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2025年03月18日

日本の鉄道インフラをスタートアップの力に——全国12社の鉄道会社が集結する「TRIP」本格始動

東京都が「世界一スタートアップフレンドリーな都市」を目指す「Global Innovation with STARTUPS」戦略の一環として2024年5月に開設したTokyo Innovation Base(TIB)。その基幹機能として推進されているのが「グローバルイノベーションに挑戦するクラスター創成事業(TIB CATAPULT)」です。

その一翼を担うTokyo Railway Innovation Partnership(TRIP)が2024年10月の発足以来初となるメディア向け説明会を開催し、新たに西日本鉄道や東京メトロなど6社の参画を発表。全国12の鉄道会社による日本最大級の鉄道イノベーションコンソーシアムへと進化を遂げたことを明らかにしました。


TRIPプロジェクト:全国の鉄道会社が連携したスタートアップ支援基盤

TRIP「Tokyo Railway Innovation Partnership」で代表企業を務めるTISの水船 慎介氏

「日本の鉄道インフラをスタートアップの力に変える」—— このメッセージを掲げて活動しているのが、Tokyo Railway Innovation Partnership(TRIP)です。3月12日に開催されたメディア向け説明会では、TISの水船慎介氏からTRIPプロジェクトの概要と最新の活動について紹介がありました。
TRIPは「Tokyo Railway Innovation Partnership」の略で、TISを代表企業として、JR東日本スタートアップ、東急、小田急電鉄、西武ホールディングス、京浜急行電鉄(京急)、京王電鉄の6社の鉄道会社とともに2024年10月に発足したスタートアップとの連携基盤です。

東京都のTIB CATAPULT事業の一環として立ち上げられたこのプロジェクトは、鉄道会社が持つ多様なアセット(電車、駅、商業施設、ホテル、観光地など)を活用しながら、社会的インパクトを生み出すスタートアップを支援していく目的があります。

全国12社の鉄道会社による連携へ

今回の説明会では、TRIPの大きな進展として、新たに西日本鉄道、東京地下鉄(東京メトロ)、東武鉄道、相鉄ホールディングス、名古屋鉄道、東海旅客鉄道(JR東海)の6社が加わったことが発表されました。これにより参画企業は計12社となり、日本全国の主要な鉄道会社をカバーする日本最大級のイノベーションコンソーシアムへと進化しています。

当初は東京都内の鉄道会社が中心でしたが、西鉄さんの参画により九州まで広がり、今では全国の半分以上をカバーできるようになりました。これからも全国の鉄道会社に参画を呼びかけていくとともに、将来的にはグローバルな展開も視野に入れています。

TIS 水船氏

TRIPの活動を支援する企業も充実しています。三菱地所やきらぼし銀行など、様々な業界の企業がTRIPの活動をバックアップしています。例えば三菱地所は東京駅周辺や丸の内・有楽町エリアで、駅と連携した実証実験の場を提供可能としています。
さらにプロモーション支援、資金調達支援、専門家によるスポットコンサルティングなど、スタートアップの成長に必要なサポートを多角的に受けられる体制が整っているという説明でした。

「ReCute」と「FASHION X」の事例

この枠組みを通じて支援しているスタートアップの一つが「ReCute」です。これはNTTドコモからスピンアウトして誕生したスタートアップで、ヘアアイロンのレンタルサービスを展開しています。

既に東急や西鉄に実装いただき、鉄道を使って広げていくという取り組みがうまく進んでいます。

TIS 水船氏

さらに小田急と京王では、全駅でのポスター展開といったPR支援も行われており、駅という多くの人が行き交う場所を活用した集客支援が実現しています。

もう一社は「FASHION X」です。古着を回収してリユース・リメイク・アップサイクルする取り組みを通じて、環境負荷の大きいアパレル業界の課題解決に取り組むスタートアップです。小田急、京王、京急の駅や商業施設に古着回収ボックスを設置し、スタートアップの成長と事業拡大を支援しています。

九州地方からいち早く参加した西日本鉄道(西鉄)の森永 豪氏

新規参画企業を代表して登壇した西日本鉄道(西鉄)の森永豪氏は「ほぼ即決」と、TRIPへの参画理由について次のように語ります。

大きく二つの利点があると思っています。スタートアップ企業様との連携は福岡でも日々行っていますが、どうしてもスタートアップ企業様は東京に集中していますので、そういったたくさんのスタートアップ企業様との出会いが増えるということ。そして、エリアと規模は違いますが同じような事業を行っている鉄道会社たちとの出会いがあり、情報交換ができるということです。

西日本鉄道 森永氏

さらに森永氏は、「スタートアップ企業様との協業を横展開しやすい」というメリットも強調しました。

他の鉄道会社様がやられていることは、うちでもできるんじゃないかという発想になりますし、社内でも話が通りやすいという文化的なメリットもあります。

西日本鉄道 森永氏

小田急電鉄のスタートアップ協業の歴史

小田急電鉄デジタル事業創造部の和田 正輝氏

今回連携強化が発表されたTRIPのきっかけとなった「JTOS」について、小田急電鉄デジタル事業創造部の和田正輝氏が詳しく説明しました。

JTOSはJR東日本100%子会社であるJR東日本スタートアップと東急、小田急、西武ホールディングスの4社で立ち上げたコンソーシアムです。各社のロゴの頭文字を取ってJTOSと名付けました。

小田急電鉄 和田氏

元々、小田急電鉄は2017年頃から新規事業の取り組みを加速させてきました。例えばアメリカのスタートアップであるルビコングローバル社と提携し、沿線のゴミ収集のデジタル化モデルを構築。
現在では全国の自治体に展開されていたり、沿線地域の活性化を目的としたサービスプラットフォーム「小田急ONE」などを通じて様々なスタートアップとの連携を進めるなど、小田急単体でもオープンイノベーションなどの取り組みを続けてきた経緯があります。
その中で生まれてきたのが、横のつながりを活用した連携拡大の考え方だったのです。

鉄道業界ならではの協業の強み


TRIPのきっかけとなったJTOS

JTOSでは四つのカテゴリーテーマを設定し、スタートアップとの協業を進めています。「ネイチャー」「ムーブ」「カルチャー」「ウェルビーイング」の4テーマです。
例えば移動領域では、電動キックボードとシェア自転車を展開する「Luup」と地方でのマイクロモビリティ実装を見据えたフランチャイズモデルの検証を実施しています。

JTOSの特徴は、通年でスタートアップからの応募を受け付けていること。この4種類のテーマに合致するものであれば随時応募を受け付け、4社の担当者とミーティングをして、我々のアセットが活かせるようであれば我々の費用を使って実証実験を行うという取り組みを行っています。

小田急電鉄 和田氏

既に実証実験を行った5社の中から、出資や共同事業化といった成果も生まれているそうです。このJTOSの活動を見たTISの水船氏から声がかかり、東京都のTIBCATAPULT事業が始まるタイミングでJTOSの4社がTRIPに参画する流れとなりました。
「私たち鉄道業界は、相互直通運転やSuica・PASMOといった企業の壁を越えた取り組みができている唯一と言ってもいい業界です」と和田氏は強調します。

こういった我々の文化、そしてスタートアップを応援していこう、地域を良くしていこうというマインド、それに我々のアセットを、スタートアップさんの優れたサービス・ソリューションと熱意を掛け合わせることで、国内、そして世界に羽ばたくようなスタートアップを生み出していけるのではないかと考えています。

小田急電鉄 和田氏

TRIPの今後

TRIPの活動期間は2027年3月までの約2年間です。水船氏によると、TRIPの活動は大きく3つの柱に分かれています。まずクラスター参加企業の拡大、次にスタートアップ支援と協働の創出、そしてPRとブランディングです。

最終的には、鉄道会社と何かやりたいことがあれば、まずはTRIPに相談してみようという世界観を作っていきたいです。

TIS 水船氏

まず都内での実績を増やしつつ、その事例を全国に広げていく計画です。また、地方のスタートアップを東京に連れてきて成長させたり、グローバルのスタートアップを日本に受け入れたりする取り組みも視野に入れています。

TRIPは単なる鉄道会社の連合体ではなく、スタートアップと鉄道会社をつなぐプラットフォームとしての役割を果たしていくことで、日本の鉄道インフラとスタートアップのアイデアが結びついた新たな価値創造が期待できるのではないでしょうか。

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