1. TOP
  2. インタビュー
  3. 新・企業共創時代:共創を突き動かすもの - KDDI 中馬和彦 Vol.2
  • インタビュー

2020年10月29日

新・企業共創時代:共創を突き動かすもの - KDDI 中馬和彦 Vol.2

KDDI中馬
KDDI株式会社
中馬和彦
経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長/KDDI ∞ Labo長

前回までの会話で、日本企業がなぜ共創・オープンイノベーションを必要としなければならないのか、時代背景やコロナ禍の影響などを重ねて共創プラットフォーマー役割やあり方について話を聞いてきました。続いてはモチベーション・サイクルについてです。協業は異なる企業がそれぞれの思惑を合致させなければ正しく回りません。一方、新たな事業というのは実現するまでのプロセスが複雑かつ長期に渡る場合があります。


複数の企業の中にあって、共創を実現させる人たちは何を力の源とすべきなのでしょうか。引き続き中馬和彦氏に訊きます。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はKDDIビジネスインキュベーション推進部長 中馬和彦、文中敬称略)


中馬を突き動かすもの

共創というややアテのない「余白」を大いに含んだポジションでは、人は迷いがちです。中馬さんを突き動かすモチベーションの源泉はどこに

中馬:個人的なことも含めて、やっぱりトラウマはあると思うんですよね。ガラケー(フィーチャーフォン)の時、私はハンドセット部門にいたのですが、通信会社でハンドセットってど真ん中のど真ん中だったんです。あの当時はやっぱり垂直統合モデルの中心っていうのはガラケーそのもので、端末をキャリアがOSも兼ねて運営していました。サービスも組み込みのアプリベースで全て生まれていた時代です。

そこの責任者でずっとやっていて、ある日スマホが出てきたんですね。これはちょっとやばいぞと思ってAndroidの方に舵を切ろうとしたんです。日本で最初のAndroidの学会があって、そこのキーノートでガラケーじゃなくこれからはスマホだ!って言ってるんですけど、当時は色々あって結局プロダクトが分かれてしまい、スマホの担当からは外されてしまいました。その後僕らのスマホシフトが遅れをとってしまったことは、今でもトラウマになっているんです。

あの時、auってフィーチャーフォンのOSまで作って全部提供していたんですよ。髙橋ともよく話すんですが、完成度が高すぎた故にどうしても手放せなかった。あの時のことが頭にあって、今またエコシステムが大きく変わろうとしている中で、もう同じことをしちゃいけない。

分かれ道が出たら「必ず新しい方へ行こう」っていう。もうこれは、今までの歴史が証明してくれてるものなんです。

共創における情報発信がなぜ重要なのか

----スマートフォン・シフトの荒波からエコシステムの中心が、キャリアから別の場所に移り、新たなモデルを積み上げる必要性が出てきたのが2010年頃です。そこで当時のKDDIはスマホアプリをゼロから集めるべく、KDDI ∞ Laboの原型となるインキュベーションのアイデアにたどり着きます。いわゆる「Y Combinator」スタイルと呼ばれるいくつかのプログラムが立ち上がる中、KDDIはここに大きく投資をしていくことになります。

KDDI ∞ Laboは、スタート当時からイベントを大型ホールで開催するなど、大きく投資をしていました。情報発信や啓蒙に対する熱量はその後も継続して今に至ります。情報発信を重要視する理由はどこにあるのでしょうか

中馬:今世の中には情報が溢れかえっていて、その中で「確からしい」情報をみんな求めていると思っています。やっぱりただの仮説とか思いつきじゃダメだし、また歴史みたいなところっていうのは必ずしも同じにはならないんだけれども、少なくとも何かしらの気付きはある。

私たちがやってきた経験、みたいなところが説得力に繋がってみなさんの活動がショートカットされればいいなと。日本全体が盛り上がらないと結局、僕ら国内の通信事業は日本と共にシュリンクしていく運命にあるんです。それ自体は望ましいことではないので、国全体がやっぱり栄えてほしい、というのが根底にあります。

本来であれば利益率が20%ない会社っていうのは、グローバルでいえば市場から退場させられる、そういう厳しい環境じゃないですか。収益性を必ず維持してるからこそ未来への投資ができて、将来に対する耐性が生まれるんですよね。そういった会社はどんどんとトランスフォームし続けて、二十年企業、五十年企業という風になっていくと思うんですね。

情報発信って一見すると無駄なものじゃないですか。収益を直接生まないし。だけど、新規事業とか未来の柱になるようなものって、積み上げの理屈から出てくるものではないんです。「Unknownなもの」に対してチャレンジし続けなきゃいけないし、ハンドルの“遊び”みたいなものだと思っていて、だから、ある程度の社会的位置付けのある会社であれば、その遊びみたいなところをいかに許容するかって大切なんです。

本当に無駄なものと、必要だけど無駄なもの、この「違い」を判断する力は相当に重要ですね

中馬:やはり社員じゃないでしょうか。将来のことを見ている、外を見ている社員をいかに増やすかが大事で、自分のことをヨイショしてくれる部下じゃなくて、そこからいろんなことを教えてくれて苦言を呈してくれる。そういう部下をたくさん作れるかっていうところがやっぱり企業の新陳代謝の源じゃないかと思っているんですよね。

また情報はもちろんないと判断のしようがないと思うんですけど、それ以上にやっぱり新しいことにチャレンジする遺伝子を抱えるかっていうことじゃないかと思っています。

そしてその遺伝子をどこまで泳がせられるか。これはすごい難しくて、これまで日本って高効率性を追い求めているし、個より集団とか、減点主義とか全てのこれまでの価値基準が今の大きなダイナミックな変化には向いてないと思うんです。ことごとく、全てが足かせになっていると思うんです。日本の企業ってボトムアップだったんですよね、基本的に。だからこのままいくとうまく行かないんじゃないかと思っています。

企業の経営者はこの変化の時代、動き出そうという人が増えていると思うんです。情報を求め、新しい遺伝子を育てる、これは重要なステップだと思うんですが、具体的にどこから手をつけるべきなんでしょうか

中馬:僕は今のオープンイノベーション部門や流行りの“出島”組織が増えている傾向は、非常に良いことだと思っています。結局、本業がすごいしっかりして利益を稼いでくれていれば、新規事業とかそういうところへ「出島なる部分」から大きく投資ができると思うんです。つまり「関係ないところに対して張り続けられるかどうか」っていうのが大事なんだと思います。

一方で、誤解を恐れずに言えば、大半の企業が出島組織に対してまだまだ本気になっていないんじゃないでしょうか。本業と同じくらい出島の活動も、両方本気でやることが大事なんです。

なぜならば、「関係ないところ」についてよく分からないままに、いつの間にか市場から排除させられることがあるからです。関係ないと思っていた成長分野に出会わなかった、これをなくす方が大切なんです。まあ、出会っていたとしても入るタイミングを逃した場合は・・・飲みながら反省すればいいと思っています。(笑

(次回につづく)

関連記事

インタビューの記事

すべての記事を見る記事一覧を見る

Contactお問い合わせ

掲載記事および、
KDDI Open Innovation Program
に関する お問い合わせはこちらを
ご覧ください。