- インタビュー
2021年10月19日
KDDI・GINZA SIX・名和晃平氏がコラボ、銀座で体験できる5G時代の現代アートとは
- GINZA SIX リテールマネジメント株式会社
阿部 茂夫(写真右) - プロモーション・サービス部所属 2006年、大丸(現・大丸松坂屋百貨店)に入社。売り場担当バイヤーなどを経験した後、2014年からはミラノ駐在員事務所にて勤務。大丸松坂屋百貨店などの出資により設立された GINZA SIX リテールマネジメントで2019年9月より現職。
- KDDI株式会社
砂原 哲(写真中央) - 5G・xR サービス戦略部 エキスパート2002年、au Design Project を立ち上げ、INFOBAR や前衛芸術家・草間彌生氏とのコラボレーションモデルなど数多くの製品プロデュースを手がける。2020年より先端技術で文化芸術をアップデートするau Design project[ARTS & CULTURE PROGRAM]を開始。
課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。
2003年に開始されたケータイのデザイン開発プロジェクト「au Design project」。2020年以降は、au Design project[ARTS & CULTURE PROGRAM]として、文化財や芸術作品、現代アートと、5G や AR(拡張現実)といった最新テクノロジーを融合させた新たな文化芸術体験の提案を行っています。
今年6月から来年4月まで、東京・銀座の複合商業施設「GINZA SIX」で開催されている彫刻家・名和晃平さんによるインスタレーション「Metamorphosis Garden(変容の庭)」では、au Design Project と 5G や XR などの最先端技術で新たな文化芸術体験の DX を推進するプロジェクト「augART」を展開しています。
KDDI と GINZA SIX のコラボレーションがどのようにして実現したのか。そして、何を目指しているのかについて、augART の仕掛け人である KDDI の砂原哲さんと、GINZA SIX リテールマネジメントの阿部茂夫さんにお話を伺いました。名和さんからのメッセージも交えてご紹介します。
「鑑賞するアート」から「体験するアート」へ
© Kohei Nawa | Sandwich Inc.
2017年4月にオープンした GINZA SIX では、店内の中央に広がる吹き抜けを使って、どこからでも目に留まる場所にアートインスタレーションを展開することで、来訪者を楽しませてきました。国内外の錚々たるアーティストさんと様々な表現に挑戦してきましたが、GINZA SIX では今回の作品を「鑑賞するアート」から「体験するアート」に変え、コロナ禍でどのようなテーマでどう表現し、価値感を提供できるのかが大きな課題だったと阿部さんは言います。
一方、KDDI では 5G でしか実現できない新しい体験を模索する中で、名和さんといくつかの企画を進めていました。偶然にも、KDDI と GINZA SIX はそれぞれ別のプロジェクトで名和さんと組んでいたわけですが、すでに今年4月からスタートしていた名和さんの彫刻展示を「体験するアート」に拡張したかった GINZA SIX と、5G による体験を模索していた KDDI が意気投合し、名和さんの作品を挟んでコラボレーションすることになりました。
KDDI、GINZA SIXそれぞれが全く別のプロジェクトとして名和晃平氏と進めていたものが、合わさって双方の課題を解決するに至りました
KDDI 砂原 哲さん
「Metamorphosis Garden_AR」イメージ
体験するアートとは何なのでしょうか。まず、GINZA SIX には名和さんの作品「Metamorphosis Garden」が展示されています。KDDI は会場に 5G アンテナを設置していて、来訪者はこの作品を、au Design project が提供する「AR×ART」アプリを介して観ることで、5G と最先端の AR 技術である空間マッピング や VPS(Visual Positioning Service)技術により、超高精細でダイナミックな AR ダンスパフォーマンスと融合した現代アートを鑑賞できます。
au Design project の AR コンテンツ「Metamorphosis Garden_AR」は、名和さんとベルギーの振付家ダミアン・ジャレ氏にの2人により開発が進められました。「AR×ART」アプリを通して「Metamorphosis Garden」を観ると、6本の彫刻の柱「エーテル」を起点に粒が渦状に拡散し、精霊が現れ、その精霊が渦と一体になって踊り始めます。
日本列島の原風景にも重なるイメージで全体に島々を配置し、そこから『エーテル』が重力に逆らって垂直に立ち上がろうとしています。これは生命するものとして表現しています。鹿の足下に植物のつぼみがあり、動物と植物が互いを補完しながら生態系を維持している様子を表しています。
日本列島の原風景は、イザナミとイザナギが日本を作った『国生み神話』にもつながる。そのアイデアをARで表現したくて、パフォーマンスアートを共同制作しているダミアン・ジャレと一緒にARコンテンツを作りました。男女のダンサーは精霊を表現しています。そこから渦を巻くように粒が広がり、力が広がっていくというイメージです
名和 晃平さん
偶然が生み出したコラボ、実現までの道のり
GINZA SIXの新たな彫刻、名和晃平氏作「Metamorphosis Garden」
KDDI と GINZA SIX のコラボレーションは当初から予定されていたものではなかったため、関係者の苦労も大きかったようです。スケジュールや実現方法の見極めでは関係者間で幾度も話し合いがもたれました。「体験するアート」を最新テクノロジーで実現できたことで、アートの体験価値を新たに創造できたことに満足を感じています。
構造物を吊り上げる工程で困難が予想されたため、何度も構造計算を繰り返し安全に設置することに注力しました。また、作品設置後の AR を表現するために、3D での空間認識作業や20万点の点群データを処理し、コンテンツとして成立させるまでには想定以上に時間かかりました
GINZA SIX リテールマネジメント 阿部 茂夫さん
GINZA SIX が名和さんに作品の出品依頼をしたのは2019年頃で、新型コロナウイルスの感染拡大で状況が一変したことをきっかけにテーマが変更となり、現在の命の歓びを表現する「Metamorphosis Garden(変容の庭)」になりました。商業施設としての「アート」との向き合い方や露出の仕方で、どうこの作品を来訪者に体験して欲しいのか、一方で作品を「消費・消耗」させないためにどういうスタンスでいるべきなのか、阿部さんは現在でも最適解を探っている最中だと言います。
5G や最先端 AR 技術を使った新しい「体験するアート」を銀座で具現化できたことで、アートに関心のある人、IT に関心のある人のみならず、多様な人々に対して、アートとテクノロジーが融合することで生み出される可能性を提示できたことの収穫は大きいと言えるでしょう。読者の皆さんにおかれても、銀座にお出かけの際はスマートフォンにアプリをダウンロードし、GINZA SIX でこの未来感あふれる体験に触れられることをお勧めします。
彫刻家 名和 晃平(Kohei Nawa)氏について
彫刻家/Sandwich Inc.主宰/京都芸術大学教授
1975年生まれ。京都を拠点に活動。2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。博士第一号を取得。2009年「Sandwich」を創設。感覚に接続するインターフェイスとして、彫刻の「表皮」に着目し、セル(細胞・粒)という概念を機軸として、2002年に情報化時代を象徴する「PixCell」を発表。生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマに、重力で描くペインティング「Direction」やシリコーンオイルが空間に降り注ぐ「Force」、液面に現れる泡とグリッドの「Biomatrix」、そして泡そのものが巨大なボリュームに成長する「Foam」など、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた。近年では、アートパビリオン「洸庭」など、建築のプロジェクトも手がける。2015年以降、ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレとの協働によるパフォーマンス作品「VESSEL」を国内外で公演中。2018年にフランス・ルーヴル美術館 ピラミッド内にて彫刻作品“Throne”を特別展示。
「KOHEI NAWA」( URL:http://kohei-nawa.net )
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