- インタビュー
2023年09月04日
働き方DXのAcall、KDDIとの提携で目指す東南アジア・中東のFuture of Work市場開拓
- Acall株式会社
長沼 斉寿 - 代表取締役
2023年2月、働き方のDX(デジタルトランスフォメーション)ソリューション「Acall」を開発・提供するAcall株式会社の海外現地法人Acall Asiaと、KDDIの海外現地法人KDDI Asia Pacificが事業提携を発表しました。
Acallは、スポット、会議室、受付、ゲートにおけるチェックイン・チェックアウト情報などから、働く人の行動履歴・評価・環境情報を分析・可視化し、オフィスワークとリモートワークを支援しています。
数年に及んだコロナ禍から落ち着きを取り戻し、一方は社会変化は不可逆なので、日本よりもむしろ海外で、働き方はオフィスワークとリモートワークをミックスしたハイブリッドワークに進化しつつあります。Acallを海外でどのように営業展開されるのか、お話を伺いました。
KDDI Asia Pacificと提携に至るまでの経緯について教えてください
Acall 長沼:発表では、KDDI Asia PacificさんとAcallの事業の連携を進めていくことをお伝えしました。現在、オフィスのスマート化、ワークプレイスの多様化に伴い、オフィスアップデートが現在求められているという状況です。
KDDIさんがオフィスの移転プロジェクトに取り組んでおり、特にシンガポールを中心に東南アジアでは、それを主要な事業軸にされています。そこではテクノロジーの観点から、オフィスを移転した後によりスマートな環境をお客様に提案したいという要望がありました。
それの機能を個別の領域ごとに提供していくという手段もありますが、私たちのAcallのサービスはワンストップで、さまざまなスポットや働く場所のデジタル化に貢献できるという点で、方向観が一致し、一緒に進めていくことになりました。
もちろん、シンガポールのKDDI Asia Pacificさんを軸として事業連携をしていただいたのですが、周辺国のASEAN諸国を含めて同様な事業を展開しきたいとのことでした。私たちは、シンガポールをベースにして2021年の夏にシンガポールの現地法人を設立しました。私自身も1年半前にシンガポールに移住し、直接行動を起こしやすい環境がありました。
すぐにKDDIさんとお会いする機会があり、それを機に半年ほどさまざまなディスカッションや具体化のための体制面で進めてきました。今年の2月頃に発表することができました。
KDDIとAcallの役割分担はどのようになっていますか
Acall 長沼:そうですね、お客様へのソリューション提案は基本的にKDDI様が行っていただき、私たちはそのプロダクトの開発やデリバリーを中心にお手伝いしています。また、KDDIさんと一緒にお客様を訪問したり、さまざまなナレッジの共有を行ったりすることもあります。地域ごとに貢献させていただいています。
我々のオフィスが飯田橋だった時、試験的にAcallの受付システムを導入させていただいたのを覚えています。あれから数年が経ち、現在はどのようなサービスを提供されていますか
Acall 長沼:現在はフリーアドレス化機能をメインで使っていただいているケースが多くて、これは日本も東南アジアでも同様です。もっとハイブリッドワークでオフィスとリモートの両方を利用したいというケースは中には結構あります。普段は必ず毎日出社する必要はないという場合から、1席を1人で使うのではなく2人でシェアするような使い方もあります。
これはオフィススペースの最適化という観点から求められていることであり、またリアルな接点が少なくなってくる傾向があるため、コミュニケーションの活性化が重要です。私たちのサービスでは、誰がどの場所にいるかという情報を共有しやすいツールがありますので、それを活用しながらコミュニケーションの活性化を図ることができると思います。
具体的に共同で進めている案件も出てきているようですね
Acall 長沼:そうですね、日本におけるフリーアドレス化の波は、結構前進しています。シンガポールは、もしかしたら日本よりも早いか、同じぐらいの進み具合かもしれません。周辺国では、例えばインドネシアではまだある程度の遅れがあり、いま需要が来ているところです。
KDDIさんとの話し合いの中で、フリーアドレス化のニーズというよりは、KDDIさんのところにはオフィスの移転に関する情報提供が早く行われているという点がありました。オフィスのリロケーションやダウンサイジングなど、コロナが一旦落ち着いたタイミングで、オフィスの移転が急速に進んでいる状況です。
このようなタイミングでオフィスをアップデートすることは非常に良い機会です。例えば、エントランスや会議スペースのデジタル化、フリーアドレスやセキュリティとの連携など、様々な改善策が考えられます。私たちもそれに合わせて具体的な提案を行っており、お客様からの反応も非常に良いです。
具体的な案件も進んでいて、いくつかのお客様から契約をいただいている状況です。そういった動きから、私たちが提供するサービスの需要の高さを感じており、私たちの提案がタイミングよく合致したということです。そういった状況から具体的な案件も進展しており、いくつかのお客様から契約をいただいています。
KDDIのようなレガシーな大企業が、協業を進める上でスタートアップのスピードに追いつけない場面を見かけることもあります。苦労はありませんでしたか
Acall 長沼:非常にフレキシブルでスピーディーに進めていただけているので、そのようなスピードの遅さはあまり感じていません。とてもやりやすいと思っています。ただ、KDDIのシンガポールの方々とのオフラインでの話し合いが増えると、その他の地域ではオンラインでのコミュニケーションになることが多くなります。そのため、その他の地域のお客様との接点が薄くなってしまうという課題があります。
その課題を解消するために、私たち側でも処理体制の充実化を図ってきています。担当者を適切に配置し、各地域の責任者の方々にオフラインで訪問するツアーを行っています。この動きによって、各地域のKDDIさんの担当の方々もより提案しやすくなると思います。
また、リアルな場所としてショールームを持つことが、お客様にとってより利便性が高いという話もよくされています。オンラインでのコミュニケーションはできますが、オフラインでの何か体感できるような場所作りが重要であるということで、その課題を話し合っています。
ケースバイケースですがクアラルンプールのKDDIさんのオフィスに取り入れていただいたりしています。私たちにはマルチロケーションでオフィスを持っていません。その点については、一緒に取り組んで、ショールームを作ってお客様を招くことができれば良いと考えています。
Acallの各地域毎のチームは、それぞれ、地元で独立性をもって運営されているのですか
Acall 長沼:基本的には、1つのプロダクトを使用して各地域で展開していく前提で体制を組んでいます。ただ、セールスマーケティングに関してはマルチロケーションで進める方針です。各地域ごとに商慣習が異なるだけでなく、コミュニケーションの進め方や必要なツールも異なるため、各地域のセールスマーケティングチームは地域に根ざした体制作りを行っています。
開発は現在、日本で集中して行っていますので、プロダクトの声やフィードバックがあれば、セールスマーケティングのチームが開発チームヘフィードバックを行います。このような体制を整え、最適なプロダクトにしていくことも非常に重要だと考えています。
スマートな職場で働きたいというニーズは世界共通ですか。それとも国によって違いがあると思われますか
Acall 長沼:地域によってはその特性を感じますね。例えば、ベトナムではみんながオフィスに集まって一体感を持ちながら仕事をしたいという傾向があります。一方、インドネシアではオフィスへの通勤が交通渋滞などの問題で大変であり、出社に対してポジティブになりにくいという側面もあります。そのため、ハイブリッドワークや在宅勤務の両方が受け入れられています。
シンガポールでは島が小さく、アクセスが容易なため、土地の価格が高く住宅スペースが制約されており、オフィスで働くという傾向があります。それぞれの地域には本当にさまざまなグラデーションが存在します。
私たちは、オフィスが中心であっても使っていただけるソリューションを提供していますし、ハイブリッドワークに対するソリューションもあります。どのような働き方やワークプレイスの体験を高めていけるように考えています。
座席サイネージ
海外で見つかった良いユースケースを日本に逆輸入して、良い影響を日本社会に与えていきたいということもおっしゃっていましたね
Acall 長沼:シンガポールに関しては、日本よりもデジタル化が進んでいるなと感じています。モバイルアプリケーションの作り方なども、日本より洗練されているように思います。そのアプリを使っているユーザーや人々も、シンガポールの人々は洗練されていると感じます。ユーザーインターフェースに関しても非常に洗練されており、ユーザーエクスペリエンスに対しても非常に高いレベルを求められることがあります。
私たちもそれに気を配りながら作業していますが、ユーザーのフィードバックからは、使い勝手やシームレスさ、モバイルファーストで使いやすい状態などについてまだまだ伸び代があると感じます。そのため、開発チームとしっかり共有し、シンガポールでも十分に使えるプロダクトにしていきたいと考えています。
日本政府は昨年末、「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。計画の中では、世界に進出していくスタートアップを応援するということが謳われていますが、実態としては、まだまだ、一旦日本で成功を見てから世界に出ようというスタートアップが多いです。
Acall さんは当初からアジアを視野に入れて事業されてきた印象がありますが、海外展開しているスタートアップの視点から、日本のスタートアップへのメッセージがあれば、お聞きしたいと思います。
Acall 長沼:私たちの場合、事業領域やビジョン・ミッションには、働く場所や時間を自由に選択できる社会を作りたいという強い意志があります。そのため、時差や地域や国境を越えてチャレンジする必要性を感じています。
この観点から考えると、日本においてもまだまだ未開拓の領域がありますし、市場も大きいです。まだまだできることがたくさんあり、日本が先端的な存在であれば良いのですが、実際には若干の遅れがある部分も露呈しています。
例えば働き方においても、日本は現在、生産性が先進国で最も低いとされていますし、幸福度の調査でも上位になかなか上がってきません。このような状況の中で、私は日本国内だけに答えを求める必要はないと考えています。外の世界を見て、それを日本に逆にもたらす視点が必要なのではないかと思っています。
これはもちろん、日本を良くしたいという考えから、微力ながら持っている思いです。自分自身が外に出て日本を客観的に見ることもありますので、そうした視点を持って事業や社会に貢献したいという意識が根底にあると思っています。
海外展開はひとつの有力な手段と考えます。海外展開は後の段階になればなるほど、カルチャーの違いなどの難しさが出てくると言えますし、早めの段階で対応策を見つけないと、最初から海外展開を行う方がよいと思います。
海外で事業を始めるスタートアップにとっては、当初、現地にいる日本企業がパートナーとしては有効でしょうか。コミュニケーションの問題や、地の利もわかっている日本企業が最初のパートナーだった方がワークするのでしょうか
Acall 長沼:海外展開のメリットとして、どれだけスケールできるかという点は重要です。ですので、日系企業や非日系企業に関係なく、できるだけ多岐にわたるパートナーと共に海外展開を進めることが大切だと思います。また、現地での関係構築も非常に重要です。KDDIさんも取引先を日系企業に限定しているわけではないと思いますし、両方と良い関係を築けることが重要です。