- インタビュー
2021年07月09日
スーパーの中に現れた、子供たちの集まるデジタルな公園とは——イトーヨーカドーとプレースホルダの挑戦
- 株式会社プレースホルダ
鈴木 匠太 - 取締役CCO。2016年12月、創業株主として入社。1984年東京都生まれ。プレースホルダ以前は、ポケラボでクリエイティブ事業部部長を経て取締役。2016年6月からの半年間は、メルカリで革命・USプロジェクトをプロデューサーとして担当した。プレースホルダでは、同社の開発する次世代型テーマパーク「リトルプラネット」のクリエイティブを総指揮する。
- 株式会社イトーヨーカ堂
山幡 耕司 - 子供ワールド部総括マネージャー。入社30年目。1968年生まれの53歳、名古屋市出身。入社より文具・玩具の売場担当、マネージャーとして3店舗を経て、商品部に20年在籍。文具玩具部の担当バイヤー、チーフマネージャー、シニアマネージャーを経験し、その後、住居専門店部のシニアマネージャーとしてロフトFCなどを担当。2020年7月から現職。
課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。
スーパーマーケットでおもちゃを買ってもらうのが楽しみだった体験は、多くの人にとって、子供の頃の懐かしい思い出です。しかし、おもちゃ売り場にも e コマースの波は押し寄せています。STEM やデジタルリテラシーの教育も求められるようになる中で、子供たちに提供するエンターテイメントのカタチや届け方も変化してきています。
全国にショッピングモールやスーパーマーケットを展開するイトーヨーカドーですが、流通・小売大手の中ではいち早くオムニチャネルの開拓に着手したセブン&アイグループの主軸企業ということもあってか、子供向けのエンターテイメントのあり方については、新しいアプローチを始めています。組んだ相手は、デジタル技術を使った次世代型テーマパーク「リトルプラネット」を運営するプレースホルダでした。
プレースホルダは2016年に設立された、プロジェクションマッピングや AR を使った体験型アトラクションを企画・開発するスタートアップです。これまでに、KDDI Open Innovation Fund のほか、TBS テレビを傘下に持つ東京放送ホールディングス、みずほキャピタル、インキュベイトファンド、映像大手 IMAGICA GROUP の OLM Ventures から資金を調達しています。
イトーヨーカドーは2021年4月、大和鶴間店(神奈川県大和市)で子供関連売り場をリニューアルし、コンセプトフロア「TOYLO PARK(トイロパーク)」を誕生させました。ここでは、プレースホルダが「リトルプラネット」で培ったノウハウを生かし、デジタルキッズパーク「TOYLO PARK powered by リトルプラネット」をおもちゃ売り場に融合させるという、新たな試みが行われています。。このプロジェクトに関わられた、イトーヨーカ堂の山幡耕司さんと、プレースホルダの鈴木匠太さんにお話を伺いました。
TOYLO PARK powered by リトルプラネット
目指したのは「公園に勝てる場」の創出
スーパーマーケットの子供向け商品と言えば、おもちゃ、ランドセル、文房具、などなどですが、e コマースの拡大に伴い、リアル店舗の商売は日に日に難しくなってきています。
物販に固執していては、マーケットから取り残されてしまう。そんな考えから、リアル店舗ならではの体験を子供たちに届けられないかと考えました。子供たちは遊ぶのが大好きですから、本来、子供関連売り場にとっての最大の競合は「公園」だと認識しています。その公園の魅力を取り入れ、公園に勝てる場を創り出すにはどうすればよいかを考え続けました。
イトーヨーカドー 山幡さん
公園の他に、子供たちの大好きなものといえばおもちゃです。おもちゃと公園がある空間は、必然的に公園を超えるものになるはず。TOYLO PARK は、おもちゃ売り場と「リトルプラネット」を掛け合わせる形で誕生した、近未来のファミリー向けコンセプトフロアです。「モノ」だけでなく「コト」を提供することで、子供たちが体験のできる環境を用意。この体験の提供でマネタイズにも成功しています。
TOYLO PARK として、子供関連売場の面積を1.3倍拡大しましたが、それに対し売上は3倍へ伸長。オープン後は、業界関係者、特に同業者の視察が後を絶たない状態が続きました。お客様からは、「楽しい!!」「大人も楽しめる」といった声を非常に多くいただいています。
イトーヨーカドー 山幡さん
ここで、山幡さんに聞いた興味深いエピソードをご紹介したいと思います。スーパーマーケットで親におもちゃを買ってもらった子供は、おもちゃを開封して遊びたい一心で、早く家に帰りたいと親にせがみます。一方、TOYLO PARK内のキッズパーク を体験した子供は、家に帰りたくないと言うそうです。滞留時間が延びれば、親は他の売り場で買い物を続けるかもしれません。子供が「また、TOYLO PARK へ行きたい」と言えば、その親子にとって、他のスーパーよりイトーヨーカドーに足を運ぶ、強いインセンティブになります。
共創から生まれた、「モノ(物販)」と「コト(体験)」の融合
イトーヨーカドーが TOYLO PARK の構想を具現化する中でプレースホルダが手を組むきっかけとなったのは、プレースホルダが全国8 ヶ所(2021年7月時点)に常設展開する「リトルプラネット」のキラーコンテンツ「SAND PARTY!」の存在です。「従来の公園を超える、未来の公園」を探していた山幡氏は、この AR を使った砂場を初めて紹介された時に「これだ」と確信を得たそうです。
プレースホルダは2019年から「リトルプラネット」のライセンスパートナーシップ(フランチャイズ)展開を始めており、各社と連携は経験していましたが、それらは大型ショッピングモールの中にテナントして出店する形式をとっていて、店舗の外観デザインや設計はプレースホルダが包括的に取りまとめるというものでした。
対照的に、TOYLO PARK はイトーヨーカドーが新たな事業形態を模索するコンセプトフロアで、すでに定められた空間の一部にパークとして設置するという初めてのモデルケースでした。直営パークでもライセンスパークでもない初の試みに、共創ならではの難しさと可能性を感じたと、プレースホルダの鈴木氏は昨年の出店準備を振り返ります。
TOYLO PARK のデザインやコンセプトを壊さずに、多くの関係各社とも連携しながら、リトルプラネットの魅力を来店者に伝えるという挑戦は難しいものでした。ただ、こうしたコンセプトフロアの中で自社のコンテンツを最大限に活かすという経験は滅多にできることではありません。設計やデザイン、運営面において貴重な経験になりました。
プレースホルダ 鈴木さん
TOYLO PARK powered by リトルプラネット
プレースホルダにとっては、これまでのデジタル技術を使ったテーマパークというだけでなく、子供関連売り場の一部に併設という初めてのケースとなったことで、「コト(体験)」だけでなく「モノ(物販)」と「コト」を融合することで生まれる新たな可能性を確認することができました。物販と関連づけられることから、メーカーからの協力も得られやすくなっています。
リトルプラネットでは昨年より三菱鉛筆様に公式サポーターとなっていただき、アトラクションで使用する色鉛筆「ポンキーペンシル」の物品協賛やアトラクション内コラボなどを行っています。こうしたメーカー様を巻き込んだ施策もさらに推進していきたいと考えています。例えば、おもちゃ売り場で販売する商品を実際にリトルプラネットで試遊できるなど、新たな子ども売り場作りに取り組んでいきたいです。
プレースホルダ 鈴木さん
今後は、おもちゃ売り場とリトルプラネットのシナジー効果を高めていきたいとのことです。新型コロナウイルスが収束すれば、本格的な集客が可能になり、TOYLO PARKのキッズパークで体験をしたエンターテイメント関連のおもちゃを購入して家に持ち帰ったり、購入したおもちゃを使ってキッズパーク内で遊べたり、リアルとバーチャルの掛け合わせで、さらなる売上伸長に期待が持てます。
「TOYLO PARK powered by リトルプラネット」は、初拠点がオープンしてまだ数ヶ月であることやコロナ禍にあることなどから、イトーヨーカドーとプレースホルダ両社にとって事業的成果を評価をするには時期尚早です。うまくいけば、この構想は横展開され、日本中のイトーヨーカドーで、子供たちが「AR 砂場」に目を輝かせ歓声をあげている姿を目にできるようになるでしょう。
編集部では引き続き共創の取り組みをお伝えしていきます。
株式会社プレースホルダhttps://placeholder.co.jp
デジタル技術とリアルな空間の融合で人々に感動と心躍る体験を提供する、空間価値創造カンパニー
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