そのギャップを埋める可能性も見えてきています。「ギャップが存在することと、時間をかければ解決できそうだという可能性を同時に見出している」と石川氏は語りました。
実用化への道筋
石川氏は、汎用AIロボットの初期の活用シーンとして、人間が立ち入るには危険な場所での活用を挙げます。
初めは人間にとって危険であったり、アクセスが困難な場所に投入されるでしょう。そういった場面が人型ロボットの活躍の場となるはずです。
石川氏
実際、2024年に世界各地で発生した自然災害や事故現場では、救助隊員の安全確保が大きな課題となりました。人間と同様の動きや判断ができるロボットがこうした現場に投入されれば、救助活動の在り方が根本から変わる可能性があります。
危険地帯での活用と同時に、石川氏が想定するもう一つの初期市場は富裕層向けの家庭用ロボットです。
おそらく同時に、富裕層向けの家庭市場にも参入していくでしょう。所有することで先進的な技術をいち早く生活に取り入れられる魅力があると思います。
石川氏
これはかつてのテスラのロードスターのように、先進的な技術を持つ製品が、まずは経済的余裕のある層にアピールするという市場参入の王道とも言えます。
CESでの反応についても「個別に購入を希望される話も、会場ではかなりありました」と手応えを語ります。そして石川氏の展望の中でもっとも興味深いのは、汎用AIロボットが人間の労働を代替していく可能性についての洞察です。
人間の歴史において、語弊を恐れずに言えば奴隷労働が存在した時代がありました。例えばギリシャ時代の哲学者たちは、食事をしながら思索に耽ることができた。プラトンなどの哲学者も、使用人がいたからこそ可能だったのです。
石川氏
そして近代以降のプランテーション経営なども含め、「人の労働力を他者に委託する」という構造は常に存在してきたと石川氏は指摘します。
それが今後はロボットに大きく置き換わる可能性があります。発展していくと、ロボットの権利はどうなるのかといった議論も、将来的には生じる可能性があるでしょう。
石川氏
人間の労働がロボットに置き換わっていく世界では、人間自身の役割や尊厳、経済構造など、根本的な問い直しが必要になるかもしれません。石川氏はこうしたロボットの普及についても「ビジネス的な投資収益率が見合う場合、相当な量産も可能になる」との見通しも語ります。特に工場など産業用途での活用は早期に実現する可能性があると指摘します。
わかりやすい例としては工場内での活用でしょう。イーロン・マスク氏などが目指しているのは、自社工場でロボットを稼働させることです。その領域は比較的早く実現するのではないでしょうか。
石川氏
グローバル戦略と展望
「フィードバックを得ることが今回のCES出展の大きな目的」と語る石川氏。世界中の技術者や投資家、メディアが集まるCESでの反応は、今後の製品開発や市場戦略に大きな影響を与えるはずです。
基本的な戦略としては日本市場での展開と並行し、ハードウェア事業においては、できる限り海外市場にもチャレンジしていきたいです。
石川氏
展開するエリアについても石川氏は特定の地域に限定するのではなく、中国やアメリカ、そしてヨーロッパ全域など主要市場を広く視野に入れているとのことでした。また今回のCESでは、来場者に加えてSNSでの反響も良かったといいます。
中国の方々からも反響があり話題になっていたようで、知人から多くの連絡をいただきました。
石川氏
グローバル展開への積極的な姿勢を示す一方、石川氏はハードウェアビジネス特有の難しさも認識しています。
ハードウェアを販売する難しさも同時に存在します。ソフトウェアであればボタン一つで配信できますが、ハードウェアの場合は体制をしっかりと整えた上で提供する必要があります。
石川氏
特に製品保証やメンテナンスの問題は重要です。実際にCESでは購入を希望する声も聞かれたそうですが、すぐに販売することは考えていないそうです。「安価な製品ではないため、適切なサポート体制が必要不可欠」ということで、実際のMi-Moに会えるのはもう少し先になりそうです。
「私たちの会社はこれからのAI時代に適応し、様々なプロダクトを創造していく場所にしたい」と石川氏は語ります。
社名が示す「自在」さは、技術だけでなく組織や働き方にも反映されています。AIがもたらす変化を待つのではなく、自ら創り出していく姿勢こそが石川氏とJizaiの核心なのでしょう。
Mi-Moに関しては、近日中にサービスサイトが公開される予定です。この野心的な挑戦の一歩を楽しみに待ちたいと思います。