- インタビュー
2023年02月27日
AIが温室効果ガス削減に役立つ、Allganize Japanと三井住友銀行がソリューションを共同開発
自然言語理解とディープラーニング技術を基盤としたAIソリューションを提供するAllganizeの日本法人、Allganize Japanと三井住友銀行は1月、温室効果ガス(GHG)の排出量算定時のデータ収集を支援する「Alli for Green」を共同で開発したことを発表しています。
これは対象となる企業が受け取ったPDFや請求書、報告書などの情報からGHG排出量算定に必要な情報を抽出してデータ化を支援するものです。Allganizeの自然言語処理技術を活用しており、様々なフォーマットの書類から情報を抽出できるだけでなく、抽出範囲を事前に設定する必要もない点が強みになっています。同社によると、GHGの排出量算定にかかるデータを手入力で実施した場合の業務負担を大幅に軽減させることができるとしています。
また、抽出したデータをGHG排出量算定ツールに連携しやすくするツールの共同開発も実施し、データ整備の省力化も図られています。三井住友銀行でもこのソリューション利用の検討を実施し、SMBCグループのGHG排出量算定業務の効率化を図る予定としています。
本稿ではソリューションを共同開発したAllganize Japan 代表取締役の佐藤康雄さんとBusiness Development Manager/弁護士の池上由樹さんに詳しいお話を伺いました。(文中の太字はMUGENLABO Magazine編集部)
Allganizeが提供する言語処理レベル(ウェブサイトより)
Allganize Japanと三井住友銀行さんが新たな取り組みを発表されました。まずは共創の概要とそこに至るまでの課題感やプロセスなどを伺いたいと思います
佐藤:話のはじまりは三井住友銀行さんにおいて脱炭素経営を支援されたい想いがあった中で、その想いに共感した、というのが元々の経緯です。弊社Allganize自体が、世の中の全てのワークフローをAIによって自動化し、ヒトにはヒトだからこそできる新しいチャレンジに志向してもらいたいという企業ビジョン、想いを持っているんです。
脱炭素経営で温室効果ガスの排出量算定といった話では、例えばガスや水道、電気などの請求書が送られてきて、その中から算定データとして必要な情報を転記する作業があるのですが、その作業はぜひAIに担当させていただいて、ヒトには温暖化低減させるにはどうしたらいいかなど、より未来に向けたアクションに携わってもらいたいと考えています。
三井住友銀行さんとの関係では、以前に出資もいただいている他、2021年にはSMBCグループのSMBC日興証券さんおよび三井住友カードさんのコールセンターに、我々のAIを導入いただいてるんです。弊社創業地のシリコンバレーで出会いがありまして、当時既に別のAIソリューションを使われていたのですが、課題が見えてきていたそうなのです。
AIの精度や、運用や導入の大変さ、コストパフォーマンスなどの課題をお持ちだったので、我々のAIソリューションがそこを解決できる自信があったのでご提案をさせてもらいました。それが2021年で、さらにどのようなチャレンジができるか模索する中、今回のAlli for Greenというアクションに繋がっています。
三井住友銀行さんの中でもコールセンターや出資関連、温室効果ガス算出の部門では違いがあると思うのですが、どのようなフローで評価されて話が進んだのでしょうか?
佐藤:SMBCグループさんではシリコンバレーに先進テクノロジーの研究ラボを置かれています。こちらのラボさんとデジタル系を推進する日本の部門が連携されていて、同ラボさんや同デジタル部門のみなさまとの連携の中で、コールセンターであったり、グループ内でのAIチャットボット利用であったりと、弊社AIの活用機会を広げていただく機会がありました。
デジタル推進部門がある種の社内課題を集約されていて、本件のマネジメントもされたということですね
佐藤:株主でもあるということで我々の技術力は随時アピールをさせていただき、できるものについては数値ベースでの証明をしていました。今回も脱炭素の経営を支援したいという想いがある中で、そのような背景もあってAllganizeの技術で何か解決できるんじゃないかと、検討に繋げることができていったのではないかと考えています。
三井住友銀行さんの法人のお客さま向け有償サービスとして提供されることになるのでしょうか?
佐藤:脱炭素経営を支援したいというテーマをお持ちのお客さまに、今回共同開発したソリューションを一緒に提供していくという座組みになっています。弊社の主担当としてやり取りさせていただいているのが池上なのですが、彼は日本とニューヨーク州の弁護士資格を持っているユニークなキャラで、当社でビジネス開発をやってくれています。
決まってからローンチに至るまではどれぐらいの期間がかかったんでしょうか?
池上:元々、技術検証として三井住友銀行さんの内部利用でユーザーさんも巻き込んだ形でPoCを始めさせていただいたのが一昨年の後半ぐらいです。数カ月のPoC結果を評価いただいて、さらに前進しようとなったのが去年の中頃ぐらいです。フィードバックを頂戴しながら開発を進めて、座組の整理やビジネスプラン、そのあたりを調整させていただいた上で今年の1月11日にプレスリリースとローンチをしました。
Alli for Greenの抽出イメージ(Allganize Japan Blogより)
メガバンクさんは新しい取り組みに時間かかりそうな印象があります
佐藤:銀行さんに限らず多くのエンタープライズ系のお客さまと取引してきましたが、一定のお時間が発生するのは確かです。これはエンタープライズという組織構成上、必要となる時間だとも認識しています。
ただ今回で言うと、先方内における速やかな意思決定があったり、我々自身もフィードバックへ迅速に対応するなど、我々自身に対してスピード感などプレッシャーをかけていたようなところもありました。デジタル部門の方々も世の中に必要なものを早く届けるために前進しようという想いがあって、両者前を一緒に向けた感じが良かったかなと思ってます。
池上:そうですね、デジタル部門のみなさまに調整をうまくやっていただいたと思っています。AIあるあるで、100%自動化できないとなかなか導入の意思決定が進まなかったりします。
ヒトでもAIでも当然100%は困難な部分はあって、我々の技術でできることとできないこと、その先のロードマップとしてできそうなことをきちんと整理、調整していく中で、かなりスムーズに進めていただいたと思います。
苦労されたポイントは?
池上:我々の技術を使って他社にはできないような精度で、温室効果ガスの排出量の算定に必要な情報を抽出していくところです。AIであっても人のチェックが最終的には必要です。
人のチェックが見方によってはユーザーさんの期待値と合わず、この差分をどのような形で工夫をして埋めていくのか。あるいは運用のところでカバーできる領域ではないのかといったところが振り返ってみると一番苦労したところで、デジタル部門の皆さんと知恵を絞って乗り越えた部分でもあります。
さらにメガバンクさんのようなエンタープライズだと要求される品質も最初から高いものが求められそうですね
佐藤:そこは厳しくて当然だと思っていまして、しっかり数値ベースで期待値をミートさせる、もしくは超えることは必須と考えています。あとは想いを一緒にすることはすごく重要だなと思っています。最終の意思決定時、数値だけだと他のベンダーさんがいらっしゃった時にそちらの取引期間が長いから、といった判断があり得ます。そこに想いや未来へのプランなどが加わっていることで、スタートアップでも勝てるのですよね。
しっかり丁寧に結果を見せることと想いを共にすることで信用を得る、そうやって僕はたくさんの会社様とご一緒してきました。信用を得ないと「名も無き」スタートアップでは取引できませんから。スタートアップとして、これまでそういう戦い方で乗り越えてきています。
サービスの料金プランなどはいかがでしょうか?
池上:サービスとしてはエネルギーに関する『毎月届く請求書』などを Alli for Green の方にアップロードしていただいて、ボタンひとつで必要なデータを抽出するものになります。そのようなサービスの性質上、料金体系は請求書の枚数がベースになっていて、月額30万円で1,500枚までの請求書について抽出ができるという料金プランになっています。
ーーここで少し Alli for Green について池上さんに解説してもらった3つのポイントを解説しておきます。このサービスは、請求書の読み取りなどで見かけるようになった「AI-OCR」などのPDFからテキストデータを読み取るサービスに加えて、読み取ったテキストデータの中から任意の情報を「自動抽出」までできるものです。
請求書などから、必要な情報をデータ化する際の共通した課題として、フォーマットがバラバラというものがあります。数枚であれば問題ありませんが、これが毎月1,000、2,000枚の処理となると、ヒトによる目視チェック・データ入力作業に膨大な工数がかかります。ここにAllganizeが持つ、自然言語理解の技術が役立ちます。
自然言語理解は、人間が見たり聞いたり書いたり読んだりする言葉の意味や意図を理解する技術です。これを活用することで、バラバラのフォーマットに記載されたエネルギータイプや使用量、期間などの項目を高い精度で抽出することに成功したそうです。
池上さんの話によると、他社のサービスであればここからここまで読み取るなどの事前の設定が必要である場合が多く、そうすると、フォーマットがあまりにも多すぎる場合は手動でやったほうが早いという判断になることもあるのだとか。
Alli for Greenの仕組み
Alli for Greenがこだわったのは「ボタンひとつでいろんなフォーマットに対応して自動でデータ抽出できる」というシンプルさであり、特徴になっています。また、仮にAIが誤った抽出をした場合には、ボタンひとつでAIにフィードバックすることができるように設計しており、将来にわたって、使いながら簡単に精度を向上させることできるように工夫しているというお話でした。
では、話をインタビューに戻します。
Allganizeの自然言語処理技術の使い方として、今回のようなソリューションは初めてだったのでしょうか?
佐藤:ベースのテクノロジー自体は以前から開発してアップデートしてきたものがありますが、使い方としては新しいケースです。テクノロジー自体ひとつの構成要素で出来上がってるものではないので、別のソリューションで既に活用している技術もありますが、パッケージとしては新しい取り組みになっています。
今回の協業についてお聞きします。Allganizeとして協業に至る経営判断はどのようなポイントにおいて実施されたのでしょうか?
佐藤:脱炭素経営は世界的テーマになっていますよね。そこに我々の会社のビジョンも合致してるので迷わずやりたいと思える領域でした。今回は三井住友銀行さんの想いもあって前に積極的に出られているので、三井住友銀行さんの想いとブランドと共に一緒に展開することで広く展開できるかなという判断は当然ありました。
最後に今後の展望などお聞かせください
佐藤:大きなところから話していくと、Allganizeは昨年、日本に本社機能を持ってきています。元々2017年に創業して米国に本社を置いて、米国、韓国、日本と支社を置いてやっていましたが、日本の事業が好調だというところもあって、昨年本社機能を日本に持ってきてホールディングスを設立しました。
ホールディングスで現在、IPO準備にも入っておりまして、成長できる領域でプロダクトをローンチしていこうと思っています。Alli for Green もその中のひとつとして意思決定をしたプロダクトです。これを実現する技術はこのサービスだけに使い道があるということではなくて、他にも展開できるものになりますので、我々のビジョンに合致して、マーケットもあってプロダクトマーケットフィットもとれるようなものであれば、この後も広く展開していこうと考えています。
直近もOpenAIのChatGPTがすごく話題になってますが、自然言語の力は本当に進化していますし、ソリューションとしての活用領域は本当に広いんです。ChatGPTは脅威かとよく言われますが、逆にワクワク感しか感じていなくて。我々自身も進化できますし注目度も上がっています。
池上:Alli for Green の観点で言いますと、可視化の流れはどんどん加速していきます。2050年までにネットゼロの社会的な要請もある中で、一方で足元のデータの準備は課題だよねというなお客さまがたくさんいらっしゃいます。そのようなお客さまに Alli for Green の商品を提供させていただいて、ネットゼロに向けた取り組みを最大限支援できるようにできればなと思ってます。
脱炭素の文脈以外でも、たとえばインボイス制度などのようにデジタル化に向けて何かやらないといけないという大きな流れはあるのだけど、実際に足元どうやって目の前の課題を解決したらいけばよいかわからないようなお客さまに対して、我々の技術を活用して取り組みのご支援ができればなと思っています。
ありがとうございました。
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