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2024年03月08日

Dr.JOYとKDDIグループが提携、異業種タッグで期待される医療現場のDX

Dr.JOY株式会社
石松 宏章
代表取締役社長/医師
KDDI まとめてオフィス株式会社
南 昇
取締役 プロジェクト営業本部長
KDDI まとめてオフィス株式会社
松田 向平
プロジェクト営業本部
KDDI株式会社
田島 恭平
ソリューション事業本部

近年、医師が自ら起業するスタートアップが増えてきました。その先駆けとなる存在が2013年に創業したDr.JOYです。医師で代表の石松さんが医療現場で感じた課題の解決を目指して構築した医療現場の業務効率化プラットフォームは、2014年から2015年にかけてのアクセラレータプログラム「KDDI∞Labo」第7期に採択され、デモデイでは最優秀賞を獲得しました。


そして2023年11月、Dr.JOYは、KDDIならびにKDDI まとめてオフィスの3社と、医療業界の DX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤整備と医師の働き方改革に向けた業務提携を発表しました


Dr.JOYはビーコン(Bluetoothを発信する小型の機械)を使った自動勤怠管理、病院内でのチャットコミュニケーションなどを提供することで、医師が本来の業務に時間と技能を集中できるよう支援しています。例えば看護師から急ぎではないにも関わらず、院内PHSで呼び出しを受けるなど、これまで突発的な連絡や雑務に追われていた業務のDX化を手掛けています。


今回の提携に至った背景について、Dr.JOYの代表取締役社長 医師の石松宏章さん、KDDIまとめてオフィス 取締役プロジェクト営業本部長の南昇さん、 同じくプロジェクト営業本部で病院向けの医療取組を推進するの松田向平さん、そしてKDDIで新規事業企画を担当する田島恭平さんにお話を伺いました。


Dr. JOYとKDDIグループが出会ったきっかけを教えてください。


  Dr.JOY 代表取締役社長/医師 石松宏章氏

Dr.JOY 石松:KDDIさんとは、2014年にKDDI∞Laboのアクセラレータプログラム第7期に採択いただいたのが始まりです。当時、沖縄の病院に赴任していたのですが、週一回、KDDI∞Laboに伺ってご支援いただいてました。そして、プログラムが終わったことを機に増資を行い、東京・渋谷に活動の拠点を移しました。その後も、KDDI∞Laboを通じてKDDIさんとお話をさせて頂きましたが、具体的な取り組みにはなっていませんでした。そんな中、2021年にKDDI まとめてオフィスの松田さんから弊社のホームページにお問い合わせをいただき、一緒に話を進めていく中で提携することになりました。

KDDIまとめてオフィスの事業は、法人向けのICTソリューションの提供が主ですが、ヘルスケアスタートアップであるDr.JOYと提携したのはなぜですか。

KDDI まとめてオフィス 南:石松さんと最初にお話しさせていただいたのは2021年10月でした。当時は新型コロナウイルスが猛威を振るっている真っ只中、医療機関を取り巻く環境は大変な状態で業務は逼迫し、風評被害から医療崩壊が危惧されるなど、医療業界にとってはネガティブなキーワードがニュースで飛び交う日々でした。

一方で、政府は2021年9月1日にデジタル庁を発足し、医療のDX化を重点項目の一つとして挙げました。KDDIの動きとしては中期経営戦略の策定があり、事業戦略としてヘルスケアというキーワードが盛り込まれました。

私たちKDDI まとめてオフィスは法人のお客様を担当していますが、そこには医療機関も含まれます。ヘルスケア領域のお客様である医療機関にDXを提案し、医療従事者の課題解決を支援することで、社会に貢献したいと考えています。

ただし、当時のKDDI まとめてオフィスは主に一般企業向けにICTソリューションを提案しており、医療機関との商習慣や専門用語には慣れていなかったので、専門的なチームや専門家のパートナーを求めていました。その中で、Dr.JOYの石松さんとコミュニケーションを取らせていただき、現在のような関係に発展しました。


  業務提携を発表

KDDI まとめてオフィス 松田:当時のKDDIまとめてオフィスの経営層から医療プロジェクトを発足するよう指示を受けておりましたが、会社として医療分野のお客様と取引はあるものの、他の業界に比べて医療DXに関する知見、ノウハウが不足している状況でした。テストマーケティングを進める中で、様々な情報に振り回され、壁にぶつかっていました。

そのような状況の中で、医療に関するあるテーマに基づき検索をしていると、Dr.JOYさんのWebサイトにたどり着きました。そのホームページの内容が、医療者目線で病院が抱えている具体的な課題と、それに対する明快でユニークなソリューションが記載されており、お客様、医療業界への理解度のレベルがとても高い会社でした。その時、「こんな会社と一緒にビジネスができたらなぁ」と感銘を受けたことを記憶しております。

そして、この会社について調査しているうちに、Dr.JOYさんがKDDIと関係があるという話を別の人から聞き、すぐに石松さんに連絡を取りました。石松さんの話を聞いているうちに、医療業界のお客様を取り巻く環境、勤怠管理の先の具体的で明快なビジョンに衝撃を受け、一、二回の会話で魅了されました。このことを南さんにすぐ報告し、そこからプロジェクトが始まりました。

今回の業務提携では、具体的にどのような取り組みをされますか。また、最終的にはどのような成果を期待されていますか。


  病院内でのチャットコミュニケーション

Dr.JOY 石松:私たちは元々院内SNSやグループウェアのような側面からマーケットインをしていました。その後、製薬会社とのマッチングプラットフォームなどに取り組んでいましたが、2018年から医師の働き方改革に着目し、主にビーコンを使った勤怠管理を打ち出しました。

最初はスマートフォンとビーコンを使う形で導入しましたが、機器の問題や医師が位置情報をオンにしない、Bluetoothをオンにしない、電池が持たないなど、さまざまな理由で運用が出来ませんでした。その課題を解決するために、勤怠管理はビーコンの機器同士を使い、残業申請などはスマートフォンで行う方が良いと考えました。

そのアプローチが上手くいき、私たちのサービスをきっかけに病院にスマートフォンが普及し、院内PHSからスマートフォンへの移行市場も拡大してきました。私たちのビーコンを使った勤怠管理を推進する上で、KDDIさんとの連携でさまざまな勤怠管理ソリューションを提供しやすくなると考えました。

現在は、医師の働き方改革、ビーコンによる勤怠管理、院内PHSのスマートフォン化などの文脈で協業を行っています。

KDDI まとめてオフィスとしては、医療DXにおいて、従来の院内PHSをスマートフォンに置き換えるだけでなく、トータルソリューションを作る必要性をどのように捉えていますか。


  KDDI まとめてオフィス 取締役 プロジェクト営業本部長 南昇氏

KDDI まとめてオフィス 南:KDDIやKDDI まとめてオフィスの文脈で、医療DXとして一番わかりやすいのは、今でも病院内の医療従事者が院内通話をする際には、主流がまだまだ院内PHSであるということです。PHSは院内通話用で、公衆網に接続されるわけではないため、月額料金がかかるわけではありません。あくまで院内ネットワークに接続される通話端末です。

一方で、公衆PHSサービスが終了する中、メーカーもPHSの新しい機種を開発しなくなっています。その結果、医療機関で使用されている院内通話手段がPHSから何か新しいものに変わらなければなりません。

当然、我々としては、スマートフォンへの切り替えをお願いしたいところですが、単に通話機能を置き換えるのではなく、スマートフォンに切り替えることで新たな価値を提供し、これまで以上に効率的な業務が可能になる提案が求められています。通信料など費用を負担していただいても、病院側にとってさらなる利益がもたらされるトータルソリューションにしなければなりません。

その中で、Dr.JOYさんの勤怠管理との連携に始まり、院内の電話交換機との連携、電子カルテやナースコール連携など、病院特有のシステムやネットワーク、コミュニケーションツールをスマートフォンとあわせることで、これまでにない働き方を実現できるトータルソリューションを提案しています。我々としては、医療業界のDXに貢献し、トータルソリューションを提案する立場として、引き続きDr.JOYさんと協力しています。

今回の業務提携を受けて、社内やお客様からの反響をお聞かせください。


  KDDI株式会社 ソリューション事業本部 田島恭平氏

KDDI 田島:実は約3年前、KDDIの事業企画部で医療ヘルスケアの新規事業を検討する立場として、医療機関の課題や働き方改革、残業、院内のコミュニケーションの問題などに注目していました。ただし、通信環境やスマートフォンの導入だけでは医療機関の課題解決にはなりませんでした。

新たなブレークスルーを探しているところで、松田さんからDr.JOYさんに関する話が私のところに来ました。さらに、石松さんとの話し合いの中で、医療機関や病院を変革していく熱い想いや具体的なアイデアを共有し、この3社が協力して医療機関の課題を解決できるのではないかと考え、今回業務提携の形を構築しました。

社内では慎重な意見もありました。しかし、ビジネス検証等を踏まえ、着実に実績を積んできたことから、法人事業として医療機関の課題に取り組む一歩として、この形に至りました。これからは、この取り組みをさらに推進していきたいと考えています。

また、弊社のサテライトグロース戦略の一環として、ヘルスケアを注力領域として掲げています。法人事業として今回の取組みについてこれからも着実に進めていくと共に、KDDIグループ全体として、パーソナル側(個人顧客向け事業)との連携も視野に検討を進めていきたいと思っています。


  KDDI まとめてオフィス 松田向平氏

KDDI まとめてオフィス 松田:提携を受けて、お客様からの反応が明らかに変わってきています。特に、石松さんが率いるチームが商談に参画することで、お客様との共通言語を持てるようになり、商談の幅も広がるなどお客様に安心感を与えられていると実感しております。実際に、大規模な病院グループからの問い合わせが増えており、具体的な商談に繋がっています。

Dr.JOY 石松:弊社では、以前はやはりモバイルに関する専門知識が不足している部分がありましたが、KDDIさんとの出会いをきっかけに、モバイルのネットワークなどに詳しい人材が社内に増えてきています。モバイル関連の提案もKDDIさんと共同で行えるようになり、最初は協業の域でしたが、今では、会社として本気で取り組む姿勢が浸透してきています。社内のDr.JOYのメンバーにも、この意気込みが伝わり、医療DXや病院DXを本気で推進していく決意を社内外に示せていると思います。

Dr.JOYとしては、医療DXで特に注力していきたい領域はありますか。

Dr.JOY 石松:多くの病院とお話をしていく中で、〝病院のDXのネタ〟というのはたくさんあります。その中でビジネス上でも、社会的意義からも、「いつか挑戦したい」サービスは何かを考えました。

皆さんが経験されている、総合病院の予約の取りにくさ、電話の繋がりにくさは社会課題としては非常に根深いです。最初はWebでやることを考えていたのですが、やはり言葉で話した情報量が多いため、患者さんは電話で予約を取ろうとすることが多いです。しかし、そこには電話がなかなか繋がらないという問題があります。

そこで、AI電話というジャンルを深掘りし、患者さんがシームレスに病院の予約を取れるようにすることを考えました。最初の病院導入は最近始まりましたが、かなり良い滑り出しです。実際に、現場に入り観察しましたが、上手く伸びそうだと感じています。

KDDI まとめてオフィス、KDDIとして、今後、特に取り組みたい領域はありますか。

KDDI まとめてオフィス 南:病院と患者さんの間のコミュニケーションも、通信に関する話題だと思います。病院と患者さんの関わり方や、国内の医療機関を取り巻く環境の変化において、遠隔医療や訪問診療などの実現には、通信やコミュニケーションが欠かせない基盤になると考えています。

そのため、私たちKDDIまとめてオフィスやKDDI本体も、電気通信事業を核として、医療DXを良い形で推進し、社会貢献に繋げていきたいと考えています。これにより、医療機関や医療業界に対して貢献することができると考えています。

3社それぞれから、将来展望や意気込みをお聞かせください。


  コミュニケーションツール

Dr.JOY 石松:10年前、沖縄の山奥にある病院内の宿直室で会社が誕生しました。日本全国の医療機関で導入されるサービスに拡大しようと努力してきましたが、これまでさまざまな困難がありました。しかし、昨年10年の節目を迎え、現在は5,000を超える医療機関が利用してくれるまでに成長しました。今後の10年は、予約受付などの医療機関向けのDXだけでなく、それに繋がる患者向けのサービスも拡大していきたいと考えています。

ただ、私たちのような200名弱の小さなベンチャーにとって、全国展開は非常に困難で、KDDIさんとの連携が非常に重要だと感じています。KDDIさんは、我々が採択されたアクセラレータの中で初めて支援してくれた存在で、非常に運命を感じています。医療業界をより深く掘り下げるための取り組みができればと思っています。

KDDI まとめてオフィス 南:我々は普段、一般企業を対象に提案を行っていますが、医療機関という分野はKDDIやKDDI まとめてオフィスにとっては不慣れな業界です。私たちはパートナーであるDr.JOYさんとともに、医療DXに取り組んでいきます。

この取り組みが成功すれば、日本全国の病院で、私たちのタッグが医療DXの基盤となる可能性があります。Dr.JOYさんと私たちKDDI、KDDI まとめてオフィスの連携が、医療DXに何かしらの貢献ができることを願い、今後もしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

KDDI まとめてオフィス 松田:現在、医療機関はコロナに関連する補助金を除けば6割以上の医療機関が赤字という統計もあり、経営難と人手不足に直面し、大変な苦境に置かれています。重要なライフラインである医療機関を持続可能なものにするためには、まずは、看護師や医師をはじめとした医療従事者全員の負担を軽減するためにDX化を進めていきたいと考えております。しかし、病院の経営にインパクトを及ぼすような本質的な意味での医療DXには、お客様目線の知恵もアセットもまだまだ不足していると私自身は考えており、医療業界を知り尽くしたDr. JOYさんを中心としたパートナー様との連携がないとそこには辿り着けないと考えています。

当然、医療業界は命を扱う使命を直接的に負っている業界であり、医療DXを進める上でのハードルも高いと実感しております。しかし、その分、これを乗り越えた先には大きなチャンスがあり、Dr.JOYさんと事業を通して、社会貢献を実現していく覚悟です。

KDDI 田島:業務提携は始まったばかりで、我々にとっては、医療業界へのファーストステップを踏み出したところです。取り組みはまだこれからですが、確実に進めていきたいと思っています。石松さんから話がありましたように、患者の電話予約など、通信事業者として貢献できることにも可能性を感じています。

また、院内のセキュリティなどさまざまな課題がある中で、Dr.JOYさんと共に考え、解決していきたいと思っています。個人向けのサービスも提供しているので、患者さんに対しても、健康から医療までヘルスケアの取り組みをサポートしていきたいと思います。

ありがとうございました。

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