- インタビュー
2023年02月22日
【Web3起業家シリーズ】往年のヒットゲームをWeb3化、メーカーもユーザーもWin-Winなモデルとは(1)——Game Changer 山田氏&木村氏
ゲーム業界の事業者は、ゲームを配信するゲームパブリッシャーと、ゲームを開発するゲームデベロッパに大別されます。ゲームパブリッシャーは、多くのユーザーにリーチできるプラットフォームを作り、人気タイトルを多く持つゲームデベロッパを集めることが事業成功への近道ですが、一方で、ゲームデベロッパが成功する黄金ルールはあまり聞いたことがありません。
ゲームは、映画や音楽など他のエンタメビジネスと同様、世に出してみないと当たるかどうかはわからない側面があります。ビジネスとしては、良質のコンテンツをスピーディーに出し続けることが重要ですが、それには莫大な開発コストがかかります。ましてや、Web3ゲームという新しいゲームカテゴリでは、これまでの業界の方程式が通用するとも限りません。
昨年12月、東京やシリコンバレーに拠点を置くWeb3ゲームパブリッシャーのスタートアップGame Changerが14億円相当をトークンで資金調達しました。多くのブロックチェーンゲームを手がけるAnimoca Brands、サッカーメディア企業のOne Footballの2社がこの調達ラウンドをリードしたことで、Web3ゲーム業界からもスポーツ業界からも注目を集めています。
資金調達直後に配信を発表したサッカークラブ育成ゲーム「BCF23」は、サイバードがPlayNextと共同開発し、2013年に配信を開始した「バーコードフットボーラー(世界版は「BARCODE FOOTBALL」)」の Web3版でした。往年のヒット作をWeb3化しリバイバルさせるモデルがどういう意味を持つのか、Game Changer経営陣のお2人にお聞きしました。
Co-Founder 山田雄大氏(左)・ CBDO 木村源基氏(右)
Game Changer、そして、山田さんと木村さんについて教えてください。
山田:私は2021年終わりまでニューヨークで6年間過ごしておりましたが、特にコロナ後、ブロックチェーンに対する慎重姿勢が一変し、国をあげて規制・制度改革に前向きな姿勢を一気に打ち出し始めたことを肌で感じていました。この成長ポテンシャル溢れる領域で日本が出遅れてはならないと感じ、帰国してGame Changerを創業しました。
創業直後、ビジネス開発の責任者としてジョインしてくれた木村は、日本のゲーム会社さんとのビジネス開発を担当し、先ごろローンチした「BCF23」ではマーケティングやオペレーションといったかなりハンズオンの部分まで担当しています。
木村と私はそれぞれMBA留学して以来の友人で、いつか一緒にビジネスをやりたいと考えていました。Game Changerの大きなミッションは、ブロックチェーンゲームのメインストリーム化、中長期的な視点に言えばブロックチェーン技術の実用化を後押しすることです。
様々な業界を見ていた中で、ゲームは既にゲーム内コインを稼いだりアイテムを集めて交換する特性があったり、また課金プロセスも内包されていて、ブロックチェーン技術との親和性が最も高い領域の一つであると感じていました。
メインストリームのゲーマーに、より簡単にブロックチェーンゲームを楽しんでもらう。開発会社にとっては、より手軽にブロックチェーンゲームを作ることができる。それが我々が今目指している世界です。我々としては新しいゲームを作っているわけではなく、すでに人気のあるゲームをターゲットに、Game Changerがパブリッシャーとして開発会社と協業し、ブロックチェーンゲームとして再リリースするというスキームをとっています。
ゲームについては、いわゆるソシャゲ(ソーシャルゲーム)のユーザー体験を敢えて極力残したいと思っています。まずはゲームの面白さが何より大切ですが、例えば、他のゲームと同じようにネイティブアプリとしてApp StoreやGoogle Playからダウンロードできること、ゲーム内の課金もトークンではなくクレカで課金できること、など様々な工夫を入れています。
ブロックチェーンゲームでまずハードルとなる点は仮想通貨のウォレット周りだと思うのですが、我々のゲームは「Free to Play」と「Play and Earn」のハイブリッド型にしており、ゲームスタート時にはウォレットが不要です。NFTを購入しなくてもプレイできるような作りになっており、これがゲーマー視点から見てブロックチェーンゲームを始める上で一番大事な点だと思っています。
開発会社側の視点もセットでお話しますと、開発会社さんのボトルネックの一つは、ゲームを企画、開発、ローンチするのに少なくとも2-3年はかかるところです。不確定要素が多いと言われるブロックチェーンゲームに、普通の開発会社さんならそんな大きくは投資できない。そのような環境下、我々と一緒に既存のゲームのソースコードを生かして、より早く、より簡単にブロックチェーンゲームをローンチしましょう、ということを一つのメッセージとしてやっています。
ビルドアップする中で一番難しく手間のかかる、いわゆるNFTの購入やトレードに必要なマーケットプレイスなども、Game Changerが独自のプラットフォームを開発済みですので、開発会社さんはノータッチで大丈夫です。我々がAPIを公開して、既存のゲームをブロックチェーンゲームとしてGame Changerプラットフォームに繋げられる作りだけを付け足していただきます。
トークンの発行、流通市場周り、ゲームの広告宣伝やライブ・オペレーションもGame Changerがパブリッシャーとして対応することで、すでにあるゲームをいち早くブロックチェーンゲームとしてローンチして、ゲーマーさんにはソシャゲと似たユーザー体験を極力残して提供していきたい。それがGame Changerのビジョンであり、かつやっていることです。
10年前のソシャゲをWeb3対応した時に「もう古い」と思う人や「新しい体験」と思う人など様々だと思います。ユーザーの反応はポジティブだいうことでしょうか?
山田:どのゲームを最初にモデルにするかはかなり深く議論しました。「バーコードフットボーラー」は香港でまだ1日に10万人ものゲーマーがプレーしているゲームなんですよね。今でも人気のあるゲームからスタートしたいと考えました。
新しいゲームを作るというよりも、エバーグリーンゲームというか本当に20〜30年前からあるゲーム、すでに人気があって証明されてるゲームをベースにブロックチェーンゲームにすることがGame Changerのコンセプトです。
我々がこの議論を始めた2022年頭くらいの時期は、既に世界中のブロックチェーンゲーム会社が安定したゲーム内エコシステムの設計・構築に苦戦していました。「人気が証明されているゲームを活用することで変数を一つでも減らし、トークノミクス設計に集中しよう」。(当社の)リード投資家でありAxie Infinityの投資家でもあるAnimoca Brandsとこう決めました。
我々が採用しているモデルは、PvPでユーザー間で直接対決をさせて、ゼロサムゲーム(参加者の得点と失点の総和がゼロになるゲーム)にすることでゲーム内のトークンのインフレーションを抑制するスキームです。そうなると、真新しいものを作るよりも、ユーザーが慣れ親しんでいて使い勝手が分かっているゲームから始めた方が都合がいいので、バーコードフットボーラーを選びました。
なるほど。今後も基本的なラインナップは割とみんなが遊び慣れていて、新しいゲームを始める学習コストがあまり高くないものになるわけですね。
山田:そうですね。特に開発会社さんからしても、新しいゲームを出すのはかなり大変かつ社運をかけたプロジェクトです。我々としてはですでにあるゲームをいち早くマーケットに出したい。特にブロックチェーン業界は、マーケットトレンドや流行など動きがあまりにも早く、3か月先も見えづらい。3年間の計画を立てて良いゲームを作る姿勢では世界で勝ち切れないので、今あるものでブロックチェーンのWeb3のゲームを試していきましょうとゲーム会社さんと話しています。
「BCF23: Football Manager Game」
ゲーム会社さんと話を進め、実際にWeb3対応してローンチするまでスケジュールはどのくらいでしょうか?
木村:最短3〜4ヶ月で、平均6ヶ月ぐらいということでお話をさせていただいてます。一般的な最近のソシャゲですと1〜2年が当たり前になっていますが、我々は基本的に既に存在するゲームをWeb3化するため、短期間の開発が可能です。
スケジュールに限らず、ゲーム会社さんやユーザーさんとコミュニケーションする上で、我々がどんな課題を解決しているかについてよくお話するのですが、まず誰にとってもWeb3のBCG(ブロックチェーンゲーム)はやはりハードルが高いという点が挙げられます。
ゲーム会社さんにとっては、今まで専門にしてこなかったところ、すなわちブロックチェーンとの接続やトークノミクスの設計などが求められます。そこはゲームの面白さとはあまり関係なかったりするので、その辺りは我々の方で巻き取ります。御社は面白いゲーム作りに集中してください、とお伝えします。
マーケティングについても我々のプラットフォームとしても実施したり、一部代行したりしておりますので、ゲーム会社さんの課題である開発コストやマーケティングコストを抑えることでBCG開発のハードルを下げますという形でセールスしています。マーケティングの側面でさらに言うと、プラットフォームで共通のトークンを利用するので、ユーザーさんはプラットフォーム上のゲームを行ったり来たりするようになり、ユーザーのリテンションも高まることが見込まれます。そんなところにも期待をしていただいています。
ユーザーさんの目線に立つと、ブロックチェーンゲームはウォレットを作らないといけないとか、初期にNFTを買わないといけないとかといったハードルがあってなかなか入ってこれないユーザーさんが多いですが、そこを排除した作りで提供できますよ、とアピールしています。とりあえず普通のソシャゲを楽しむ感覚でよくて、おまけとしてトークンや金銭的な価値のあるものが得られるわけです。
そんなセールスを展開しているわけですが、特にゲーム開発会社さんの中でも、中堅中小規模の会社さんに非常に受けが良いです。大手ですとそれなりに自社のリソースがあるので、社内で出来てしまうか、やりたいと思っているというところが多いですが、中堅中小になるとなかなか自前でブロックチェーン対応まで出来ない、トークノミクスの設計も難しいというので頼っていただけるケースが多いです。
一方、どんなユーザーさんが入ってくるのかというと、初期的にはいわゆるブロックチェーンゲームファンが多いです。ただ、我々の売り方としてハードルを低くしてやっていますので、ブロックチェーンゲームに興味があるけども、まだちょっと二の足を踏んでいたような人たちも入ってきています。
後はピュアなゲームファン。元々「バーコードフットボーラー」が好きだった人たちも入ってきてくれています。まだマジョリティーとしてはブロックチェーンゲーム好きが一番多いですし一番マネタイズしてくれてはいますが、今後は、一般ゲームファンの方々がどんどん入ってきて、「やっぱり面白いね」と思っていただいて課金もしてくれるという流れでやっていきたいと思っています。
山田:このブロックチェーンの領域は、リスク・リターンが見えづらく、リスクを取らないのが正解という考え方も一部あると思うんですよね。先ほど木村も言っていましたように、ゲームは面白さがやはりどう考えても重要です。我々はスタートアップとしてリスクマネーを海外投資家から調達して、我々がリスクを取ってパブリッシャーとして表に立ってやっていくので、ゲーム会社さんには「御社の良さを最大限引き出させてください」と伝えています。
大企業さん、特に上場会社さんは、報告義務や監査など、いろいろ複雑な手続きが求められますが、我々はスピード、機動力を武器に推し進めていける長所があります。木村と私で日本のゲーム会社さんと意見交換し、ゲーム会社さんが今であれ将来であれ、ブロックチェーンゲームに一歩でも踏み出しやすい環境を整えること、メインストリームのゲーマーさんが入ってくれることが我々のミッションだと思っています。
後編へ続く:【Web3起業家シリーズ】非Web3ユーザーも楽しめるゲームづくりと、エンタメ産業のチャンス(2)——Game Changer 山田氏&木村氏
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