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2023年04月25日

ジェネレーティブAIが車をデザインする時代へーー自動運転EV開発チューリング田中氏に聞くその方法

Turing(チューリング)は3月15日、画像生成AI「Stable Diffusion」を活用しデザインされた完全自動運転EVのコンセプトカーを公開しました。同社によるとStable Diffusionをデザインプロセスに導入した世界初の事例となるそうです。同社は完全自動運転EVの量産を目指すスタートアップで、シードラウンドで10億円の資金調達を実施しています。


また、同社は完全自動運転を実現するための国産大規模言語モデル(LLM)開発に着手したことも公表しています。同社によると、完全自動運転の実現には、人間と同等以上にこの世界を理解した自動運転AIが必要であり、LLMはそのアプローチに有効だとしています。チューリングが開発するLLMは、現実世界への適応力、リアルタイム性と計算効率、安全性と堅牢性に注目して開発されるそうです。


経済産業省によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」にて支援企業にも選出された同社に、今回のコンセプトカー公開までの経緯をお聞きしました。(太字の質問はMUGENLABO Magazine編集部。回答はチューリング取締役COOの田中大介氏。敬称は略させていただきました)



COO 田中大介氏

画像生成AIを用いたコンセプトカー発表に至った背景を教えてください

田中:私たちは2030年までに技術的に完全自動運転を実現した上で、自社の車を1万台生産して販売するという目標を設定しています。今回発表したのは、その未来に向けたコンセプトカーです。2030年に販売したいと考えている車のコンセプトを、社内外でしっかりとイメージを持ってもらうために、まずこのコンセプトカーを作りました。

このコンセプトカーは、技術的に完全自動運転を実現し、広くてゆったりした空間がある居住性を考慮しています。結果としてミニバンのような形状のコンセプトカーになっています。

デザイン制作は日南社との協業になるんですよね

田中:はい、カーデザイン業界で長年活躍されている日南さんに協力してもらいました。今回のプロジェクトでご一緒したデザインの責任者である猿渡さん(取締役デザイン/エンジニアリングデビジョン統括本部長)は、元日産でこの道30年以上のプロフェッショナルです。

実際にどのようなプロセスでデザインされたのでしょうか?

田中:どのような感じで進めていこうか、という話からディスカッションを始めました。最初にはプロンプト(※)を出すためのブレストのようなステップから始めて、スポーツカーや自動運転、EV、ラグジュアリーなどのカテゴリーからアイデアを出していきました。

そこから、何が良いかをカテゴライズしていく過程で、最終的にはミニバンのような形状が決定されたというわけです。最初からミニバンのような形状をイメージできていたわけではなく、「そもそもどの様な車にするのがよいのか?」という部分についても模索しながら進めた感じですね。

※プロンプト:ジェネレーティブ(生成型)AIで結果を出力するために必要な自然言語の指示

最後はどのようにして絞り込んだのでしょうか?

田中:ブレストを重ねる中で「ラグジュアリーなクルーザーみたいな方向がいいんじゃないか」といったアイデアを出し合い、お互いのイメージを共有しながらアイデアを出し続けました。

Stable Diffusionを活用することで瞬時に大量の画像を生成することが可能になるので、両社でしっかりとイメージを固めながら仕事を進めることができました。画像を生成しては捨て、ということを繰り返したので、デザインプロセスの中ではのべ2万枚以上の画像を生成していたと思います。

言葉がイメージになると、スピード感がありそうですね

田中:そうですね、例えば一般的なデザインのブレストを行った後には、外観のデザインについてのアイデアが反映されたスケッチが出てくることがあるのですが、1〜2ヶ月ほど時間がかかることもあります。

さらにその後のプロセスで、それをどう見るかを決めていくわけですが、このようなプロセスを数回繰り返しているので、一般的には、カーデザインに半年とかそういう単位で時間がかかると考えていいと思います。それがアイデア出しの段階も一瞬でできてしまいますからね。このスピーディーな進行は、現代的で面白いと感じました。


コンセプトカーイメージ

コンセプトを作り上げたところから発表まではいかがでしたか?

田中:実際の作業時間は1ヶ月半でしたが、実際、その間には両社ともに2週間ほど稼働していなかった期間がありました。それでも発表までの期間は2ヶ月ほどで、非常に早かったと思います。

日南さんは車の製造に何十年も携わってきており、今回のプロジェクトでも、私たちがリリースした通り、平面画像だけでなく、デジタルモデリングや、CGのレンダリングなども行い、3Dプリンターを使用してスケールモデルを作成するなど、非常に詳細に作業を進めることができました。日南さんも、1カ月半でここまでできるとは思ってなかったというくらいのスピード感です。

コストはどうなりますか?

田中:コストも当然効率化できたと思います。彼らも生成AIを利用してこのようなビジョンを制作することは初めての経験だったと思います。ただ、単純に「これを使って安くやってください」ということではなく、お互いに新しいチャレンジをして面白いことをやっていこうということの方が大きかったですね。

CGを作って、デジタルモデリングをして、デザインを起こして走っている動画まで作って、スケールモデルまで作るというのはこれまでなかったのではないでしょうか。

キーワードで自由に車がデザインできるというのは想像が膨らみますね

田中:可能性はいろいろあると思いますが、一方でご認識の通り、車の場合は法規を遵守する必要があり、その要件をクリアしなければ公道を走ることはできません。

様々なアイデアやコンセプトを作るという部分について、AIの活用は間違いなく役に立ちますが、最終的に法規に沿ったデザインに仕立てていくという部分については人間が調整を重ねていく必要はあると思います。

自動車におけるAIの利用が広がったと

田中:当社の基本スタンスは完全自動運転の実現です。完全自動運転を実現するために弊社がとっているアプローチは「良い目、ではなく良い頭を積むこと」です。人間が運転できる理由は、頭が良く、人間が社会のことを理解しているからだと思います。例えば、小学校の近くを車で通る場合、子供の姿が見えなくても周囲に気を配りながらゆっくり走ろう、とか。

当社がやるべきことは、カメラを用いて周りの状況を正確に把握し、人間と同様の判断力(頭)を持つAIを開発することだと考えています。高性能のセンサーを積んだり、3Dマップを予めインプットするのではなく、まさに、人間が目で見たものを頭で判断して運転しているのと同じアプローチをとっているのです。引き続きこのアプローチを継続して「完全自動運転」という目標に向けて取り組んでいきます。

今後どのようなパートナーと一緒に協業進めたいですか

田中:課題としてあるのが自動車の製造に取り組むことが極めて難しい、という問題です。自動車にはたくさんの部品があり、それぞれのサプライヤーさんとのやり取りが無数に発生しているため、部品供給に関わる企業とのパートナーシップの構築が必要です。これは自動車製造に取り組む上で永遠に続くことだと思っています。

もう一つありうるのがデータです。我々は今、走行中の動画データと走行データを収集していて、これらを学習データとして使用することが可能です。このようなデータを一緒に活用してくれる企業とは連携していきたいですね。

ありがとうございました

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