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2025年03月06日

NEC、自社技術を活かした日本型スタートアップスタジオ「NEC X Tokyo(仮称)」の設立とSpready社との提携発表

NEC
松田 尚久
事業開発統括部長
NEC X
松本 眞太郎
President&CEO
Spready
佐古 雅亮
代表取締役

NECは2025年夏にシリコンバレー発のスタートアップスタジオ「NEC X」を「NEC X Tokyo (仮称、以下略)」として東京に開設することを発表しました。

また同社はイノベーション支援マーケットで活躍するSpready社と資本提携することも併せて発表。NECのR&D技術と事業リソースを最大限に活用し、日本の新規事業開発エコシステムを活性化させる狙いです。


NECのオープンイノベーション戦略と「NEC X Tokyo」設立

これまでバラバラだった新規事業開発の取り組みを体系化し「NEC Open Innovation」として世の中に認知していただく

NEC 事業開発統括部長 松田氏

同社の新規事業開発とパートナー企業との連携による事業開発を加速していくとのことです。

NECのオープンイノベーション体系

インバウンドでは、社外の技術をNEC内に取り込み、不足している技術を補完し、自社の強みを強化する取り組みを展開しています。具体的な手段としては、スタートアップへの投資やビジネスコンテストの開催などが挙げられます。

NEC独自のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)「NEC Orchestrating Future Fund」は「エコシステム型CVC」と位置付けられています。NECだけでなく複数の事業会社がLPとして参加するマルチLP方式を採用し、投資先スタートアップの技術をNECだけでなく、LP企業も含めた産業全体で活用することを目指しています。すでに9社に出資しており、ポートフォリオにはSakanaAIなどが含まれます。

一方、アウトバウンドでは、NECの技術や研究者を活用して外部企業のイノベーションを加速する独自の取り組みを展開しています。その一つが「NEC先端技術コンサルティングサービス」で、NECの研究者が顧客企業の研究開発部門に入り、技術的課題の解決をサポートするものです。単なる助言にとどまらず、技術導入支援や共同知財創出まで行う場合もあります。

NEC X,Inc.(以下、NEC X)の成功モデル

NECのアウトバウンド戦略のもう一つの柱が、2018年7月にシリコンバレーに設立されたスタートアップスタジオ「NEC X」です。NEC Xの松本眞太郎CEOによると、同社はNECの技術を活用したスタートアップを現地で創出・育成することを目的としており、「技術提供の対価として株式を取得し、スタートアップの成長後にリターンを得るモデル」を採用しています。

同社が展開するスタートアップ支援プログラムは主に二つあります。アイデア段階の起業家を対象とした「Elev X! Ignite」と、シード期のスタートアップを対象とした「Elev X! Boost」です。

特に「Ignite」プログラムでは、応募から選考を経て、ビジネスデザイン、デマンドスプリント(顧客課題とソリューションの検証)と進み、最終的に少数のスタートアップに投資。NECの研究技術を活用したMVP開発まで支援するものです。

直近のバッチでは400件以上もの応募があり、年々倍増している

NEC X President&CEO 松本氏

支援実績として紹介されたのが、「Flyhound Corporation」と「Qualitative Intelligence(QI)」の2社です。Flyhoundは遭難者救助のためのドローン技術を開発しており、NECの欧州研究所が持つ通信キャリア向けの小型基地局技術を活用して、携帯電話の微弱な電波を検知するシステムを構築しています。

また、Qualitative Intelligenceは生成AIを活用したマーケティングツールから始まり、顧客からのフィードバックを受けて「炎上リスク対策」に特化したソリューションへと進化し、大きく成長しているとのことです。

NEC X Tokyoの立ち上げ

そしてこのイベント中のハイライトとなったのが「NEC X Tokyo」の発表です。2025年夏、NEC X Tokyoを立ち上げ、NECの事業会社のR&D技術とアイデアを、日本の起業家とマッチングし、スタートアップの成長を伴走支援するスタジオとして機能させます。

NEC事業開発統括部 ディレクターの藤村広祐氏は特徴として三つの柱を挙げました。
・ビジネス面:育成するスタートアップのサービスを顧客に提供するための「顧客チャネル」と、NEC自身が最初のクライアントとしてサービスを利用する仕組みを確立し、ビジネス面での成長を支援
・テクノロジー面:エンジニアリングサポートのみならず、NECの研究者自身がスタートアップに伴走し、技術起点での新規事業創出を促進
・オペレーション面:シリコンバレーでの150社以上のスタートアップ育成経験を活かした運営ノウハウの提供と、日本のスタートアップの海外展開支援

シリコンバレーでのNEC Xの経験を生かしながら、日本でスタートアップを育成し、そのスタートアップが海外に進出していく際も支援していく

NEC 事業開発統括部 ディレクター藤村氏

Spready社との資本提携とイノベーションエコシステム構築


Spready 代表取締役 佐古 雅亮氏

NECは同イベントにおいて、イノベーション支援のプラットフォームを提供するSpready社との資本提携も発表しました。パネルディスカッションに登壇したNEC事業開発統括部 ディレクターの濱部宗之氏は、今回の提携について「大きく二つの狙いがある」と説明しています。一つ目は「事業開発の加速」、二つ目は「新たな価値創造」です。

NECは多様な技術を持ち、さまざまな領域の事業を展開しています。新規事業開発において課題となっているのが、事業開発プロセスの効率化です

NEC 事業開発統括部 ディレクター 濱部氏

Spready社が持つプラットフォームやSaaSプロダクトを活用することで、NECの事業開発プロセスを加速させるとともに、両社のアセットを組み合わせた新たな事業創出も視野に入れているとのことです。Spready社は、事業会社の新規事業創出を支援するプロダクトやサービスを提供する企業です。東京、大阪、名古屋の3拠点を展開し、主に大手企業との取引を多く手がけています。

新規事業のユーザーインタビューを行う際に活用されているユーザーリクルーティングツールと、生成AIを活用したアイデア創出支援クラウドサービスを提供しており、これらのサービスは延べ80社以上の企業に利用されているとのことです。

企業の新規事業開発トレンドの変化

セッションでは企業の新規事業開発の取り組み方についての興味深い変化も紹介されました。Spready社が実施したアンケート結果によると、従来型の「社内ベンチャー制度」や「オープンイノベーション」といった手法に取り組む企業の比率が減少傾向にあるとのことです。

代わりに増加しているのが、自社の知的財産(IP)やアセットを活用するアプローチです。

日本は民間で年間14兆円もの研究開発投資を行っている国。イノベーション投資を続けてきたのに成果が見えない中、2015年頃からオープンイノベーションなどの新しいアプローチが始まった

Spready 代表取締役 佐古氏

しかし約10年が経過し、「なぜ自分たちがやるから勝てるのか、勝ち続けるビジネスが作れるのか」という本質的な問いに立ち返った結果、「自社の強みを活かす」というアプローチへの回帰が起きているとの分析を示しました。

自社のアセットや強みラインを理解することは案外難しい

Spready 代表取締役 佐古氏

大規模な企業になるほど事業が多角化して人材も多く、自社の持つ技術や知見を把握することが容易ではないと指摘しています。

イノベーションがどれだけ社会実装できるかが重要。スタートアップサイドから見ると社会実装力が弱いケースが多い。単一のサービスでぱっと勝つのは難しい。NECと一緒にやることで社会実装力を実現したい

Spready 代表取締役 佐古氏

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