- インタビュー
2025年08月05日
15分で汗から体内状態を可視化「Technical Pop」で未病対策に挑む PITTAN

- 株式会社 PITTAN
児山 浩崇 - 共同創業者/取締役CTO
「カラダの状態を、正確かつ簡単に可視化することで、一人ひとりの人生を最大限に楽しくする」をミッションに掲げる PITTAN。同社が開発する汗分析技術は、わずか15分間のパッチ採取で肌や筋肉の栄養状態を可視化し、エステティックサロンやフィットネスジムでの活用が拡大しています。
現在開催中の大阪・関西万博にも5つの異なる会場・イベントに出展し、革新的な卓上型分析マシンによる体内可視化サービスを世界に発信する同社。
今回は共同創業者/取締役CTOの児山浩崇氏に、起業の背景から独自技術、そして「Lifelong Positivity」という理念に込めた想いを聞きました。
研究室の技術を社会実装へ
PITTANウェブサイトより
僕らがやらないと、おそらくこの領域は実験室から外に出てこないのではないか。
児山氏
児山氏の起業への想いは、大学院時代の研究から始まりました。 MEMS(マイクロ電子機械システム)という、半導体プロセスを応用した極小のものづくり技術を専門とし、マイクロ流体デバイスの研究に取り組んでいました。
その頃、指導教授らから聞いていた未来予測がありました。
「数年後には、あらゆる生体データはセンサーで読み取れて、日常のライフログをもとに、自分が自ら選択して病院に行ったり、食べ物を選んだりする世の中が来る」
実際に Apple Watch や Oura Ring など、外部から取得できるデータの活用は大きく進展しました。
しかし、体液分析だけは、まだまだ大学の研究室や企業の実験室、病院の専用施設の中でしか実現されていない状況でした。
そんな中、2021年に現在の共同創業者である代表取締役の辻本和也氏との出会いがターニングポイントとなります。当時、両者ともスタートアップ支援者側で仕事をしていた中で、「なぜ実現されてないのだろうか」という議論が盛り上がり、支援者側にいた立場から自らが技術の社会実装に挑戦することを決意しました。
汗に着目した理由
なぜ汗なのか。児山氏は利用シーンを重視した結果だと説明します。
エステの現場で血液は取れない。看護師がいないので血を扱えません。尿だったらということもあるんですが、今からちょっとトイレで尿を取ってきてくださいと言える場所でもないですよね。
児山氏
デパートでのコスメティクスやエステティックサロン、フィットネスジムといった美容・健康関連の現場では、血液や尿の採取は現実的ではありません。涙や唾液も検討しましたが、やはり利用者の抵抗感を考慮すると汗が最適解でした。
下調べの段階で、皮脂分析や皮膚からの揮発性成分分析を行う事例は存在しましたが、微量の汗を扱うサービスは、その時点では少なかったといいます。そして実際に汗を測定すると、思ったよりも濃く取れることが判明したのです。
採取方法についても独自のノウハウを確立。「そのやり方でないとちゃんと取れない」(児山氏)という技術的な優位性を見出しました。
ちなみに同社が掲げる「Technical Pop」というコンセプトは、高度な技術をより身近で使いやすいサービスに落とし込むことを表現しています。
日本人は真面目だから、100点でないと世に出せないという傾向があります。しかし、技術としてはまだ100点取れていないけれど、サービスとして世の中に出すレベルでいうと、実は使えるものがたくさんあるんです。
児山氏
エステティックサロンで分析をしている時に、大学の研究室レベルの結果が本当に必要なのかという疑問が常に頭にあったと話します。現場では「低コスト、迅速、簡便」を追求する方が、精度を追求するよりも実用的だという観点で開発を進めています。
万博の反応
現在、同社は2つのサービスを展開しています。一つは汗を3分間のパッチで採取し郵送で分析する郵送モデル。もう一つは、その場で測定できる卓上型マシンによるオンサイト分析です。
分析した汗の生体成分データから、肌の状態や筋肉の状態、ニキビのリスクなど、そういったものをスコア化して、エンドユーザーに提供しています。
直接の顧客はエンドユーザーを抱えるエステティックサロンやフィットネスジム、ニキビクリニックなどの B to B 事業者で、B to B to C という形でサービスを提供しています。
現在、阪急梅田本店のコスメキッチンに1台設置され、6か月間の実証実験を実施中です。顧客は自分の悩みを分析している待ち時間の10分間で店員と話すことができ、店員は悩みに対して「実はこの商品があります」と説明する時間に使えているそうです。
大阪・関西万博では複数の会場・イベントに出展し、来場者からも高い関心を集めています。万博に足を運んでいる人たちは、最先端のものが好きで、世界の動向を気にしているアンテナの立っている人が多いといいます。
中には「この仕組みはどうなっているんですか?」と、非常に鋭い質問をされる方もいらっしゃいます。一般の方とは思えないほどの視点で、本質に迫るような問いかけをされることもあり驚かされます。
児山氏
体験ブースでは用意していたキット分が即日どころか、一日イベントなのに午前中にキットがなくなるほどの盛況ぶりで、万博で見て阪急に来たという来場者も現れているそうです。
未病対策で「Lifelong Positivity」を実現
同社の次なる挑戦は、現在のアミノ酸分析に加えて、ホルモンや炎症性サイトカインの分析技術の実用化です。マシン自体は見た目同じですが、中のカセットを入れ替えることで、別の分析技術を取り入れた方式を実現しようとしています。
この技術により、肥満症や更年期の女性で、ある年齢以降になってくると何かよくわからないけど調子が悪い、やる気が出ないといった症状を汗からグループ分けしていくことが可能になります。
現在は「それは更年期ですね」と丸められてしまっている症状を、より詳細に分析し、個人に最適化されたレコメンデーションを提供することを目指しています。
さらに長期的には、病気になってから病気を見つけるサービスではなく、健康な状態を継続するためのサービスとして、体重計などの他のガジェットとの連携も視野に入れています。
それぞれのデータから得られる数値を掛け合わせることで、「人のどこをメンテナンスすべきか」を解き明かしていく構想を描いています。将来的には大手総合ヘルスケア企業のように、生体データを取得できるデバイスの種類を増やし、異なるデータ同士を掛け合わせて分析することで、より高度な健康支援や予防医療につなげていきたいと考えています。
同社が掲げる「Lifelong Positivity」は、生き生きとした人生を送ってほしいという願いを込めた造語です。長寿ということならロングライフですが、人生という意味でライフロング、ポジティビティというのは生き生きとした人生を送ってほしいという言葉だと児山氏は説明します。
病気にならないことが一番のヘルスケア。病気になって、それを薬で治療するという従来の対症療法ではなく、健康であり続けることが大事。
児山氏
汗という身近な体液から、誰もが手軽に体内状態を把握し、未病の段階でケアできる社会。 PITTAN の技術は、その実現に向けた重要な一歩となりそうです。