- インタビュー
2023年08月09日
eiicon中村氏に聞くー大企業「MBOのリアル」ー
- 株式会社eiicon
中村亜由子 - 代表取締役
UC Berkley(カリフォルニア大学バークレー校)の教授 Henry Chesbrough 氏がその著書「OPEN INNOVATION(邦訳:OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて、産業能率大学出版部 刊)」を書いたのが2003年のこと。二十年の時を経て、この言葉が新聞に出ない日は無くなったように思います。
企業がイノベーションの活路を社外に求めることを意味したこの言葉は、10年ほど前からのスタートアップ隆盛の中で、大企業とスタートアップが協業することの代名詞として使われることが増えました。大企業とそれ以外の企業のヒエラルキーやクローズドなサプライチェーンが崩れゆく中で、世の中が求めているからこそ受け入れられたのでしょう。
2017年、人材大手パーソルグループの一プロジェクトとして始まったeiiconは今年4月、事業開始から6年を経て、MBO(経営陣による買収)と、ファンドや個人投資家からの資金調達を発表しました。
累計2万7,000社が利用するなど事業は拡大フェーズにあり、パーソルグループの中で活動することは、潤沢な資金を基にした経営や、親会社のネットワークを活用した多くの企業へのリーチなど多くのメリットがあるように思えます。このタイミングで独立し、「自らもスタートアップになった理由」について、株式会社eiicon 代表取締役の中村亜由子さんにお伺いしました。
改めて事業概要を教えてください
中村:私たちは現在、オープンイノベーションに特化した総合支援業として事業を展開しています。今年の4月には改めてビジョンを策定し、イノベーション後進国からオープンイノベーション先進国へというビジョンを掲げました。オープンイノベーションは事業創出の手段であり全てを社内で行う必要はありません。企業は社外で事業を作っていく場合と社内で事業を作っていく場合、必要な手段を適切に使いこなせるようになることが重要です。このような時代を創り出すために、私たちは日々事業に取り組んでいます。
現在、プラットフォーム事業とエンタープライズ事業を分けて運営しています。プラットフォーム事業は「AUBA」という名前で、現在2万7,000社を超える企業にご活用いただいています。当プラットフォームは登録審査制です。つまり、ご自身で登録申請をしていただき、我々の審査部隊が法人の正当性や一定の基準を確認し、合格した方々が参加しています。このプラットフォームはオープンイノベーションに特化したマッチングサービスであり、受発注といったやりとりをNGとしています。相手を探し、出会い、しっかりと事業を進めていただくことに特化しています。
2020年後半から、サブスクリプション型の展開を行っており、私たちがオンラインコンサルタントとしてサポートさせていただくものは有料で展開しています。有料サポートを利用される企業の9割以上が共創に向けた検討をしており、結果として6割以上の企業が事業提携や新たな事業への展開につながっています。
もう一つの事業はエンタープライズ向けです。オープンイノベーションは手段に過ぎないため、その一部分を支援しても、立ち消えてしまうケースを見てきました。そのため、私たちは会社の中長期計画と整合性を図り、オープンイノベーションをどのように活用するかを明確に定め、テーマやコンセプトの策定をサポートし、パートナーを探索します。
その後、企業と共に事業を展開していく中で、インキュベーションから事業化までをサポートし、事業化後も伴走していく体制を整えています。昨年度の実績では37社の大手企業から直接アクセラレータープログラムやオープンイノベーションプログラムの運営支援を受託し、これらを通じて2,855社の応募があり、81件のプロジェクトが生まれました。
新規事業の予算はあまり明確にセオリーが決まっていない費用だと思いますが、どのような価格帯で提供されていますか
中村:スタートアップ向けの場合、現在は月額4万5,000円、10万円、30万円の3つのプランを提供しており、最低契約期間は360日と定めていて、1年間しっかりと伴走させていただく形を取っています。特に推奨しているのは10万円のプランで、毎月、私たちのコンサルタントがサポートしながら、どのような企業と出会っていくべきかの推薦を行い、会った後の進捗確認も行っています。このプランが、オープンイノベーションを進めるための最も適切なプランだと考えています。
大企業向けの場合は、工数で見積もりを出しているため単価には幅がありますが、大規模なプロジェクトでは7,000万円や8,000万円といった予算もありますし、数百万円台後半のケースもあります。2年間の伴走支援を実施していることもあって、やりたいことに応じて見積もりしている状況ですね。
企業としては、どういった予算から出ることが多いですか
中村:新規事業の研究開発費の一部を運営費として充てるケースや、まだ具体的な使途が定まっていない予算を充てるケースもあります。
新規事業やM&Aは従来、戦略コンサルティングファームが手がけている領域でしたが、貴社を選ぶ理由はどの辺りにあると思いますか
中村:戦略コンサルタントの方々は市場をしっかりと捉え、リサーチして整理していく能力が優れていると思います。一方、私たちはオープンイノベーションを社会に実装したいと考えています。そのためには、結局のところ、事業会社がオープンイノベーションというツールを使って事業を創造するところまで進めなければ、オープンイノベーションは浸透しないと考えています。私たちは実践派であり、一緒に企業のチームに入っていって事業を作り上げ、壁打ちし、実証していく役割を果たしたいと考えています。
続いてはMBOの話題について、まずはどういったスキームだったのか教えてください
中村:今回、まずはパーソルイノベーションから新設分割という形で100%の子会社を設立しました。それとは別に、私と富田でSPC(特別目的会社)の準備会社を設立し、そちらで資金調達を行い、調達した資金を使って、パーソルから子会社化した会社を買収するというスキームでMBOを実施しました。SPCではJ-Kissで新株予約権を発行し、資金調達を行っています。
今は何人規模で動いていますか
中村:正社員と契約社員合わせて58名、業務委託が44名いて、全体で102名で活動しています。
事業買い取りするには相当な費用が必要だったかと思いますが、増資の金額について教えてください
中村:デットとエクイティを合わせると2桁億円以上の調達をしています。
今回セイノーHDのCVC(Spiral Innovation Partnersが運営するLogistics Innovation Fund)がリードで入り、個人の方々が出資されていますが、彼らの期待値はどういうところにありますか
中村:今回はオープンイノベーションを主語で語れるプレーヤーが私たちの株主となってくれました。パーソルは私の事業案に賛同して最初に出資してくれた株主ですが、彼らの本業がHR(人材サービス)であるため、HRを中心に事業展開を考えると、一定の規模に達した段階でHR主軸とイノベーション主軸との間に少し距離が生じたのは事実です。事業の成長戦略を考える上で、オープンイノベーションを主語で語れるパートナーが必要ではないかと考えて、出ることにしました。
また、セイノーさんもオープンイノベーションに積極的に取り組んでおり、現在の会社でCVC(Corporate Venture Capital)を立ち上げ、Logistics Innovation Fundで物流分野のオープンイノベーションを推進しています。これを運営するSpiral Innovation Partners自体も非常にオープンイノベーションに長けた会社であり、彼らもまたMBOの経験があるんです。
私は常々彼らに事業の相談もさせていただいていたという経緯があり、オープンイノベーションを主語で語れるVCやCVCに参画していただけることになりました。現段階ではIPOを目指して成長を続け、数年以内に上場したいと考えています。
売上や有料会員数、有料の企業数などの数値目標があれば教えてください
中村:具体的な数字は差し控えさせていただけたらと思っていますが、来年度の前半を見据えて次の調達ラウンドを設計しており、今はしっかり事業を拡大し会社の価値を向上させる必要がありますので、エンタープライズ事業、プラットフォーム事業の両方を拡大させていく計画を立てています。
ありがとうございました。
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