- インタビュー
2023年02月22日
【Web3起業家シリーズ】非Web3ユーザーも楽しめるゲームづくりと、エンタメ産業のチャンス(2)——Game Changer 山田氏&木村氏
前回に続き、Web3ゲームパブリッシャーのGame Changerから、山田雄大氏さんと木村源基氏さんに話を伺います。まだまだメインストリームに至っていないWeb3ゲーム、ブロックチェーンゲームですが、一般ゲーマーにまで浸透するには今後どのような努力や環境整備が必要になってくるのでしょうか。
前編はこちら:【Web3起業家シリーズ】往年のヒットゲームをWeb3化、メーカーもユーザーもWin-Winなモデルとは(1)——Game Changer 山田氏&木村氏
また、法律や従来からある取引慣行が通用しないため、一般的に大企業はWeb3ビジネスにはまだ関わりにくいと言われています。日本に数多くある、映画・音楽・ゲームなど強い独自IPを持つエンタメ企業大手が、Web3ゲームの分野に挑戦する価値はあるのでしょうか。Game Changerの将来構想も交えつつ、Web3ゲームの今後について、お話を伺いました。
一般論として、ブロックチェーンゲームには、ユーザーはアイテムを転売できたりゲーム会社は不正を防げたりするメリットがありますね。実際の使われ方としてユーザーとゲーム会社それぞれでどういう側面が一番受けているのでしょうか?
木村:ユーザーさんにとって一番大きいのは、プレイした時間に経済的な価値を付けられるところかと思っています。稼げることがメインになっている人は稼ぐだけですが、一般ゲームユーザーさんからすると、楽しいゲームをやったらさらに上達したご褒美としてお金もちょっともらえちゃった、というようなところはやっぱりあるかなと思います。
また、一部にはソーシャルな面もあるかなと思っています。マーケティングの一環でDiscordを使ってますが、今その中でコミュニティが活発に動いてます。このゲームはどうやって攻略するのがいいんだろう?とか、このカードが欲しいから持ってる人いない?とか、そんなインタラクションもかなり起きていて、ユーザーさんからすると結構面白い点かなと思っています。
ゲーム会社さんの視点では、新しい属性のユーザーさん達が取り込める点かなと思います。ブロックチェーンゲーマーみたいな、今までソシャゲで入ってこなかった人たちが入って来るというのもありますし、地理的にも、今まで日本のユーザー中心にやってきたとしても、BCGはグローバル配信であることが多いので全然違う地域の人がユーザーとして入ってきます。さらに、Web3版のゲームを楽しんだ方々が、面白かったからWeb2版もやってみよう、という流れで既存のゲームの寿命が延びるという副次的な効果もご好評をいただいています。
山田:ゲーマー視点では、我々はあえてFree to PlayとPlay and Earnのハイブリッド型にしています。Play and Earnは一見魅力的に聞こえながらも、実はかなりストレスのかかる仕組みでもあると考えています。稼げるとはいえど時間もかかり、今までのゲームでは急にトークン価値が暴落したりもしましたし。我々としては、ゲームの面白さ、原点って何だろうと考えました。それって、空き時間で気軽に楽しめること、スナック菓子のようなものですよね。
基本はFree to Playから入ってくださいということです。本当にチームを強くして勝負したいと思った時だけ、自分の意思でPlay and Earnの方に参加するようなゲームサイクルを作っているんです。それが今のところ好評です。PvPをやらない人も当然いますし、夜しかやらない人とか1日の稼いだ量を見ながら調整できるという点が好感を持ってもらってるところかなと思います。
Co-Founder 山田雄大氏(左)・ CBDO 木村源基氏(右)
これからもっと一般のユーザーに使ってもらうためには、さらに何が必要なのでしょうか?
木村:端的に言うと、マーケティングかなと思っています。いろんな要因があるんですけども、まだあまり本格的にマーケティングしていません。一つにはクリプト関係のサービスとなると、有料広告が一部規制されている状況があります。TwitterやDiscordを使ったGiveawayと呼ばれるキャンペーンや、インフルエンサーマーケティングを実施してきましたが、それで集まってきた人はWeb3界隈の人たちが多くなっています。
もう一つは、ゲーム内で多少バグが発生していたりするので、今、本当にゲームを見る目がシビアな人が入ってくると、それを理由に抜けられても困るというのもあるので、その対応もやっているところです。もう少しでそれが終わるので、そうなった時にはもっと大々的に一般のゲーマーさんたちに向けたマーケティングをしていきます。
サッカー系のYouTuberやゲーム実況YouTuber、VTuberといったインフルエンサーにマーケティングを手伝ってもらうとか、サッカー系のオンラインメディアに記事を書いてもらうとか、宣伝してもらうとか、そうしたことを通じて、一般のサッカーファンやゲームファンも入ってきてほしいなと思っています。
山田:一つソシャゲと全然違うところは、勢いよくユーザーが流入することが場合によってはリスクでもあるという点ですね。流入があればあるほど皆がゲーム内のコインやトークンを使用するので、そこでインフレが起き、どこかのタイミングで皆ゲームから流出してコイン・トークン価格もそれに応じて下落する。これはAnimocaさんともよく話すことですが、マーケティングは急ぐなということです。マーケティングに資金を投下すればするほど、当然ユーザーは入ってきます。だからこそ、まずはそのユーザーとの信頼関係を構築することが大事です。
例えば今ちょうどウィークリーでトーナメントを行っています。ゲーム内にリーダーボードがあり、透明性高く公平に競わせて、上位の人たちに賞金を渡すルールにしてるのですが、ちょうど1週目が終わり、24時間以内に賞金の支払いを完了させました。ユーザーの声に耳を傾けながら、タイムリーさが求められる行動は最優先して実行し切る。こういった小さな行動の積み重ねが、ユーザーとの信頼関係の構築に繋がっています。
どのようなサービスであれ、まずはイノベーター、アーリーアダプターと丁寧に対話を重ねる。それなしには、マスアダプションは到底不可能だと考えています。信用がない限り、どんなにマーケティングにお金を使っても、1日2,000人とか3,000人とかいうダウンロードがあったとしても、皆すぐいなくなってしまう。
ブロックチェーンゲームの場合はゲーム内コインにもアイテムにも経済価値があるので、ユーザーがいなくなることと同等に痛いことが、ゲーム内コイン・アイテム価値の暴落です。本当にゲームが好きな人たちも被害を受けてしまうからです。ゆっくりと信用を築き上げながら、このゲームを伸ばして行きたいので、コアユーザーさんたちからゲームの作りに対するフィードバックを得るなど、コミュニティ醸成を大事にしながらやっていきたいと思います。
「BCF23: Football Manager Game」
まずは信用を第一に考え、そこからマーケティングを行うということですね。
山田:木村と私、2人とも金融出身なんですよね。商業銀行であれ投資銀行であれ、全ては信用がベースになっている。トークノミクスもまさに同じで、少しマクロ経済的な視点もあったり、資金供給者である中央銀行的な視点もあったり、ユーザー間はゲーム理論に似た駆け引きがあったり、一つの経済圏を作り上げていく要素が強いと感じています。急ぎすぎると積み上げたものが全部吹っ飛んでしまうので、利益先行よりも、コミュニティ育成や信用構築を再優先するスタイルこそが、我々のモットーと言えます。
大企業との協業やオープンイノベーションで、期待されることはありますか?
木村:上場企業にとってWeb3は試してみたいけどなかなか難しい領域だと思うんです。自前でトークンを発行できないですし、監査を受けられなくリスクも厳しいです。我々はある程度リスクテイクもできますしスピーディーに動けるので、実験台として使ってもらうというのはあるかと思っています。実際、上場しているゲーム会社さんと協働するものの我々が前面に立つ形でゲームを作って、その結果どんな示唆が得られたかをフィードバックとしてお返しする、という事例もあります。
逆に我々の方から期待するところとしては、一度試すと決めたらやりきってみることが大事かなと思います。仮想通貨やNFTの価格が乱高下するので一喜一憂して取り組みの熱量を簡単に変えず、見切りをつけるにしてもなにかしらの教訓が得られる程度にはしっかりとやってみることが、成功の角度を高めると思います。
山田:そもそも当社を立ち上げた経緯にも紐づくんですが、ブロックチェーンという技術によって信用という概念が180度変わってしまうなと考えました。日本の強みは人としての「信用」・「信頼」。それが日本の美しさであり、誇りでもあり、そして国力でもあります。日本がこのブロックチェーンの領域で乗り遅れるわけにはいかないと思い、帰国してGame Changerを立ち上げたんです。
日本を代表する会社さんとブロックチェーンという領域で協業し、メインストリームのユーザーを取り込める事業にまで成長しない限りは、我々のミッションは達成されません。どんなサービスであれ、マスアダプションへ向けてキャズムを超えていくためには、資金力と忍耐力の両方が求められます。日本の大企業さんとは、日本の強みであるコンテンツ・IPであったり、資金調達面であったり、さまざまなところで長期的な取り組みをさせていただきたいと思っています。
木村:一つだけ付け加えるとすると、協業の可能性はゲームに限ったものではないと思っています。現在Game ChangerというWeb3ゲームプラットフォームを手掛けていますが、Web3の中で一番スピーディーに広まりそうな領域がゲームだったからゲームから始めているという側面もあります。
先ほど申し上げたように、大企業さんの中にはWeb3を試したいけどちょっと躊躇してるみたいな人たちもいると思うんですが、Game Changerはゲームだからダメかなとは思っていただきたくなくて、ゲーム以外の領域、例えば会員権のNFT版みたいなロイヤルティサービスでも、NFTマーケットプレイスでも、あらゆる面でサポートできると思っています。
山田:Game Changerは、法人をシンガポールで立ち上げて、メンバーは東京と、西海岸にいるスタンフォード出身のエンジニアチームと、カスタマーサービスはブラジル、フィリピンとかなりグローバルなメンバーでやっています。まさに総力戦体制です。ニーズに合わせてGame Changer側のプラットフォームもどんどん進化させていく必要があると思っているので、今後いろんなエリアで幅広くビジネス開発をしていきたいと思っています。引き続きよろしくお願いします!