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2024年02月02日
YOASOBIの仕掛け人による音楽業界のイノベーション:ソニーミュージックグループでの新規事業とYOASOBIの創出
- 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
屋代陽平 - デジタルコンテンツ本部GSチーム REDエージェント部 経営企画グループ事業創発推進チーム
KDDI ∞ Laboでは毎月、オープンイノベーションに関わる∞Laboパートナーとスタートアップの共創をサポートする全体会を開催しています。23年9月に開催した会では、パートナーとして参加いただいている86社の方々と、スタートアップ6社が協業や出資などのきっかけを求めてSME六番町ビルの多目的スペース「OnSite」に集まりました。スタートアップのピッチステージに続く特別企画では、YOASOBIのプロデューサーであるソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平さんが登壇されました。コンポーザーのAyaseとボーカルのikuraをメンバーとする日本の音楽ユニットYOASOBIは、2019年にソニーミュージックが運営する小説&イラスト投稿サイト「monogatary.com」に投稿された小説を楽曲化するプロジェクトから誕生して以来、同サイトだけでなく様々な小説、タイアップのために新たに書き下ろされた小説を基に楽曲制作を行っています。
また、YOASOBIは海外でも大きな話題になっています。海外からの反響をうけて昨年の5月26日には英語版もリリースし、Billboard Global Excl. U.S.(世界200以上の地域のダウンロードとストリーミングデータの集計からアメリカを除いたチャート)では、日本語で歌唱された楽曲で初の1位を獲得しました。そこで、アーティストの事業開発を手掛ける屋代さんに、小説投稿サイト「monogatary.com」の立ち上げを経て音楽と小説を融合したプロジェクト「YOASOBI」を誕生させた経緯や、新規事業を成功に導くための秘訣についてお話を伺いました。
登壇時の様子
特別企画
自己紹介をお願いいたします。
屋代:元々は弊社のアクセラレータプログラムENTX(エンタエックス)の事務局を務めていました。現在はアーティスト周辺の仕事が主となっていますが、スタートアップの皆さんと一緒にソニーミュージックとして事業開発を行っており、今も続けています。2012年にソニーミュージックグループに入社し、音楽配信の部門で3年間働いた後、コーポレート部門に異動して社内外で新規事業を立ち上げるという経験を積み、その流れで、2017年には社内の新規事業として小説投稿サイト「monogatary.com」を立ち上げました。このサイトはユーザーから自由に小説や物語を投稿してもらうサービスで、様々な形で世の中に展開していく取り組みを進めており、その一環でYOASOBIを発足しました。
YOASOBIが誕生したきっかけについて教えてください。
屋代:2017年にmonogatary.comという小説投稿サイトを立ち上げたのですが、サイトの説明が難しく、皆さんに小説投稿サイトというものをイメージいただけませんでした。基本的に無料で全員が利用できるサービスで、そこに小説を投稿していただいて、そこからメガヒット作品が出て利益を得るというイメージで立ち上げました。しかし、あらゆる小説を少しずつ展開しながら頑張っていたのですが、なかなか上手くいかない状況でした。とりあえず、できることは何でもやってみようということで、色々振り返りながら棚卸をしている中で、弊社は音楽の会社なので音楽という点では他の企業と比べた時に競争力もあり、社内のリソースも使いやすいのではないかと思いました。そして、募集した小説を楽曲化するというプロジェクトを通じてゆっくりじっくり見ていこうということで始まりました。
メンバーは当初からAyaseさん・ikuraさんと考えられていたのでしょうか?
屋代:最初から考えていたかというと全くそんなことはありません。まずAyaseに関しては、たまたま私自身ボーカロイドが好きだったこともあり、ボーカロイドを使った音楽活動をしているAyaseを見つけました。ikuraに関しては、Ayaseと話していく中で最終的に選ばれました。そのため、きっとこの2人を合わせると大きなことになりそう!と最初から思っていたわけではないですし、そもそもこのプロジェクトも小説サイトの何かしらのきっかけになればと思って始めたことなので、今のYOASOBIのようなユニットを作ってヒットを生み出そうとすら当時は考えていませんでした。
Ayaseさん・ikuraさん
ソニーミュージックさんは社内に新規事業を生み出すための仕組みはありますか?
屋代:仕組みはあるようでなく、トップダウンとボトムアップの両方があることが結果的に良い会社だと思います。monogatary.comに関しては、比較的枠組みベースで、上司にプレゼンして承認をもらって事業化するという一連の流れを踏んで立ち上げたサービスです。弊社では誰でも新規事業を提案できると思っていますし、どんな人でもチャレンジしやすい会社でもあると感じています。
社内外のアセットとの組み合わせ方は、どのように工夫されていますか?
屋代:特に決まった軸はありませんが、YOASOBIで意識していることは社内のクリエイターよりもセクションの巻き込み方です。ソニーミュージックグループは結構大きな規模で様々な事業を行っているため、エンタテインメントにおいては隣の隣の人までを範囲として円を作ると、大抵の領域のことはやっています。
社内の良い点は利害関係はもちろんあると思いますが、それ以上に何か熱意や見込み方を工夫すれば、多くの人がとりあえず動いてくれるところです。まずはしっかりと話すことが大切です。これも結果的なことですが、元々デジタルの分野にいた人たちが計画を立て、多くのグループ会社でそれなりのポジションにいた方々とコミュニケーションをとりながら事業を始めるという、苦しい時期もありました。そこで頑張っていることが会社の色々な部門に伝わり、ちょっと相談すれば多くの人が力を貸してくれることがわかりました。
要するに、力を貸してくれると言っていなくても、誰かが手伝いたいとか、絶対やりたいと思ってくれることもあります。スタートアップカルチャーの一部かどうかはわかりませんが、まずは何か相談をしてもらったときに、自分ができること、それ以上のことをしていると、結果的に何か困ったときに相談に乗ってくれやすくなります。
実際にYOASOBIと何かを組み合わせたような事例はありますか?
屋代:正直わからなくて、むしろ皆さんに教えてほしいです。音楽のプラットフォームは世界共通なので、海外に行きづらいということはないと思います。ただし、楽曲のアイドルの場合は異なります。これらの事象は突発的に発生することが多く、起こったことを絶やさず広めていくことが非常に重要だと考えています。より世界進出を実現するために、世界中にどのようなコミュニティが存在するかを把握し、どのような戦略で楽曲を広めるのがいいのかということを考えています。
YOASOBIが、海外で流行ったポイントは何かありますか?
屋代:YOASOBIの「たぶん」という曲が、去年の冬ぐらいに全然関係ないですが、TikTokのAIマンガフィルターで使われたことがきっかけで、アジアで火種になり、アメリカまで広がりました。日本では少し売れている程度だったのですが、海外にいくとバズっていることがありました。「アイドル」はアニメの力が強く、それをきっかけに海外のストリーミングサービスで他の曲も聞いてもらうことができました。
大企業の新規事業を成功へ導く秘訣は何ですか?
屋代:前提として成功していないと思っているのですが、僕がこれまでやってきて感謝していることは、周りの方に本当にサポートしていただいていることです。スタートアップの皆様は、本当に孤独に人生をかけて頑張っていらっしゃると思うんですけど、僕は大企業の中でやっていて、とにかく死ぬほど助けてもらっているし、人を頼り、人と一緒に動いています。
大企業は、そもそも色々なことができるし、多様な人がいるからこそ大企業という名前なんです。それをフルフルに使い倒すっていうのが秘訣であり、当たり前のことなのですが、新規事業は、1人でちまちまやって爆発させるみたいなイメージがあって、それが本当にできる人は独立してやって行けるとは思いますが、僕自身はできないと思います。だから、会社の人に助けてもらって、最終的には真ん中に座っていれば、みんなが動いてくれる。助けてもらうにはどのようにすればいいのかは、相手がどのようなセクションで何をしていて、どのような実績があって、誰が権限を持っているのかを考えて、欲しい部分を持っていくということが大切だと思います。