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2024年10月08日

農業テックのサグリに聞く、早期グローバル展開で見えた成果と課題

サグリ株式会社
坂本 和樹
東南アジア事業責任者

日本のスタートアップが海外進出を目指す際、どのような課題に直面するのでしょうか?

事業展開以外にもグローバル人材の採用や多国籍チームの構築、そしてバックオフィス業務の国際化など、海外に向かうスタートアップの前には様々なテーマと向き合う必要性が出てきます。


そこで本稿では、東南アジアを中心に海外展開を進める農業テックスタートアップ・サグリのグローバル戦略と、その過程で直面した課題などについて、元P&G、国連WFP、JICAと多国籍チームのマネジメント経験が豊富な、同社の東南アジア事業責任者である坂本和樹氏にお話を伺いました。


早期から海外展開を見据え、採用や組織構築を推進

営農アプリ「Sagri」(写真提供:サグリ)

サグリは、農業生産性の向上や持続可能な農業の実践を目的に、衛星データとAIを活用した農業支援サービスを提供するスタートアップです。今年8月にはシリーズAラウンドで約10億円の資金調達に成功するなど、大きな注目を集めています。

同社は衛星データなどのリモートセンシングデータをAIを用いて解析し、農地の耕作状況や作付け状況、土壌分析、水管理の状況などを高精度で分析する技術を持っています。これにより、農業生産基盤の確立や脱炭素化を推進し、持続可能な農業生産への転換を実現することが期待されています。

そんなサグリが創業初期から積極的に推し進めているのがグローバル展開です。

東南アジア、インド、南米などの新興国市場での事業拡大に注力しており、これらの地域は労働人口の多くが農業分野に従事するなど、国内産業のなかでも農業の重要性が高い一方、生産性の向上に課題があり、テクノロジー導入の余地が大きいからです。お話を伺った坂本氏は各地域での展開にあたり、次のようなグローバル戦略を説明いただきました。

グローバル展開の戦略のひとつとして、ベトナムやインド、ペルーやブラジルなどの国では、現地の農業に知見がある人材を採用することで、市場開拓を進めています。

また、農業分野では現地語の重要性も高く、サグリのグローバルチームでは英語を共通言語としています。

坂本氏

このような背景もあり、サグリは早い段階から多国籍チームの構築を推進しています。これにより、各国の市場ニーズを的確に把握し、迅速に対応することが可能となりました。同社の経営陣は、この多様性がイノベーションを促進し、グローバル市場での競争力を高める重要な要素だと考えているようです。

海外人材の特徴と課題

サグリのグローバルチーム

一方、課題も浮き彫りになります。まずは人材の採用です。

グローバル人材の採用にあたっては、「Snaphunt(スナップハント)」というプラットフォームを活用しているそうですが、これは同じくグローバルでの事業展開を進めている他の日系スタートアップからの推薦がきっかけだったと明かします。

Snaphuntの利点としては、特定の国ではなく世界中の人材にアクセスできる点です。もちろん、国や地域によって優秀な人材の人数や質には偏りがありますが、弊社のように多くの国に事業展開している場合、各国で人材エージェントを雇ってしまうとオペレーションも複雑になるので、重宝しています。

採用形態は、まずパートタイムで採用し、適性を見極めたうえでフルタイムに移行するケースが多いです。一方で海外人材からは、『スタートアップへの参画はリスクが高いから、給与も高くあるべき』という要求を受けることもあります。日本人と異なる価値観だと感じますね。

エンジニアチームでは、グローバル人材を積極的に採用しています。弊社のような農業テックに関する衛星や、AIに知見のある日本のエンジニア人材は母数も限られており、例えばインドのように人口も多い国でエンジニアを採用するほうが、組織の拡大には容易ではないかと感じております。

坂本氏

もうひとつ、大きな課題となったのがバックオフィス業務の国際化です。財務、人事、経理などの管理部門において、英語と日本語の両方に堪能な人材が極めて不足しているのです。例えば、英語の契約書をレビューする際や、グローバル子会社との会計統合時に言語の壁が顕著になります。坂本氏は言語の壁について、以下のように述べました。

サグリでは、段階的なアプローチで日英対応可能な人材の不足を補っています。例えば契約書や会計書類の日英両言語での作成は、必要に応じて外部専門家に依頼するなど、柔軟に対応しています。

坂本氏

グローバル展開のバランス

早期のグローバル展開も含め、サグリは着実な成果を挙げることに成功しつつあります。一方、坂本氏のお話にあったように、それには多くの課題をもたらしたようです。

プロダクトの改良、バックオフィス業務の国際化、多国籍チームの管理体制の構築、そして採用プロセスなど、あらゆる面で一気にグローバル対応が求められるからです。これはスタートアップにとっては大きな負荷です。

サグリの例では、テクノロジー導入の余地が大きい新興国市場を選択していました。対象となる市場が多様になればなるほど、こうしたチームの課題はどうしても膨らみます。

市場獲得のメリットと体制確保のバランス、企業の強みや目指す市場、リソースの状況など、自社に合わせた海外展開の戦略を立てる、また多国籍チームのマネジメント経験がある経営層を採用することが、日本のスタートアップがグローバル市場で成功するための重要なステップとなるのではないでしょうか。

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