- インタビュー
2022年12月12日
Twitterログインで「初NFT」ファン6割が取得成功ーー推し活NFTのプレイシンク、松竹と共創
日本の伝統芸能「歌舞伎」をはじめとする映画や演劇などのエンターテインメント事業、東銀座を中心とする不動産事業などを手掛ける松竹グループ。その中にスタートアップとの共創を手掛けるハブ的な役割として今年6月に誕生した会社が松竹ベンチャーズです。
立ち上げと同時にスタートアップとの共創プログラム「Shochiku Accelerator2022 Entertainment Festival」を公表し、9月末までに応募があった90社から共創の可能性がある8社を採択。現在、12月のデモデイに向けて各社との協業案件を推進しているそうです。
そこでMUGENLABO Magazine編集部では22日のデモデイ実施を前に「推し活NFT」を提案するプレイシンクとの共創事例についてお話を伺いました(太字の質問はMUGENLABO Magazine編集部、回答は松竹ベンチャーズ取締役の森川朋彦氏、プレイシンク代表取締役の小林陽介氏と取締役の尾下順治氏)。
松竹グループ初となる本格的な共創プログラムでしたが振り返っていかがでしたか?
森川:非常にありがたいことに、応募自体は目標にしていた数字に近い90社ほどのご応募をいただきました。本プログラムではテーマを6つ掲げています。将来的に映画・演劇のIPになるようなコンテンツを一緒に作る企業が数社、ファンコミュニケーションやファンエンゲージメントに関するテーマも数社おり、その中でプレイシンクさんにご参加いただいています。
不動産に関しても我々が活性化を進めている東銀座エリアにタッチするような企業さんに参加していただきました。事業共創型のプログラムなんですが、これから実証実験を進めて中長期でご一緒していくのが目標です。
一方のプレイシンクはどのような事業を手がけているのでしょうか?
小林:事業としては「推し活」している人たちを応援できるサービスです。私自身、ゲームを作ってきた中でお客さんへ提供するものとして「ゲーム以外のもの」ってもっとあるんじゃないかという仮説をもっていました。中でもNFTやブロックチェーンの技術が出てくることによって、デジタルデータを所有していただけるとか、このアニメを最初から見ていることを証明することがデジタルできっちりできるようになってきました。
好きなものを好きでよかったなって思ってもらえる人がもっと増える、そういう世界観を目指して選んだのが「推し活を応援するサービス」でした。これをユーザーに向けてB2Cとして提供しています。現在はさまざまなIPホルダーさんと組ませていただいてサービスを作っています。
尾下さんはアクセルマークの代表でしたが、どういう経緯で参加されたのでしょうか?
尾下:私はアクセルマークで2018年からNFTや暗号資産、ブロックチェーン技術に取り組んでいて、2019年にはグローバルに見ても初だったと思うんですけど、上場企業として自らNFTを発行したりしていました。
その当時、協業先としてお声がけしたのが小林さんたちがいるオルトプラスさんでした。小林さんたちのゲーム運営のスタイルってすごく面白くて、ヤフオクで自分たちが発行したゲームアイテムがどのような二次流通市場を形成しているかをウォッチしていて、それを元に一次販売価格をどうするか、みたいなことをやられていたんです。
まるで現在のNFT市場そのものですね?
尾下:私自身、アクセルマークの代表取締役を退任するタイミングもあって、じゃあ一緒にやろうと合流した形です。
プレイシンクは採択された松竹ベンチャーズの支援プログラムで「Prince Letter⒮! フロムアイドル」を通じた推し活用NFTを発行
今回、松竹さんのプログラムで実験中の事例について教えていただけますか?
尾下:今回、取り組んだのは『Princess Letter⒮! フロムアイドル(以下プリエル)』という松竹さんのオリジナルIPで、ファンの繋がりをより強固に可視化していくというテーマで実証実験に参加しました。具体的にはライブの参加証明です。10月末にプリエルのライブが開催されたんですが、そこに来たよということをNFTで証明する取り組みを実施しました。
ファンの方の反応はいかがでしたか?
尾下:まずはみなさん、もらえるものはもらっておこう、という感じですね。
NFTの取得はウォレットの設定などかなりハードルが高い印象です。ファンの方はスムーズに取得できたのでしょうか?
尾下:ここが今回の取り組みのポイントだったんです。実は今回のNFT、来場者の6割が取得してるんです。
小林:補足すると、取得された6割の内、95%の方が初めて取得したそうです。
尾下:これを実現したのが僕たちの開発したNFTの管理サービスで、用意したウェブサービスにTwitterアカウントでソーシャルログインするだけで、NFTが持ててしまうんです。クリプト界隈の方々がウォレットなどの改善がマスアダプションに大きく影響すると言っていますが、実際に作ってみたら本当に確信が持てました。
従来型のデータベースを使った会員証発行システムよりも、ブロックチェーンを使えば維持管理で圧倒的にコストメリットありますよね?
尾下:あります。この後、誰も負担しなくてもPolygon(※今回、プレイシンクが採用したパブリックチェーン)がずっと維持してくれる。ガス代は僕らがもちろん全部持ちましたけど、振込手数料の方が高くつきますよねくらいの感じです。
そもそものNFT自体の認知も怪しいと思いますが、それでもファンの方は乗り越えたというわけですね
尾下:黎明期のマーケットの動き方って機能だけ提供しても全然うまくいかないんですよね。ユースケースを自分たちでコーディネートできるところまで持っていって、使いやすいでしょ?っていうところまでいかないとなかなか広がっていきません。
今回は松竹さんが興行主として、ものすごい協力をしていただいて、メールを送っただけとかではなく、チラシを劇場の一席一席ごとにユニークなQRコードを入れて配布していただいたんです。この当たり前のことをちゃんと当たり前にやっていくと当たり前にみなさんNFTを持ってもらえる、そう確信できました。
森川:実際、どれぐらい受け取ってくれるのだろうという結果については正直、不安でした。実際、コントラクトの処理で取得までにロードの時間が1分程度は必要だったですが、今回はプレイシンクさんのおかげで、こういった結果がでたのかなと思っていますし、これもどんどん改善されていくと、顧客体験として更に素晴らしいものになると思います。
2022年はいろんな意味でクリプト関連のマーケットが荒れた時期でした。小林さんはこういったアイテムの二次流通をずっとご覧になっているわけですが、良くも悪くもこの「価格」とどう付き合うべきか、どのようにお考えですか?
小林:ゲームをやってた時もそうですが、ゲーム運営側からお客さんには(ゲームアイテムも)経済的価値があるものを渡しているという緊張感をもってアイテムの発行や配布、販売をしていました。ゲームの中で極端なインフレを起こさないよう、この経済圏をどうやって安定して回していくかということをずっと考えて運営をしていました。
特に価格の乱高下は誰も喜ばないですし、多くの人にNFTを持ってもらうという観点では非常に重要です。ゲームでやっていた時のノウハウで、ユーザーが納得した上で市場にあるものが減っていく現象が作れると、価格ってちゃんと維持されるんです。場合によってはちょっとずつ上がることも起きます。
デジタルヴィンテージの概念
小林:今回、プレイシンクではこの考え方を発展させた「デジタルヴィンテージ」という概念を様々な技術やサービス企画で実現しています。つまり、市場に存在するNFTが需要と供給のバランスに応じて増減することによって、長期的に需要減少局面になったときでもリアルな物品と同様に存在する数が減っていくことで、ヴィンテージ化していく仕組みです。
実際に今、我々が提供しているサービスの中でも1,000枚のNFTを発行したのですが、それがサービス内の施策によって400枚ぐらいまで減少しています。こうして、デジタルヴィンテージとしての仕組みが回る、ということが証明できています。やはり、お客さんが買って嬉しいし、持っててずっと嬉しいみたいなことをサービス提供する側がもっと考えていくのが大事なんじゃないかなと考えてやっていますね。
「デジタルヴィンテージ」を構成する技術は既に特許申請済みで、プレイシンクのコアコンピタンスとして更に磨きをかけたいと考えています。
ファンエンゲージメントとNFTの相性には、例えばVR Chatのように拒否する動きもありました
尾下:VR Chatさんなどの見解って間違ってないと思うんです。今、ノンインセンティブ・ノントークンで成り立ってるものに対して、トークノミクス(※トークンによる経済活動)を入れることによって崩れる可能性って大いにあると思います。ただし、いつかトークノミクス込みでうまくいくコミュニティを構築した人たちって、それってもう「プロの世界」になっていくわけですよね。そこで職を持つ人たちが現れて生活圏が出来上がります。
こういう構造になった時、アマチュア集団よりも飛躍的にサービスやコミュニティが大きくなる可能性があります。スポーツシーンもそうじゃないですか。プロリーグができたらアマチュアとは違う世界になる。経済が回るってそういうことなので、その発明は誰かがすることになるでしょうし、その発明した人が次のコミュニティやコンテンツフォーマットの覇者になるのだろうなと思っています。
歌舞伎という日本における伝統的なエンターテインメントを手掛ける松竹として、この最先端の取り組みをどうご覧になっていますか?
森川:確かに伝統的な企業ですので恐怖心はあります。ただ、歌舞伎もそうですが、革新的なことを取り入れてきた経験があり、伝統を守りながら、革新を続けてきた結果が今の松竹という企業だと思っています。だからこそ前向きにプレイシンクさんとご一緒しています。
さらにファンとのコミュニケーションは非常に良い切り口だなと思っています。
特に我々のようなリアルなものづくりをしていると、作品の世界観を構築している、ファンの方々からするとたまらないようなものがまだまだたくさんあるんです。こういったものに誰々が使っていた履歴が付いて引き継がれていく。こういったことを我々としても中長期でできればいいなと考えています。
NFTのユースケースとして、さらに最もハードルが高いと言われ続けてきた取得の方法で光明が見出せるお話でした。デモデイがんばってください。
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