- インタビュー
2021年08月16日
IP「百年」時代に企業はNFTをどう活用するーーdouble jump.tokyo CEO、上野広伸氏
- double jump.tokyo株式会社
上野 広伸 - CEO
日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はdouble jump.tokyo CEO、上野広伸氏に登場いただきます。
上野氏は新卒で入社した野村総合研究所にて大手金融のシステム周りを経験した後、ゲームプラットフォームのモブキャストにて執行役員、技術フェローを歴任。その後、ブロックチェーン技術の未来を信じて2018年4月にdouble jump.tokyoを創業されました。
現在、デジタルアイテムのトレードに欠かせない「非代替性」を実現するNFT技術を活用したゲームの先駆「MyCryptoHeroes」を2018年年末にリリース。現在はこの分野の国内草分けとしてスクウェア・エニックスやセガと提携し、新たなコンテンツビジネスを企業と共創されています。
本稿では、NFT黎明期に何があったのか、そして企業はNFT・ブロックチェーン技術とどのように付き合うべきか、現在進行中のプロジェクトを踏まえてその可能性をお聞きしました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は上野氏、文中敬称略)
まずdouble jump.tokyo設立のお話をお聞きしたいなと思います。もともとは野村総研からモブキャストというキャリアを歩まれたそうですね
上野:新卒で入った野村総研では大企業の裏側のシステムまわりの仕組みを作っていたんですが、もっと顧客に直接サービス提供できるゲームサービスをやってみたいなという思いがあって。その当時ゲームプラットフォームを作っていたモブキャストさんにジョインさせていただいたという感じになります。
現状でもアセットマネジメントの話とゲームの話の両方を扱うのがこのNFTの部分でもあります。けっこうバックグラウンドが影響しているのかなと思ったんですが
上野:そうですね。ゲームが好きというのと、野村総研では金融周りのシステムを作っていたというのもあって、ブロックチェーンならばゲームと経済を組み合わせてサービス提供できるということで創業させていただいたという形になります。
ただ、モブキャストでゲーム業界に入った時は経済要素がそこまで絡んでくるとは思ってなかったです。スティーブ・ジョブズさんの言葉に「connecting the dots」がありますが、自分のキャリアをこのために積み上げてきたというよりは、たまたま歩んできたキャリアがブロックチェーンゲームというところで結び付いたなという感じです。狙ってこうなった訳ではないです(笑。
調べてて、え!上野さんってこんなところから考えてたの?って思っちゃったんで、すごく訊きたかったんです(笑。その後、double jump.tokyoを作られて、『MyCryptoHeroes』を立ち上げるわけですね
上野:そうですね。2018年4月にdouble jump.tokyoを創業したんですが、そもそも2017年末ぐらいに今のNFTの原型である『CryptoKitties』が出てきたんです。今でもそうですが、2017年ぐらいはアプリのソーシャルゲームは全盛期であったものの、ゲーム開発費も上がっており、グローバル競争に巻き込まれている状態でした。
欧米系のみならず中国製アプリにも良質なものが出てきて、資本力勝負・クオリティ勝負になってきており、大きい会社・強いコンテンツだったらまだ良いですけど、中小規模のソーシャルゲーム会社にとっては閉塞感が出てきたところはありました。でも2017年末の『CryptoKitties』を見て、小さく始めても世界的にプレゼンスを発揮できるワンチャンあるゲームの変革分野としてブロックチェーンゲームを認識したので、2018年4月にdouble jump.tokyoを創業しました。
ブロックチェーンゲーム「MyCryptoHeroes」
そこからイーサリアムの取引量1位と。ただこれ、失礼な言い方かもしれませんけれど、当時周りに競合が少なかったことも要因だったのでは
上野:それはもう、その通りです(笑。イーサリアム自体も、確か2018年11月30日にリリースしたんですけど、たぶん、価格も1万5,000円未満だったんじゃないかな?今から考えるとかなり底の状態になっていた感じがしますね。イーサリアム自体の取引もわりと縮んでいる状態ででした。
結果的には『MyCryptoHeroes』は良いタイミングで始められたなと思います。しかし当時は周りから見ると、どんどんトランザクションも価格も下がっていくイーサリアムでブロックチェーンゲームをなんでリリースするの?という感じでしたね。底の状態だからこそ上り調子になるしかないわけで。
今はもう20万ぐらい、いっときは40万ぐらいになってましたもんね。
上野:そうですね。
DapperLabsとかがまだ出始めで、よく「月の砂を売る」みたいなことを言って揶揄していた人たちもいたと思うんですけれど、あの時にgumiが注目をして出資もしたわけじゃないですか。注目をしてくれた理由はなんだったんですか?
上野:『MyCryptoHeroes』を出した直後に、まだまだ総量としては小さいながらも、イーサリアムの中でトップの実績を叩き出したのを見て、出資を決断したんじゃないかなと思っています。國光(宏尚氏・gumi創業者)さん自身、ブロックチェーン領域に魅力を感じて様々投資されていて、『MyCryptoHeroes』は世界に指が掛かったぐらいのところにはあったのでそこにチャンスを感じたんじゃないでしょうか。
その後、暗号資産の下落などやや厳しい時期が始まりますよね。この辺りはどう乗り切りましたか
上野:2018年はブロックチェーン界隈のテクノロジーやNFTビジネスは進歩していたのに、イーサリアムの価格としては非常に下火になっていった状態で、結果論としてはちょうど良かったなと思います。
なぜかというと、ブロックチェーンゲームはまだ完成していない領域でもあったので、リテラシーが低い人や投機目的だけの人が入ってきても仕方ないっていうのもあったんです。ゲームが好きだったり、NFTという新規性に面白みを感じてくれるイノベーターが集まってくれる方が良くて、実際にそういう濃いユーザーが集まったと思いますね。イーサリアムの取引総量が小さかったというのもあって『MyCryptoHeroes』が世界一になったというのは確かにありましたが、それ以上にかなり良質なコアユーザーがたくさん参加してくれたのが大きかったです。
他のブロックチェーンゲームでは初動が良くても立ち消えるものがけっこうある中で、ずっとコアファンの人気に支えられているのは、当時、良質なユーザーに関わってもらえたから、というのはあると思います。
なるほど、冬の時代を乗り切る仲間がここにいたってことですね
上野:そうですね。あの時代にイーサリアムに注目していた人は、本当に技術が好きとか、未来に対して希望を見出しているとか、投機じゃないユーザーだったんですよね。それが良かったなと思います。結果論ですけど。
下火になって、ユーザーの濃度が濃くなった時期を越えて、今回の提携のベースになる話だと思うんですが、『NFTPLUS』や『MCH+』といったプラットフォームを開発されたのは戦略的にどういう意図があったんですか?
上野:まず、プラットフォームを作ってるわけじゃないんですよね。ブロックチェーンそのものはプラットフォームとは思うんですが、既存のプラットフォームとの一番の違いは「プラットフォームをみんなで作る。それがブロックチェーンだ。」というところで、どこか独占的な一社が先導して作るようなものは、ブロックチェーンの世界においてはカルチャーとして合いにくいのかなというのがあります。
とはいえ、新しいブロックチェーンゲームを作る時に『MyCryptoHeroes』で獲得したシステムノウハウや運用ノウハウを横展した方が効率が良いとは思っていました。そこで横展できる仕組みとして『NFTPLUS』や『MCH+』を用意したという形になります。どちらかというとツール群・サービス群・コンサルというようなイメージです。
そういった技術も持っているということも含めて、スクウェア・エニックスさんやセガさんとの提携も進んだと思うのですが、もし今アップデートを含めて何かお話しできることがあれば、この両社の提携でどういうことがあるかお話しいただいてもよろしいですか?
上野:各社、NFTはけっこう本気だという感触です。本気でNFTに取り組んでいく方向でありつつ、とはいえ一発目はビジネスやユーザー反応の様子見をしながらというところの落としこみが企画する上で重要になってきているフェーズかなと思います。今年から来年の前半ぐらいにかけて第一弾を出す会社が多いイメージがあります。
ちなみに、たとえばNFTのシールが出ましたと。それはコインチェックさんがやっているようなNFTのマーケットで取引トレードみたいなことはまだできないんですか
上野:ミリオンアーサーに関して言うと、もう発表させていただいてる「LINE Blockchain」を採用しようとしています。「LINE Blockchain」に関してはLINEさんがNFT取引所をやると発表しているので、まずはそこからかなと。
初期のビットコインだったり、イーサリアムもそうですけれども、投機的な人たちの牽引力がすごいことをまざまざと見せつけられたので、この辺りの企業の取り組みについても一定数の投機的な人たちの流入が重要なキーになるような気がしますが、上野さんはどう考えられていますか?
上野:各企業さんと話していく中では、そこまで投機的なものを期待はされてないですね。変に投機的な人が入ってくると、ちょっと荒れるんじゃないかと・・・大事に扱いたいIP自体が毀損するんじゃないかという恐れもあるので。もちろん、そういう人たちの力で価格が底上げするという部分も確かにあります。とはいえ投機的な人たちの力を積極的に借りようという感じではないというのが今の各社さんとの取り組みの中で感じるニュアンスです。
なるほど
上野:どちらかと言うと、いろんなデジタルアイテムが次々とNFTになっていく中で、安全に使いやすく、そして新しいユーザー体験をもたらすものって何なんだろう?というのを模索しているフェーズな感じがします。
みんなが参加したくなる部分をどう作っていくのか、その辺りの考え教えてもらってもいいですか
上野:NFTによって、デジタルアイテムを誰が持っているのかがオープンになります。オープンデータベースみたいなものなので。IPとファンのつながりが可視化されている世界という感じなんですよね。最近、僕は「IP百年時代」という言葉をよく使ってるんですが、今や人間の寿命よりもIPの寿命の方が長いんですよね。ディズニーに関しては本当に百年レベルでのIPだったり。なんなら会社の寿命より長い可能性すらあります。
ウェブサービスって長くても寿命は10年くらいじゃないですか?中にはすごく長いサービスもあるかもしれませんが、とは言っても、百年続くWebサービスをみんなが考えているわけではない。でもIPは百年続きますよね?と言えば、まあそうかもねと納得できるような時代になっているんです。
IPとファンとのつながりを永続的に残せるような、ひとつの会社が管理しているようなものじゃなくて、オープンデータベースで長寿命なデータベース、もう永遠に管理されるデータベース上に乗せるというのは、本当の意味でIPとファンをつなぐもの。IPの価値を最大限に高めるためにはブロックチェーンを利用するのがいいかもしれない。まだ結論は出ていませんが、IP百年時代においてはNFTを利用する方が結果的にいいんじゃないかという思いはあります。
IP単体であれば、グッズを作ったり映画作ったりできるから、資産性の価値もあるけど、そこにファンがつながることで資産の考え方が変わりますもんね
上野:「もし『MyCryptoHeroes』というサービスが終わったとしても、NFTはユーザーの手元にありますよ」と言うと「え?それって結局使えないのに、何の意味があるんですか?」と疑問が湧くとは思いますが、IP百年時代においてはNFTとユーザーの繋がりの方が大事なんです。
小学校時代にビックリマンシールを持っていたとして、そのデータがブロックチェーン上で管理されていれば、30年後にまたリバイバルされた時に「このシールを持っていたのはこの人です」というのが可視化されると、そこにマーケティングが打てたりと、30年眠っていても活かせるんです。なぜならIP百年時代だから。持っていたということが可視化されることに意味があります。
資産から利益を出していくのが事業活動だと思いますが、ブロックチェーンやNFTによって資産の考え方がだいぶ変わりますね。ユーザーがそのままくっついている資産になるわけですね。今後のNFTの活用のアイデアは
上野:NFTは今年の前半ぐらいまではどちらかというとアートNFTに注目が集まるような流れだったと思います。今後NFTは3年くらいかけてマスアダプションしていくと思うんですけど、そこで主役になるのは、アートよりもユーティリティー系のNFTだなと思っています。そして、ユーティリティーとして一番事例として分かりやすいのはやっぱりゲームかなと思っています。
他の事例としては、アバターやデジタルファッションのような「着飾るもの」がNFTになる、というのはありますね。だから今、デジタルファッション系の会社を立ち上げている人がちらほらいます。それと、NFTを持っていたら特別なコミュニティに入れるような、いわゆる会員権型NFTもあり得ますね。かつて、日本でもゴルフ会員権のブームがありましたね。ゴルフ会員権はデジタルじゃないけど、数が限定されていて取引市場があったという部分は、NFTに近いですね(笑。そういう権利型のNFTというのは、何らかの形で出てくるでしょうね。
この辺りのものを事業化しよう、ビジネスにしようという企業さんが上野さんたちに相談に来る際は、どういう粒度で来られるんですか?
上野:ちょっと前までは単純にNFTを作って販売するというような粒度だったんですけど、最近はユーティリティも考えた相談が多いですね。ユーティリティー系のNFTは「NFT運用」がなかなか手間なので、そこに関してノウハウのある我々に頼っていただくのは良いんじゃないかなと客観的にも思います。
ありがとうございました!
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