- インタビュー
2021年03月05日
激動の松竹と共創:問われる「松竹ID」の可能性 Vol.2
- 松竹株式会社
井上 貴弘 - 取締役 事業開発副本部長 イノベーション推進部門担当
松竹芸能株式会社 会長
前半では感染症拡大で歌舞伎が受けた影響と、そこから大きく開いたデジタル化への扉について松竹取締役、船越直人さんにお話を伺いました。後半はさらに具体的なアクションについて同じく取締役兼松竹芸能会長の井上貴弘さんにお話しいただきます。
松竹には歌舞伎の他にも映画や、テレビタレントなどを擁する松竹芸能といったグループ企業が存在しています。特にタレントマネジメントについては2017年にUUUMと提携するなど、デジタル化を見据えた新たな人材育成にも力を入れています。また、これまでの資産として松竹を取り巻くファンの存在も重要です。昨年LINEとの提携発表では巨大なユーザーベースをID化して活用する「松竹ID」の構想にも触れられていました。具体的な松竹のデジタル化はどのように進むのでしょうか(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略) 。
配信の力学がタレントビジネスを変える
ここからは井上さんにお聞きします。エンターテインメントを考える上で、タレントの存在は言わずもがな重要ですが、ここ最近はYouTuberに代表される新たな「アマ以上のプロ」の存在が目立ってきています。改めてプロダクションとしてのポジションはどのように変化するとお考えでしょうか
井上:これからは芸能プロダクションという存在は、クリエイターたちにきちんと価値を提供していかないと存在意義が問われると思います。
私たちのグループに松竹芸能というプロダクションがあります。そこのケースで言えば、松竹芸能にとって、主戦場はやはり地上波のゴールデン番組だったのです。極端な例では、少し前の「放送局によって優劣が顕著だった時代」に、どのような番組に出演することがタレントの現在と将来にとってベストかの判断の前に、とにかく影響力のある放送局のゴールデン番組の方が、力の無い放送局の深夜番組よりも良い、みたいな感覚があったと思います。本来は、そのタレントが深夜番組で司会をやった方が将来につながるにも関わらず、とにかくゴールデン番組でひな壇に座らせた方が良いということです。
昭和から平成にかけての黄金期ですね
井上:今の芸能プロダクションの幹部の方々はこういった「テレビ中心」に育ってきた人が多いです。意識を変えようとしているけど、まだ「地上波全盛時代」の感覚が残っている。その中でも、この時代に、どうすれば自分達のタレントを発信できるかに気付いた人達が、「地上波だけじゃないんだ」という結論にたどり着き、新しいメディアに積極的に取り組みながら、地上波とのバランスを取り、素晴らしいタレント育成をされています。
他の事務所の芸人さんや、過去にゴールデンで活躍したタレント、引退したスポーツ選手などオンライン配信で活躍する「プロ」が一気に増えました
井上:YouTube等の新しいメディアで自分を発信し始めていますよね。プロダクションとしてはこういった個人の潜在的な価値を見極めて、この人の場合はYouTubeを上手く使っていこうとか、本当の意味でプロデュースする力がないとダメになってくると思います。
これまでも地上波を中心に「どうやってこの人を売り出していこうか」ということをやってきているので、YouTube等の新しいメディアにおいても、人を育てるという点においては同じです。ただ、過去の地上波の成功体験に縛られてしまうと、新しいメディアの可能性への切り替えが上手くいかない。ここの切り替えのスピードをどうやって上げるかというのが重要ですね。
問われる「松竹ID」の可能性
舞台やテレビ・映画といった媒体を通じて関わってきた顧客との接点が変わる
井上:お客さんが求めている情報を届けることをやりたいと思っています。そして、集まったデータからどういう映画や舞台を作るべきかを、逆算で導き出すこともやってみたいですね。映画と伝統芸能である歌舞伎を持っている会社は他にはありません。データ数は多くないかもしれませんが、価値のあるデータが取れると考えています。
なるほど、顧客との関わりだけでなく、作るものにも確かに影響が与えられそうですね
井上:現在、MR(複合現実:Mixed Reality)を活用した歌舞伎を作っています。今後、技術が進化してデバイスが軽量化すると、例えば地方の巡業の際、低コストで、舞台に仮想的な演出をすることが可能になると思います。また、単純に360°カメラで映像を撮るということだけではなく身体データも取って、デバイス上で舞台の興奮を伝えるようなこともできると思っています。
去年の中頃から、事業共創については積極的に取組んでいます。コロナ禍で当社の業績は大きな打撃を受けており、そのスピードがやや遅くなっていることは事実ですが、しっかりと取り組みたいと考えています。特に、オープンイノベーションに関わる若手社員を育てることは、今後のパートナーシップの戦略を考える上でも、最も重要であり、全力で取り組んでいきます。
スタートアップやベンチャーキャピタルの方々で、「松竹とはこういうことができないのか」という話があれば聞かせていただきたいと考えています。
ありがとうございました
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