- インタビュー
2021年02月15日
DNPの社内外をつなぐ事業共創のハブーー大日本印刷のスタートアップ投資
- 大日本印刷株式会社
モタイ 五郎 - マーケティング本部事業戦略ユニット投資企画部にて、オープンイノベーションの推進と少額出資機能を担当。 入社以来デジタルメディアの企画や開発に関わる。研究部門在籍時には海外研究機関や海外スタートアップとXRをテーマにしたプロジェクトに携わった。 KDDI ∞ Laboにはパートナー企業プログラムが開始した2014年から参加している。
企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたフジテレビの「フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(FSV)」に続いてお届けするのは、大日本印刷(以下、DNP)のスタートアップ投資活動についてお届けします。
DNPは連結売上高1.4兆円、従業員数3.8万人(共に2020年3月末時点)の日本を代表する総合印刷企業です。その事業範囲は広く、生活空間やモビリティ、素材、エレクトロニクスにライフサイエンスなど多岐にわたっています。
6月に開示されている中期経営計画でも示されている通り、DNPでは次の視点として社会課題の解決を掲げ、第三の創業を目指すとしています。既存にあった個別企業のニーズ・課題解決からより大きな社会全体の問題解決へと視点を移し、注力事業として「IoT・次世代通信関連事業」「データ流通関連事業」「環境関連事業」「モビリティ関連事業」を掲げています。
今回取材したDNPのスタートアップ投資はこの一環として活動をされているそうです。機動力のある少額出資と、多岐にわたる事業ポートフォリオに対して新しいスタートアップやテクノロジーのアイデアを社内に適切に繋ぐ「社内外ハブ」のような役割を担うというお話でした。本稿ではさらに詳しいお話を伺います。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答は大日本印刷のモタイ五郎さん)
DNPはCVCとして切り出すのではなく、本体投資の部門として活動されています。部署自体が立ち上がった背景などについて教えていただけますか
モタイ:DNPは「知とコミュニケーション」「住まいとモビリティ」「食とヘルスケア」「環境とエネルギー」という4つの成長領域を設定しています。この成長領域において、(1)IoT・次世代通信関連、(2)データ流通関連、(3)モビリティ関連、(4)環境関連、の4事業を主な注力事業と設定し、社会課題を解決するとともに人々の期待に応える新しい価値を創出することで、持続可能な社会の実現に貢献しようと考えています。
一方、刻々と変化する社会課題に対応すること、社会を支える世代の価値観を知るには、新技術や新たな着眼点で破壊的なビジネスモデルを狙うスタートアップの力が必要です。そこでDNPでは、新事業創出に向けてスタートアップとの共創促進の打ち手として、少額出資機能を設置しました。
この部署では幅広い事業部門やグループ会社との連携など、本社の直接投資だからこそできる機動的な意思決定のプロセスを運用しています。スタートアップには出資検討段階からハンズオンする担当者がついて、DNPの様々な事業部門やパートナーとの連携を支援します。出版印刷などの情報コミュニケーション分野を始め、食品包装や建装材、モビリティなどの生活・産業分野、電子デバイスやディスプレイ部材などのエレクトロニクス分野など、幅広い事業領域のアセットを提供しています。
具体的にどういったケースでスタートアップに出資または事業連携をしていくのでしょうか。またその方法は
モタイ:投資の方針ですが、新しいビジネスやテクノロジーを持つスタートアップで、DNP独自の「P&I(印刷と情報)」の強みを掛け合わせて、強い事業ポートフォリオ構築に取り組める各社と連携・共創をしたいと考えています。
最初はこういう部署でこういう事業ができるかもという事業部のメンバーとディスカッションをして、詳しく聞いてみたいということであれば面談を設定するところから始まります。スタートアップの事業内容を十分に理解し、その強みを活かして複数の事業部門、グループ会社との連携可能性を各部門のメンバーも含めて一緒に議論し、事業プランを練っていくような形です。
また、本社と事業部でも求めているものが異なり、本社のリクエストとしては数年(4〜5年)で事業を大きく変えるようなものが主眼になりますが、やはり足元がある事業部との接点づくりとなるとより短い期間で形になるものが多くなります。ただ、事業部の中にも新しいことをやらないといけない、という認識が生まれているのは事実です。
4事業を将来的なフォーカスとして掲げられていますが、特に注目しているテクノロジーはありますか
モタイ:AIやIoTは注目していますね。データを活用できる時代に入っていて、これまで取れなかったデータが取れるようになりました。こういう技術を活用し、私たちが強みとするサプライチェーンやヘルスケア、メディアでどのように活用できるのか検討したいと思っています。
また、前述の通り本社としてはより大きな視点で全体を見る必要がありますので、より幅広い応用が効く基盤的な技術が必要です。一方、各事業に近い所だとサービスやパッケージングされている、すぐに連携がイメージできるものがやはりよいですね。
具体的な共創のケーススタディを教えてください
モタイ:2020年7月に、モノのシェアリングサービス「AliceStyle」を手掛けるピーステックラボへの出資をしました。近年、伸張が期待されるシェアリングエコノミー市場がどの様に拡大していくのか、また、DNPの強みを活用した事業にはどのような可能性があるのか、そういった視点を出資先であるピーステックラボのハンズオン支援をしながら検討を進めています。
モノのシェアリングサービス「AliceStyle」
例えば、従来からDNPで販売しているアート作品の複製画を、AliceStyleを通じてサブスクリプション型でレンタルするビジネスを一緒に検討しています。今まで見いだせなかった新たなユーザーへアプローチすることができそうです。
掲げる持続可能な社会を作る、という点でシェア経済の確立は重要です
モタイ:はい、ただシェアリングエコノミー市場は拡大が期待される一方、利用者にもサービス事業者にも安心・安全や信頼性といった要素が求められています。DNPがこれまで多様な企業との取引で培ってきた知見やサービス、技術を活用できるのではないかと考えております。
このチームは広大な企業の適切な部門と、新たなテクノロジーやビジネスモデルを繋ぐ「ハブ」のような役割なんですね。今は何人ぐらいでやられてるんですか
モタイ:現在は限られた人数で幅広い事業分野を対応しているため、現状は国内スタートアップが中心です。今後は徐々に海外に対象をひろげていきたいです。特にエレクトロニクスやフォトイメージングなどの事業分野はグローバルにも対応していきたいと考えています。
大企業で幅広い事業分野を手掛けていると、どうしても自社の強みやアセットになかなか気づかないこともあります。是非スタートアップの方からも声をかけていただき、事業共創のきっかけにしていただければと思っています。
ありがとうございました。
ということでDNPのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回はヤマトHDの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。
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