- 海外トレンドレポート
2024年10月10日
Salesforceが主催する世界最大級のプライベートイベント!ーーDreamforce 2024
KDDI Open Innovation Fundのサンフランシスコ拠点では、北米や欧州のスタートアップ企業への投資や事業連携を目的として活動しています。このコーナーでは現地で発見した最新のテクノロジーやサービス、トレンドなどをKDDIアメリカの一色よりお送りします。
今回は、9/17~9/19の期間で、アメリカのサンフランシスコにて開催されたテックカンファレンスDreamforce 2024(以下Dreamforce)についてお届けします!
- 一色 望KDDIアメリカ
- 本誌の記者。KDDIオープンイノベーションファンドのアメリカ サンフランシスコ拠点でスタートアップとKDDIの事業創造を目指し、ディールソーシング(投資先探し)と投資評価に取り組み、既存の投資先企業もサポートしながらMUGENLABO Magazineの制作に携わる。趣味は世の中のトレンドサーチと、美味しいお店巡り、旅行、ジム通い。
Dreamforceとは
Salesforceが主催する世界最大級のプライベート年次イベントで、2003年から続く歴史あるイベントです。
Trailblazers(Salesforceのカスタマー・パートナー・従業員などSalesforceに関わるすべての人の総称)に対し、学習やコミュニティ構築、エンターテインメント、社会貢献のためのイマーシブな体験ができる機会を提供しています。
Dreamforce期間中は、会場付近が参加者で埋め尽くされ、一部の道路封鎖のために交通渋滞にまで影響するほど大規模なイベントです。
今年のDreamforceはSalesforceにとって特にスペシャルなものと事前にアナウンスされており、イベント冒頭のメインキーノートの中で同社の渾身かつ待望の新プロダクト「Agentforce」が発表されました。
また、最初から最後までAIに焦点が当てられ、AIリサーチャーやイノベーター、エキスパートなど100名以上の登壇者を招き、1,500超のセッションが開催されました。
Main Keynoteおよび新プロダクト紹介
イベント初日に開催されたMain Keynoteは開始2時間前から会場に列ができ、満席の会場で、CEOのMark Benioffがプレゼンを行いました。
最も大きな発表としては、企業のための自律型AIエージェント「Agentforce」の機能のリリースがあり、約1時間半のMain Keynoteの内容のほとんどがAgentforceの説明にあてられました。
その効果も後押しして、本イベント最終日の午後までの約3日間だけで、既に16,500のエージェントが作成されたといいます。
Keynoteの内容としては、以下の通りでした。
■Agentforceとは
・Agentforceは、労働力による制限を解放し、本来取り組むべき売上向上やカスタマーサクセスにフォーカスするために作られたSalesforceプラットフォーム上の人間と協働するエージェント。
・過去プロダクトと比較すると、Chatbotは決められたルールでのルーティーンタスクの処理、Co-pilotはAIをベースとする業務アシスタントであったのに対し、Agentforceは単なるアシストからアクション実行の役割を担うことが大きな違いとなる。
・Agentを動かす5つの要素としては、Role、Data(ビジネス上データの理解と把握)、Actions(プロンプトと実行)、Channels(SlackやWhatsAppなど複数チャンネルとの連携)、Trust&Securityがあり、すべての機能がSalesforceプラットフォーム内に含まれる。オールインワンで対応が可能な唯一無二のテクノロジーである。
■利用事例
Agentforceを含むSalesforceプラットフォームの具体的なユースケースとして、アメリカの高級デパート「Saks Fifth Avenue」が顧客体験をどのようにアップデートしたかということが、以下3つのポイントとともに紹介されました。
①Agentforce
顧客からの問い合わせに対し、Agentforceによって生成されたAIエージェントのソフィーが対応。服のサイズ変更や洗い方、配送日などを非常に自然な会話形式で応答し、返金対応までの受付を行う。応答の裏側では、具体的アクションと結びつけるために顧客情報の注文番号の紐づけを行う。
②Data Cloud
データモデルをその場で作成し、Snowflake上の注文データにアクセスして返金対応を行う。Data Cloudに組み込まれたRAG(Retrieval Augmented Generation)機能により、顧客のインサイトを深く理解し、正確な問題解決をサポートする。
③Customer 360
顧客対応の概要と次のアクションについて、AIエージェントと担当者がSlackでコミュニケーションしたり、Tableau Semantics により、AI と担当者間のシームレスな業務移管が行える。
スタートアップピッチ
Dreamforce内で行われるスタートアップピッチ「Dreampitch」はAI for Better Tomorrowという副題が掲げられ、未来をより良くするためのAIソリューションを提供する3社が登壇し、各社5分のピッチを行いました。
登壇企業はサーキュラーエコノミーや自然環境保護など、ソーシャルインパクトをテーマとする企業が多かったです。
昨年もメンタルヘルスや環境廃棄物モニタリングなどソーシャルインパクト文脈の企業が登壇し、昨年3位となったメンタルヘルスケアアプリWysaは、最近iOSとAndroidにおけるTop20アプリに選出されました。
審査員はイノベーション、スケーラビリティ、インパクトの3つの観点で各社を評価し、オーディエンスの投票もポイントとなり、最も高いポイントを獲得した企業には$25万ドルの賞金が授与されました。
【登壇スタートアップ】
1.Butlr(優勝企業)
■事業概要:ワイヤレスセンサーとコンピュータビジョン技術を使い、熱のみのデータを取得することで、空間内にいる人の動きや体温、占有率などを検知できるサービスを提供。
カメラを利用しないために機密情報を取得しないことが特徴。空間をデータ管理し、エネルギー効率性と安全性を向上させることで、企業の意思決定をサポート。オフィスや介護施設での利用を想定。
■本社所在地:アメリカ
2.Excess Materials Exchange
■事業概要:真のサーキュラーエコノミーを実現すべく、生成AIとブロックチェーンを使い、廃棄物を捨てたい企業とその廃棄物を利用したい企業をマッチングするプラットフォームを提供。幅広い業界で利用可能ではあるものの、優先的なターゲット業界は建築、インフラ、エネルギーとしている。
既に$20Mの評価を受けており、直近3年間で利用率は450%以上成長。約5,000のプロバイダーが同社のサービスに接続済み。
■本社所在地:オランダ
3.PlanBlue
■事業概要:ロボットやAIを使って海をスキャンすることで、海の汚染状況、資源、生物多様性などの何層にも重なったデータを収集できるソリューションを提供。
イタリアの約4,000キロメートルの海岸線をスキャンする国家プロジェクトを推進中。シリーズAの資金調達を実施中。
■本社所在地:ドイツ
注目のセッション
Lisa Su氏×Mark Benioff氏の対談
AMDのCEOであるSu氏は適切な製品ケイパビリティと共に、パートナーシップを構築することによってビジネスを拡大してきたと述べ、SalesforceをはじめTeams、zoom、Instagramなどの大手クラウドサービスでもAMDが使われていることを強調しました。
その他代表的なパートナーとして国立研究所を挙げ、世界最大級のスパコンを構築してきた点に触れ、 テクノロジーは個人的生産性の改善だけでなく社会をより良くするために使うこともできると説明しました。
Su氏は「複数のクライアントから、『AIを自社導入すべきことは理解しているが、その導入方法がよく分からない』という課題をよく耳にするが、AMDやハイパースケーラーの技術を使うことによって解決できるようになる」と述べました。
AMDの社内では7-8年前からAI導入を最優先事項として取り組んでおり、現在も、ワークフローのさまざまな部分で何百ものパイロットを実施し、AIによる高速化を試みていることを明かしました。
YOSHIKI氏×Paula Goldman氏の対談
SalesforceCEOのMark Benioff氏と友人関係にあるYOSHIKI氏は、今回のイベントの中では珍しい日本人での登壇者でした。
YOSHIKI氏はアーティストの観点からAIとの芸術と音楽、倫理の探究、創造性におけるAIの変革的な影響について語り、AIは創造のすべてのプロセスを代替できるわけではないという自身の考えを語ったうえで、AIの進化はとめることができないので、人間(アーティスト)はAIとの共存のベストな道を探し見つけるべきだと主張しました。
最後に
Salesforceはこれまで14年間にわたりAI研究開発を行っているそうですが、自社LLMやRAGなども開発している他、カスタマーのフィードバックを受けて迅速にカスタムしていく姿勢が、顧客からの信頼を得ている理由の一つだと感じました。
グローバルSaaSのトップ企業の一つであるSalesforceがAgentforceをはじめAIソリューションによって顧客体験価値をどう変革していくのか、今後の展開も楽しみです。
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