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2024年12月19日

世界の令和トラベルへーー篠塚CEOが語る「グローバル戦略」とリスクテイク

株式会社令和トラベル
篠塚 孝哉
代表取締役CEO

2024年9月にシリーズAラウンドで約48億円の資金調達を実施した、旅行テックスタートアップの令和トラベル。2021年の創業以降「Amazonで水を買うように簡単に海外旅行を予約できる」サービス、NEWTと独自のビジネスモデルで業界に新風を吹き込んでいます。そのグローバル戦略と展望について、代表取締役CEOの篠塚孝哉氏に話を聞きました。


「簡単」の追求こそがイノベーション、突き詰めたビジネスモデル


令和トラベルの主力サービス「NEWT

令和トラベルのビジネスモデルは現在、パッケージツアーとホテル予約の2本柱で構成されています。その理由を、篠塚氏は創業時を振り返りながら次のように述べます。

コロナ禍で業界が全滅していた時期に市場を調査したところ、日本人の海外パッケージツアーのマーケットが予想以上に大きいことがわかったんです。競合サービスが大量にあるホテル予約サイトよりも、ツアー市場の方がバリュープロポジションを定めやすく、参入余地があると判断しました。

篠塚氏

同社が掲げるキーワードは、「かんたん」「おトク」「えらべる」「あんしん」の4つです。特に「簡単」というキーワードにこだわった理由について、篠塚氏は興味深い視点を示します。

世の中のイノベーションは、全て『簡単』で説明がつくことに気づいたんです。Facebook Messengerでメッセージのやりとりが簡単になり、InstagramやLINEで写真、チャットでのコミュニケーションが簡単になりました。

Uberは、移動を簡単にしました。日常生活を見ても、新幹線は東京から大阪に行くのを簡単にしましたし、エレベーターは上下の移動を簡単にしました。つまり、『簡単』を追求することそのものがイノベーションなのだと思い至ったんです。しかし世の中は簡単の価値を過小評価しており、簡単なだけで人は動かないと捉えられています。

篠塚氏

この気づきから掲げられたのが「Amazonで水を買うように簡単に海外旅行を予約できる」というプロダクトビジョンです。例えば今週末に旅行へ行きたいと思い立ったらすぐに、飛行機やホテル、送迎付きのプランまで一括で予約できるような仕組みを、同社のサービスでは実現しています。

また、商品展開においても独自のアプローチを取っています。篠塚氏は、スーパーマーケットの例を挙げます。

キャベツとレタスとナスの3種類しか売っていないスーパーには、それ以外の材料を買う手間がかかるため行かないでしょう。その場で料理の材料を揃えるため、卵も肉も魚も米も、同時に買いたいという需要があります。同様に旅行の予約においても、様々なエリア、価格帯、オプションから選べることが大切です。

多くの人は『どんなツアーがいい?』と聞かれても、具体的な答えが出せません。例えばバンコクに行ったことがない人に『何がしたいですか?』と聞いても選べない。しかし、100種類ほどのツアープランを見ている間に、『これやってみたい』『あれも面白そう』という学習が進み、興味が自然と湧いてくるんです。

篠塚氏


NEWTには数多くのツアーが並ぶ

こうした考えにもとづき、サービス開始時には100〜200程度だった選択可能なツアー数を、2年半で約7万まで拡大しました。

その上で、日程や予算、出発空港などの条件で絞り込み、カスタマーが選びやすい数まで候補を減らせる仕組みを提供。また、観光地やレストランの情報を提供するキュレーションメディアも運営し、カスタマーが旅先について知識を得るサポートをしています。これらの取り組みの結果、同社のアプリは高い顧客満足度を獲得しました。

選択肢が豊富で、探しやすく、実際の旅行体験もいいものでなければ、長期的な成功は望めません。私たちは、日本のツアー予約サービスでトップクラスの満足度を実現できていると自負しています。

篠塚氏

法律や商慣習、市場特性に応じたグローバル展開

このように海外旅行を『簡単』にした同社が重要視するのがグローバル展開です。
令和トラベルが掲げるグローバル戦略には、BtoBとBtoC、2つの軸があります。

1つ目は、海外の現地企業との交渉・提携による、ホテルやエアライン、アクティビティの直接仕入れの強化です。
例えば韓国向けツアーについては、現地企業からの代理仕入れでも好調な販売実績を上げてきました。しかし代理仕入れでは仕入れ値が高くなる傾向があるため、今後は直接取引を増やすことで、収益性の向上を目指していく考えです。これまでハワイで実績を重ねてきた同社は、今後1年以内に韓国、台湾、香港、バンコク、シンガポールなど、日本人旅行者からの需要が高いエリアへの展開を加速させます。

2つ目の軸は、サービスそのものの多言語化です。
まずは英語対応、韓国語対応などを実現し、訪日旅行需要の取り込みを目指します。さらに将来的には、例えばタイ人のソウルへの旅行、オーストラリア人のシンガポールへの旅行など、日本を発着地に含まない旅行需要も視野に入れています。海外展開における重要な要素の一つが、現地拠点の設置。「国によって法律や商慣習が異なるため、それぞれに適切な対応が必要」だと篠塚氏は説明します。

例えば中国では外資規制があり、現地への合弁会社の設立が必要となります。一方で、日本法人のままでも営業活動が可能な国もあります。それぞれの市場特性に応じたローカライズ戦略が求められるのです。現在、令和トラベルのハワイ法人にはローカルスタッフと日本人スタッフの2名が在籍しています。今後の海外展開においても、各国の状況に応じて適切な人材配置を進めていく方針です。

海外と日本のスタートアップの競争力の差を生む「リスクの捉え方」

「私たちもまだ道半ばで、解を探しながらやっているのが正直なところ」と篠塚氏は語ります。しかし、今夏にビジネスパーソン向けの留学プログラムで世界中のアントレプレナーと交流した経験から、日本のスタートアップが学ぶべき重要な示唆を得たといいます。

本当によく言われる話かもしれませんが、海外のスタートアップは1日目からグローバル志向なんです。SaaSであれBtoCであれ、サービスローンチの初日から多言語対応を実装し、グローバル展開を当然のものと捉えています。

篠塚氏

さらに興味深いのは、リスクに対する海外と日本のスタートアップの考え方の違いです。

写真の著作権や商標の問題など、海外のスタートアップは法的リスクをほとんど気にしていない。著作権違反で訴訟されるといった問題は海外では日常茶飯事で、『やったもん勝ち』という発想でビジネスを展開していてグレーゾーンがかなり広いんです。
一方、日本のスタートアップは全てを調べ上げてから完全を期そうとする傾向がある。この違いが、競争力の差につながっているのではないでしょうか。

篠塚氏

このリスクテイクの考え方、文化の違いがスタートアップの成長スピードの差に繋がっている、というのです。もちろん篠塚氏は全てのリスクテイクを肯定しているわけではありません。「人命に関わる事件や事故や、セキュリティリスクなど、取り返しのつかない『片道の問題』は絶対に起こしてはいけない」と線引きの重要性を説きます。

令和トラベルもすでに監査法人を入れてしっかり管理していますが、それでもスピードを重視しています。リスクを取るというのは、法的リスクを取るという意味ではありません。カスタマーニーズがあれば、一気に超えていかなければならないポイントや、スピードを上げなければならないポイントが多くあるということです。

篠塚氏

この言葉には、グローバルで戦うスタートアップに必要な、スピード重視の意思決定と適切なリスクテイクの重要性が見えてきます。完璧を求めすぎず、かといって無謀でもない。そのバランス感覚こそが、日本発のグローバル企業を目指す上での重要な指針となるでしょう。

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