- インタビュー
2023年12月18日
「フェスWi-Fi」「山小屋Wi-Fi」の担当者に聞いた! Starlinkで広がる新ビジネスの可能性
- KDDI株式会社
大竹 菜都乃 - 事業創造本部 LX基盤推進部 通信ビジネスグループ
- KDDI株式会社
西原 隆浩 - 事業創造本部 LX基盤推進部 企画グループ
KDDIは2021年9月、SpaceXと業務提携を発表しました。SpaceXが展開する「Starlink」は地球を周回する数千基の低軌道衛星であり、低遅延と高速伝送を実現しています。また、これまで光ファイバーの敷設が困難とされてきた山間部や島しょ地域に基地局のバックホール回線として利用することで快適な通信環境の構築が可能になりました。
電波の不感地域だった場所がサービスエリアになることで、auのユーザーはもとより、KDDIとしても新たな付加価値サービスが提供可能になります。その事例の先駆けが「フェスWi-Fi」「山小屋Wi-Fi」です。新サービス事業化にあたってのきっかけや課題について、それぞれのサービスを担当した事業創造本部 LX基盤推進部の大竹菜都乃さんと西原隆浩さんに話を伺いました。
お二人の仕事内容を教えてください。
大竹:屋外で行われるイベントにStarlinkと公衆向けWi-Fiサービスを導入することにより、キャッシュレス決済やチケットレスサービスに関わる通信回線逼迫環境の解消を実現し、イベントのデジタルトランスフォーメーション(DX)化を支援しています。
西原:山小屋Wi-Fiを担当しています。基本的にプロダクトオーナー(PO)の役割を担い、ビジネスモデルの検討、どの山小屋に設置するかといった開拓営業、設置管理、開発管理が主な担当業務です。
大竹さんの部署では、Starlinkを使った、どのようなミッションを担当されているのでしょうか?
大竹:事業創造本部としての私たちの役割は、SpaceXでもまだ手がけていないような新しいStarlinkと新規ビジネスをかけ合わせたプロダクトを企画・開発し、それをお客様に提供することにあります。
他キャリアもStarlinkの取り扱いを開始しましたが、国内でのSpaceXとの業務提携はKDDIが初めてでした。この長い関係をもとに、私たちは各企業様とのお取組みを通じて、先行優位性をアピールしたいと考えています。
「スターリンク×〇〇」を進める上で、今年度挑戦したことを教えていただけますか?
大竹:Wi-Fiサービスの設計や構築は、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)というグループ会社が担当しています。Wi2の提供事例として、例えばスターバックスなどの店舗にWi-Fiを提供する等、屋内のWi-Fi設備の提供を主とされていました。その為、フェスや山小屋のような屋外で広範囲をカバーする設計は、これまでにない新しい挑戦でした。実際にフェスの主催者に対して、未経験のサービスをどのように説明し、納得・ご契約頂けるか、非常にチャレンジングなものでした。
それでは、まずフェスWi-Fiについてお話を聞かせてください。Starlinkをフェスの中に組み込むことを、どういった経緯で発案されたのですか?
大竹:お客様から屋外での音楽フェスにおける通信環境の整備のお問い合わせをいただいたのがきっかけです。音楽フェスは、限定されたエリアにたくさんのお客様が集まるため、通信環境が劣化し、クレームが増えているので何とかしたいとの内容でした。
これまでは、弊社のソリューションではご要望を解決できるサービスはなかったため、解決に至ることができませんでしたが、昨年から提供を始めたStarlinkを使えばなんとかなるのでは?と思い立ち、「KDDIグループとして是非ご協力したい」との思いでWi2とタッグを組み、サービス化検討が始まりました。
フェスWi-Fiが決定してから実現するまで、どれぐらい検討時間がかかりましたか? また、実現する上でハードルはありましたか?
大竹:2月にお客様(フェスの主催社)より、お問い合わせ頂き、その後2ヶ月間で提供に向けて検討を進めていました。本サービスの提供にあたっては、課題が2つありました。一つは、Wi2が提供するアクセスポイント(Wi-Fi接続用の機器)を何台設置するかのエリア設計。もう一つは、イベント中に使用されるStarlinkのデータ容量の予測です。
フェスの来場者様にWi-Fiを提供する際、どれほどのデータを何名の人が使うのか誰も分からない状態でしたので、仮説として、「想定来場者の4割が動画アプリを〇時間使った場合」と想定しご提案をさせて頂きました。この想定提案に対してお客様も新しい取り組みに理解を示してくださり、「前例はないが、ぜひ試してみましょう」と賛同してくださり、サービスの提供に至りました。
実現する上でハードルの突破口が開けたところはありましたか?
大竹:突破口かどうかは分かりませんが、Wi2とKDDIはお互い通信を扱う会社ですので、互いの知見を出し合いながら、よりよいサービス提供のためのディスカッションをしています。そんな会話の中には数多くの専門用語がでてきます。お客様へのご提案資料にもそのままの専門用語で伝えてしまうと、おそらくご理解が難しいと思います。
当時、私はその点に気付くことができず、先輩から「本当にこのまま資料を送って相手に伝わると思う?」とご指摘頂きました。それを受け、専門知識がない方でも理解できるように、お客様の視点に立った提案書をどう作るかを再考し、構成に取り入れました。
フェスWi-Fi実施後の反響はどうでしたか?
大竹:今年のゴールデンウィークに初めて本サービスを導入頂いた主催社様の実例として、昨年のフェスではキャッシュレス決済が一部止まる事態に陥ってしまったとお聞きしておりました。しかし、今年のフェスではフリーWi-Fiのエリアについては、キャッシュレス決済エリアでも大きな通信トラブルは起こらず、大幅な改善となったと大変感謝されました。
春夏と同じ会場でサービスを導入頂いた主催社様より「日本一、世界一快適なフェスを目指していきたい。お客様がフェスで快適に過ごせるような通信インフラに、投資することは意味のあることだと思う」というお言葉をいただき、KDDIとして少しでもフェスの快適化にお役に立てたのならよかったと思いました。
来場者様用アプリを通じて行ったアンケートによると、Wi-Fiの提供について約6.5割の人が良い・普通であると感じ、残りの3.5割は厳しいご意見を頂きました。しかし、過半数の人が良い印象を持って利用していたというデータを見て、我々の取り組みは少しずつ良い方向に進んでいると感じています。
3.5割ぐらいが満足していなかったという意見の中で、これから改善できそうなところはありますか?
大竹:最も大きな問題は、人が多く集まるために一次的に接続が困難になることです。「このエリアにはこの数の機器設計で十分か?」を詳細に検討し、精緻化する必要があります。これは来年に向けての提案の課題としています。
ROCK IN JAPAN FESTIVALでの利用
次は、山小屋Wi-Fiについて教えてください。Starlinkを山小屋と掛け合わせることを、どういった経緯で発案されたのですか?
西原:KDDIでは2018年より前から百名山の電波対策というプロジェクトが技術面で進行していました。百名山の山域をカバーするとなると、費用対効果の観点で、一般的な基地局の建設だけは難しい状況がありました。
昨年から、Starlinkを活用した技術を取り入れることを検討し、Wi-Fiならば、価格が適正で、短い納期で実現可能であると考え、そこから山小屋Wi-Fiのアイデアに至りました。
「山小屋Wi-Fi」のイメージ
山小屋Wi-Fiが決定してから実現するまで、どれぐらい検討時間がかかりましたか? また、実現する上でハードルはありましたか?
西原:検討が始まったのは2022年11月頃で、形が整ったのは、2023年5月頃の白馬村八方池山荘への先行提供時でした。その先行提供時のお客さまからの反応を踏まえ、ビジネスモデルを再検討し、本格的な導入が8月に決定しました。8月の導入までに社内で調整をしたり、山小屋へ設置の準備を進めたりする期間はかなり短かったです。
夏の登山シーズンに間に合わせる必要があり、ビジネスモデルの検討と、山小屋に対する提案を並行して行いました。5月から6月末までの約2ヶ月間、週に1回ほど営業先を直接訪問し、提案を行いました。1件を10件まで拡大するのが非常に困難でした。
特に大変だったのは、短期間での調整です。山の中は国立公園なので、環境省へアンテナ設置申請が必要で、これに1ヶ月ほどかかりました。交渉を含めた設置許可の取得、配送、ヘリコプターによる荷揚げなどのスケジュールと照らし合わせた調整が必要でした。
山小屋Wi-Fiの目標達成のためにどうアプローチされ、どこのポイントが刺さって、お客様に承諾してもらえたのでしょうか?
山小屋でのStarlink利用
西原:まず一つは、通信ニーズの高い山小屋をピンポイントで選び出すことでした。電波状況については、登山関連の雑誌などで確認しました。各キャリアの電波状況が記載されている情報をもとに、選んだ山小屋に連絡を取りました。
もう一つは、KDDIと繋がりがあるエリアを狙う戦略です。1軒目の導入は、白馬村が採用してくれました。白馬村とは5G協定を結んでいて、既に繋がりがあったので、導入に対して協力的でした。
また、伊那市という自治体では、以前ドローン施策で実証実験を行っていた関係もあり、そこから紹介いただくことで、関係者を巻き込みながら、最終決定権者に紹介してもらえる流れができました。このアプローチが大きな成功要因だったと思います。
山小屋Wi-Fi実施後の反響はどうでしたか?
西原:山小屋のオーナー、登山者さまから非常に良い評価をいただいています。山小屋のオーナーは通信が業務に必要だと感じており、その点が改善されたことを感謝してくださいました。
登山客にもWi-Fiを必要としている人はいますが、特に山岳ガイドをされている方にとっては、Wi-Fiが不可欠です。お客様と安心安全な登山を敢行するために、天気の確認や降山計画の立案をするからです。彼らからは、山小屋でWi-Fiが使えて非常に良かったという具体的なフィードバックをいただき、価値のある事業だと感じることが出来ました。
今後の展望として、Starlinkをどのようにして広め、どう活用してもらいたいですか?
大竹:来年に向けては提案機会を増やすこと、例えばau PAYの導入などバンドルサービスを付帯し顧客単価を向上させる取り組みを検討しております。Starlinkだけでなく、様々なサービスをご提供することにより、さらにKDDIとのグリップを強めていきたいと思っています。
西原:現在のプロジェクトは、山小屋に通信設備を設置し、一部の山岳エリアの通信環境を整えている状況です。この活動を通じて改めて、山岳関係者の中で最も通信環境が必要をとされているのは、登山道ということがわかりました。登山道に通信がないと連絡を取ることが出来ず命に関わる問題になるからです。8月に発表されたStarlinkの直接通信機能を利用すれば、登山道でも通信をすることが可能になります。今後、既存の山岳サービスなどと連携しながら、安心安全な登山に寄与できるサービスを提供できるといいなと思っています。
ありがとうございました。
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