- インタビュー
2025年02月27日
ケニアに移住して6年、「HAKKI AFRICA」はどのようにして異国の地でスタートアップしたのか

- HAKKI AFRICA
小林嶺司 - 代表取締役
タクシードライバー向けマイクロファイナンス事業を展開するHAKKI AFRICAは2月、シリーズCの資金調達ラウンドを公表しました。SMBCベンチャーキャピタルとグローバル・ブレインを共同リード投資家に約20億円を集め、2019年に創業してから6年間で40億円以上の資金を獲得しています。
創業者自らケニアに移住して立ち上げた事業は3期連続黒字を達成。新たにインドと南アフリカへの展開を開始し、グローバル展開を加速させるそうです。
では、彼らはどのような成長ストーリーを描くのでしょうか。
「最初からグローバル」を実践する同社代表取締役であり、創業者の小林嶺司氏に話をお聞きしました。
現地に移住して立ち上げ
現地ケニアでの写真
2018年9月、HAKKI AFRICAの小林氏はケニアに移住します。「日本人が起業していないから」という理由で、新興国の金融包摂を実現するという壮大な目標を掲げながらも、その第一歩は現地の実態を知ることから始まりました。
ケニアの首都ナイロビには、約5万人のタクシードライバーがいるそうです。しかしその多くは銀行融資の与信審査に必要な書類や頭金を準備できません。一方、レンタカー代は1日当たり約1,300円。月に換算すると約3万9,000円を支払っている計算になります。
タクシードライバーの方々は、「少しでもお金が借りられれば自分の人生が好転するのに」と話していました。
小林氏
この課題に対し、HAKKI AFRICAは独自のクレジットスコアリングシステムを構築。与信審査を機械的に行い、リスクを抑えた車両購入用のファイナンスプログラムを開発したのです。
他社との大きな違いは、金融サービスだけでなく、車両の整備までを一貫して提供する点にありました。
金融機関がやりたがらない車の整備やチェックアップまでを我々が関わってやっている。それが強みとなっています。
小林氏
3年半のローンプログラムでは、レンタカー利用時と同程度の月額で支払いが可能です。さらにローン完済後には約80万円相当の車両が自己資産となり、レンタカー代が不要となることで収入が大幅に向上します。この仕組みが受け入れられ、同社は順調に事業を拡大させていくことになるのです。
ケニアでの成長ストーリー
国内に6支店を展開
HAKKI AFRICAの事業は、ケニアでの6年間で着実な成長を遂げてきました。一般的なマイクロファイナンスが1万円から5,000円程度の小口融資を行うのに対し、同社は80-90万円規模の中古車ローンを展開しています。
「銀行のローンにアクセスできない方々に対するローン」という意味でマイクロファイナンスを標榜していますが、実質的には新しい形のオートローン事業を確立したワケです。
ビジネスの成長を支えたのは、段階的な展開戦略です。投資ラウンドでのシリーズAからシリーズBにかけては、商品の拡充と地域展開に注力。ケニアの首都ナイロビから始まり、現在では国内に6支店を展開するまでに成長しました。
商品面では、当初のタクシードライバー向けローンから、一般消費者向けのマイカーローンへと拡大しています。
商品拡充の部分がある程度実証が完了した。
小林氏
プラットフォーム事業者に登録するギグ・ワーカーから始まり、より広い顧客層へとサービスを広げることに成功したのです。与信審査の仕組みも、事業の成長とともに精緻化されてきました。
審査を通過した後にグラデーションを設けています。
小林氏
車種の選定から返済計画まで、顧客の状況に応じたコンサルテーションを提供。この丁寧なアプローチが、高い審査通過率と低いデフォルト率の両立を可能にしました。
結果、事業の成長性は数字にも表れて、小林氏の話によると同社は3期連続で黒字を達成し、連結決算の経常利益は前年比1,330%増を記録。ポートフォリオは20億円規模にまで成長しました。
今後も同様の売上成長率を維持したまま黒字も継続見込み
小林氏
アフリカ域内での競争優位性
アフリカで確立した競争優位性
アフリカには54カ国、14億人の市場が存在します。しかし、2023年にケニアで100万ドル以上の資金調達を実施したスタートアップはわずか3社にとどまります。その2社はエストニア企業で、HAKKI AFRICAが唯一の日本発スタートアップ。このことからも、同社がアフリカで確立した競争優位性を象徴していると言えます。小林氏は、自社の競争優位性がいくつかあるとした上で、特に重要な要素として「資金調達力」と「円キャリートレード」を挙げ、アフリカではマイクロファイナンス会社ですら資金調達が困難な状況にあるそうです。
100台の車を購入すれば1億円規模の資金が必要になる。100台では全然競争優位にならない。
小林氏
一方のHAKKI AFRICAは日本のベンチャーキャピタルや金融機関から継続的な資金調達に成功しています。今回のシリーズCラウンドでも、SMBCベンチャーキャピタルやグローバル・ブレイン、農林中央金庫といった有力な機関投資家が参加。さらに三井住友銀行や北國銀行からの融資も受けています。
円キャリートレードの優位性も大きく「日本では余っているお金が、低金利で調達できる」と小林氏は指摘します。アフリカの地場企業は、資金調達自体が困難なうえ、高金利での調達を余儀なくされているため、この差が、ビジネスの収益性と競争力を大きく左右するのです。さらに現地の競合との違いも明確にあります。
エストニア発の企業があるのですが、1社はマイカーローン特化、1社はバイクローン特化。
小林氏
で、かつ「新車市場を扱っており、我々の中古車市場とは住み分けができている」という。
こうした優位性は、アフリカ域内での金融事業の展開において大きな強みとなるはずです。
東アフリカに展開しているエクイティバンクやコーポレートバンクが、タンザニアやウガンダなど周辺国に展開している。
小林氏
金融インフラの発展状況も似通っており、ケニアで確立したビジネスモデルの横展開が可能だと見ているとのことでした。
インド・南アフリカへの展開戦略
ケニアでの成功を基盤に、HAKKI AFRICAは新たなステージへと踏み出しました。
2024年からインドへの進出を開始し、同時に南アフリカでの展開も進めます。
アフリカ域外のところにも出られるかどうか、確認する必要がある。
小林氏
ケニアでの経験を活かし、インドでも現地のニーズに即したサービス展開を進める予定です。
成長性があり続けて、その成長に即したようなクレジットスコアリングが提供されていない。
小林氏
急速な市場の変化に対応できる与信システムの構築が求められているのです。インドでもHAKKI AFRICAの強みは、金融と整備サービスの一体提供にあります。「インドの金融機関ですら手をかけていない」車両整備の領域まで踏み込むことで、「今まで取りこぼされていた方々をちゃんと拾っていく」ことを目指すというお話でした。
一方、南アフリカの選定には戦略的な意図がありました。というのも、小規模な国では監査コストや人件費が売上対比で大きくなりすぎます。そこで「基本的には大きな国を攻めよう」という判断から、南アフリカを次の展開先に選んだのです。
2024年2月現在、すでに両国で法人設立は完了。それぞれの市場特性に合わせたサービス展開を進めています。イギリスのファンド、南アフリカのファンド、エストニアの企業からも投資の打診があるなど、グローバル展開を見据えた戦略が国際的な投資家からも注目を集めているとのことでした。
このようにしてHAKKI AFRICAは、エジプト、ウガンダ、タンザニア、ザンビアなどを候補に2030年までに8カ国展開を目指しています。
世界で一番お金が足りていないところと、世界で一番お金が余っているところを繋ぐのは必然的です。
小林氏
創業から6年。アフリカの一国から始まった事業は、今やグローバルな金融の架け橋となろうとしています。
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