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2025年05月21日

宇宙テクノロジーが創る未来都市——衛星データと通信が変革する都市インフラ~「SusHi Tech Tokyo 2025」 参加レポート~【後編】

SpaceData
高田 敦
執行役員
LiveEO GmbH
ダニエル・ザイデル
共同創業者・共同CEO
KDDI
市村 周一
先端技術統括本部 シニアエキスパート
KDDI
清水 一仁
オープンイノベーション推進本部 グループリーダー

5月9日、東京ビッグサイトで開催された SusHi Tech Tokyo 2025。その Meteor Stage(Zone B)で行われたセッション「宇宙を活用したテクノロジーの進展と共創によって築く未来都市」では、宇宙産業と通信分野の専門家が集結し、衛星データと通信技術がいかに私たちの都市と社会を変革しているかを議論しました。


モデレーターは KDDI オープンイノベーション推進本部 グループリーダー 清水一仁氏が務め、パネリストには SpaceData 執行役員の高田敦氏、LiveEO GmbH 共同創業者・共同CEOのダニエル・ザイデル氏、KDDI 先端技術統括本部 シニアエキスパート 市村周一氏が登壇しました。


今回は、本セッション内容についてレポートします。


日常の「当たり前」になっている宇宙技術


SpaceData 執行役員 高田敦氏

宇宙は特別なものではなく、すでに私たちの生活の一部です。例えばスマートフォンで GPS を使うことも宇宙技術であり、私たちは宇宙技術なしでは生活できないのです。

高田氏

宇宙産業の拡大が加速している背景には、技術革新とビジネスモデルの進化があります。ザイデル氏は「重要なのは、ユーザーが宇宙技術を意識せずに恩恵を受けられること。GPS を使うとき誰も衛星のことを考えないように、地球観測データも同じくらい使いやすくすることが目標」と語りました。SpaceX のロケット1機で何百もの衛星が打ち上げられる現在、衛星データの活用機会は急速に広がっています。

例えば宇宙技術の応用は、都市計画とインフラ管理も根本から変えつつあり、SpaceDataは渋谷の高精細なデジタルツインを構築しました。
AIと衛星データを活用した都市の3Dモデルに環境情報を加え、様々なシミュレーションを可能にしています。
以下の通り、高田氏は人々の考え方が変わってきていると指摘しました。

私たちの顧客は、堅牢(ロバスト)かつセキュアで、再生エネルギーも活用した都市の開発、再生可能エネルギーを備えた都市の開発を目指しています。

高田氏

一方、インフラ監視の分野では、LiveEOが衛星データを活用した革新的なソリューションを展開しています。

私たちの製品Treelineは、台風で木が送電線に倒れることによる停電や損害を防ぐため、衛星データで一本一本の木の精度で国レベルの分析を行います。

ザイデル氏

重要なのは、衛星データを分析するだけでなく、現場作業者がモバイルアプリで通知を受け取り、効率的に対応できる仕組みです。
こうした技術の社会的価値が最も顕著に表れるのが災害対応です。


KDDI 先端技術統括本部 シニアエキスパート 市村 周一氏

市村氏は、以下のように実例を紹介しました。

KDDI は2024年1月の能登地震で、地上ネットワークが機能しなくなった状況で700以上のStarlinkを提供し、ブロードバンド通信を確保しました。これにより医療サービスを含む重要なインフラをサポートすることができました。

市村氏

さらに、KDDIは2025年5月に専用端末不要のスマートフォンへの直接衛星通信サービスを開始。このサービスは KDDI のユーザーだけでなく、日本の全ての人が利用することができ、通信インフラのレジリエンス向上に貢献している点を強調しました。

また災害対応に関連して、将来有望な宇宙データ活用分野として、ザイデル氏は保険業界を挙げました。

保険分野は高い可能性を秘めており、災害管理や迅速な対応と密接に関連しています。被害があれば再建に資金が必要で、それは通常では保険から調達されるからです。

ザイデル氏

宇宙からの観測データによる客観的かつ広範囲なリスク評価が、新たな保険商品を生み出す可能性があるのです。宇宙技術は、日常的な社会課題の解決にも応用されるようになっています。KDDIとローソンは、協業により未来型コンビニの開発に取り組んでいます。

労働力不足や食品ロス削減という社会課題に対応するため、ドローン、AI、ロボット等様々な技術を組み合わせていくことを予定しています。例えば、ドローンによる自動配送や地域防災、AIカメラとサイネージによるレコメンドシステム、ロボットによる商品棚の自動補充等が挙げられます。

市村氏

また環境保全の分野では、2025年末から施行されるEUの森林破壊規制により、パーム油や大豆、ココアなど7つの商品は、森林破壊を引き起こしていないことを証明しなければ輸入できなくなるとザイデル氏は述べます。この証明に衛星画像が不可欠であり、持続可能性の証明という新たな市場が生まれつつあると語りました。

共創で広がる宇宙ビジネス

こうした技術やサービスの背景には、緊密な協業関係があります。パネリストたちは口を揃えて、宇宙産業における連携とパートナーシップの重要性を強調しました。

宇宙産業には『フレネミー』という言葉があります。フレンド(友人)とエネミー(敵)を組み合わせたものですが、敵以上のものだと思います。一つの組織、一つの企業、あるいは一つの政府や国だけですべてを行うことはできません。

高田氏

宇宙ビジネスの黎明期だからこそ、企業間の壁を超えた協力が活発です。

国際的な連携も活発に行われています。SpaceDataはUAEの研究機関MRCと提携し、ドバイのデジタルツインや月環境のデジタルツインを開発しています。

日本が既に保有、あるいはこれから獲得する月環境データに加えてUAEからのデータで種類や量を補うことができます。

高田氏

LiveEOも大手エネルギー企業の九州電力と組み、日本市場向けに製品をカスタマイズしています。このように宇宙データの活用には多層的な協力体制が欠かせません。

衛星オペレーターとのパートナーシップ、技術構築のための協力、そしてデータ配信のためのシステム連携が不可欠であり、顧客の半分以上はパートナーを通じて獲得しています。

ザイデル氏


LiveEO GmbH 共同創業者・共同CEO ダニエル・ザイデル(Daniel Seidel)氏

KDDI も2011年頃からオープンイノベーションを積極的に推進している。市村氏は昨年から始まった「MUGENLABO UNIVERSE」という宇宙における共創プログラムについて「スタートアップと大企業による新たな事業創出を支援している」と述べました。

また、コーポレートベンチャーキャピタルである「KDDI Open Innovation Fund」を通じて、国内外のスタートアップへの出資を積極的に行っており、具体的な投資先として、月着陸船を開発する ispace やロボティクススタートアップの GITAI があることも紹介しました。

GITAI と協力して、月面を模した環境においてロボット技術だけでモバイル通信用の基地局を構築する実証実験を行いました。

市村氏

最終的に、宇宙技術の意義は地球上の課題解決に貢献することにあります。

市村氏は「宇宙用に小型・軽量化で消費電力の低い機器を開発すれば、地球上でそれも活用して持続可能な世界を作ることに貢献できる可能性がある」と語りました。
この視点はザイデル氏も賛同し、以下のように述べました。

月や火星で生き残るためのシステムは、基本的にすべてをリサイクルする必要があります。物資の輸送は高コストなので、月基地は人類が作る最も持続可能なエコシステムになるでしょう。そこで開発される技術は地球の持続可能性にも応用できるのです。

ザイデル氏

セッションの終わり、市村氏が述べた「宇宙技術は宇宙だけのためではなく、多くの問題を解決するためのもの」という言葉が、宇宙ビジネスの本質を表しています。

国境も業界の壁も超えた共創によって、宇宙技術は私たちの生活をより良くするためのツールとなりつつあるのです。

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