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2022年10月17日

ドローン配送は成り立つのか?への答えーーエアロネクストとKDDIが共創、その道のりを聞いた

KDDIスマートドローン株式会社
博野 雅文(写真左)
代表取締役社長
株式会社エアロネクスト
田路 圭輔(写真右)
代表取締役CEO

産業用ドローンの研究開発を手掛けるエアロネクストは9月22日、KDDIスマートドローンとの業務提携を公表しました。ドローン配送サービスの社会実装に向けた協業を進めるもので、これに併せて、KDDIからの出資も公表しています。KDDI Open Innovation Fund3号(KOIF)を通じたもので調達した資金額などの詳細は開示していません。


エアロネクストはドローンの機体重心を最適化することで安定性や効率性、機動性といった基本性能を向上させる、独自の構造設計技術「4D GRAVITY」をライセンス提供しているドローンスタートアップです。

近年、生産年齢人口の減少や少子高齢化が進んだことで、地域における食料品などの日常の買い物に困難をきたす社会課題が表面化しています。今回の提携はこの課題に対し、ドローンを活用した物流の仕組みを作ることで、解決を図ろうというものになります。具体的にはドローン配送サービスの自治体への導入や実証実験の実施、ドローン物流に必要な機体やモバイル通信、運航管理システムの販売・導入における連携強化を実施します。

エアロネクストとKDDIグループは今年3月に新潟県阿賀町においてドローン配送の実証実験を実施し、6月にはドローン配送パッケージ「AirTruck Starter Pack」を提供開始しています。なお、3社は来年3月までに14以上の自治体でのドローン物流の導入及び実証を計画しているそうです。

本稿では本提携のキーマンとなる田路圭輔さんと博野雅文さんにその狙いなどをお聞きしました。

出資に至った背景を教えてください。

博野:今年3月に新潟県阿賀町でドローン配送の実証を実施し、その取り組みを通じて有効性を確認しました。今年6月には、エアロネクストさんが開発されている物流専用ドローン「AirTruck」と、我々のモバイル通信を用いた運航管理システムとを組み合わせた「AirTruck Starter Pack」というドローン物流導入パッケージを展開する形で連携を進めてきました。

長野県伊那市では、2020年から運航管理システムを使ったドローン配送の商用化も進めてきました。一方、エアロネクストさんも、山梨県小菅村でドローンと陸送を組み合わせた「SkyHub」の導入を推進されてきました。

レベル4(第三者の土地の上空を遠隔で飛行)に向けた運航管理システムにおいては、モバイル通信は必須になって来ます。レベル4に向けて我々が進めて来たいたの方向性とエアロネクストさんの方向性が一致し、議論を重ねてきた中で今回の提携に至ったというのが経緯です。


新潟県阿賀町での共同実証の様子
右からACSL代表取締役社長兼COO 鷲谷聡之氏、KDDIビジネス開発部 博野雅文氏、阿賀町長 神田一秋氏、エアロネクスト代表取締役CEO 田路圭輔氏、セイノーHD執行役員 河合秀治氏

これまでの連携で難しかった点、あるいは、これを乗り越えれたからこそ、2社の方向性が一致したというようなエピソードはありますか?

田路:はい、我々は技術の会社なので、かねてからドローン配送という市場が立ち上がるには、機体の安全性がとても大事だと思ってやってきました。これまでは、世の中に流通している空撮機体を改良して物流機体に活用していくというアプローチだったので、社会実装するには機体のパフォーマンスが出ないという問題があると認識していました。

そんな中で今回、AirTruckという機体をACSLさんと量産化する目途が立ったんです。

私はかねてからドローン配送領域で一番先を進んでるのはKDDIさんだと考えていて、特に2020年の8月から始めておられる長野県伊那市の展開は、本当に素晴らしい取り組みだったので、KDDIさんが作られた実績に我々の機体が融合していけば、もう一歩進んだドローン配送サービスが実現できるんじゃないかと思って、今回の提携に繋がったと思っています。

大企業とスタートアップの2社の提携となったわけですが、共創を進める上で、スピード感の違いなどのハードルはありましたか?

田路:そうですね。KDDIさんからKDDIスマートドローンさんがスピンオフするという発表があったことも、今回の提携に至ったきっかけです。

やはり、大企業は強みも弱みもあると思うんですが、今回KDDIさんがやスピンオフベンチャーを作って、本気でドローン市場を作りに行くという強いメッセージが私には明確に伝わってきました。博野さんとご一緒させていただく中で、同じことを一緒に成し遂げようとするベンチャー同士という意識も共有できていて、非常にやりやすく感じています。

博野:今回、事業会社であるKDDIスマートドローンを作った一つの理由がそこにあります。今までKDDIの中でドローンビジネスを構築してきたんですけど、ドローン市場自体が非常に急速に広がっている中で、より動的な形でビジネスも回していかないと、導入の広がりも起きないですし、スピード感でもベンチャーさんに追いつけないところがありました。

機動性を確保することを目的として、KDDIスマートドローンを事業会社化したというところもあります。僕らもKDDIという冠は持っているものの、1ベンチャー、1スタートアップという気持ちで取り組んでいるので、その辺りが田路さんと気持ちをひとつにできている要因だと感じてます。


新潟県阿賀町での共同実証の様子(Image credit:KDDIスマートドローン)

14以上の地域で実証実験を進めるということですが、いくつかユースケースを紹介いただけますか?

田路:我々はちょうど1年前にセイノーホールディングスさんと提携し、SkyHubという地域物流の非効率を解決するソリューションを展開してきました。

最初に入ったのは、山梨県の小菅村という人口660人ぐらいの小さな村だったんですが、そこでまず、買い物が不便だという村人の声を聞いて、最初は買い物の不便を解決するサービスを始めたんですが、モノが届かないとか、移動手段に困っているんですとか、そういう話がたくさん出てきたんですね。

一方で、住民の方は日常的にそんなに困っているという自覚はなくて、だんだん分かってきたのが、地域の事業者の方々がそれを必死で支えているということだったんです。

バス会社や地元の商店が、かなり無理をして住民の生活を支えているということがわかってきて、ドローンというテクノロジーが、少子高齢化の中で担い手不足という課題を解決できると確信しました。

「ドローンは何が運べるか」という発想ではなくて、「村のお困りごと、荷物を届けることに関しては全部やります」ということからスタートしました。それができたのはセイノーさんというパートナーがいたからなんですが、「これは運びます」「これは運びません」「ドローンなんで今日は飛べません」とか、そういうこと言ってる場合じゃなかった。

「雨だろうが風だろうが、重いものだろうが軽いものだろうが、全部運びます」って言った後に、「これはドローンが向いている」といった考え方をしたところが、非常に良かったなと思っています。今では多くの自治体さんからも同じような課題が出てきていて、この取り組みを博野さんに評価していただいて、一緒にやっていこうという話になりました。


小菅村での共同実証の様子(Image credit:エアロネクスト)

博野:送り手の課題と、受け手の課題があると感じています。受け手の課題でいえば、中山間地域で免許返納された高齢者が多くいらっしゃって、その方々の買い物の足がないということですね。そういうところに対して、今は結構、移動販売車が行ってたりするんです。週に2回とか移動販売車が巡ってきて、おじいさんやおばあさんが買い物しています。

しかし、この移動販売を営んでいる運転手の方も結構高齢になってきて、労力が大変になってきている。そういったところで、ドローンの物流配送によって、送り手の課題を解決したり、負担を解決したりすることができるのは、我々も実際にやってみて、非常に手応えを感じています。

雨の日とか、風が強い日とかもあるので、ドローンだけだとなかなか難しいんです。陸送との組み合わせで巡る、地域としてのビジネスモデルを作りながら、ドローンによっていかに効率化するかを僕らも考えていかないといけないと感じていたところ、田路さんが見られているビジネスモデルと方向性が1つになったので、ご一緒させていただきました。

今回、連携された自治体は、自治体の方からアプローチがあったんですか?今後、連携したい自治体はどのように連絡すればいいですか?

田路:最初に取り組んだのが小菅村という小さな村だったので、この取り組みは多くのメディアに取り上げていただきました。声をかけてくださった自治体をひとつずつ回って実証実験を重ねて行ったんですが、あるとき、ご一緒した複数の自治体さんから「自治体同士、一緒にやった方がいいんじゃないか」という声が上がり、今年の3月22日に東京でシンポジウムをやろうという話になったんです。

その時に自治体の方々から「協議会をしっかり作って、全国の自治体を巻き込んでいきましょう」という話になり、5月16日に全国新スマート物流推進協議会という組織が、5つの自治体が発起人になって立ち上がりました。

セイノーさんとエアロネクストの活動でいうと、過疎地域を含む市町村は全国に885自治体あるんですが、我々で全部回ったんですよ。そのおかげで、協議会には12の都道府県、30近い市町村に加盟していただいていますし、200以上の自治体さんと継続的にコミュニケーションしています。有り難いことに本当にもう引っ張りだこの状態でして、すごく期待していただいているので、そのための体制構築をしっかりやっていかないといけません。今、博野さんチームとしっかり体制を作って、社会実装を加速できるように準備をしているところです。


全国新スマート物流推進協議会の発足式の会見(Image Credit:エアロネクスト)

最後に、今後の意気込みをお聞かせください。

田路:我々はスタートアップなので、大きな市場を作りたいとは思うものの、その実現には、大企業の方々がその市場の将来を信じて、ヒト・モノ・カネを投資していくことが大事だと思っていました。今回KDDIさんがパートナーとして一緒にやっていただけるのは、非常に心強いと思っています。

「ドローン配送って本当に成り立つのか」「コストが高すぎるんじゃないか」「運用が安定しないんじゃないか」といった声がたくさんある中で、KDDIさんがそこに一歩踏み出したことで、ドローン配送は経済合理性のある事業なんだということを、みんながより興味を持って、信じられるようになったのはとても大きいと思います。

ドローンが高いとかお金がかかるとか言われてる最大の理由は、無人化のソリューションなのにやたらと人手がかかるという点です。それをKDDIさんのシステムやソリューションでが省人化できたことで、ドローンがちゃんと儲かる市場なんだというメッセージになったことは大きな意味があります。

KDDIさんとの協業で、参加していただける自治体さんを一気に広げていきたいと思います。ビジネスはスケールしないと競争も生まれないので、スピードとスケールというキーワードでしっかりやらせてもらいたいなと思っています。それができるパートナーに今回めぐり合えたことで、すごくワクワクしています。

博野:田路さんからお話しいただいた通り、やっぱりオペレーションの部分がまだまだですね。人手がかかるような状態だと非効率になってしまって、実証のための実証みたいな形になりかねなかったりするんです。そこの部分は我々も徹底的に考えて、例えば1人のオペレーションで複数基の機体を運航して経済性を高めていくシステムやオペレーションを確立させることで、ドローンのビジネスが成り立つということを示していきたいと思っています。

その1つがAirTruck Starter Packだと思っているので、これを全国の自治体に届け、地域物流のデファクトスタンダードにできればと思っています。また、SkyHubと組み合わせることで、ドローン配送を、利便性や安全性だけではなく、経済性でも最適な手段にしていきたいと考えています。

ありがとうございました

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