- インタビュー
2021年09月03日
10年目を迎える「Life in Art」、生活雑貨とアートの出会いが目指すもの——良品計画・宮尾弘子さん Vol.2
- 株式会社良品計画
宮尾 弘子 - 生活雑貨部 企画デザイン担当部長1999年良品計画へ入社。店舗スタッフを経て、2003年に無印良品下北沢の店長に着任。以降、3店舗で店長を務め、2006年から生活雑貨部ヘルス&ビューティ担当。在庫管理や販促業務を経て、メイクアップアイテム等の商品開発を担当。2020年7月、生活雑貨部 企画デザイン担当部長に就任。2021年9月、企画デザイン室長に就任予定。
良品計画本社で商品の企画デザインのチームを統括、東京・銀座を中心に開催中の企画展 「Life in Art Exhibition」の企画や運営にも深く関わっておられる宮尾弘子氏に話を聞きます。
前半では無印良品がアートプロジェクトに関わる理由などについて伺いました。後半では、起業家やビジネスパーソンにとっても気になる、無印良品が海外事業で躍進している秘密などについて伺います。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は 宮尾氏、文中敬称略)
海外展開、成功の秘訣
無印良品、MUJI というブランドは海外にかなり浸透している印象があります。お客様に認知してもらい、使い続けてもらい、さらにブランドとして愛してもらう上で、何か大切にされているものはありますか
宮尾:無印良品は現在31の国や地域に展開しており、グローバルに商品をお届けするために、商品仕様を設計から工夫しています。無印良品のアイコンとなるような商品はできる限りグローバルに伝播させたい、一方、Found MUJI のような、それぞれの地域の文化に適用する商品については、現地 MD(マーチャンダイズ)が必要だと思っています。
世界中で全く同じ品揃えにしても、生活や文化の違いから、地域によってお客様には受け入れられないものがあるでしょうから、各地域にいる社員やお客様とコミュニケーションを取りながら、現地主導で商品開発することもしていますが、その場合、デザインのリソースについては現地化が難しい地域もあるので、私たちのチームで商品デザインのサポートをする体制になっています。
企画やアートでは、今回のエキシビジョンは日本でしたが、海外は店舗の多い国や地域からになると思いますが、それぞれの国や地域の特性に響くようなテーマで、クラフトや民芸の大きな展示を拡大していく、ということは考えています。実際に販売会社の数が多い国や地域とは話も始めておりますので、このような文化発信の活動は、そういった国から拡大・巡回していくことになると思います。
シンガポールの旗艦店にある「FoundMUJI」のコーナー(無印良品のホームページから)
企画やアートの海外展開は、日本のアーティストを海外に紹介することが中心となるのでしょうか
宮尾:現地のアーティストのご紹介もしていきたいですし、日本のアーティストのご紹介もしていきたいです。ハイブリッド的なことになると思います。国によっても違ったものになるでしょう。例えば今、中国では〝コト〟的(編注:物質的ではなく体験的)市場が熱を帯びてきていて、日本の著名な焼き物アーティストの方の展覧会がある際には、中国の方々が作品を購入しに詰め掛けられます。
やはり、その国のトレンド——今、何が求められているのか?——を押さえながら、今回やったエキシビジョンとは全く毛色の違うようなものに着地していけたら面白いんじゃないか、と事務局のメンバーとは話をしています。同じ Life in Art ですけれども、扱う題材は全然違うみたいなことの方が面白いんじゃないか、と。また、ビジネス的な話で言えば、ニュース性も大事ですね。
日本から海外、アジアに進出しようとするスタートアップも多数います。無印良品はアジアでよく浸透しているブランドと理解していますが、市場で受け入れられる上での秘訣(シークレットソース)は何かあるでしょうか
宮尾:無印良品の商品開発は、一般的なマーケティングとは少し違い、自分自身の生活を自分でマーケティングし、そこから生み出すという少し変わった手法です。「我が社の市場はこうで、我が社がこれぐらいのポジショニングで、こんなペルソナがいるから、こんな商品を出したい」みたいなアプローチとは違い、自分の部屋をくまなくウォッチしてみたら、部屋の角にものすごくモノが集まってごちゃごちゃしているので、この角に収まる形の収納用品作れないかしら、みたいなそういう開発の仕方なんです。
商品開発の手法の一つであるオブザベーションがかなり徹底的に行なわれているのは珍しいと思うので、その辺りかなと思いました。もちろん、オブザベーションが共通化されている要素だとすると、グローバルに出していっても、「これは今まで無かった痒いところに手が届く商品」だと他国の方にも気付いていただき爆発的に売れるものもあると思います。
しかし、暮らしの中の気づきみたいなものって、おそらく国によっても住宅事情が違ったり生活文化が違ったりして、本当にここが課題なんだっていう商品の生み出し方は現地でしか見つけられないものもあると思うんですね。現地にどれだけ入り込んで、オブザベーションして、自分たちの生活の中からの気づきを商品にできるか。これは他社の商品開発の考え方にはあまり無い流れだと思います。
さらに、ビジネスライクな話で言えば、海外では商品が模倣されるというのもあります。海外では開発のスピードが速いため、弊社としても、またさらに先を行かなきゃいけないっていうことを常に考えさせられます。一番手をキープできているのか? やっぱり危機感をすごく感じるようにはなってきてますけどね。
モノによってはお客様自身もこだわらなくなってきていて、同じような目的の商品で安い方があれば、そちらを買ってしまうという時代になったんだということを、私たちがすごく肝に命じて認識すべきだと思うんですよね。うちが元祖だからうちのを買ってくれるだろうみたいな期待は一旦捨て、生活を徹底的に研究する中で、まだ提案できていない領域の商品をこれからもどう出していくか。
戦い合うとか食い合うとかではなく、そういう商品もゼロじゃないです。価格で負けてるのだとすると、展開国も増えているので、数量で価格をくぐるための努力ももちろんやっているんですけど、私たちデザインチームに多分課せられているのはそこではない。今まで気付けなかったものとか、最近意識が色濃くなっているサステナブルや環境配慮をどれだけ徹底できて、価格的には他社の方が優位だったとしても、お客様がこれを選びたいと思って選んでいただけるような商品を作ることの方が必要な価値だと思っています。
サステナブル、ESG への注力
サステナブルや環境配慮については、良品計画では商品開発や企画を通して、重要視されていることはありますか
宮尾:まず中期経営計画の中では、「ESG のトップランナーを目指す」という内容も入っていますが、そこに関しては会社の中では全力で今取り組んでおりまして、商品に関わることで言うと、製品開発とパッケージの2つの軸で、徹底的にサーキュラーデザインを実現していこうと考えています。
まず製品開発の軸で言うと、私たちの扱っている商品には、樹脂やプラスチックの製品がかなりの量あります。すでに大型店でプラスチック製品の回収を始めており、その回収から得られた材料を混在させた製品を作るという形で具現化しています。サーキュラーデザインですね。さらに、今後作っていく新商品に関しては、その循環(サーキュラー)という考え方をテーマにした開発をデザインチームでやっています。
循環という言葉にはいろんな考え方があると思います。先ほど申し上げたリサイクル素材を使うということもあれば、ムダが無いように設計するみたいなこともありますし、使わなくなった時には他の方にお譲りしやすい仕組み・設計にするようなことも、循環の一つだと思います。また、エネルギーをどれだけ使わないようにするかも ESG の観点から来る商品開発の一つだと思いますし、そういうサーキュラーデザインを、それぞれのチームがアイデアを出しながら、次の商品開発にアウトプットできるように準備しています。
もう一つのパッケージ軸については、プラスチックパッケージを無くし、再生可能なものに変えていくと発表しており、パッケージのデザインと素材の変更をどんどんスピードを上げてやっています。店頭を見ていただくとお分かりいただけると思いますが、パッケージをプラスチックから紙素材にしたり、そもそもパッケージがいらないと考えられるものはパッケージレス化したりということを掲げて進めています。
飲料製品のパッケージをペットボトルからアルミ缶に変更することを発表(無印良品のホームページから)
お客様はそういった働きかけを重視し、買うものを選ばれ時に参考にされている印象はあるでしょうか
宮尾:そうですね、ありますね。最近、水や飲料に関するリリースを出させていただきました。ペットボトル飲料をすべて缶にします、というものと、水については飲料として買うのではなく、無印良品の店内に給水機を設置するので、そこでお客様がそれぞれお持ちのマイボトルを使って水を入れて飲んでいただいて結構です、というものです。私たちが水場を提供することで、循環型社会への動きを加速していきたいというメッセージです。
このリリースで、お客様からは好意的な反応を頂戴しており、最近は給水所の利用も増えていますし、一方で飲料の売上のベースは変わっていないので、受け入れられているように思っています。
コロナ禍でも楽しめるイベントを目指して
Life in Art Exhibition は、無印良品の銀座店以外でも楽しめるんでしょうか
宮尾:はい。銀座店以外にも会場がたくさんあります。東京駅近くにギャラリーを併設した「IDÉE TOKYO」という店舗がありますが、そのギャラリーでは50名以上の著名なアーティストに参画いただいてオークションをやっています。これはちょっと面白い試みで、「自分が次の方に受け継ぎたい、あなたの考える Life in Art は?」というテーマでオークションを行なっていて、第1期はすでに終了し、第2期が始まっています。
また、先ほど申し上げた社会への貢献という形でも事業展開しています。東京ビエンナーレで協力いただいている東京都心北東エリア(千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア)で、コーヒーショップ、サテライトオフィス、美容室、ギャラリーなど31ヶ所に Life in Art Exhibition のサテライトギャラリーとして参加していただいており、会場オーナーの方々が紹介したいアーティストや IDÉE でお付き合いのあるアーティストの方々の作品を展示していただいています。
コロナ禍でなかなか飲食店を訪問するには一息必要だし、お店もすごく苦しい状況になってしまっている中で、今回サテライトギャラリーを一緒にやらせていただくことで、お客様がお店に来ていただけるきっかけ作りとなって社会に貢献できているじゃないかと思っています。Life in Art Exhibition の情報を配信はインスタグラムの公式アカウントでも行っています。訪問できない方も様子を見ていただくことができますし、オークションはオンラインでも参加できるので、是非楽しんでいただければと思います。
「IDÉE TOKYO」のギャラリーでは、50名以上のアーティストの作品オークションを開催