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2026年05月13日

Alumni Ventures、東大IPC、KDDIが示す、日本スタートアップの海外展開戦略

Alumni Ventures Japan株式会社
中田 竜太郎
代表取締役 日本代表
東京大学協創プラットフォーム開発株式会社
河合 将文
チーフ・インベストメント・オフィサー
KDDI株式会社
清水 一仁
オープンイノベーション推進本部 OIビジネス開発部 2G グループリーダー

2026年4月27日、アジア最大級のイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2026」の舞台で、日本のスタートアップエコシステムの未来を議論するセッションが開催された。


戦略的提携の幕開け

「日本スタートアップのための海外展開戦略— グローバル成長のリアルと次の一手」と題されたこの講演には、KDDI株式会社の清水氏をモデレーターに、米国トップクラスのVCであるAlumni Ventures (アルムナイ・ベンチャーズ)よりAlumni Ventures Japan株式会社 代表取締役 日本代表の中田氏、そして東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(以下、東大IPC)のチーフ・インベストメント・オフィサーである河合氏が登壇。まさにこの日の朝10時に3社から発表されたばかりの戦略的提携をテーマに、熱い議論が交わされた。

セッションの様子

3社による戦略的提携の発表は、日米エコシステム連携の深化、米国VCモデルの日本への応用、大学発イノベーションのグローバル展開など、複数の視点から「次の一手」が示された内容であった。

セッションの冒頭では、本提携が目指す「Go Global」の新たな定義が力強く提示された。それは、単に海外で売上を立てる、あるいは海外法人を設立するといった表面的な活動を指すのではない。シリコンバレーをはじめとする米国のトップティアVCから資金調達を成功させることこそが、世界基準で「成功した」と認められるための、最も重要かつ本質的なマイルストーンであると再定義された。

「1万2000人の応援団」を持つVCとの共闘

この壮大な目標を実現するため、KDDIと東大IPCはリミテッドパートナー(LP)としてAlumni Venturesへ出資し、日本のスタートアップを共同で世界市場へ送り出す戦略的提携を開始した。Alumni Venturesが他と一線を画すのは、そのユニークな成り立ちにある。全米トップ大学の卒業生(アルムナイ)である個人富裕層、約1万2,000人がLPとして名を連ねる、強力なコミュニティを基盤としているのである。

この「アルムナイ」たちは、単なる投資家にとどまらない。有望なスタートアップを紹介する強力なディールフローエンジンとして機能するだけでなく、投資先のデューデリジェンスにおいては専門的知見を提供する「アドバイザー」の役割も担う。そして何より、投資先を成功へと導くための熱狂的な応援団となると、Alumni Venturesの中田氏は述べた。

Alumni Ventures Japan株式会社 代表取締役 日本代表 中田 竜太郎氏

100倍成長を前提としたストーリー設計とグローバル視点

では、日本のスタートアップがそのマイルストーンを達成するために、何をすべきなのであろうか。セッションでは、具体的な3つのアクションが提示された。
第一に、「100倍、500倍のストーリー」を創造し、語りきることである。
米国のVCは、投資ポートフォリオ全体で桁外れのリターンを生み出す「パワーロー」の法則を信奉している。ユニコーンになることは最低条件であり、その先にある「100倍、500倍」の壮大な成長ポテンシャルを、具体的なデータと熱量を持って語りきれるか。そのストーリーこそが、トップVCの心を動かすのだ。

第二に、「Day1」からグローバル経営を設計することが求められる。
日本市場への過度な最適化は、グローバル展開の足かせになり得る。創業初日から、世界で通用する顧客定義、スケーラブルなプロダクト設計、そして多様なバックグラウンドを持つチーム構成といった「経営の多様性」を、企業のDNAに深く埋め込むことが、これまで以上に重要なのである。

第三に、日本人ならではの強みを価値に変え、世界に届けることである。
「日本人の良さを生かして世界で戦うにはどうすべきか」。清水氏からのこの問いに対し、Alumni Venturesの中田氏は、特にシード期の投資において「人(People)」を最も重視しているとした上で、日本の起業家は奥ゆかしさがゆえに、情熱を内に秘めて覆い隠してしまっているケースが多いと指摘した。

一方、東大IPCの河合氏は、日本のものづくりの強みは製造スピードや価格競争力ではなく、職人的な探究心から生まれる「深さ」にあると語った。この「深さ」こそが、グローバル市場で戦うための強力な武器となり得る。内に秘めた情熱を解放し、この「深さ」という価値を、コミュニケーションを通じて世界に伝えきること。それが、日本の起業家に求められる姿勢なのである。

東京大学協創プラットフォーム開発株式会社 チーフ・インベストメント・オフィサー 河合 将文氏

支援者の覚悟

変革はスタートアップだけの課題ではない。VCや事業会社といった支援者自身にも、マインドセットの変革と具体的なアクションが求められる。セッションの最終テーマとして、支援者の果たすべき役割が議論された。支援者は、もはや単独でスタートアップを支えきることはできない。Alumni Venturesのような現地のトッププレイヤーと連携し、スタートアップを繋ぐ「ハブ機能」を担うべきである。それは、海外市場への参入インターとして、現地のルールを学び、エコシステムの一部になるという覚悟を持つことを意味する。

東大IPCの河合氏は、「我々単独でできることには限界がある」と話した上で、支援の基本戦略を次のように語った。それは、自前のリソースを最大限活用しつつも、海外のトップVCやアクセラレーター、研究機関といった、現地に根付いたパートナーとの「戦略的パートナーシップに基づく協働体制」を構築することである。

海外のパートナーは、単なる資金提供者ではない。現地の制度理解を助けるアドバイザーであり、グローバルな経営スタイルを確立するためのメンターでもある。河合氏は、こうしたパートナーを「グローバル市場へ展開していく時の『参入インフラ』」と捉えるべきだと強調した。特に、政府機関などが初期顧客となりうるディープテック分野においては、現地の産業政策への適応が必須であり、こうしたエコシステムを構成する「参入インフラ」への接続そのものが、市場参入戦略の核となるのである。

さらにAlumni Venturesの中田氏は、「支援者こそ、例えばアメリカシリコンバレーのトレンドに敏感であるべきだ」と、もう一つの重要な覚悟を突きつけた。
「現在の米国シードステージは、コロナ前のシリーズAに匹敵する事業の仕上がりが求められる」という厳しい現実が指摘されたように、古い知識のままでは、スタートアップの貴重な挑戦を無駄にしかねない。支援者は常に海外エコシステムの最新トレンドを学び、自らをアップデートし続ける必要がある。

そして、「国内IPOがデフォルト」という無意識の前提を捨て、「Day1からグローバルでスケールできるか」という鋭い視点でスタートアップを評価し、支援することが不可欠なのである。

日本スタートアップのグローバル成長への展望

今回のSusHiTech Tokyo2026セッションは日米連携を軸に、日本スタートアップのグローバル成長に向けた現実的かつ実践的な指針を示した場となった。戦略的提携を契機に、スタートアップ、投資家、大学、事業会社が有機的につながることで、成長スピードは一層加速していくと期待される。

今後は、こうした取り組みを単発で終わらせることなく、実務レベルの知見を継続的に蓄積していくことが重要である。それにより、日米エコシステムが相互に進化し、日本発スタートアップがグローバル市場で新たな価値を創出するフェーズが本格化していくであろう。

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