- インタビュー
2023年04月11日
KDDI×アクアビットスパイラルズ(後編)——独自開発のキャッシュレスで、徳島から広がる地域MaaSの可能性
KDDIとアクアビットスパイラルズが、最先端技術を使って地方公共交通の料金支払いの仕組みを革新しようとしている理由については、本稿の前編で説明いただきました。
前編はこちら:KDDI×アクアビットスパイラルズ(前編)——先端技術を駆使し、地方向け交通キャッシュレスを開発した理由
この取り組みは徳島で実施されましたが、社会の過疎化や高齢化、公共交通の老朽化や運営する人手不足については、全国の地方が共通で抱える課題でもあるため、そうした地域への適用も期待されます。
そこで考える必要があるのは、公共交通や他の地域交通手段をシームレスに結んだ地域MaaSのアイデアです。都市部では料金支払いこそICカードに取って代わられましたが、公共交通機関は今でも切符の概念をベースとした料金形態で運用されていることがほとんどです。今回の2社の取り組みは、それさえ柔軟に変化させられるかもしれない可能性を伺うことができます。
GNSS測位(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)の技術を、今回の仕組みに生かすことになった経緯を教えてください。
山田:高精度GNSS測位のこれまでのユースケースとしては、主に建機など精度が必要な場面で使われていましたが、今回のようなバスでのユースケースはありませんでした。この技術が利用できるんじゃないかと考え、昨年度、アクアビットスパイラルズさんと一緒に日本初の精度位置情報を使った距離別運賃の仕組みを運用させていただいて、関連特許を弊社が取得しました。
ICカードは完成されたものとして非常に生活にも溶け込んでおりますし、非常に良いものだと理解しています。一方で、私どもが調べた限り、中小の地方のバス会社さんや鉄道会社さんは非常に厳しい経営状況だったところにコロナが追い打ちをかけ、利便性を上げていく為の多額の投資ができない状況でした。
そこで、利便性を上げることで公共交通による移動を促して地域の足を守っていくために、別の方法を考えました。ICカードが利便性向上の為の有効な手段である一方、車載機器含め非常に高額です。そこでコストを抑える為、スマートフォンを活用することで極力車載機器に依存しないシステムを考案しました。
日本政府が「みちびき(準天頂衛星システム)」という衛星を2018年から運用していると思うのですが、GNSSはそれを使ってるのですか。
山田:はい、みちびきのシステムを使っています。GNSSによって、位置情報から確実にどのバス停にいるかを判定できるものになっています。バス会社さんと会話している中で、通常のGPSを使って同じようなことをされたり、検討されたりしたことはあるようなんですが、精度の面で問題があり断念されていたようです。
つまり、どのバス停から乗って、どのバス停で降りたかという情報は乗客のスマートフォンのGPSを使っているわけではなく、バスに設置されたGNSSを使い、乗客の端末に対して信号を飛ばすときに「今、バスの位置はここですよ」という情報を変化させているわけですね。
萩原:そうです。位置情報は常時取得しているような形です。
利用された乗客、運用されたバス事業者からの反応はいかがですか。
山田:ユーザーと事業者さんの双方にアンケート調査をしていますが、ユーザーからは平均満足度で5段階中3.9という評価をいただいていて、私どもとしては概ね手応えを感じております。継続して利用したいという方の割合も約8割と非常に多かったので、ユーザにとっての利便性は一定のものが担保できたと思います。
ただ、世の中に無かったものですので、いきなりスマホをバスにかざして乗るのは、なかなか勇気がいると思うんですね。しかしながら使い方の認知が進んでいくことで、より多くの方に快適にご利用いただけるのではと考えています。複数回NFCを使っている方はそのままNFCを使い続けていらっしゃるというデータも出ておりますので、そこが今後の課題だと思っています。
事業者さんに関しては、徳島バス様、弊社で開催させていただいた体験会のアンケートで「コストとサービスレベルのバランスの評価」をお聞きしたところ58%が満足されていましたので、狙いとしては達成しているかなと思います。
事業者さんの反応には、経営サイドの反応に加え、実際に操作される乗務員の方々の意見も含まれているのでしょうか。
山田:今回体験した方はバス事業者さんと鉄道会社さん、自治体さんということで、キャッシュレスの導入を検討している方、もしくは知見をお持ちの方に集まっていただきました。そういった意味では事業観点とユーザビリティ観点の両方を見てくださったと思います。いただいた意見は、サービスのさらなる改善に反映して行きたいと思います。
想定外だったのですが、すでにICカードを導入済みの事業者さんから体験会へのご参加がありました。我々は当初、キャッシュレス未対応のバス会社さんにご関心を持っていただけるのではないかと考えておりましたが、複数のICカード導入済のバス会社様にも体験会にご参加いただきました。背景としては、導入した後の機器更改などの維持費も高額になるため、別のキャッシュレス対応方法を模索されているのではないかと想定しております。
今回の実証実験を通じて分かった課題と、その課題に対しての今後の動きを伺えますか。
萩原:私がNFCプレートを使ったマーケットに向き合って約10年経ちます。どうしてこちら側に僕らの会社の舵を切ったのかというと、まさしく今回の課題とも共通しますが、読み取りの精度、反応を向上させるには機器側が読み取りに行くときの出力を上げるなど機器側のアプローチでカバーできるところもありますが、それは当然コスト上昇に繋がっていくわけです。それをひっくり返したのが、NFCプレートをスマホで読み取るというアクションになるんですね。
僕たちがこの技術に取り組んだ大きなきっかけは、スマホが普及すればするほど、読み取り側の機器を日常的に持ち歩く利用者が増えるという世界観からです。そうすると、設置する側の端末が不要になってICタグに置き換わっていく。コストダウンが図れるということは接点を無数に作り出すことができる。そこに大きな可能性を感じたんです。でも、グローバルも含めてタグを活用するサービスというものが市場としてなかなか広まってないのが実情です。
一方で、そこから生まれる社会的な価値や利便性の向上は確かにあるだろうと考えていますが、まだまだギャップもあります。タグにかざすことと機器にかざすことは本質的には全く逆のことをやっているので、同じような感覚でかざすと思ったように反応しない。でも、この辺りは慣れで、NFCプレートのサービスが広まっていけば、この辺を近づければ反応するよねというのを皆さんにご理解いただいてスムーズになると思います。
山田:私からは主に3点あります。まず事業者、自治体さん、利用者にこの取り組みを知っていただくことですね。そこに結構力を入れています。政府が主導する「デジタル田園都市国家構想実現会議」が先日「冬のDigi田(デジデン)甲子園」を開催し、我々は応募総数172件の中から46事例のインターネット投票対象の一つに選ばれました。審査委員評価で9位にランクインいたしましたので、知っていただければ、良さを実感いただけるのではと期待しております。
2点目は、今回、鉄道とバスの連携運賃という地域公共交通にとって今後広がりを見せる政策のDXに支援をさせていただいていますが、これだけでは十分ではありません。例えば日常的に公共交通を使って移動したらポイントが貯まり、そのポイントをその地域で使えて経済が循環すれば、より生活に溶け込んでいくような仕組みが実現できます。そうすれば、公共交通が使われて、街の足が確保され維持されて活性化していく。そういう展開を図っていきたいです。
最後に機能面ですが、今回の仕組みでは、地元住民の方と観光客の方の両方に使えるようになっていますが、観光文脈ですとインバウンド対応が必要になってきます。これまでの取組みでは対応を見送っておりますが、地域の皆様のご意見等も踏まえ、今後対応を検討して参ります。
最後にアピールをお願いします。
萩原:スマホのタッチ支払いは、今日お話しさせていただいた区間運賃の精算以外にも取り組んでいます。ICカード機器の導入がなかなか行き渡らないエリアということで徳島をベースにPoCをやらせていただきましたが、南予地方のJR予土線でも都度精算ということをやらせていただいていますし、コミュニティバスの定額精算やMPM方式(事業者のコードを消費者が読み取る)によるタクシー乗車も実験の中でやらせていただいてるんです。
決済手段としてこれを拡張していければ、地域経済の中でICカード機器がなくても精算できるシーンはもっと広げていけると考えています。今回は交通での連鎖が主ですが、交通乗車に限らず、同じアクションから生まれる価値を繋いでいくことで、そのエリア一帯のイベントや観光施設の入場、観光情報や生活情報の配信など、全て体験ベースで繋いでいきたいと思っています。さまざまな事業者様の課題解決、社会問題の解決に取り組んでいきたいです。
山田:KDDIでは中期経営計画で地域共創を掲げており、地域の企業やベンチャー企業と連携し、ICT技術等も活用することで様々な地域課題解決に取り組んでいます。その取り組みの一つとして観光・交通領域における、地域課題解決を萩原さんと一緒にやらせていただいています。既存のソリューションを適合する自治体さんに提案していく従来スタイルとは異なり、我々は、今回の徳島バスさんのように、関係者さんから課題を聞いて、それに対して最適なソリューションを一緒に考えて作らせていただいています。
弊社は今回ご紹介した取組みの他、DX人材育成、行政DX、NFCを活用したまちづくり等、様々な領域で地域貢献をしていく所存です。ただ、決して弊社だけで実現できるものではなく、本件でご一緒いただいているアクアビットスパイラルズさんのような技術と熱量を持った方々と、今後もタッグを組んで取組みを推進していきたいと考えております。
ありがとうございました。
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