- インタビュー
2025年03月19日
グローバル通信キャリア14社が共同出資「Aduna(アドゥナ)」とは——共通API推進への布石とそのワケ

- KDDI株式会社
松ヶ谷 篤史 - Beyond5G推進室 室長
- KDDI株式会社
齋藤 幸寿 - Beyond5G戦略室 推進G
KDDIはエリクソンとグローバル通信キャリア13社が共同で設立した合弁会社Adunaへの出資に合意しました。この出資を通じて、KDDIはグローバルキャリア間での共通ネットワークAPI実装を推進し、5Gを活用したビジネス開発の加速と日本企業のグローバル展開支援を目指します。Adunaは世界中の開発者が共通のネットワークAPIを通じてネットワークを最大限に活用できるようにすることで、イノベーションを加速する取り組みを展開していきます。
合弁会社Adunaの概要と共通API構築の背景
KDDIは2月7日、エリクソンとグローバルキャリアが出資して参画する合弁会社Aduna(アドゥナ)への出資に合意しました。Adunaはデジタルサービスのイノベーション促進のために、ネットワークAPIを世界規模で組み合わせて提供することを目指しています。
エリクソン社から去年の今頃、『異なる通信事業者が集まる一つの取り組みとしてMWCで発表したい』という打診があったのが最初のきっかけでした。当初はさまざまな組織形態が検討されていましたが、最終的に2024年夏頃に出資による合弁会社設立の話が固まり、KDDIもそこに参画することになりました。
松ヶ谷室長
Adunaに参画しているグローバルキャリアはKDDIを含めて14社。América Móvil、AT&T、Bharti Airtel、Deutsche Telekom、Etisalat、Orange、Reliance Jio、Singtel、Telefonica、Telstra、T-Mobile、Verizon、Vodafoneとエリクソンという顔ぶれです。各社とも通信業界においてリーディングカンパニーという位置づけで、5Gを中心としたネットワーク技術の活用に積極的な企業が集まっています。
共通API構築の必要性
5G活用の課題
なぜ今、共通APIの構築が求められているのでしょうか。
5Gを中心とした最新の通信技術はさまざまなビジネスへの活用が期待されていますが、グローバル展開を前提とした5Gなどのネットワーク機能を活用するビジネス・サービスの開発にあたって、サービス開発者は各国キャリアのAPIごとに個別対応する必要がありました。
松ヶ谷室長
例えば、ある機能を呼び出すAPIがKDDIと他の国内通信キャリアでは仕様が異なり、海外キャリアでも仕様がさらに異なるという状況では、グローバルなサービス展開において開発者の負担が大きくなります。そこで、グローバルキャリアへの共通的なアクセスを可能とする共通APIの構築と提供が求められているのです。
こうした課題を解決するため、業界では「GSMA Open Gateway」構想やCAMARAプロジェクトといった取り組みが進められています。CAMARAはLinux Foundation配下のオープンソースプロジェクトで、GSMA Open Gatewayによって議論されたロードマップに基づき、通信ネットワークのAPIを標準化する取り組みです。Adunaはこれらの構想の実現・実装を加速する役割を担います。
KDDIの出資の狙い
APIのグローバル展開における貢献
KDDIがAdunaへの出資を決断した背景には、明確な戦略的狙いがあります。松ヶ谷室長は、その狙いを大きく3つに分けて説明します。
①新たなお客様接点の拡大
Adunaを通じて、我々はこれまでリーチすることができなかった新たな市場にアクセスできるようになります。
松ヶ谷室長
具体的には、Google CloudなどのクラウドプロバイダーやVonage, Infobip, SinchなどのCPaaS(Communication Platform as a Service)事業者との接点が生まれます。これらの企業はすでにAdunaとのパートナーシップを表明しており、彼らが持つプラットフォーム上でサービスを開発している開発者たちにKDDIのAPIが間接的に届くようになるのです。
②日本企業のグローバル展開支援
共通APIによって、各国の通信事業者が同じ仕様でAPIを提供することになれば、日本で開発されたサービスを容易に海外展開できるようになります。
同じ仕様で各通信事業者がAPIを提供できれば、KDDIのAPIを使って開発されたサービスをそのまま海外に持っていきやすくなります。日本で成功したサービスをグローバルで展開するチャンスが広がるのです。
松ヶ谷室長
国内パートナーの海外展開支援
KDDIはこの取り組みを通じて、WAKONXというAI時代のビジネスプラットフォームを通じた国内企業の海外進出も支援していく計画です。APIを活用することでグローバルスケールが可能なビジネス創出を支援する狙いがあります。
③グローバルキャリアとの横連携による新たなユースケース開発
Adunaに参画している通信事業者には、Vodafone、Orange、Telefonicaなどの欧州勢、T-Mobile、Verizon、AT&Tなどの米国勢、そしてシンガポールやオーストラリア、インドの主要事業者が含まれています。
グローバルキャリアとの横連携ができることは非常に重要です。どういうユースケースが有望か、どういう開発の進め方がいいか、各国でどんなサービスがスケールなどの情報を直接収集できます。
松ヶ谷室長
また、この連携によって開発の優先順位を共同で議論していくことも可能になります。「単にAPIの仕様だけ決めて各社が思い思いに実装していくよりも、合弁会社の中でロードマップを一緒に作ることで、より効率的かつ効果的に進められます。これによってグローバルでのスケールの可能性が高まる」と期待を寄せています。
KDDIが特に期待しているAPIの活用例として注目されるのが、以下の機能です。
・KYC(Know Your Customer)認証API
本人確認やSIMカードと電話番号の整合性確認、2段階認証などに利用できる機能です。金融系や認証系、不正利用防止の分野で関心が高まっています。
・QoS(Quality of Service)機能
混雑時でも通信を優先的に確保する機能で、ビデオ会議や決済などの用途で利用が期待されています。
短期ではKYCのような不正防止、認証の機能、中長期的にはこれにQoDのような付加価値の高い機能が実装されるとみられます。すでに具体的なユースケースについて、さまざまな企業から関心が寄せられているそうです。
KDDIの強み:GSMAでの立場と標準化への貢献
API標準化の取り組み
KDDIがAdunaでの活動で発揮できる強みの一つは、GSMAでの立場です。
特にKDDIは、GSMAでのAPI標準化ロードマップの推進に積極的に関わっています。具体的には、KYC認証APIの標準化に大きく貢献しました。
KDDIのネットワーク技術センターの標準化戦略部門が積極的に推進し、早い段階からGSMAのロードマップ策定に貢献していました。
松ヶ谷室長
こうした標準化での先行は、KDDIにとって大きな強みになると考えられています。「先行して標準化に関わることで、スケールの見込まれるAPIの準備に早くから着手でき、ビジネスの可能性が広がる」可能性が高まるわけです。
API活用例(今後)
ロードマップとしては、まず我々のAPIを提供することが最初のステップです。APIを提供して、それをAdunaが集約し、開発者に届けるという商流を確立することを今年中に何かしらの形で実現したいと考えています。
松ヶ谷室長
特に注力するのが、集約されたAPIを実際に使ってくれるパートナー企業の開拓です。共通APIというソフトウェア技術の特性を活かし、KDDIは様々な業種とのコラボレーション可能性を模索しています。
グローバルキャリアとの連携を競争力にしていきたいと思っています。技術面でも貢献し、広くパートナーさんに選んでいただけるような環境をしっかりと作っていきたいです。
齋藤氏
共通APIの構築と普及は、5Gの新たな可能性を広げるとともに、日本企業のグローバル展開を加速させる原動力となる可能性を秘めています。通信事業者の高度な機能がソフトウェア開発者に広く開放されることで、新たなイノベーションが促進されることが期待されています。
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