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2025年12月10日

日本発ディープテックを欧州へ ─ QunaSysとEmulsion Flow Technologiesと切り拓く欧州展開

日本発のディープテックが世界に挑むとき、鍵となるのは「どのマーケットにアクセスするか」だけでなく、「誰に会い、どんな文脈で語るか」です。KDDIは、単なる出資にとどまらず、出資先スタートアップと共に海外の現場に立ち、現地の投資家・事業会社・研究機関との接点づくりを支援してきました。


今回、欧州最大級のスタートアップイベント「Slush」を活用して、量子コンピュータとレアメタルリサイクルという最先端領域の2社を欧州エコシステムへとつなげた取り組みをご紹介します。


なぜKDDIはスタートアップと一緒に欧州へ向かったのか


Slush会場

KDDIは「KDDI Open Innovation Fund(KOIF)」「Green Partners Fund(Green)」を通じて、さまざまなスタートアップに投資を行っています。しかし、私たちが重視しているのは、資本参加にとどまらず、事業連携や海外展開を見据えた伴走支援を行い、スタートアップの成長ポテンシャルを最大化していくことがCVCとしての役割だと考えています。

特に、量子コンピュータやレアメタルリサイクルなどのディープテックは、欧州の研究機関・事業会社・投資家との連携が、事業化やスケールの重要なドライバーになります。そこで今回、欧州最大級のスタートアップイベントであるSlushを起点に、KDDIが保有するネットワークやパートナーシップを活かし、出資先2社による欧州スタートアップエコシステムへの接点構築を支援しました。

現地に同行した2社のスタートアップ

今回KDDIが欧州へ同行したのは 、いずれもディープテック領域で挑戦を続ける2社です。

QunaSys
QunaSysは、量子コンピュータ領域で研究開発を行う企業や産業分野のプレーヤーを支えるソフトウェアを開発しているスタートアップです。量子アルゴリズムやシミュレーション技術を強みに、製造業、素材、化学などさまざまな分野で量子コンピュータを活用した新しい価値創造を目指しています。欧州は量子技術の研究が非常に活発な地域であり、QunaSysにとっては、研究機関やスタートアップ、ファンドといったプレーヤーが密集するこのエコシステムに直接アクセスする貴重な機会となりました。


サービスイメージ

Emulsion Flow Technologies
Emulsion Flow Technologiesは、リチウムをはじめとするレアメタルを高効率にリサイクルするための独自プロセスや装置を開発しているスタートアップです。電気自動車や蓄電池市場の急拡大に伴い、使用済みバッテリーからの資源回収やサーキュラーエコノミーの実現は世界共通の喫緊のテーマになっています。特に欧州では脱炭素と資源循環の両立に向けた規制・政策が進んでおり、同社の技術が現地企業や研究機関と結びつくことで、グローバルな社会課題解決につながるポテンシャルを秘めています。


サービスイメージ

欧州の現場で実施した取り組み

QunaSysがSlushでの共催イベントでピッチ


QunaSysの登壇時の様子

ヘルシンキで開催されたSlushは、世界中からスタートアップと投資家が集まる欧州最大級のスタートアップイベントです。このタイミングに合わせて、KDDIは欧州VCであるNordic Ninjaと共に量子コンピュータをテーマにした共催イベントを開催しました。

イベントには、QunaSysのほか、量子コンピュータ領域のユニコーン企業として知られるSEEQC、欧州の量子学術・技術組織として存在感を持つIQMなどが登壇しました。

QunaSysにとって本イベントは、これまで自社の技術力と事業実績を基盤に欧州で築いてきたポジションを、さらに広く発信するための重要な機会となりました。今回の場では、欧州のトップレベルの量子プレーヤーと直接対話し、当社の取り組みをより強くアピールすることができたと考えています。

懇親会では各方面から高い関心が寄せられ、具体的な共同研究の可能性について複数の議論が進展しました。すでに欧州では、企業案件に加えて複数のコンソーシアムプロジェクトやスタートアップとの協業が動き出しており、これまで積み重ねてきたQunaSysの実績が、今回の機会によって一層加速されつつあります。

Emulsion Flow Technologiesが現地研究機関・企業と面談


VTTでの様子

一方、Emulsion Flow Technologiesに対しては、「会うべき相手」と「議論したいテーマ」を事前にすり合わせたうえで、KDDIが現地のネットワークを活用し、複数の学術機関や企業との面談をアレンジしました。

ヘルシンキ大学やAalt大学などの研究機関、フィンランド政府関連組織、英国大使館、そしてバッテリーやレアメタルリサイクルの分野で事業を展開するFortumなど、同社が関心を寄せていた組織との直接対話の場を設定しました。

中でも、フィンランド版「産総研」とも言える研究機関VTTとの面談は象徴的でした。VTT側でレアメタルリサイクルの専任担当者をアサインいただき、EFT社との技術的なディスカッションを実施。さらにはVice Presidentとの意見交換、そして会食に至るまで、非常に密度の高い時間を過ごすことができました。Emulsion Flow Technologiesの技術が、欧州における資源循環やバッテリーリサイクルの取り組みにどのように貢献し得るのか、実際のプロセスや適用シナリオをイメージしながら議論が進んだのが印象的でした。

また、Fortumとの面談では、バッテリーリサイクル事業部門と実際の事業の現場で求められている課題やKPIを踏まえながら、Emulsion Flow Technologiesの有する技術がどのような形で事業貢献できるかといった具体的なアイデアが交わされました。単なる名刺交換に終わらない、次のアクションにつながる対話を設計できたことは、KDDIにとっても非常に大きな手応えとなりました。

Emulsion Flow Technologiesが東京都パートナーポッドでのサイドイベントでピッチ

今回の欧州支援では、KDDIに加え、東京都との連携も大きな柱となりました。Slushには東京都が常設するパートナーポッドがあり、日本企業やスタートアップの取り組みを紹介する拠点として活用されています。

このスペースを舞台に、KDDIパートでEmulsion Flow Technologiesがピッチを実施しました。テーマは「脱炭素(Green)」。日本市場やクリーンテック分野に強い関心を持つ参加者に声をかけ、KDDIのオープンイノベーション活動をきっかけに現地の人々に集まってもらい、その場でEmulsion Flow Technologiesが自社の技術やビジョンを紹介する形を取りました。

イベントでは、KDDIがこれまで国内外で取り組んできたオープンイノベーションの活動や、投資実績も簡単に紹介しながら、「日本の大企業がスタートアップと組み、世界に挑んでいる」というストーリーを共有しました。そのうえで、Emulsion Flow Technologiesが掲げる資源循環の未来像を語ることで、参加者に日本発のクリーンテックの可能性を具体的にイメージしてもらうことができました。

KDDIと東京都が一緒に場をつくることで、「スタートアップ×大企業×自治体」という構図が自然と立ち上がり、日本からのメッセージをより立体的に伝えられたことも大きな成果です。

見えてきた成果と変化

今回の取り組みを通じて得られた成果は、大きく二つあります。ひとつは、出資先スタートアップにとっての具体的なビジネス・研究機会の広がりです。欧州現地で相手先に足を運び、具体的な提案を熱意をもって伝えられたことが、大きな信頼関係を築くに至りました。もうひとつは、KDDI自身が「海外展開を伴走するパートナー」であることを、スタートアップと現地の双方に示せたことです。自社のみならず、KDDIが有するパートナーと最大限に連携することにより、国境を超えた事業展開の種を作ることができました。

QunaSysは、欧州の量子スタートアップやファンドと並び、自社の技術力とこれまで築いてきたポジションを直接伝えることで、「日本発の量子ソフトウェア企業」としてのブランドを一層強化する機会となりました。共催イベントや懇親会では、共同研究や産業実装を見据えた具体的な相談が複数進展しており、既存の取り組みを軸に欧州での連携がさらに広がりつつあります。

Emulsion Flow Technologiesは、VTTをはじめとする学術機関との対話を通じて、自社技術が欧州の研究開発や規制環境の中でどのような位置づけになり得るのかを深く理解することができました。また、現地事業会社との面談をきっかけに、実証プロジェクトや技術検証の構想が具体化しつつあります。東京都パートナーポッドでのイベントを通じては、「日本発のレアメタルリサイクル技術」として、これまで接点のなかった参加者にも認知を広げることができました。

そして何より、「KDDIは出資しただけでなく、現地に共に立ち、会うべき相手との場を一緒につくってくれる存在だ」というメッセージが、スタートアップ側にも、欧州のパートナーにも伝わった手応えがあります。これは、今後ほかの出資先スタートアップが海外展開を検討する際にも、「KDDIとなら挑戦できる」という安心感や期待感につながっていくはずです。

まとめ 日本発スタートアップのGo Global支援について


サービスイメージ

量子コンピュータやレアメタルリサイクルといったディープテック領域は、単に技術が優れていればよいという世界ではありません。各国の政策や規制、産業構造、学術コミュニティとの関係性など、複雑な要素が絡み合う中で、どこで誰とタッグを組むかが事業の成長を大きく左右します。

KDDIは、Slushという世界的な舞台、Nordic NinjaやVTT、Fortumといった現地パートナー、そして東京都パートナーポッドのような自治体との連携拠点を掛け合わせることで、出資先スタートアップの「世界への入り口」を具体的なアクションとして形にしました。

今後もKDDIは、CVCを通じた投資に加え、海外VCとの協業、グローバルイベントの活用、現地企業・研究機関とのネットワーク構築を通じて、日本のスタートアップのGo Globalを支えていきます。通信事業者として培ってきた「つなぐ力」を、資本と現場の双方で発揮しながら、世界のプレーヤーと共創し、新たな産業と社会価値を生み出していく未来を、スタートアップと共に切り拓いていきます。

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