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2022年11月28日

北欧最大のテックカンファレンスSlush 2022ーー海外トレンドレポート

KDDI Open Innovation Fundのサンフランシスコ拠点では、北米や欧州のスタートアップ企業への投資や事業連携を目的として活動しています。このコーナでは現地で発見した最新のテクノロジーやサービス、トレンドなどをKDDIアメリカの一色よりお送りします。今回は、11/17~11/18にフィンランドの首都ヘルシンキにて開催された北欧最大のテックカンファレンスSlush 2022の参加レポートをお届けいたします。


一色 望KDDIアメリカ
本誌の記者。KDDIオープンイノベーションファンドのアメリカ サンフランシスコ拠点でスタートアップとKDDIの事業創造を目指し、ディールソーシング(投資先探し)と投資評価に取り組み、既存の投資先企業もサポートしながらMUGENLABO Magazineの制作に携わる。趣味は世の中のトレンドサーチと、美味しいお店巡り、旅行、ジム通い。

Slush概要

Slushは、フィンランドの首都ヘルシンキにて開催される世界最大級の年次テックフェスティバルです。ヨーロッパ内ではWeb Summitに次ぐ大規模イベントとして知られています。
元々はフィンランドの優秀なスタートアップを海外に知らしめることを目的として2008年に開始され、当初の参加者は250名ほどだったようですが、2019年には25,000人が参加するイベントにまで成長しました。当時はSlush参加者のためにサンフランシスコ⇔ヘルシンキ間の特別直行便が手配されていたそうです!それほどシリコンバレーからの出張者も多かったということですね。
2020年にはCovid-19の影響で開催が中止され、この直行便もなくなってしまったのですが、2021年にはリアルイベントとして復活し、今年2022年はスタートアップと投資家を含む約12,000人が参加しました。
Slushは今や非常に人気のイベントで、今年はイベント1か月前にはチケットが完売してしまっておりました。通常のイベントでは、このような場合チケットの追加販売が行われるのですが、Slushは追加販売が一切ありませんでしたので、今回は非常に貴重な機会だったと思います。
Slushは学生主導の非営利組織によって運営されている点が特徴で、バッジ交換や会場運営、などもすべて学生ボランティアが行います。イベント中にミーティングのアポイントを取ることができるマッチメイキングなどの機能が入ったイベントアプリも毎年学生が開発しているそうで、年によって少しずつ仕様が異なるそうです。
ヘルシンキ発のフリーランサーマッチングプラットフォーム「Bou」や、ミールデリバリー「Wolt」などのスタートアップは、Slushボランティアの卒業生が設立していて、現地学生のアントレナープレナーシップ醸成にも大きく寄与しているイベントだそうです。

イベントの様子

Slushは実際には2日間しか開催されないものの、その前後も含めてヘルシンキの市内のあちこちで約200ものサイドイベントが催され、規模と活気はアメリカの他のテックイベントにも引けを取らず、むしろSlushのほうが盛り上がっているのではと思わせるほどの勢いを感じました。
協賛企業としては、NOKIAやヘルシンキ大学などの地元勢のほか、Google、MicroSoft、AWSといったビッグテックが参画し、投資家やピッチ審査員としては、a16z、Accel、Lightspeed、500 StartupsなどトップティアVCが名を連ねました。
さらに展示ブースは、欧州以外にもアフリカやインド、韓国、メキシコなどのスタートアップが国別にブースを構えるなど、国際色豊かなイベントであると感じました。日本からは、福岡市や仙台市、JETROが誘致したスタートアップ展示がありました。


福岡市のブース。

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桜の装飾のおかげで一目で日本のブースだとわかりました!

仙台市からはスタートアップ3社がブース展示。

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ウォールペイントはヘラルボニー社によるデザインでこちらもひときわ目立っていました!

会場全体の様子

会場内には4つのステージが用意され、オープニングでSlushのCEOとフィンランド首相の対談が行われたほか、SpotifyやOnlyfansなどのユニコーン企業のセッション、女性起業家やWeb3などに焦点を当てたピッチやパネルディスカッションが行われました。
どのステージも聴衆は超満員で、常にステージ後方には立見客の人だかりがありました。これまでいろいろなテックカンファレンスに参加しましたが、常に、どのステージにも立見客が出ているイベントはとても珍しく思いました。それだけ起業家や参加者を強く引き付けるテーマ設定がなされていた証拠だと思います。

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メインではないステージも席が見えないほど人だかりができていました。


Meeting Areaや1on1 Pointの様子

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会場内には広大なMeeting Areaや1on1 Pointが用意されていて、事前にアポを取っていたスタートアップともスムーズに面会できました。

Slush100

Slushでの注目イベントの一つであるスタートアップピッチコンペティション「Slush100」では、オンライン選考により選出された100社から厳選されたファイナリスト3社がプレゼンを行い、聴衆が固唾を飲んで見守る中、イベントを締めくくる最終プログラムの中で優勝企業が発表されました。
優勝企業には、100万ユーロの賞金の他、審査員であるトップファンドからのメンタリング機会が提供されるそうです。
ファイナルまで勝ち残った3社について、以下簡単に紹介します。

  1. Immigram
    優秀なITエンジニアやファウンダーをターゲットとして、国外移住の際のGlobal Talent Visa取得などの煩雑な手続きを、効率化や自動化によってサポートする法人向けSaaSプラットフォーム。ビザ取得は98%と高い成功率を誇る。
  2. Zeely
    エンジニアやUKUXデザイナーのような専門知識がなくてもスマートフォン一つで簡単にウェブサイトや広告クリエイティブを作ることができるNo-Codeアプリ。さらにセールスファネルの管理、オンライン広告のローンチ自動化、CRM、分析など複数のグロースマーケティング機能も兼ね備える。
  3. Sociability
    障がいを持つ方が利用しやすい場所を簡単に見つけることができるWeサイトおよびアプリを提供。レストランやカフェ、トイレなど、街の施設等について正確かつ信頼性の高い情報が掲載される。ユーザーのレビュー投稿や友人への情報提供も可能となっており、ソーシャル要素も充実。
  4. 上記3社のプレゼン審査を経て、優勝したのは「Immigram」。ファウンダーの歓喜のコメントと共にSlushは幕を閉じたのですが、その直後にファウンダー2名がロシア出身であることが判明。さらに、ロシア人の採用を行っていたり、多くのロシア人の移民サポートを行っていたりするという事実を受けて、投資家界隈からはSNSなどで批判が続出し、運営者のSlushにも抗議が殺到。結果的に、優勝が取り消される事態にまで発展しました。
    ピッチイベントがこうした政治的背景を理由に優勝者を取り下げる事態はかなり異例ですが、未だにSNSなどでの批判は冷めることがなく、イベント主催者としてもダメージの大きい結果となってしまいました。今後、審査過程における事前のチェック体制など、見直しが図られることとなりそうです。


    Slush100の優勝者アナウンスの瞬間を見届けることができました。

    最後に

    イベント終了後、別会場にてアフターパーティーが開催され、私も会場まで足を運んでみたのですが、会場は長蛇の列。しばらく待機していたのですが、一行に進む気配もなく、0℃を切る寒さにも負け、結局退散してしまいました。
    本会場でもイベント終了直後はドリンクが振る舞われ、メインステージはカラオケ会場として活用されるなど、まるで打ち上げのような雰囲気を楽しむことができました。
    現地ではたくさんの投資家やスタートアップ、また日系企業の駐在員の方々ともお会いすることができました。機会があれば、来年以降も是非参加してみたいと思います。


    一緒に参加した同僚とロゴの前で記念撮影。ロゴやブースなどのデザインがいちいちクールでした。

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