- インタビュー
2025年04月18日
アバター市場の新発見「そっくり」より「自分風」の需要——POCKET RD、AIアバターで世界を席巻へ

- 株式会社POCKET RD
籾倉 宏哉 - 代表取締役 プロデューサー
POCKET RD社は、AI技術を駆使したアバター生成プラットフォーム「AVATARIUM Portable(アバタリウム ポータブル)」を展開しています。自分そっくりではない「自分風アバター」の可能性やアメリカ・フランスを中心とした海外展開の構想について、同社CEOの籾倉宏哉氏にお話を伺いました。
アバター市場の新発見──「そっくり」より「自分風」の需要
POCKET RDの「AVATARIUM Portable」
POCKET RDが提供する「AVATARIUM Portable」は、誰でも簡単に自分自身のアバターを生成し、仮想体験を楽しむことができるポータブル型の体験デバイスです。
専用筐体の前に立つだけで瞬時にアバターが生成され、ユーザーはそのアバターを通じて、アイドルや有名人との共演、仮想空間での冒険、歴史上の人物への扮装など、多彩な体験コンテンツを楽しめます。
コンパクトな筐体設計(高さ170cm、幅70cm、奥行き45cm)で、イベント会場やアミューズメント施設、観光地、企業のプロモーションや採用活動など、さまざまな場所での導入が可能であり、リアルとバーチャルをつなぐ新しいエンターテインメント体験を提供する革新的なツールとして注目されています。
このプロダクトを考案したのがPOCKET RDの開発チームです。
開発チームが気づいたのは、当初の想定とは異なるアバター市場の現実でした。同社はKDDIと協業し、渋谷のメタバースプロジェクトにアバタースキャナーを連携させることで、バーチャル空間の活性化を図ってきました。しかし、ユーザーの実際のニーズは予想外の方向を示していました。
当初、デジタル空間における自己表現として「自分そっくり」のアバターも重宝されると考えられていましたが、実際のユーザーニーズは多岐にわたっていました。「仕事でTeamsやZoomなどを使う際には自分のアバターがいいという方もいると思います」と籾倉氏は言及します。しかし、エンターテインメントやメタバースなどの「普段使い」の文脈では、ユーザーは現実の自分をそのまま写し取ったアバターではなく、理想化された自分を求める傾向が強いです。男の子ならイケメンで背が高く足が長いアバター、女性ならスタイルがいいアバターなどが好まれる傾向にあります。
こうした市場ニーズに応えるため、同社は「自分風のアバター」を作成できるサービス「i avatar」を開発。ユーザーの顔写真1枚から、AIが「自分風」でありながらも理想化されたアバターを生成する仕組みを構築したのです。すでに一部のメタバースプラットフォームにも採用されている同技術は、AI技術をもとに「ユーザーが喜ぶアバター」を生成することに焦点を当てています。
この発見は、その後の開発の方向性も決定づけました。顔写真1枚からアバターを作成する仕組みを、ゲームセンターやショッピングモールといった公共空間に展開することで、より多くのユーザーにアバター生成体験を届けるというビジョンが生まれたのです。
海外イベント出展状況
アバター市場の新たなニーズを捉えたPOCKET RDは、その知見を活かし「AVATARIUM Portable(アバタリウム ポータブル)」を開発しました。
最新のAI技術を駆使した動画ジェネレーターで、AVATARIUMで培ってきたアバター生成技術をコンパクトなデバイスに搭載しています。ユーザーの顔写真を撮影し、わずか1分でアバターを生成できます。
籾倉氏
同社の公式サイトによれば、独自の顔認識技術により特徴点を高精度に抽出し、自然でリアルな表現を実現しています。短時間で滑らかな顔のモデルを生成し、従来のスキャン技術を凌駕する効率性と精度を提供するといいます。
注目すべきは、このAVATARIUM が海外で見せた圧倒的な反響です。フランスで開催された技術見本市「VIVA TECHNOLOGY」での出展について、籾倉氏は「大変な行列ができた」と振り返ります。展示会ではジェトロ(日本貿易振興機構)の依頼で機械を持ち込み、生成されたアバターの結果を柱に巻くディスプレイに映し出す演出も施しました。
NHKも取材に来て、フランスでの反響について放送されました。
籾倉氏
さらに、アメリカで開催された「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」では小型化したAVATARIUM Portableが大好評を博しました。籾倉氏は「海外のほうがアバターに対する反響が大きい」と話します。多くの来場者が、主にエンターテインメントとしての利用価値に高い関心を示したそうで、「アバターで動画に入ったり、ゲームに入ったりすることへの反応が非常によかった」と、具体的なユースケースへの反応も好意的だったと明かしてくれました。
この世界的な成功を受け、POCKET RDはフランスで広告利用の商談を進めるなど、グローバル展開に本格的に乗り出しています。
ボーダーレスな事業展開と「ワンID、マルチアバター」の未来像
POCKET RDのビジョン
「ボーダーレスに事業を展開したい」と籾倉氏が語るように、POCKET RDのビジョンは日本市場に留まりません。すでに韓国の大手IT企業NAVERが運営するアバタープラットフォーム「Zepeto(ゼペット)」との事業提携を実現するほか、JR東日本とのコンテンツ共同開発も進めています。
このグローバル戦略を推進するため、「今、英語が堪能な人材を2名採用して、海外展開を進めていく予定です」と具体的な組織強化策も明かしました。
座組はその時々でケースバイケースで検討していく形です。どちらかというと、国の文化や企業の価値観を理解した上で、ビジネスを進めていくことを大切にしています。
籾倉氏
株式会社POCKET RD 代表取締役 プロデューサー 籾倉 宏哉氏
POCKET RDが掲げる長期的な未来像が、「ワンID、マルチアバター」です。ブロックチェーン技術を活用したID管理とeKYC(電子本人確認)を基盤に、一人のユーザーが目的に応じた複数のアバターを使い分けるエコシステムの構築を目指しています。
「ビジネス用には自分に似たアバター、ゲーム用にはイケメンのアバター、出会い系サイト用には面白いアバターなど」と籾倉氏は例を挙げ、シーンやプラットフォームに応じた最適なデジタル自己表現の可能性を示唆しています。
最終的には、その中で面白い事業に弊社自身も投資し、VCさんや投資家の企業さんにご紹介していくというエコシステム構築したいと考えております。
籾倉氏
POCKET RDが2017年の創業以来追求してきたアバター生成技術と最新のディープラーニング技術の融合は、単なる技術革新を超え、デジタルアイデンティティの新たな可能性を切り開いています。
「現実とフィクションの境界を超える、かつてない体験」を提供するという同社のミッションは、国内外の多様なパートナーとの協業を通じて着実に形になりつつあります。
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